ファスト&スロー (上) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 馴染みのあるものだと読みたいようにさらっと読んでしまってちゃんと中身を読んでないよね、とか、
    見えた事象から因果を勝手にストーリーとして作り上げてしまう傾向が人にはあるよね、とか、
    平均に回帰するという事実や統計という情報をうまくみんな処理できてないよね、とか、
    そうだなあと思える内容があって良かった。読み進めるには重いけど、時間が取れれば面白い。

  • 内容は具体例や研究が詳細に載っておりイメージはしやすくなったがより謎が深まった。

    システム1とシステム2の関係性が理解しづらかった。
    •システム2→システム1に移ることは可能か?またその手段は?

    人間は統計が苦手で感覚やバイアスだらけで判断している。

    自分は感覚から逃れる仕組みづくりや、統計学を学び適切な方向を選べるようにしなければならない。

  • ビジネス書にありがちな(?)自慢フレーズがなく、心理学や統計学の観点から、理論的に判断決定について解説があり、なるほどなーと思った。下巻も読んでみる。

  • 私たちの判断はどのように脳で行われ、何に影響を受けどのような傾向があるのかを提示した本。

    脳は二つのシステムが働いている。直感で自動的に動くシステム1と複雑な計算や知的活動を担う怠け者のシステム2。

    ・プライミング効果
     先行刺激に判断を左右される。ex 投票所が学校だと学校補助金に対する意見が変わったり、笑顔を作ると気分が良くなる

    ・認知容易性
     笑顔で情報に触れると認知が容易に、顰めっ面だと注意深くなるが創造性は発揮しない。
     過去に触れたことのある情報は認知しやすくなり親しみを覚える性質がある。
     何も手掛かりのない情報は認知のしやすさを真偽の手掛かりにする。
     文章をシンプルにし韻文にし覚えやすくすると真実と受け取られやすい。
     反復されると好きになる。(意識とは無関係)
     気分が直感の正確性に影響する。楽しいときは向上し、悲しい時や不幸な時、直感が働かなくなる。

    ・システム1は直感的に因果関係を状況に当てはめようとする。関連のない出来事にも因果関係を探そうとする。統計的な推論をシステム2は学習することはできる。

    ・見たものが全て
     自信過剰。手持ちの情報量や質を主観的な自信(最もらしい説明)を切り離せない
     フレーミング効果。同じ情報でも提示の仕方が違うだけで
    違う反応をする。
     基準率の無視。際立って特徴的な人物描写に接すると統計的な確率を忘れる

    ・判断
     日常モニタリングー無意識に日常の事象を評価している
     システム1は一つのことのみに照準を合わせられず同時に複数のことを捉えてしまう

    ・ヒューリスティック
     難しい質問を簡単な質問に置き換える

    ・システム1は損失に敏感

    少数の法則
     小さな標本に対して過剰な信頼をおく。世界をより単純で一貫性のあるものとして捉える

     現実の世界は、偶然の結果であることが多い。偶然の事象を因果関係で説明しようとすると間違う。

    ・アンカー
     最初に提示された数字に影響を受ける。どんな数字でも影響を受けてしまう。システム2を動員してなんとしても打ち消すべき

    ・利用可能性ヒューリスティック
     注意を引く目立つ事象は記憶から呼び出しやすい
     目立つ事象はそのカテゴリーの利用可能性を増大させる。
     個人的経験は、他の情報より利用可能性が高まる。
     思い出しやすさが自己評価に影響する。
      心臓病の危険な習慣を思い出せないー自分は大丈夫
      心臓病の予防習慣を思い出せないー自分は危険
     *思い出しにくい環境だと説明を受けると利用可能性ヒューリスティックは消える
     
    ・感情ヒューリスティック
     好き嫌いで物事が決まる。被害のイメージが拡大され発生確率は無視される。
     利用可能性カスケード…小さなリスクにパニックになり報道が過熱し過剰な政治対応が求められる。

    ・ステレオタイプ
     ステレオタイプ(代表性)に影響され基準率を忘れる
     もっともらしさを確率に置き換えてしまう。
     対策としては、結果の確率を見積もるときは妥当な基準率をアンカーにする。証拠の診断結果を疑う。ex.綺麗なオフィスのベンチャー企業を将来有望と思うなど。

    ・統計の利用
     統計データより代表的な事例の方がシステム1を動かし判断に影響を与える

    ・平均への回帰 
     上手くいくのも失敗するのも確率に従う。二つの相関が不完全なとき、平均へ回帰する。最初に極端に偏った成績が出ても回数を重ねれば平均に落ち着く。平均回帰による結果を行動の結果の因果関係と思ってしまう。

    ・後知恵
     運の要素を無視してもっともらしい一貫性のあるパターンを求める。結果よければ全てよし、、、結果バイアス。

    ・妥当性の錯覚
     ストーリーの一貫性を真実性と錯覚。

    ・スキルの錯覚
     高度な知識をもとに取引をしていると自負するトレーダーの成績相関性はゼロ。世界は特に長期予測不可能。

    ・直感とアルゴリズム
     シンプルなアルゴリズムの方が直感より勝る。目の光の強さより、チェックリスト等。
     
     離婚のアルゴリズム
     SEXの回数ー喧嘩の回数

    目から鱗であった。
      

  • システム1とシステム2の内容がよく分かった。人間は直感的に判断を下す方が楽なのでそちらを多くするようになっている。しかし、事象によってはシステム2を用いて、論理的かつ計算的に考えることも大切であることがわかった。
    また、人は外的要因に結果を大きく左右させられることもよく分かったので、判断を下す際にそれを意識することを忘れない。
    これは2回目以降もきっちり読んで自分で噛み砕く必要がある。

  • 言わずと知れた名著。

    未知の言葉との遭遇の嵐。
    章の終わりに、その言葉を用いた例文があるため、日常生活に落とし込みやすい。

    何度も読み返したい、少し読むのが重い本。
    といった印象。

    下、読みます。

  • 行動経済学に影響を与えたと思われる考え方が書かれてある。以前に「行動経済学入門」を読み少しは知っていたが、豊富な実験が記載されており、論理学の素養がなく、理解はあまりできていない。現役で仕事をしていた時、(現在も現役だが、)物事は瞬時に結論を出すことを心掛けていた。この直感は、経験とともに進歩するものだと信じていたが、それは、限界があり偏りがあるというのがよく分かった。

