落日燃ゆ(新潮文庫) [Kindle]

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  • 東京裁判で死刑となったA級戦犯の中で唯一の文官、「悲劇の宰相」とも言われる広田弘毅の物語。過去何度かドラマ化もされている。今では色々と評価が分かれている人物。内向的で思索的な性格に加え「自ら計らわぬ」という信条に人として共感できる部分は大いにあっても、それが(外交官としてはともかく)戦争責任を問われる国のトップとしてはどうなのか(城山氏は肯定的だが)、とは確かに思ってしまう。ただ、公判で沈黙を貫いた姿勢は実に潔いというか立派。時代によっても変わる、政治家の評価は本当に難しい。

  • 2016年、小説の初読了は『落日燃ゆ』。
    第二次世界大戦時の日本において文官として唯一人、A級戦犯として死刑となった広田弘毅氏の物語。
    文中、何度も出ていた忘れられない一文は『日本を滅ぼした長州の憲法』。
    戦時中の軍部の独走(暴走)は、正にこれに尽き、平和外交を目指す広田を何度も妨げることとなった。
    日本人なら読まなければならない作品だと強く感じた。

  •  広田弘毅とはどのような人物だったのだろうか。
     誠実で思慮深く、平和を重んじる人だったのだろうか。

     第二次世界大戦において、日本の外務省と他国の外務省の連絡が取られ続けていたとを、初めて知った。にもかかわらず、日本参戦に帰することとなったとは、政治の難しさと無念さを痛感する。外交員一人だけでできることには限りがあるらしい。
     そして、広田弘毅の、努力を重ね勉強を継続し、平和のために尽力したその姿勢はただただ尊敬する。
     しかし、これはどこまで本当のことで、どこから著者の意図が入っているのだろうか。あまりにも広田弘毅の完成された人間性が描かれており、描かれていない一面をも知りたいと感じた。
     第二次世界大戦における日本の参戦が政府や軍における意思統一や十分な議論に行うことができず進んでしまったという話は聞いたことがあったが、この本を通して、広田弘毅の意向や役割を知ることができてよかった。
     

  • 勿論小説であるから、多少の脚色はあろう。
    ただし、この物語の主人公・広田弘毅が、開戦に反対していたことは、事実に基づいての事なのだろう。

    山崎豊子氏と違い、運命に翻弄される主人公の悲哀が強調されず、淡々と描き出されているその筆致は、読み応え十分である。

    もし旧日本陸軍側の視点から、広田氏を描いた作品があれば、それも読んでみたいものだ。

  • 悲劇の宰相というだけあって、モヤモヤ感が残る。
    生き様としてかっこいいと思うけど、様々な場面で日本にとってベストなのかよくわからない。

  • 広田弘毅の生涯を描いた小説。
    同時に、第二次世界大戦前後の国内外の動向、そこでの外務省の役割がよくわかる。この時代の人たちについての善し悪しはいろいろ議論されているが、広田弘毅ほど日本を愛し、同時に日本の将来を憂いていた人はいない。

  • 東京裁判でA級戦犯として、文官でただ一人処刑された、広田弘毅。獄中から家族に送る手紙は、最後の一通まで、妻へ宛てたものでした。

  • 東京裁判でA級戦犯として絞首刑となった唯一の文人である広田弘毅の生涯を詳細に語るノンフィクション。

    エリート外務官僚から外務大臣、首相まで上り詰めたが統帥権を盾とする軍部の暴走に歯止めを掛けられることはできなかった。一貫して外交努力でなんとか好転させようとも、どうにもならなかった時代が悲しく感じられる。

    東京裁判においても自らの主張をすれば、死刑になる可能性は低かったにもかかわらず、それをしなかったのは残念。

    本書に何度も出てくる「長州が作った憲法によって日本は壊滅した」というフレーズ(統帥権とことを指している)が印象深い。そして現在の首相も長州の流れを引いているもの何か示唆的と思う。

  • 本作「落日燃ゆ」は、城山三郎氏のもっとも有名な作品の一つではないだろうか。
    外交官であり、戦時中には総理や外務大臣を務め、そして戦後の極東国際軍事裁判で文官でただ一人処刑された広田弘毅を描いた作品である。

