バイバイ、ブラックバード(単行本版) [Kindle]

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  • 面白かった。
    伊坂幸太郎さんの小説は、これまで
    「チルドレン」「砂漠」「重力ピエロ」「死神の精度」「グラスホッパー」「ゴールデンスランバー」「モダンタイムス」「マリアビートル」「陽気なギャングが地球を回す」「ラッシュライフ」「オー!ファーザー」「陽気なギャングの日常と襲撃」「ガソリン生活」「魔王」「残り全部バケーション」「夜の国のクーパー」「死神の浮力」と、計数えたら17作品読んでいます。多分。
    これが18作目。
    そうやって列挙して考えると、大雑把に言うと、僕が好きなのは、「グラスホッパー」「マリアビートル」の2作がいちばんなんですね。
    続いて、好きだなあ、と読後しみじみ思ったのが「ラッシュライフ」「砂漠」「ゴールデンスランバー」「ガソリン生活」「死神の浮力」「残り全部バケーション」といったあたり。
    まあ、好きだなあ、すごいなあ、と思ったのが「夜の国のクーパー」「死神の精度」「ギャング」2作品、「チルドレン」あたり。
    正直、めぐり合わせなのか、そんなに・・・でもなかったなあ、という印象なのが「重力ピエロ」「モダンタイムス」「魔王」「オー!ファーザー」というあたりですね。

    そんな中で、正直「バイバイブラックバード」、僕としては「グラスホッパー」「マリアビートル」に並ぶ感じですねえ。いやあ、面白かったです。

    そんなに長くもないし、ほぼ、イッキ読みに近い感じ。幸せでしたねえ。本読むのが趣味でよかったなあ、という感じです。

    ネタバレというほどでもなく内容を言うと、
    星野という30前後っぽい男性がいます。この人が、詳しく描かれませんが、何か人生が借金の末か、破滅転落したらしく。
    とある「組織」の手に落ちて、「あるバス」に乗せられて、どこに送られるのか、どこかに送られる運命になっています。
    その先は、よくわかんないけど「マグロ漁船に乗って一生働かされる」的な悲劇的で非人間的な、まあ漫画の「カイジ」のような状況な訳です。
    で、この男が、女性にモテる男なんですね。5人の女性と付き合ってました。五股ですね。
    その五人に、お別れが言いたい。心配かけたくはないから、ほんとの運命は言わない。一度会って別れ話がしたい。
    と、「組織」にお願いするんですね。
    「組織」を代表する、この星野の監視役というのが、繭美という女性。
    このキャラクターが、もう秀逸。180cm180kg。巨漢デブ&ブス。そして品がなく強く知性はなく図太い。
    で、その申し出が許されて、星野はこの繭美を連れて、というか監視されながら、五人の女と会う。繭美という女と結婚するからお別れだ、と言いに。

    という、お話なんですね。
    伊坂幸太郎さんですから、基本、世界はリアルな日本のとある都市(まあ仙台かな)なんですけど、お話は寓話的です。
    そして、僕も何かで読んだんですが、このお話は太宰治の未完の遺作「グッド・バイ」の設定を換骨奪胎しています。
    というか、オマージュっていうのか。「グッド・バイ」というスタンダード曲を、ジャズマン・伊坂さんが演奏するとこうなります、みたいな感じです。
    テイストも似ています。だからオマージュなんですが。見事。

    星野はどこか飄々としていて、人がよくて、優しいんですね。
    繭美はもう強烈です。悪意と敵意とコンプレックスと歪みと憎悪で生きているようなゴキブリのような生命体です(笑)。
    ところがナカナカの哲学者でもあり、その野獣のような反射的行動力で、迷惑もかければ結果的に人助けもしちゃう。
    この辺のキャラクターが、うーん、伊坂幸太郎さん、脱帽です。愛おしいです。