    〇他人の失敗を突き止めてあれこれ言うほうが、自分の失敗を認めるよりずっと簡単でずっと楽しい。
    〇私たちはたいていの場合、自分の判断を友人や同僚がどう評価するか、何となく予想がつく。
    〇判断と選択についての理解が深まるほど、日常用語では間に合わない語彙がどっさり必要になる。
    〇事情通の噂話からは、人間が犯すエラーの顕著なパターンが見つかると期待できる。エラーの中でも特定の状況で繰り返し起きる系統的なエラーはバイアスと呼ばれ、予測が可能である。
    〇このバイアスには「ハロー効果(Halo effect)」という診断名がついている。
    〇自分自身について、判断や選択のエラーを突き止め理解する能力を高めることである。
    〇不適切なデータに基づく調査結果を鵜呑みにしがちだっただけでなく、自身の研究で集める標本数が少なすぎる傾向もあった。
    〇標本サイズが小さいにもかかわらず、現実の世界を忠実に再現していると過大評価しがちになる。
    〇彼らは難しい判断を下すにあたり、似たものを探して単純化ヒューリスティック(おおざっぱに言えば「近道の解決法」)を使ったのだと考えられる。
    〇このようにヒューリスティックに頼ると、答には予測可能なバイアス(系統的エラー)がかかることになる。
    〇思い出しやすさ、入手しやすさに判断が影響されることを、私たちは「利用可能性ヒューリスティック」という。
    〇社会科学者の間で1970年代に広く受け入れられていた人間観には、二つの特徴がある。第一は、人間はおおむね合理的であり、その考えはまずまず理に適っていること。第二は、人間が合理性から逸脱した行動をとる場合には、だいたいは恐怖、愛情、憎悪といった感情で説明がつくことである。
    〇サクセスストーリーでは幸運が大きな役割を果たす。何かがちょっとちがっただけで、偉大な成果が凡庸な結果に終わってしまうものである。
    〇プロスペクト理論──リスクのある状況下での意思決定の分析
    〇私がめざすのは、認知心理学と社会心理学の新たな発展を踏まえて、脳の働きが今日どのように捉えられているかを紹介することである。この分野におけるとくに重要な進歩の一つとして、直感的思考の驚嘆すべき点とともに、その欠陥が明らかになってきたことが挙げられる。
    〇専門家の正確な直感は、ヒューリスティクスではなく、長年にわたる訓練と実践の成果として説明できることがある。
    〇いまでは私たちは、直感的な判断や選択には専門的なスキルから導かれるものとヒューリスティクスに基づくものがあるという、バランスのとれた全体像を描き出せるようになっている。
    〇心理学では、魔法のように見える直感も魔法とは見なされない。
    〇状況が手がかりを与える。この手がかりをもとに、専門家は記憶に蓄積されていた情報を呼び出す。そして情報が答を与えてくれるのだ。直感とは、認識以上でもなければ以下でもない。
    〇感情ヒューリスティックとは、熟考や論理的思考をほとんど行わずに、好きか嫌いかだけに基づいて判断や決断を下すことである。
    〇困難な問題に直面したとき、私たちはしばしばより簡単な問題に答えてすます。しかも問題を置き換えたことに、たいていは気づいていない。
    〇最近の研究成果によれば、経験から学んだことよりも直感的なシステム1のほうが影響力は強い。
    〇自分の無知や自分が住む世界の不確実性の度合いを理解することに関しては明らかに無能なことである。
    〇私はこの問題に関して、『ブラック・スワン──不確実性とリスクの本質』(望月衛訳、ダイヤモンド社)の著者ナシーム・タレブから影響を受けた。井戸端会議では、後知恵の魔力や確実性の錯覚に幻惑されることなく、過去の教訓を賢く活かしたいものである。
    〇「システム1」は自動的に高速で働き、努力はまったく不要か、必要であってもわずかである。また、自分のほうからコントロールしている感覚は一切ない。「システム2」は、複雑な計算など頭を使わなければできない困難な知的活動にしかるべき注意を割り当てる。
    〇すなわち人間は、周囲の世界を感じ、ものを認識し、注意を向け、損害を避け、蜘蛛を怖がるように生まれついている。一方、先天的でない知的活動は、長年の訓練を通じて高速かつ自動的にこなせるようになる。
    〇システム2の働きはきわめて多種多様だが、共通する特徴が一つある。それは、注意力を要することである。努力を要する作業の場合、多数の活動が互いに邪魔し合うという特徴があるため、同時にこなすのは難しく、ときには不可能である。注意力が限られていることは誰もがある程度は気づいており、限界を超えないよう社会的な配慮をしている。
    〇本書に登場するシステム1とシステム2は、私たちが目覚めているときはつねにオンになっている。システム1は自動的に働き、システム2は、通常は努力を低レベルに抑えた快適モードで作動している。
    〇システム1にはバイアスもある。バイアスとは、ある特定の状況で決まって起きる系統的エラーのことである。
    〇システム2の仕事の一つは、システム1の衝動を抑えることである。言い換えれば、システム2はセルフコントロールを任務にしている。
    〇エラーが起きそうだという兆候があったときでさえ、エラーを何とか防げるのは、システム2による監視が強化され、精力的な介入が行われた場合に限られる。ところが日常生活を送るうえでは、つねにシステム2が監視するのは必ずしも望ましくはないし、まちがいなく非現実的である。
    〇私たちにできる最善のことは妥協にすぎない。失敗しやすい状況を見分ける方法を学習し、懸かっているものが大きいときに、せめて重大な失敗を防ぐべく努力することだ。そして他人の失敗のほうが、自分の失敗より容易に認識できるものである。
    〇バザールでは、買い手が自分はどのぐらい買いたがっているのかを売り手に悟られないよう、黒いサングラスを着用することなども紹介されている。
    〇深刻な脅威や有望なチャンスにすばやく反応すれば、生き延びる可能性が高まる。
    〇よく言われる「最小努力の法則」は、肉体的な労力だけでなく認知能力にも当てはまるのである。この法則は要するに、ある目標を達成するのに複数の方法が存在する場合、人間は最終的に最も少ない努力ですむ方法を選ぶ、ということである。
    〇認知心理学におけるこの数十年間で重要な発見の一つは、あるタスクから別のタスクに切り替えるのは困難だ、ということである。
    〇注意と努力を話題にするときは 「運転中にその問題をやりたくはないね。そいつは瞳孔が拡がるような難問で、えらく努力を必要とするから」 「またまた最小努力の法則が働いている。彼はきっと、できるだけ面倒なことを考えずにすまそうとするだろう」 「彼女は会議を忘れていたわけじゃない。ただ、会議のことを決めたとき、ほかのことに完全に気を取られて、そもそも君の話を聞いてなかったんだ」 「すぐに思いついたことは、システム1による直感だ。もう一度やり直して、記憶をよく探ったほうがいい。」
    〇ペースを落としたいという衝動を抑えるには、克己心を発揮する精神的な努力も必要である。
    〇こうしたセルフコントロールも熟考と同じく、努力という限られたリソースを消費する。
    〇人間はときには長時間にわたって、それも意志の力をとくに発動しなくとも、すさまじい努力を続けることができる。これの提唱者は、心理学者のミハイ・チクセントミハイである。彼はこの状態に「フロー」という名前をつけ、この言葉はすでに定着している。フローを経験した人は、このときのことを「まったく努力しなくても極度に集中でき、時が経つのも、自分自身のことも、あれこれの問題もすべて忘れてしまう状態」と説明している。
