わかりあえないことから コミュニケーション能力とは何か (講談社現代新書) [Kindle]

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  • 異なる文化、異なる価値観を持つ人々と協働せざるを得ない状況になりゆく社会において、分かり合えないことを前提に対話を行う必要がある。(ここでいう対話とは、会話と語義を比較した時に察し合うというのが会話なのに対し、説明しあうもの、説明責任を伴うもの)

    しかし、アメリカなどの多民族国家と比べ、日本はシマ国、ムラ社会であったため、いちいち説明し合うことに不慣れだ。ましてや野暮だと思ってしまう。

    国際社会の中で、上記のような日本特有の文化が少数派であることに自覚を持ち、多数派のコミュニケーションを学ばなければならない。

    結論、タイトルからも推察される通り、分かり合えないことを前提に、分かりあえる部分を探っていくことが重要。(同調ではなく共感) 

    要点とは別で2つ学びがあった。
    ①コミュ力高いとは場に応じて会話の冗長率を操れる人であるという考え方。
    ②お互いが分かり合っている、近しい価値観を持っていると思い込みが強いほど、小さな潜在的なズレがつもりつもって衝突を起こしてしまう。

    感想としては、あえて説明しないことの奥ゆかしさをもつ日本特有の文化は引き続き大切にしたい。特にお笑いに関しては笑えるポイントを説明するのは想像するだけで虚しすぎる

  • 正直コミュニケーション能力の向上目当てで読み始めたのだがこの本はそういったことに触れません(ちゃんと最初にそういう本ではないという注意がある)。
    そもそもコミュニケーションは何故今必要とされているのか。コミュニケーション教育とは? 今どんな教育が必要か。そして演劇について。
    そんな内容でした。
    おもしろかったし、なるほど、とは思ったけれど、自分は演劇も教育もそう興味がある分野ではなかったので、雑学が増えただけ、という感じがします。
    一番有用だったのは、結局はコミュニケーション能力とは慣れである。その年代の人と、そのようなシチュエーションで話したことがあるか。なければ上手く話せないのは当然である。という部分でした。
    繰り返し、コミュ障=有能でない、ではなく、理科ができないと同じような、その人の一つの特性でしかない、という論調で書かれているのはコミュ障にとってはありがたく、感情的にも読みやすい文章でした。

  • 「みんなちがってみんなたいへん」さあたいへん
    わかりあえないことからスタート。あやちゃんの次作映画のテーマでもあるなあ、なんて思った。
    視点が目からウロコ的で新鮮だった。

    オリザさんて、本名なのかしら。

  • 平田オリザは気にはなるんだけどなんだか胡散臭くて昔から避けてきた。演劇にも特に興味ないし。でも,本書は大当たり。著者に対する不明を恥じる。

    「異文化理解能力」と日本型の「同調圧力」のダブルバインド

    コミュニケーションに対する意欲の低下
    コミュニケーション問題の顕在化
    コミュニケーション能力の多様化

    「世間で言うコミュニケーション能力の大半は,たかだか慣れのレベルの問題だ。でもね,二十歳過ぎたら,慣れも実力のうちなんだよ」

    「コミュニケーション教育は,ペラペラと口のうまい子どもを作る教育ではない。口べたな子でも,現代社会で生きていくための最低限の能力を身につけさせるための教育だ。」


    ・会話:価値観や生活習慣なども近い親しい者同士のおしゃべり。
    ・対話:あまり親しくない人同士の価値観や情報の交換。あるいは親しい人同士でも,価値観が異なるときに起こるその摺りあわせなど。

    冗長率を操作する

    「普段は不定形で,つかみ所のない「学び」や「知性」が,あるときその円環を美しく閉じるときがある。その円環は,閉じたと思う先から,また形を崩してはいくけれど。」

    コンテクストの「ずれ」
    弱者のコンテクストを理解する
    シンパシーからエンパシーへ
    =同一性から共有性へ

    マイクロスリップ
    ランダムをプログラムする

    社交性=心が通い合うことはないからこそ必要な技術

    「みんなちがって,たいへんだ」

    「いまの日本社会は,漱石や鴎外が背負った十字架を,日本人全員が等しく背負わなければならない。かつては知識階級だけが味わった苦悩を,いまは多くの人びとが,苦悩だと意識さえしないままに背負わされる。」

