球体の蛇 (角川文庫) [Kindle]

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  • KADOKAWA / 角川書店
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感想・レビュー・書評

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  • 道尾ってやはり現在進行形の作家なんだとあらためて思った。一所に止まらないで、常にスタイルを変えて作品を送り出す彼からはやっぱり目が離せない。
    初期は畳み掛けるようなトリックの物量に圧倒されっぱなしだったけれど、最近の作品はそうしたトリックは陰を潜め、より人の心の機微を描くようになっている気がする。この作品もそうした中の一つだ。エンタメだけれど、文芸作品としての趣がとてもよく出ている。

    遠い記憶がふいによみがえってくる時の、心の痛みが強く描かれているこの作品は、やっぱり読んでいて胸が苦しくなる。人の心のすれ違いや思い違いから生じる悲劇。
    きっと普通に生きていれば誰もが少なからず思い当たるような小さな出来事が胸に響いていて、だからこそ、そんな出来事の積み重ねが最後には取り返しのつかないことになってしまう物語が切ない。

    海沿いの街の風景と人が美しかった。

  • 嘘をついてはいけないよ。
    幼い頃に、大人は子供にそう教える。
    なんで、と子供は聞く。
    大人は答える。
    一つ嘘をつくと、その嘘を保つためにもっとたくさんの嘘をつかなければならなくなる。
    そしてもうどうしようもなくなった時に、嘘は自分自身を苦しめてしまうからだよ。

    しかし成長するにしたがって、子供は嘘をつくことを仕方ないと思うようになってくる。
    嘘をつかなければ生きていけないのだ、ということを学ぶ。
    確かにそれも人生の、また、社会の一つの真実だが、あの日大人が言った言葉にも嘘はなかった。
    小さな嘘が降り積もった時、そこに見えるのはどんな景色だろうか。

    智子に友彦は強く惹かれていた。
    シロアリ駆除のために潜り込んだ家の床下で、彼女の喘ぎ声を聞き、彼は猛烈に興奮していた。
    いけないことだ、そう思いつつも彼は離れられなかった。

    サヨに友彦は惹かれていた。
    しかし彼女は死んだ。
    それを自分のせいだと友彦は思い込んでいる。
    何が原因だったのか。
    かわいそうだったから。きっと、それのせいだ。
    このことを友彦はずっと抱えてきた。
    その重みは年々増え、自分の力では支えきれなくなってきた。
    手放したい、誰かに押し付けてしまいたい、そんな気持ちが悲劇を生んだ。

    小さな嘘が、小さな思い込みが、小さな優しさが、人生をゆっくり狂わせる。
    いや、実は、そもそも狂ってなどいなかったのかもしれない。
    狂い始めた、と思っているのは当事者たちだけで、本当は何もかも正しかったのかもしれない。
    その正しさが自分が思い描いていた方向とは少しずれていただけだったのかもしれない。
    吐き出すこともできず、消化していくしかない、友彦も乙太郎も、智子もナオもそう思っているけれど、吐き出したものは何度でも蘇ってくる。
    消化することでしか解決できないこともあるのだ。

    涙など、ウワバミは流さない。
    だからウワバミなのだと傍観者である私は思わざるをえない。

  • 静かに悲劇が流れていく。
    納得のいかない人生の成り行きが切ない。
    エピソードが何かにつながるのかなと読み進めるが
    そんなドラマチックな現実はない。
    『小説じゃあるまいし』・・・そうか これは小説だった。

    道尾氏をよむといつも登場人物に『幸せになってほしい』と思う。人物の心に引きこまれる。

  • 暗いすごく陰鬱な内容に感じた。
    だがとても面白かった。とても綺麗な文に引き込まれた。
    監督に恵まれたらとてもいい映画になりそう。

  • この人は、少年時代のモヤモヤ感を描写するのが上手すぎる
    すれ違いと、誰もが持ってるずるさとそこからくる罪悪感に苛まれる下りだなんとも言えない

  • 思い込み、欲望、すれ違い…人を傷つける切っ掛けなど誰かと関わっていれば無数に見つかるものですが、それがどう作用しどういう結果になったかなど、普通は知り得る事の方が少ないのでしょう。
    当然物語ですので、それらが偶然か誰かの意志か詳らかにされる所に面白みがある訳ですが、本作では更にもう一つ伝わって来た事が。

    それは単純に「お互い様」という事。

    一方的に他人を傷つけてきたのではなく、自らも同じだけ騙され、傷つけられてきたのだと思うことが、ここではどれだけ救いになった事か。

    案外悪くない読了感。
    氏の作品が好きになります。

  • 幼なじみ・サヨの死の秘密を抱えた17歳の私は、ある女性に夢中だった。白い服に身を包み自転車に乗った彼女は、どこかサヨに似ていた。想いを抑えきれなくなった私は、彼女が過ごす家の床下に夜な夜な潜り込むという悪癖を繰り返すようになったが、ある夜、運命を決定的に変える事件が起こってしまう―。幼い嘘と過ちの連鎖が、それぞれの人生を思いもよらない方向へ駆り立ててゆく。最後の一行が深い余韻を残す、傑作長編。

  • かなり時間がかかってしまいましたが、無事に読了です。 結局誰がいけなかったのか、誰の行動が誰の死に 繋がっているのか、はっきりとは分かりませんでした。 そこが良いのでしょうか・・・

  • ガラス一枚で隔てた雪景色の世界。
    その球体の中に嘘を丸ごと飲み込んで、涙を流すウワバミ。
    雪が溶けるように、ゾウをこなすように、
    いつか嘘も溶けてなくなってしまえばいいのにと、祈りながら読んだ。

  • 10代の時、若さゆえにおかしてしまった嘘と過ち。




    それが連鎖していきながら、物語はどんどん進んでいきます。




    あのひと言があの一つの行動が、自分にとって大切な人たちを傷つけ




    そして命までも奪ってしまったということが分かった時




    主人公同様、読んでいる自分にも激しい悲しみが沸き起こります。




    道夫さんの本を読んだのは「光媒の花」に続いて2つ目で、長編はこれで初めてですが




    人の感情を表す言葉の巧みさ、そして体や行動を比喩する巧みさは




    すごい!のひと言。




    この人の感覚はどこからくるんだろう。




    誰もが甘く切なく感じる青春時代を思い出させるそんな1冊です。




    そして誰もが蛇を持っているのかもしれません。

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プロフィール

道尾 秀介(みちお しゅうすけ)
1975年、兵庫県生まれの小説家。玉川大学農学部卒業。会社員生活を続けながら小説を執筆しており、2004年『背の眼』で第5回ホラーサスペンス大賞特別賞を受賞しデビュー。
2007年『シャドウ』で第7回本格ミステリ大賞(小説部門)受賞。2009年『カラスの親指』で第62回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)受賞。2010年、『龍神の雨』で第12回大藪春彦賞受賞。『光媒の花』で第23回山本周五郎賞受賞。2011年、『月と蟹』で第144回直木賞受賞。直木賞にはこの作品で5回連続のノミネートだった。
その他代表作として『向日葵の咲かない夏』があり、文庫版は100万部を超えるベストセラーになった。『カラスの親指』は映画化された。
ほか、横溝正史ミステリ大賞、新潮ミステリー大賞の選考委員を務める。

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