    〇チクセントミハイが「最適経験」と呼ぶのは
    黄色のハイライト | 位置: 1,102
    強い意志やセルフコントロールの努力を続けるのは疲れるということで 、この現象は、「自我消耗(ego depletion)」と名づけられている。
    ・したくないのに無理に考える。
    ・感動的な映画を観て感情的な反応を抑える。
     ・相反する一連の選択を行う。
     ・他人に強い印象を与えようとする。
     ・妻(または夫)や恋人の失礼なふるまいに寛容に応じる。
     ・人種の異なる人と付き合う(差別的偏見を持っている人の場合)
    〇・考えるのをやめてしまう。
     ・衝動買いに走る。
     ・挑発に過剰反応する。
     ・力のいる仕事をすぐに投げ出す。
     ・認知的タスクや論理的な意思決定でお粗末な判断をする。
    〇難しい認知的推論をしているときや、セルフコントロールを要する仕事に取り組んでいるときには、血液中のブドウ糖が減る(血糖値が上がる)。
    〇大方の人は、認知的努力をするのは控えめに言っても厄介なことであり、できるだけ避けたいと考えているように思える。
    〇たいていの人は、結論が正しいと感じると、それを導くに至ったと思われる論理も正しいと考える。
    〇知能とは論理思考をする能力だけでなく、記憶の中から役に立つ情報を呼び出し、必要なときに活用する能力でもある。
    〇システム2の監視機能が弱い生徒の特徴を調査し、思いついた最初の考えを答えがちで、直感が正しいかどうか確かめる努力を惜しむことを発見した。
    〇システム1は衝動的で直感的であり、システム2は論理思考能力を備えていて注意深い。しかし、少なくとも一部の人のシステム2は怠け者である。上っ面だけの思考すなわち怠け者思考は、熟考思考の欠陥と合理性の欠如を表している。
    〇「彼女は、何の苦もなく何時間も集中していた。たぶん、フロー状態に入っていたのだろう。」
    〇こうした現象を引き起こすメカニズムはずっと昔から知られており、観念連合と呼ばれている。あなたは、自分で思っているよりずっと少ししか、自分について知らない。
    〇プライミング効果(priming effect)」と呼び、「食べる」はSOUPのプライム(先行刺激)、「洗う」はSOAPのプライムである。プライミング現象は、イデオモーター効果として知られている。
    〇ごくありきたりの単純な動作が、私たちの考えや感じ方に無意識のうちに影響をおよぼすこともある。「自分がどんな気分のときも、つねにやさしく親切にしなさい」という忠告は、まことに当を得ていると言えるだろう。やさしく親切に行動することで、あなたは実際にやさしく親切な気持ちになる──これはとても好ましいご褒美である。
    〇これらの発見から総じて言えるのは、お金という観念が個人主義のプライムになるということである。
    〇独裁国家の指導者の写真がそこここに飾られていたら、「見張られている」という感覚を与えるだけでなく、自ら考えたり行動したりする気持ちが失せてしまうことに、疑いの余地はない。
    〇このような衝動は「レディ・マクベス効果」と呼ばれている。
    〇鮮明に印刷された文章、繰り返し出てくる文章、プライム(先行刺激)のあった文章は認知しやすく、スムーズに処理されることがうかがえる。機嫌のいいときに話を聞いたり、鉛筆を横向きにくわえて「笑顔」をつくって聞いたりするだけでも、認知は容易になる。
    〇誰かに嘘を信じさせたいときの確実な方法は、何度も繰り返すことである。聞き慣れたことは真実と混同されやすい
    〇文章の一部になじんでいるだけで、全体に見覚えがあると感じ、真実だと考える。 原則としては、認知負担をできるだけ減らすことである。
    〇次なるアドバイスは、書いたものを印刷することである。自分を信頼できる知的な人物だと考えてもらいたいなら、簡単な言葉で間に合うときに難解な言葉を使ってはいけない。オッペンハイマーは、ありふれた考えをもったいぶった言葉で表現すると、知性が乏しく信憑性が低いとみなされることを示している。文章をシンプルにしたうえで、覚えやすくするとなおいい。できるなら、韻文にすることが望ましい。格言風に仕立てた文章のほうが、ふつうの文章より洞察に富むと判断される。
    最後のアドバイスは、「誰かの文章や参考資料を引用するなら、発音しやすい人が書いたものを選びなさい」というものである。
    〇理路整然としているもの、あなたの日頃の考えや好みを連想させるもの、あなたが信用している人や好感を抱いている人から発せられたものなら、あなたは認知しやすいと考える。
    〇ペンを横向きにくわえて笑顔を作ったり、縦向きにくわえてしかめ面にしたりするだけで、それぞれの表情に見合った感情を経験し表現してしまう。
    〇単純接触効果は、まったく意識せずに見ているときのほうが、刺激としてはいい。
    〇「反復的な接触は、生命体と周囲の環境(生命体がいるかいないかを問わない)との関係において有利に働く。それによって、この生命体は安全な物体や生息環境と、そうでないものとを区別できるようになる。これは、社会とのつながりの最もプリミティブな形と言えるだろう。したがって単純接触効果は、社会的組織や集団の基礎を形成するものであり、心理的・社会的安定性の基盤となる。」
    〇不機嫌なときや不幸なとき、私たちは直感のきらめきを失っている。
    〇上機嫌、直感、創造性、だまされやすさ、システム1への強い依存は同じ群れに属すと考えられ、この見方を裏付けるデータが増えている。
    〇認知容易性を話題にするときは 「フォントが読みにくいという理由だけで、彼らの事業計画を却下するのは、ちょっとひどいのでは?」 「あんまり何度も繰り返されたせいで、信じたくなっているのかもしれない。ここで考え直すべきだと思う」 「慣れ親しんだものは好きになる。これが単純接触効果だ」 「今日はすごく気分がいい。ということはシステム2がいつも以上にお留守になっているから、気をつけないといけない。」
    〇あなた自身にとっての世界を表すモデルを自動更新することにある。このモデルは、一言で言えば「あなたの世界では何が正常か」を規定している。
    〇途方もない数のカテゴリーについて、私たちは「基準」を持っている。
    〇人間はさまざまな事象の相関性を繰り返し観察することによって、物理的な因果関係を推察するとされている。
    〇わたしたちは生まれたときから、因果関係の印象を受けやすくできているらしい。この印象は原因と結果のパターンに関する論理に裏付けられているわけではなく、システム1によってもたらされたものである。
    〇人間には、統計的な推論をすべき状況で因果関係を不適切に当てはめようとする傾向がある。
    〇「彼女は、ただの不運だってことを受け入れられない」
    〇その結論が正しい可能性が高く、万一まちがいだった場合のコストが容認できる程度であって、かつ時間と労力の節約になるのであれば、結論に飛びつくのは効率的といえる。
    〇慣れていない状況であるとか、失敗のコストが高くつくとか、追加情報を集める時間がない場合などは、結論に飛びつくのは危険である。そのような状況では、思慮深いシステム2が介入すれば防げたはずの直感的エラーが発生しているかもしれない。
    〇明示的な文脈がない場合、システム1は勝手にいちばんありそうな文脈を生成する。
    〇ある言明の理解は、必ず信じようとするところから始まる。もしその言明が真実なら何を意味するのかを、まず知ろうとする。そこで初めて、あなたは信じないかどうかを決められるようになる。