  • 世の中で希求されているほどコミュニケーションは重要なのだろうか?という根源的な問いから、コミュニケーションについての理解が深まった。そもそもコミュニケーション能力ってそんなに欲しいの?,コミュニケーションって何?などなどコミュニケーションというものについての考えが一段と深くなるきっかけになる。この本を読めば,コミュニケーション能力が上がることはない。しかしながら,今後その能力を上げるのに役に立つことは間違いない。人と喋る中でどういう差異を感じて,自分をどう変化させて,話すか。それがより上手くなると思う。これをすればコミュニケーションが上手くなるというものはないが,これをしたら上達するかもしれないものは教えてあげることができる。

  • ■ひとことで言うと?
    コミュニケーション能力 = コンテクストの「ずれ」を理解し共感する能力

    ■キーポイント
    - コンテクスト
    - 言葉の背景にあるイメージや考え方
    - 個々人で微妙に「ずれ」ている
    - コミュニケーション能力 ≒ 異文化理解能力
    - コンテキストの「ずれ」を受け止める
    - 自分のコンテクストで理解・共感できる部分を見つける
    - 理解・共感できる部分を徐々に広げていく
    - エンパシー
    - 「わかりあえない」を前提に「わかりあえる」を探っていく営み
    - 「みんなちがって、たいへんだ」

  • ダブルバインド・・・二重拘束 二つの矛盾した(特に否定的な)コマンド
    例)「わが社は社員の自主性を重んじる」と謳っておきながら、いったん事故が起こると「重要な案件は、なんでもきちんと報告しろ。なんで報告しなかったんだ」という会社
    今の日本企業は新入社員にコミュニケーション力を求めているが、それはダブルバインドの状態であることが多い。企業自体もどのようなコミュニケーション力を求めたいのか明確になっていない。
    島国であり、独自の言語を持ち、場の空気を読む日本人は、簡単なこと、単純なこと(列車で隣の人に「旅行ですか?」と尋ねるようなこと)は苦手としている。また「柿食えば鐘がなるなり法隆寺」という句を外国人に説明しろと言われても興ざめするばかり。
    「察する」こと「阿吽の呼吸」が尊重される日本人は「対話」が苦手と言われている。「対話的な精神」とは、異なる価値観を持った持った人と出会うことで、自分の意見が変わっていくことを潔しとする態度。欧米人と仕事をするときにはこの対話を繰り返しながら、仕事が進めることが必要。しかし多くの日本人は対話の末に自分の意見が採用されないと敗北感を感じてしまったり、そもそもその時間に耐えられず、あきらめるか切れるかしてしまう。(この感覚は私も非常によく理解できる)
    異なる価値観と出くわしたときに、物おじせず、卑屈にも尊大にもならず、粘り強く共有できる部分を見つけ出していくこと。そのためには、対話を繰り返すこと。それにより出会える喜びもある。
    決して日本よりも欧米のコミュニケーションが優れているわけではない。ただ、日本型のコミュニケーションは世界でも少数派なのだ。それを理解し、欧米型のコミュニケーションにチャレンジすることが必要な時代になったのである。
    これからのリーダーは弱者のコンテクスト(バックグラウンドや背景)を理解する能力が必要。社会的弱者は、何らかの理由で、理路整然と気持ちを伝えることができないケースが多いのだから。理路整然と伝えらえれる立場にあるなら、その人はもはや社会的弱者ではないのだから。
    シンパシーからエンパシーへ。同情から共感へ。同一性から共有性へ。
    みんなが違っていて、大変な社会だからこそ、合意形成をリードできる人材が求められる。とても大変なことだが、これに目を背けることはできない。

    日本語の文法や近代化の歴史から日本の言葉、文化の成り立ちを考え、世界の多数派との差異に気づいた。欧米人と20年近く仕事をしてきた経験を振り返っても「なるほど」と思える点が多く感銘を受けた。10年前に書かれた書ながら、10年たった今、ますます的を得た意見だと思える。

    単に「外国語を話せる」「プレゼンテーションが得意」ということではなく、頭と心の双方で相手を理解する能力がコミュニケーション力ということだと自分なりに理解した。
    ずっと手元に置いておきたい一冊。

