渇きの海 [Kindle]

  • 早川書房
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感想・レビュー・書評

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  • 月面の観光旅行で乾ききった塵の海で観光船が遭難する。地震の影響で船が塵に埋まってしまったのだ。それを救助するための手法が考えられ、一方で遭難した面々は船長らのリーダーシップのもとでサバイバルをする。地球とまったく異なる状況でのサバイバルと救出劇で手に汗を握る。宇宙旅行って夢を見がちだが、現実には事故や災害についても考慮しなければならないのだと本作品を通じて気が付いた。遭難した人々があまりパニックにならなかったのが気になった(本当は大声を出したりするように人が出てくるはず)が、著者は本当におこった事故を見て書いているんじゃないかと思うほどリアルな描写だった。

  • 渇きの海というタイトルに惹かれて読んだこの本は、アーサー・C・クラークの代表作のひとつです。1961年に発表された長編ハードSF小説で、1963年度ヒューゴー賞にノミネートされました。

    最初にあらすじを紹介します。21世紀の月面は、人類が移住しており、観光事業も盛んになっていました。その中でも、月の独特な環境によって形成された堆積地「渇きの海」は、人気のスポットで、砂上遊覧船「セレーネ号」が地球からの観光客を乗せて、月の景色を楽しませていました。しかし、ある日、突然の地殻変動によって、セレーネ号は砂の中に沈んでしまいます。月の砂は電磁波を通さないため、外部との連絡もできず、船内の空気や食料も限られていました。やがて、砂の重みや温度上昇が、船と乗客の命を脅かし始めます。一方、月面基地の人々は、セレーネ号の位置を特定し、救助作業を開始しますが、時間との戦いでした。果たして、セレーネ号は無事に救出されることができるのでしょうか?

    この本の主要なテーマは、人間の知恵と勇気と協力です。作者は、月という未知の環境での極限状況だけでなく、船内外の人間関係や心理描写も、細やかに描かれています。刻一刻と迫るタイムリミットの中、船長や乗客、救助隊や基地の人々は、それぞれに個性や背景を持ち、様々な感情や思想を抱いています。彼らは、危機に直面して、どのように行動し、どのように変化していくのでしょうか?この本は、人間の可能性と限界を、深く掘り下げています。

    私は特に、船内の人々が、互いに励まし合ったり、助け合ったり、時には衝突したりする場面には、胸が熱くなりました。また、救助作業の過程で、科学的な知識や技術が活用される場面には、驚きや感嘆を覚えました。作者は、現実にはあり得ない状況を、非常に説得力のある方法で解決しています。本書はSFというジャンルの中でも、ハードSFと呼ばれるもので、科学的な正確さや論理性が重視されるものです。しかし、それだけではなく、人間の感情や心理も重視していて、ハードSFとヒューマンドラマの両方の要素を、見事に融合させています。

    本書はクラークの作品らしく、科学的な描写は正確で説得力がありますが、難解な専門用語はほとんど使われていません。また、登場人物の感情や人間関係も丁寧に描かれています。地球から一番近くにありながら、私達にとって未知の世界である月の世界のサスペンスとドラマを、楽しく読むことができる一冊。SFに興味のある人はもちろん、そうでない人にもおすすめです。

  • 月の景色をめぐる観光船セレーネ号が22人の乗客と2人の乗組員を乗せて「渇きの海」の塵に呑まれた。その息つまる救出劇。閉ざされた船内、救出されるという希望をもたせつついかに閉塞した人間関係をよく保つか、船長と客とのやりとり、救出隊、さらにスクープを狙うジャーナリストなどがからみ、きっと助かるんだろうなあとは思いながら、ぐいぐいと読み進んだ。

    何も月が舞台でなくても似たような物語は書けそうだが、やはり月から見える地球とか、岩だらけの月とかそういう「空間」が背景だと、地球での救出劇とはまた違った緊張感を味わえる。

    61年発表、物語の設定年代はかかれていないが、主人公の若い船長パットは月で生まれ月だ育った。乗客の一人には冥王星を探検した人もいる。ところどころにクラークの歴史観、人間観がさりげなく描かれている。