    〇システム2が他のことにかかり切りのときは、私たちはほとんど何でも信じてしまう。
    〇実際、疲れているときやうんざりしているときは、人間は根拠のない説得的なメッセージ(たとえばコマーシャル)に影響されやすくなる、というデータもある。
    〇連想記憶の働きは、一般的な「確証バイアス(confirmation bias)」を助長する。
    〇自分の信念を肯定する証拠を意図的に探すことを確証方略と呼び、システム2はじつはこのやり方で仮説を検証する。
    〇ある人のすべてを、自分の目で確かめてもいないことまで含めて好ましく思う(または全部を嫌いになる)傾向は、ハロー効果(Halo effect)として知られる。後光効果ともいう。ハロー効果は、人物や状況の評価でひんぱんに見受けられる重要なバイアスを表現するのに、ぴったりの言葉だからである。
    〇証拠が徐々に積み重なっていくようなケースでは、第一印象で抱いた感情で解釈が左右され 、人物描写をするときに、その人の特徴を示す言葉の並び順は適当に決められることが多いが、実際には順番は重要である。ハロー効果によって最初の印象の重みが増し、あとのほうの情報はほとんど無視されることさえあるから、複数の情報源から最も有効な情報を得るためには、一つひとつの情報源をつねに相互に独立させておかなければならない。
    〇通常の自由討論では、最初に発言する人や強く主張する人の意見に重みがかかりすぎ、後から発言する人は追随することになる。
    〇自分の見たものがすべてだ、限られた手元情報に基づいて結論に飛びつく傾向は、直感思考を理解するうえで非常に重要である。この傾向は、自分の見たものがすべてだと決めてかかり、見えないものは存在しないとばかり、探そうともしないことに由来する。
    〇ストーリーの出来で重要なのは情報の整合性であって、完全性ではない。
    〇・自信過剰──「自分の見たものがすべてだ」という態度からうかがわれる通り、手持ちの情報の量や質は主観的な自信とは無関係である。
    ・フレーミング効果──同じ情報も、提示の仕方がちがうだけで、ちがう感情をかき立てることがある。
    〇私たちは見知らぬ人の顔を一目見ただけで、生死を決しかねない二つの重大な事実を評価する能力を授かっているという。一つは、その人物がどの程度支配力を持っているか(したがって潜在的に危険か)ということ。もう一つは、どの程度信頼できるか、言い換えればこの人物は友好的なのか、それとも敵対的なのか、ということである。
    〇がっしりした顎と自信あふれる微笑の組み合わせが「できる男」という雰囲気をつくる。
    〇意図的な情報処理のコントロールはひどく精度が低く、こちらが望む以上、必要とする以上のことをやっている。この過剰な情報処理のことを「メンタル・ショットガン」という。
    〇判断を話題にするときは 「ある人を魅力的だとか、そうでないとか判断するのは、日常モニタリングの役割だ。好むと好まざるとにかかわらず、私たちはそれを自動的にやっていて、その影響から逃れられない」 「脳の中には、顔の形から支配力を評価する回路があるらしい。だから、彼がリーダーに向いているように見えるってわけ」 「刑罰は、罪の重さと一致していない限り、正当とは感じられないものだ。音量に合わせて輝度を調節することと同じと考えればいい」 「彼はその会社の財務状態が健全かどうかを聞かれたのに、その会社の製品を気に入っていることがどうしても頭から離れなかった。これは明らかにメンタル・ショットガンの典型例 」
    〇難しい質問に対してすぐには満足な答が出せないとき、システム1はもとの質問に関連する簡単な質問を見つけて、それに答えるからである。このように代わりの質問に答える操作を「置き換え(sub-stitution)」という。ヒューリスティクスの専門的な定義は、「困難な質問に対して、適切ではあるが往々にして不完全な答を見つけるための単純な手続き」である。
    〇メンタル・ショットガンは、前章で述べた通り、質問に対して答えるときに、正確に狙いを絞れないことを意味する。完璧に論理的根拠のある答を出すにはおよばない。ヒューリスティック質問に答えても、そこそこ筋は通る。このやり方はときにうまくいく──が、ときに重大なエラーになる。メンタル・ショットガンとレベル合わせの自動処理によって、多くの場合ヒューリスティック質問に一つ以上の答が出てくるから、それをうまくターゲット質問に当てはめればいい。
    〇要するに、回答者の感情に訴えかけて気分を変える効果のある問いは、すべて同様の効果を持つ。これもまた「見たものがすべて」効果の一種であり、幸福度を評価するときに、その時点の心理状態が答を大きく左右することになる。
    〇放射能で汚染された食品、赤身の肉、原子力、タトゥー、オートバイといったものに対するあなたの感情的な見方が、そのままこうしたもののメリットやリスクの判断に影響する。
    〇われわれは昨年の実績に基づいて今後数年間の業績を予測しようとしている。このヒューリスティックは妥当と言えるだろうか。他にも必要な情報はないだろうか。
    〇システム1の特徴    
    ・印象、感覚、傾向を形成する。システム2に承認されれば、これらは確信、態度、意志となる。    
    ・自動的かつ高速に機能する。努力はほとんど伴わない。主体的にコントロールする感覚はない。    
    ・特定のパターンが感知(探索)されたときに注意するよう、システム2によってプログラム可能である。    
    ・適切な訓練を積めば、専門技能を磨き、それに基づく反応や直感を形成できる。    
    ・連想記憶で活性化された観念の整合的なパターンを形成する。    
    ・認知が容易なとき、真実だと錯覚し、心地よく感じ、警戒を解く。    
    ・驚きの感覚を抱くことで、通常と異常を識別する。    
    ・因果関係や意志の存在を推定したり発明したりする。    
    ・両義性を無視したり、疑いを排除したりする。    
    ・信じたことを裏付けようとするバイアスがある(確証バイアス)。    
    ・感情的な印象ですべてを評価しようとする(ハロー効果)。    
    ・手元の情報だけを重視し、手元にないものを無視する(「自分の見たものがすべて」WYSIATI)。    
    ・いくつかの項目について日常モニタリングを行う。    
    ・セットとプロトタイプでカテゴリーを代表する。平均はできるが合計はできない。    
    ・異なる単位のレベル合わせができる(たとえば、大きさを音量で表す)。    
    ・意図する以上の情報処理を自動的に行う(メンタル・ショットガン)。    
    ・難しい質問を簡単な質問に置き換えることがある(ヒューリスティック質問)。    
    ・状態よりも変化に敏感である(プロスペクト理論)。*    
    ・低い確率に過大な重みをつける。*    
    ・感応度の逓減を示す(心理物理学)。*    
    ・利得より損失に強く反応する(損失回避)。*    
    ・関連する意思決定問題を狭くフレームし、個別に判断する。
    〇少数の法則 ──統計に関する直感を重視する。
    〇論文の執筆者によれば、心理学者が選ぶ標本は一般に小さすぎるため、真の仮説の実証に失敗するリスクは50%になる。
    〇徹頭徹尾疑い続けるのは、もっともらしいことをすぐに信じるより、はるかに難事業だ。したがって少数の法則は、「疑うより信じたい」というバイアスの表れといえる。
    〇男が生まれる可能性と女が生まれる可能性は(ほぼ)等しい。したがって起こりうるどんな順序も、それが起きる確率は等しいのである。