    • 1735さん
      魔、ままつさらちやみまら
      魔、ままつさらちやみまら
      2022/09/19
    • 1735さん
      ざかま?なにさ
      ざかま?なにさ
      2022/09/19
  • 読み終わったー!
    そのそばからもう一回読んでおきたい気持ちにさせられた、不思議な本。
    多分私が欲していた解答が書かれていたんだと思う。

    読書は昔から大好きだったけど、読書感想文はとてもとても苦手だった。
    読み終わって、ちょっとその世界に浸って、それでおしまい。
    もう本は完結していて、これ以上言うことなんてない。
    あー、あえて言うなら「面白かった」か。
    だから、子どもの何書いていいかわからない、はとても共感する。


    日本は同質性が高く、共感してもらえることが多くて、全てを言い表さなくても理解してもらえるし、むしろ全部言うのは野暮、くらいの感覚があるのだと思う。
    なので、あえて言いたいこと、伝えたいことが出てこない。
    語彙が少なかったり察してちゃんだったりするのは、共感力の高さに反比例するのかもしれないな。。

    宿題として出されていた頃、苦手だった感想文を今こそ書きたい欲が出てきた。
    必要性に駆られないと、なかなか行動に移すことは難しい。
    書き残しておかないと忘れてしまう、というのももちろんある。
    おそらく承認欲求もあるけれど、自己実現の一環のつもりでも…あるつもり
    言葉にすることで理解することにも繋がる。

    わかりあえないことを認識することから対話は始まる。
    すり合わせをして共通点を見出すことは、根気がいるし、相手への敬意もとても重要。


    ところで「戯曲」と言われても、それが具体的にどんなものを指すのかよくわかっていない、私w
    きっと本書でいうバルコニーくらいのイメージ。
    SNSの文字だけのやり取りでは、知らないうちにコンテクストのずれが起こっている。
    ずれていることを意識できないずれ。
    だから私はうまくできないのだと気づいた。

    子供の頃に必要とされていたコミュニケーション能力である協調性はきっと、十分に持っていたのだろう。
    けれども、大人になって必要となった社交性は一般の人よりも持ち合わせが少ないのだと思う。
    なんというか、すとんと腑に落ちた。
    そういうことかー
    私のとって本書との出合いは、まさに円環が美しく閉じる瞬間だったと思う。
    (本書で出てきたこれってとても素敵な表現。どこかでまた使いたい。)

    図書館の返却期限と睨めっこしながらなので一度しか読めなかったのが本当に残念。
    …買おうかな。

    次は「他人と働く」を読んでみたい。


    備忘録

    冗長性の操作
    可愛い、最強説。対等な関係の褒め言葉は少ない。
    協調性から社交性への変化

  • 正直あまり期待してなかったのだが、思っていた以上に深い考察で驚いた。演劇をベースに、コミュニケーションのあり方について語る本。単純に、「現代の若者はコミュニケーション能力が足りない」としている本ではないところが良い。アメリカでは、自分が相手に自分が敵意がないことを示すために自分から話しかけるというが、欧米式のコミュニケーションも手放しに賛美していない。むしろ日本式のコミュニケーションはあうんの呼吸だから、より高度であるといえる。コミュニケーションの本質に迫る一冊。

  • 「異文化理解能力」=異なる文化、異なる価値観を持った人に対しても、きちんと自分の主張を伝えることが出来る
    文化的な背景の違う人の意見もその背景(コンテクスト)を理解し、時間をかけて説得・納得し妥協点を見出すことが出来る。そして、そのような能力を以て、グローバルな経済環境でも、存分に力を発揮できる。
    →妥協点(落とし所)を探す作業は必須。それは様々な調整能力にも関係すると思う。

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著者プロフィール

1962年、東京都生まれ。劇作家・演出家。芸術文化観光専門職大学学長。国際基督教大学在学中に劇団「青年団」結成。戯曲と演出を担当。戯曲の代表作に『東京ノート』(岸田國士戯曲賞受賞)、『その河をこえて、五月』(朝日舞台芸術賞グランプリ受賞)、『日本文学盛衰史』(鶴屋南北戯曲賞受賞)。『22世紀を見る君たちへ』(講談社現代新書)など著書多数。

「2022年 『撤退論 歴史のパラダイム転換にむけて』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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