    ここから多少備忘録。ネタバレですが。5人の女性はそれぞれにユニークです。
    ①不倫が終わったばかりのOL風。
    ②バツイチ子持ちの銀行員。
    ③ぶっとんだキャッツアイ好きマンガ好きの東北娘
    ④乳がんの診断を受けつつある人
    ⑤年上の大人気女優
    という具合。
    それぞれに凸凹しつつも、世間を生きる理不尽な不幸だったり淋しさだったり、あるいはポップなおかしみだったり、色とりどりです。
    結局、どの人もそれぞれの別れ話よりも、「星野と繭美の物語」のための舞台なんだなあ、というのが読後の印象。
    どのエピソードでも、星野が弱いけど優しかったり、男女が出会って惹かれあうことが素敵だったり、そういった印象がありつつ、繭美によってぶち壊され汚されていく・・・。
    と、思いきやそう一方的でもない。
    星野だったり5人の女性だったりが持つ、平和な市民生活のもってる欺瞞だったり嘘だったりっていう、指摘してもしょうがないけどそこに確実にアル「必然偽善」みたいなものをえぐり出すし、
    それを抉ったあとに残る、それでもそうやってひとりひとり生きている愛おしさみたいなものが、繭美が通ったあとに、何故か残る。読者には、ですが。
    繭美は一切そんな感傷に頓着しません。あざ笑うのみ。100%ハードボイルドです。シャイロックでありフォルススタッフでありファウストなんですね。
    ココンところの構造が秀逸ですね。
    なにしろ繭美は少女の頃から巨漢デブブスという、人生絶対負の一色、という運命を背負って、おそらくは裏街道を悲惨に歩んできた結果の開き直りと逞しさがありますから。最強です。

    で、つまりこの物語は、「そんな繭美が最後の最後で、星野を救おうとするに思い至るまで」というお話なんですね。
    星野はマンガ「カイジ」的な破滅に向かってカウントダウンで生きている。その切迫感と裏腹にどこか透明で諦めていて呑気で愚かで優しいんですね。
    この星野と繭美というコンビ感だけで、ほとんどブルースブラザーズ。オモシロイ。
    お話も、テーマ先行寓意先行ではなくて、ホドヨクとっちらかって愉快なテンポ。何より繭美のキャラクターの御陰で、ニヤっとする会話が生き生きと弾みます。まあその辺も好みですけど。

    全編通して、弛緩があるけど、ダルくない。僕はクスクス、テンポよく読みました。そんな中にも伊坂節の世間の人生の不条理や不幸という痛みがきゅきゅきゅっと引き締めます。
    そうかと思うと伊坂的な破天荒とかブッ飛んだご都合とかスラップスティックな非リアリズム展開もあります。そこは好みだけど僕は愉快。
    それが怒涛の最終章、白vs.黒。優しさvs.悪意。まるでジャダイvs.シスの戦いのような展開になります。
    まあ、具体的にはほぼ、ダラダラしゃべるだけなんですけどね(笑)。
    ただそこの小説的な展開の面白さは、究極、王道であることへの愛情というか、救いがちゃんとあって、それも恐ろしく気が利いている。と、僕は思います。
    ラスト、グっと来ました。

    伊坂幸太郎さんは大好きなんですが、読んだことがない人、特に女性の人には、何を勧めるかって無づかしいなあ、と思ったことがあって。
    「ギャング」シリーズかと思ったけど、やっぱりよく考えたら「死神の精度」あたりなんだろうか?それとも「ゴールデンスランバー」?と思ったりしていました。
    けど、ひょっとして「バイバイブラックバード」なのかもしれませんね。

    うーん、いや、それは違うかも知れませんね。難しい。

    なんとなく、伊坂幸太郎さんの小説について。
    伊坂さんの小説は、もちろんディティールやキャラクターが素敵だから面白いんですが、やっぱり大きな世界観への格闘、ある、マニフェストっていうのか、主張というのか。というのが根っこに確実にある。
    だから僕は好きです。それはそれで好みなんですけど。
    (そういう意味で、脚本家の遊川和彦さんが伊坂幸太郎さんの愛読者であるというのはなんだか腑に落ちて面白いのですが)