    〇私たちにはパターンを探そうとする傾向があり、世界には一貫性があると信じている。
    〇私たちは、人生で遭遇する大半のことはランダムであるという事実を、どうしても認めたくないので 理由を求める。
    〇自分を取り巻く世界を、データが裏付ける以上に単純で一貫性のあるものとして捉えている。
    〇少数の法則を話題にするときは
    「たしかにこのスタジオは、新CEOが就任してから映画を三本立て続けにヒットさせた。だからと言って、彼がホットハンドを持っていると結論するのは時期尚早ではないかな」 「新入りのトレーダーが本物の天才かどうかは、統計の専門家に相談するまで何とも言えないね。もしかしたら、彼の連戦連勝は単なる偶然だと言われるかもしれない」
    「観察例が少なすぎるから、これでは何も推定できない。少数の法則に従うのはやめよう」 「十分に大きい標本を得られるまでは、この実験結果は秘密にしておきたい。さもないと、早く結論を出せと圧力をかけられる羽目になるだろう」
    〇この現象は、「アンカリング効果(anchoring effect)」または「係留効果」という。
    〇ある未知の数値を見積もる前に何らかの特定の数値を示されると、この効果が影響する。
    〇第一は慎重な調整を伴うアンカリング効果で、システム2が働く。第二はプライミングによるアンカリング効果で、システム1が自動作動して判断する。
    〇私が暗示と考えていたのは、プライミング効果だったのである。
    〇相手が途方もない値段を吹っかけてきたと感じたら、同じように途方もない安値で応じてはだめだ。値段の差が大きすぎて、交渉で歩み寄るのは難しい。それよりも効果的なのは、大げさに文句を言い、憤然と席を立つか、そうする素振りをすることだ。そうやって、そんな数字をもとにして交渉を続ける気はさらさらないことを、自分にも相手にもはっきりとしめす。
    〇アンカーに対抗する論拠を見つけるために、注意を集中し、記憶を探索する方法で対策する。
    〇一般に、意図的に「反対のことを考える」戦略は、バイアスのかかった思考を排除することにつながるので、アンカリング効果に対するよい防衛策となる。
    〇連想システムは情報の信頼性に拘泥しないからだ。大事なのはストーリーであり、それは何であれ、入手できた情報からこしらえる。
    〇あなたにもできることはある。何らかの数字が示されたら、それがどんなものでもアンカリング効果をおよぼすのだ、と肝に銘じることである。そして懸かっているものや金額が大きい場合には、何としてもシステム2を動員して、この効果を打ち消さなければならない。
    〇アンカーを話題にするときは
    「買収を検討している企業から、事業計画書を送ってきた。そこには売上予想が記入されている。しかし、この数字に影響されてはまずいから、見ないことにしよう」
    「この計画は、ベストケース・シナリオだ。実際の結果を予測するに当たって、このシナリオのアンカリング効果を受けるのは好ましくない。そのための一つの方法として、計画通りに行かなかったらどうなるかを考えるとよい」
    「今回の交渉の眼目は、相手方にとってこの数字をアンカーにしてしまうことだ」
    「はっきり言おう。相手が本気でこんな提案をしてきたのなら、交渉は打ち切りだ。こんなものを交渉の出発にすることはできない」
    「被告の弁護人は、まったく根拠のない資料を作成し、被害総額をばかばかしいほど低く見積もっている。連中はこの数字を裁判官のアンカーにしようとしているのだ」
    〇「事例が頭に思い浮かぶたやすさ」で頻度を判断することから、私たちはこれを利用しやすさ、すなわち利用可能性ヒューリスティックと呼ぶことにしている。
    〇バイアスを防ぐために自分を監視し続けるのは、たしかに面倒だ。だが高い代償を伴うエラーを防げることを考えれば、この努力はする価値がある。
    〇チームで仕事をする場合、自分のほうが他のメンバーよりがんばっており、他のメンバーの貢献度は自分より小さいと考えがちである。
    〇あなたはもしかすると、自分に配分された報奨以上の貢献をしたのかもしれない。だがあなたがそう感じているときは、チームのメンバー全員も同じ思いをしている可能性がある。
    〇たやすく思い出せたという感覚は、思い出せる例の数より強力なのである。
    〇車の長所を多く挙げるよう指示すると、その車にさほど魅力を感じなくなる。
    〇次のような条件の下では、人間は流れに身をまかせやすく、思い出した例の内容よりも、思い出しやすさに強く影響される。
    ・努力を要する別のタスクを同時に行っている(*7)。  
    ・人生の楽しいエピソードを思い出したばかりで、ご機嫌である(*8)。  
    ・気分が落ち込んでいる(*9)。  
    ・タスクで評価する対象について生半可な知識を持っている。
    〇ただし本物の専門家は逆の結果になる(* 11)。  
    ・直感を信じる傾向が強い(* 12)。  
    ・強大な権力を持っている(またはそう信じ込まされている)
    〇利用可能性を話題にするときは
    「先月たまたま飛行機事故が二件重なったせいで、彼女は電車で行きたがっているんだ。ばかばかしい。リスクが変わったわけじゃない。あれは、利用可能性バイアスだよ」
    「屋内空気汚染があまりニュースにならないので、彼はそのリスクを過小評価している。これは、利用可能性の効果と言えるだろうね。彼は統計データを見るべきなんだ」
    「彼女は最近スパイ映画を立て続けに見たらしい。あれも陰謀だとか、これも謀略だとか、うるさいんだ」
    「CEOはこのところ続けざまに商談を成功させた。そのおかげで、失敗した案件のことはとんと思い出せないらしい。この利用可能性バイアスがCEOの自信過剰につながっている」
    〇そもそも報道されるニュースには、新奇性があるとか感情に訴えかけるといったバイアスがかかっている。
    〇感情ヒューリスティックという概念を開発する。このヒューリスティックでは、人々は感情に従って判断や意思決定を行う。平たく言えば、好きかきらいか、判断する。
    〇感情反応が強いか弱いかでものごとを決めてしまう。
    〇感情ヒューリスティックは、白黒のはっきりした世界をこしらえ上げて、私たちの生活を単純化する。
    〇理性よりも感情に従い、本筋とは関係のないことに簡単に惑わされ、低い確率と無視できるほど低い確率の差を正しく見分けられない。
    〇数字や合計の扱いに関する限り、専門家は素人よりすぐれていると思われている。
    〇「現実のリスク」や「客観的なリスク」といったものは存在しない。したがって、「リスクを定義することは権力を行使することにほかならない」と結論づけている。
    〇ある観念の重要性は思い浮かぶたやすさ(および感情の強さ)によって判断される。
    〇私たちはリスクを完全に無視するかむやみに重大視するかの両極端になり、中間がない。
    〇市民の考えや行動が大筋では正しい方向を向いていても、利用可能性ヒューリスティックや感情ヒューリスティックによって不可避的にバイアスがかかってしまうことになる。
    〇心理学は、専門家の知識に一般市民の感情と直感を組み合わせてリスク政策の設計に貢献しなければならない。
    〇利用可能性カスケードを話題にするときは
    「彼女ときたら、あるイノベーションを激賞して、メリットはたくさんあるのに欠点は一つもないと言うんだ。あれは感情ヒューリスティックじゃないだろうか」
    「なんでもない出来事が報道や世間の評判によっておおごとになり、しまいにはテレビで毎日取り上げられるようになって、誰もが話題にしている」