    広田は決してエリートコースを走ってきたわけではないが、外交官時代にソ連との国交回復に貢献するなど着実に実績を上げて、遂に閣僚となった。彼が外相や首相を務めたときは日本が戦争へと突入していく時期と重なる。広田は日本が戦争へと突き進んでいくのを食い止めることに奔走することとなる。

    作品中では、広田の心情が描写されることはほとんどない。しかし、軍部は統帥権を振りかざし暴走していき、世論は戦争に傾いていく中で、なんとか開戦を回避しようとする広田の苦悩は想像に難くない。停戦・和平が絶望的な状況になっても、なお諦めず知恵を絞り、粘り強く行動する姿は胸に迫るものがあった。
    広田弘毅の生き様に深い感銘を受けるとともに、再読したいと思わせる作品である。

    私は、城山氏の作品を愛読している。その中でも、特にこの「落日燃ゆ」と村上水軍のリーダーである村上武吉を描いた「秀吉と武吉」。そして、幕末の尾張藩主・徳川慶勝が主人公の「冬の派閥」の三作が好きである。三作とも主人公が時代の荒波に揉まれながらも粘り強く努力を重ね、自分の信念を貫こうとする姿に心を打たれるからである。
    城山氏がテーマとして取り上げることを好む「気骨のある人」とは、まさに彼らのことだと私は思う。

  • 文官として、必死に軍部を止めようとした広田弘毅の姿を通じて、統帥権という戦争につながった明治憲法の致命的な欠陥を明らかにした。広田が首相、外相時代に、軍部大臣現役武官制復活や日中戦争が始まったことは確かで責任は免れないかもしれないが、広田の置かれた立場を考えると同情する面は大きい

  • 第21代総理大臣・広田弘毅は福岡の出身で
    石工の息子だった
    妻は隣町で貧乏ぐらしをしていた家の娘であり
    つまりようするに、ホンモノの「平民宰相」だったわけだ
    国のために働きたいという意志が強く、下々の好感は集めたが
    とにかく社交下手で
    時局にはむしろ流されることを善しとする主義の持ち主だった
    そんな彼が総理にまで上り詰めることができたのは
    もちろん外交官としての高い評価に後押しもされたのだけど
    結局は、226事件の直後で、他に頼める人がいなかったからである
    青年将校たちの遺志をくんで、庶民生活の向上を目指した広田だったが
    予算・外交・人事
    あらゆる面において陸軍から足を引っ張られ
    虚無的な姿勢に陥った
    議会中、陸相と代議士のあいだに起きたつまらない言い争いがきっかけで
    政権は短命に終わる
    しかも軍部大臣現役武官制度の復活や、日独防共協定の締結
    さらに外相として、南京戦後の決裂交渉にかかわったことが
    暴走する陸軍への迎合とみられたために
    戦後、文官出身者としては唯一のA級戦犯にされた
    責任回避のいいわけは行わなかった
    そんなとこまで時局に流されなくてもいいじゃないかと思う
    しかし虚無感は最後まで抜けなかった

  • 物来順応、自ら計らわぬ、統帥権の独立、日本を滅ぼした長州の憲法・・・・広田なる人物あまり好きになれない。黙るのは罪としか思えない。彼の美学とは・・・・???
    家族への愛を取り上げたなら、A級戦犯7人それぞれ涙 なみだの話は有ろうをに・・・・

  • 東京裁判で唯一文官で絞首刑となった広田弘毅。
    なぜ、軍人ではない広田弘毅は絞首刑となったのか?

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著者プロフィール

1927年、名古屋市生まれ。海軍特別幹部練習生として終戦を迎える。57年『輸出』で文學界新人賞、59年『総会屋錦城』で直木賞を受賞。日本における経済小説の先駆者といわれる。『落日燃ゆ』『官僚たちの夏』『小説日本銀行』など著書多数。2007年永眠。

「2021年 『辛酸 田中正造と足尾鉱毒事件 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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