    うまく言えませんが、忌野清志郎とかジョン・レノンが、やっぱり「愛」だろっ!とかって言うような。大きな怒りとか祈りとか、そういう剥き身な思いっていうか叫びっていうのがあります。
    例えて言えば、最終形では絶対にポピュラー・ミュージックじゃなくて、ロックであり、むしろパンクなんじゃないか、的な。

    翻って言えば、向かっていく相手の設定が大きすぎて、観念的な部分があるんで。
    それは読み手によって快感でもあるけど。でも一方で、「それはリクツでは分かるけど、なんていうか皮膚感覚的なスムーズさとか娯楽感が薄い」という批判も有り得るとは思います。

    音楽に例えて言うと、という続きを思いつくままに。
    思い、みたいなものはとにかくとして。
    小説技法的にはある種ジャズという感じの、技巧的な上手さ。
    そして、上手いことを破壊したい危うさみたいなモノも感じるんですね。
    そこの技術的な表現への信仰っていうのは、ある種の含羞の裏返しだと思うんです。
    「バイバイブラックバード」の終わり方なんてね。
    とっても含羞に満ちてますよね。どんでん返して、主人公を救いたいんだけど。でもソレってハズカシイよねえ、という。

    それはつまり、ナマで直接じゃなくて、形式を媒介にすることへのこだわりっていうか、ある種のオタク的な部分なんですよね。
    伊坂幸太郎さんの場合は、例えば作者本人がメディアに露出することをあまり好かない(ように見える)こととか、あとかなり多作であることとか、全般的にソコに小説という形式への依存というか、ナマな出し方をしちゃうことへの含羞というか抵抗、があると思うんです。
    ひねくれているというか。
    ソコが、どうも、例外はあるでしょうが、実は一般的に、女子受けしない原因の一つなような気もしますね(笑)。
    「バイバイブラックバード」もそうですが、過去の小説やら映画やら、そういったものへのリスペクトというかオマージュっていうか、引用的な表現の楽しみ方とか、好きですしねえ、この人。
    そういう意味では、ジャズっぽいっていうか。ポピュラーさよりも、「ジャズ」あるいは「小説/物語」っていうジャンルという枠組みの中で深さを求めたがっているっていうか。
    それが、アメリカ、あるいは英語っていう文化に向かって開いていくのが村上春樹さんなのかなあ、という気もします。時代的には、「世の中さん」と対峙する「個人」という、その距離感みたいな問いかけだった気がします(初期は、ですけど。最近読んでないんで)。
    一方で伊坂幸太郎さんは、時代がもう、不景気格差身分社会ですから。「世の中さん」の中で多くが「敗者」に甘んじるという身を切る現実があるんですよね。そこを踏まえたうえで、正直、「アメリカ」とかっていうより「仙台」ですからねえ。始めから、ヒネクレていて、狭くて深い窒息感が持ち味・・・と言えるのか。

    そんなコトを考えるのは楽しいですが、尻切れですがこの辺で。

    僕は大好きな本でした。
    えっと、翻って考えれば、さすが、太宰治。パチパチ。死んでもなお、こんな作品を生む。

  • 「あのバス」に乗せられ、何処か?に連れて行かれることになった主人公が,、監視役の巨漢女性とともに、五股を掛けていた五人の彼女に別れを伝えるという、かなり変わったお話。
    登場する人物全員が相当個性的で、会話がテンポよく、ユーモアに溢れていて、まさに伊坂さん!という展開。特に五人の彼女それぞれとの会話が、非常に個性的で面白かったです。
    絶望的な状態なのに、なんとなく落ち着いていて、さらに絶望をも楽しむ?のんびりした内容でした。
    ただラストが意外でした。伊坂さんらしい素晴らしい伏線の回収を期待していたので…。

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