    〇おはじきが赤である確率と緑の確率とどちらが高いかを決めるには、赤なり緑なりがもともと何個壺に入っていたのかを知る必要がある。このもともとの比率を「基準率(base rate)」という。
    〇確率(可能性)を見積もるのは難しいが、類似性を判断するのは簡単である。
    〇多くの専門家にとって、確率とは、信じ込んでいる度合いを主観的に表したものに過ぎない。
    〇確率(日常用語では「可能性」が同義語として使われている)は曖昧な概念で、不確実性、傾向、妥当性、意外性にもつながる。
    〇簡単な答の一つが代表性の評価である。じつは代表性に基づく直感的な印象は、しばしば(と言うよりたいていは)確率予想より精度が高いのである。
    〇代表性の第一の罪は、起こりそうにない(すなわち基準率の低い)事象を、きっと起こると思い込むことである。
    〇単なる統計的事実よりも固有情報のほうを重視した。
    〇しかめ面をするとシステム2による監視が強化され、直感を過信したり頼ったりする度合いが少なくなる。
    〇代表性の第二の罪は、固有情報のクオリティに無頓着になりがちなことである。
    〇無価値の情報は、その情報がまったくないものとして扱わなければならない。
    〇情報の信頼性に疑念を抱いたときにあなたがすべきことはただ一つ──確率の見積もりを基準率に近づけることである。ただし、この原則を守るのは生易しいことではなく、自己監視と自己制御にかなりの努力を払わなければならない。
    〇ベイズ・ルールは、事前確率(本章の例では基準率がこれに該当する)に証拠の診断結果(相反する仮説が実現する見込み)を加味する手順を定めている。
    〇この理論を巡る誤解について、読者には二つのことを覚えておいてほしい。第一は、推定対象に関する証拠が山ほど与えられても、やはり基準率は重要だということである。第二は、直感的な印象は、証拠の診断結果を過大評価しがちだということである。
    〇ベイズ推定を行う基本は、次のように簡単にまとめることができる。  
    ・結果の確率を見積もるときは、妥当な基準率をアンカーにする。  
    ・証拠の診断結果をつねに検証する。
    〇代表性を話題にするときは
    「芝生はきちんと刈り込まれているし、受付嬢は有能そうで、家具はすばらしい。だがだからと言って、この会社の経営状態がいいことにはならない。取締役会が代表性に眩惑されないことを祈るよ」
    「このスタートアップは順風満帆に見える。だがこの業界で成功する企業の基準率はきわめて低い。この会社が例外だとどうしてわかるんだ?」
    「彼らは相変わらず同じまちがいを繰り返している。あやしげな情報に基づいて、ありそうもないことを予測しているんだ。情報が信用できないときは、基準率に依拠すべきだ」
    「この報告書がきわめて批判的であることは承知している。おそらくは確たる証拠に基づいているのだろうが、ほんとうに信頼できるのか? 不確実性の存在は念頭に置くべきだろう」
    〇「いくつ?」「何人?」にするとよい。同じ内容の質問でも、「何%?」にすると誤りが多くなる。
    〇一つは相手の主張を粉砕する正攻法で、この場合には相手の最強の論拠に疑念を提出する。もう一つは相手の証人の信用を落とす方法で、手法で、この場合には証言のいちばん弱い部分を攻撃する。
    〇「過ぎたるは及ばざるがごとし」を話題にするときは
    「彼らはひどく込み入ったシナリオをこしらえて、それが起こる可能性が高いと言い張っている。そんなはずはない。そのシナリオは、単にもっともらしいだけだ」
    「高価な商品に安物のおまけを付けたところ、そのせいで、全体が安っぽくなってしまった。
    これはまさに、過ぎたるは及ばざるがごとし、というやつだ」
    「ほとんどの状況では、直接比較を行うときに人間は注意深く論理的になるものだ。だが、いつもではない。ときには正解が目の前にあるのに、直感が論理を打ち負かすこともある」
    〇基準率はおおむね過小評価され、ときには完全に無視される。
    〇予測するケースに固有の情報が提供されているときは、とくにその傾向が強い。  
    ・因果的基準率はそのケース固有の情報として扱われ、他の固有情報と容易に関連づけられる。
    〇ステレオタイプとは、ある集団についての説明が構成員一人ひとりについての事実として(少なくとも一時的に)受け入れられている
    〇人材採用やプロファイリング(犯罪の性質や特徴から犯人の特徴を推定する手法)におけるステレオタイプ化は社会規範に反する行為であり、法律でも禁じられている。これは、当然そうあるべきである。
    〇ごくふつうのまっとうな人間でさえ、発作を起こした人を助けるなどというあまりぞっとしない仕事を他の人がやってくれそうだと思ったら、自分はすぐには行動しないのである。
    〇情報と統計を話題にするときは
    「ただの統計データを見て、彼らがほんとうに意見を変えるとは思えないね。それより、一つか二つ、代表的な事例を示して、システム1に働きかけるほうがいい」
    「この統計データが無視されるなんて心配は無用だ。それどころか、この情報に基づいてすぐさまステレオタイプが形成されるだろう」
    〇平均への回帰(regression to the mean)」として知られる現象で、この場合には訓練生の出来がランダムに変動しただけなのである。
    〇私たちは、自分によくしてくれた人には親切にし、そうでない人にはいじわるをすることによって、親切に対しては統計学的に罰され、いじわるに対しては統計学的に報われている。
    〇成功 = 才能+幸運   大成功 = 少しだけ多くの才能+たくさんの幸運
    〇平均回帰パターンはどこにでも見られる現象であり、それを説明するために的外れの因果関係をこしらえようとする人が後を絶たない。
    〇二つの変数の相関が不完全なときは、必ず平均への回帰が起きるということだ。
    〇私たちの頭は因果関係を見つけたがる強いバイアスがかかっており、「ただの統計」はうまく扱えないからである。
    〇平均への回帰を話題にするときは
    「経験からすると、叱るほうが誉めるより効果的だ、と彼女は言い張っている。平均回帰ってことを全然わかってないんだな」
    「彼の二次面接が一次面接ほど好印象でなかったのは、失敗しないように緊張していたせいかもしれない。だがそれよりも、一次面接が出来すぎだった可能性のほうが高い」
    「当社の採用方式はなかなかよくできているが、完璧ではない。したがって、回帰が起きるものと考えておく必要がある。非常に優秀な応募者がひんぱんに期待を裏切っても、驚いてはいけない」
    〇この種の予測は大きく分けて二通りある。第一は、長年の経験で培われたスキルや専門知識に基づく直感である。第二の直感は、解くべき難しい質問を簡単な質問で置き換えるヒューリスティクスの働きに基づくものである。
    〇自分の予測に妥当な精度を期待する人には、稀な事象や平均からかけ離れた結果を予測することはできない。
    〇合理的な人間にとっては、バイアスのかかっていない穏当な予測は、何の問題も起こさないはず。
    〇直感は極端に偏った予測を立てやすいものだと肝に銘じ、直感的予測を過信しないよう気をつけることである。
    〇直感的予測を話題にするときは
    「あのスタートアップはこれまでのところ、ビジネスコンセプトのすばらしさを実証している。だが、将来も同じようにうまくいくと期待すべきではない。上場までの道のりは長いし、平均回帰の余地は大きいからね」