    アボリジニを祖先に持つ科学者の乗客の言葉では「白人は我々の先祖を石器時代の未開人だと考えていたが、技術は確かに石器時代なみだったかもしれないが、われわれ自身は違う」なぜ白人がそう思い込んだかというと「完全な無知と先入観がそうさせた。その男が数えることも、書くことも、英語も話せなければ、その男を野蛮人と決めつけるのはたやすい」「祖父は数も数えられなかったが自分が祖父より偉いと思ったことは一度もない。もし時代をとりかえっこしたら祖父は自分よりはるかに優秀な科学者になっただろう。われわれは与えられた機会が異なっていたーそれだけのこと。祖父には数を数えることを学ぶ機会がなかった。いっぽうわたしは沙漠で家族を養ってゆく必要がなかった」「地理的環境が彼らを袋小路にとじこめていただけ。ひたすら生存のためにのみ苦闘したあとには文明へのエネルギーは残されていなかった」あなたの種族の生活様式が崩壊したことを、残念に思ったことがあるかとの問いには「わたしはほとんどそれを知らない。その儀式を見る前に電子計算機の操作を覚えていた。単純な生活とか高貴な未開人といったものに、ロマンチックな幻想など抱いてはいない」と言わせている。オーストラリアの海に魅せられたクラークが垣間見たことを反映しているのでは?という気がする。



    1961年発表
    1987発行 2005.7.31発行(新版) 図書館

  • 一難去ってまた一難のエンタメ小説。
    科学者・技術者が主役。最後までひとつのシチュエーションの話になってて、読み始めたときの期待を裏切らない。

  • 久しぶりにまともにSFを楽しんだ気がする。
    最近は”物語が読めない病”を患っているので最初は読みすすめるのが辛かったが、
    半分ほどになるとどんどん引き込まれていった。

    ちなみに”物語が読めない病”とは、
    物語内の辛さや困難を見たくないが故に物語を読めない・見られない、
    という病。
    気持ちが弱っているなー、と思っていたけど、こういう人は最近多いみたいだ。
    メンタルが弱いのか、共感力が高いのか。

    もとい。
    クラーク。

    そんな病の私が読み進められたのはひとえに、クラークの冷静さ故。
    無駄にパニックにならない。
    無駄に面倒な人がわーわー騒がない。
    昔からキャーキャー叫んでばかりで主人公の足を引っ張るヒロインが嫌いな私には実にありがたい。
    もちろんヒステリックな登場人物も出てくるのだけど、
    適正な範囲というか、
    コントロール可能な範囲。
    面倒な人より冷静で強い登場人物が多く、
    その点ではストレスレスで安心して読めた。
    読ませたいのはそこじゃないんだ、ってところかな。
    大騒ぎをしたいんじゃなくて、
    知性をベースにして、
    困難を一つ一つガシガシと超えていく様を描くという。
    とりあえず主人公の敵はマストでー、賑やかしも置いてー、
    みたいなテンプレから作るストーリーは一線を画している。
    確実に。

    この物語のすごい点はやはり月の描写かな。
    塵の海は完全な創作で現実にある世界ではないけれど、
    それ以外の描写のなんとリアルなことか。
    この作品執筆時、人類はまだ月に到達していなかったんだよ。
    月到達は秒読みで、
    いろいろと研究はされていて知られていることも多かったとは思うけど、
    でもそれにしてもリアル。
    まあでもそれは『2001年宇宙の旅』でも言えることだ。
    素晴らしきやクラークの知性。

    ちなみに文庫も古いタイプの文庫でそれも良し。
    中古での入手だけど。
    という点も含めて★4。

  • 渇きの海

  • クラークのB級作品。
    都市と星や幼年期の終り、2001年宇宙の旅、宇宙のランデブー、楽園の泉とかいった、人類の進化とか神のごとき異星人の存在とかそういったハイブローなものではないけれど、お話しとしてはおもしろい。
    だいたいクラークの作品群は、薄味だったり、腹八分目どころか6分目ぐらいのものが多く、読んだ後どうにも物足りなさが残るのが多い。
    けれど本作は、読んだ後に上に書いたような人類の進化だの異星人の存在だのを考えることはないかもしれないけれど、読んでいる最中は楽しめる。
    精進料理や高級フランス料理より、カレーやラーメンのほうが良いよね、という人向き。

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