    「われわれの直感によればきわめて有望にみえるが、おそらくこの予想は強気すぎるだろう。手持ち情報の信頼性を検討したうえで、平均に回帰させる必要がありそうだ」
    「あのスタートアップに投資するのが悪いとは言わないよ。ただし、いずれ破綻するというのが最も妥当な予測だってことは理解しておくべきだ。第二のグーグルだなんて言うのはやめてくれ」
    「あの製品にはレビューが一本投稿されていて、べた誉めしている。だが、まぐれ当たりということもあるからね。レビューの数が多い製品だけを検討対象にし、その中からいちばんよさそうなものを選ぶほうがいい」
    〇ある人のたった一つの目立つ特徴についての判断に、すべての資質に対する評価を一致させるよう仕向けるのがハロー効果だからである。
    〇ハロー効果は、「よい人間のやることはすべてよく、悪い人間のやることはすべて悪い」という具合に、評価に過剰な一貫性を持たせる働きをする。
    〇人間の脳は、平凡な出来事、目立たない出来事は見落とすようにできている。
    〇白紙の気持ちで未来について考えるためには、過去の考えに使ってきたこの手の言葉を一掃するのがよろしかろう。
    〇後講釈をする脳は、意味づけをしたがる器官だという。
    〇人間の脳の一般的な限界として、過去における自分の理解の状態や過去に持っていた自分の意見を正確に再構築できないことが挙げられる。新たな世界観をたとえ部分的にせよ採用したとたん、その直前まで自分がどう考えていたのか、もはやほとんど思い出せなくなってしまう。
    〇私たちは、決定自体はよかったのに実行がまずかった場合でも、意思決定者を非難しがちである。
    〇結果が重大であるほど、後知恵バイアスは大きくなる。
    〇後知恵バイアスや結果バイアスは、全体としてリスク回避を助長する一方で、無責任なリスク追求者に不当な見返りを与える。
    〇私たちはみな、勇気づけられるメッセージを必要としている。行動はきっとよい結果をもたらすとか、知恵と勇気は必ず成功で報われるなど。
    〇企業の成功とCEOの手腕との相関係数をかなり甘めに見積もったとしても、0.30がせいぜいである。
    〇ハロー効果はきわめて強力なため、同じ人間の同じ行動であっても、物事がうまくいっているときに「凡庸だ」と酷評したり、まずくなったときに「それでも優秀だ」と評価したりすることに、抵抗を感じるようになる。
    〇後知恵を話題にするときは
    「いまとなっては誤りは明らかだが、これは後知恵にすぎない。君だって、前もって知ることはできなかったはずだ」
    「彼はこのサクセスストーリーを参考にしているようだが、この話はうまくできすぎている。彼は講釈の誤りに陥っているんだね」
    「彼女は何の証拠もないのに、あの会社は経営の仕方が悪いと言う。彼女が知っているのは、株が下がったという事実だけだ。これは結果バイアスであって、その一部は後知恵、一部はハロー効果による」
    「結果バイアスに気をつけなければいけない。なるほど、うまくはいったが、あの決定はまちがいなくばかげている」
    〇自信を持つことはたしかに大切ではあるが、私たちが知っていることがいかに少ないかを考えたら、自分の意見に自信を持つなど言語道断と言わねばならない。
    〇私たちの予測は平均回帰をまったく見込んでいなかったし、わずかな情報に基づいて将来のよしあしを予測するにもかかわらず、少しも留保条件をつけていなかった。
    〇人間は全体から個を推論したがらないものである。
    〇平均的には最も活発な投資家が最も損をすること、取引回数の少ない投資家ほど儲けが大きいことを示している。
    〇ある年にうまくいったファンドは、ほとんど幸運のおかげなのだ。
    〇トレーダーの主観的な経験は、きわめて不確実性の高い状況で、高度な知識に基づく賢明な推測を行っている、というものだろう。だがきわめて効率的な市場においては、高度な知識に基づく推測はあてずっぽうより正確とは言えない。
    〇妥当性の錯覚とスキルの錯覚は、プロフェッショナル集団の根強い文化にも支えられている。
    〇私たちは過去についてつじつまの合った後講釈をし、それを信じ込む傾向がある。
    〇私たちは、大きな社会的事件や文化・技術の発展に注目したり、一握りの偉大な人物の意図や能力を分析したりすれば、過去を説明できると考えている。だが重大な歴史的事件を決するのは、運にほかならない。
    〇その分野に最もくわしいとされる人の予測は、多くの場合精度が低かった。理由は、自分はその分野に精通していると考えると、スキルの錯覚が助長され、非現実的な自信過剰に陥るからだと考えられる。
    〇専門家も所詮は人間であるから、自分は優秀だと思い込み、誤りを犯したと認めることをひどく嫌がる。
    〇第一の収穫は、世界は予測不能なのだから予測エラーは避けられない、ということである。第二は、強い主観的な自信がいくらあっても、それは予測精度を保証するものではない、ということだ(自信がないほうが、まだ当てになる。)
    〇予測可能と考えられる未来と、予測不能な遠い未来とがどこで分かれるのか、その境界はまだわかっていない。
    〇スキルの錯覚を話題にするときは
    「過去の症例から、この病気の進行がほとんど予測できないことを彼は知っているはずだ。それなのに今回あれほど自信たっぷりなのはどうしてだろう。あれは妥当性の錯覚としか思えないね」
    「彼女は、自分が知っていることを全部説明できるようなストーリーを作り上げたんだよ。で、万事つじつまが合っているものだから、自信たっぷりなんだ」
    「どうして彼は市場より自分のほうが賢いと思っているのだろう。あれは、スキルの錯覚ではないだろうか」
    「彼女は、『ハリネズミと狐』に出てくるハリネズミだ。自分の理論ですべてが説明でき、将来も予測できると錯覚している」
    「たしかに専門家は高度な教育や訓練を受けているだろう、だがそんなことは問題じゃない。問題は、そもそも彼らの扱う世界は予測可能なのか、ということだ」
    〇専門家は賢く見せようとしてひどく独創的なことを思いつき、いろいろな要因を複雑に組み合わせて予測を立てようとする。
    〇専門家の判断が劣るもう一つの理由は、複雑な情報をとりまとめて判断しようとすると、人間は救いようもなく一貫性を欠くことである。
    〇専門家は自分たちが高いスキルを備えていることは知っているけれども、そのスキルの限界を必ずしも理解していない。
    〇自分の直感であれ他人の直感であれ、直感的判断を無条件に信用してはいけない。だが無視してもいけない、ということである。
    〇あなたが真剣に最高の人材を雇いたいと考えているなら、やるべきことはこうだ。まず、この仕事で必須の適性(技術的な理解力、社交性、信頼性など)をいくつか決める。欲張ってはいけない。六項目がちょうどいい。あなたが選ぶ特性は、できるだけ互いに独立したものであることが望ましい。また、いくつかの事実確認によって、その特性を洗い出せるようなものがよい。次に、各項目について質問リストを作成し、採点方式を考える。五段階でもよいし、「その傾向が強い、弱い」といった評価方式でもよい。
    〇直感と計算式を話題にするときは
    「人間による判断を計算式で代用することが可能な場合には、少なくとも一度はそれを検討してみるべきだ」
    「彼はこまかいところまでよく見て精緻な判断を下しているつもりだが、項目別のスコアを単純に足し合わせるほうが、たぶんいい結果が出るだろう」 「応募者の過去の実績について、どのデータに重みをつけるのかを面接前に決めておこう。さもないと、面接で受けた印象を過度に重視する結果になりかねない」

  • 著者はプロスペクト理論の生みの親でノーベル経済学賞を受賞した心理学者。

    文章にユーモアがあり読みやすい。

    現時点での興味が他に移ってしまったので88ページまで読んで一旦積読へ。

  • 「人はどのように意思決定をするのか」という問いに対してカーネマンが示しているのは、人はだれしも「速い(ファスト)思考」と「遅い(スロー)思考」を組み合わせて意思決定をしているというモデル。前者をシステム1、後者をシステム2と呼び議論を組み立てていく。行動経済学の文献で参照・言及されることが多いか、この本はタイトルどおり、人間の意思決定のメカニズムを深く考察している本。(でも本棚管理の上では「経済・金融etc」に入れておこう。)

    様々な事例や実証研究に触れているため、切り取って読んでも面白いエピソードが多い反面、何時間もぶっ続けで読むペースには適さなかった。

    キンドルに入れてから読了まで3年。息子が先に読んだハイライトを後から眺めて読んだ最初の本になった。下巻はどれくらいかかるだろうか。。。

  • 興味深い話が多くて面白い
    専門家とふつうの人の意見衝突の話は、まさにコロナ禍の日本で起こっていることのように感じた

    文章は難しくないので理解はできたけど、まだきちんと咀嚼しきれていないので、下巻も読み終わったらもう一回読み直したい

著者プロフィール

心理学者。プリンストン大学名誉教授。2002年ノーベル経済学賞受賞(心理学的研究から得られた洞察を経済学に統合した功績による)。
1934年、テル・アビブ(現イスラエル)に生まれへ移住。ヘブライ大学で学ぶ。専攻は心理学、副専攻は数学。イスラエルでの兵役を務めたのち、米国へ留学。カリフォルニア大学バークレー校で博士号(心理学)取得。その後、人間が不確実な状況下で下す判断・意思決定に関する研究を行い、その研究が行動経済学の誕生とノーベル賞受賞につながる。近年は、人間の満足度(幸福度)を測定しその向上をはかるための研究を行なっている。著作多数。より詳しくは本文第2章「自伝」および年譜を参照。

「2011年 『ダニエル・カーネマン 心理と経済を語る』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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