「ゼロリスク社会」の罠~「怖い」が判断を狂わせる~ (光文社新書) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  •  著者の佐藤健太郎さんは、ぼくにとってはwebの有機化学美術館の館長であり、有機化合物の美しさやおもしろさを広く発信している、いわばおもしろ化合物仲間みたいな位置づけなのだが、最近はこの手の化学リテラシー啓発活動にも力を入れているようだ。
     同じ物質でも天然のものはよくて人工のものはダメ、化学物質というだけで毛嫌いし、毒性、発ガン性の疑いのあるものは1分子たりとも許されず、一方で自分の志向にかなうものであればマスコミ情報等を無批判に盲信し、放射能という風評だけで遠地へ逃げ出す、そんな人たちにぜひ読んでもらいたい。だけどそんな人たちはまず手に取ることをしないのがこの手の本なのだよな。間違って手にとっても、そうはいってもねぇ~、で終わり。現代日本人の科学リテラシーのお粗末さはもう筋金入りであり、一朝一夕に改善されることはない、ぼくはそう思う。そうでも思わなきゃ、怪しげな健康食品やらダイエット法だのが猖獗を極める現状が説明できない。だまされる方もだまされる方ではあるが、はっきりいって健康食品に多い科学性のカケラもない虚偽広告は悪質な犯罪だ。
     科学的に正しいということはどういうことか、本書にはきわめてまっとうなことが書いてある。だけど、表現はまだまだ生ぬるい。おそらく著者は一般向けの読みやすい新書本を意識して、もっともっと過激に書きたいのにかなり手加減して書いているのだと思う。実態はこんな生やさしいものではないのだから。ぼくは、うんうんそうだそうだと膝を叩きながら読み終えたけど、ぼくが読んで感心しても仕方ないんだよな。まあでも講義のネタに使えそうなデータがいろいろあったので読んだ価値は十分あった。

  • 子宮頸がんワクチンの啓蒙活動で先日中村璃子さんがジョン・マドックス賞を受賞された。いよいよ日本でも子宮頸がんワクチンの再開につながるかと期待して彼女の発言は追いかけていたけれど、その展開が不安になる材料が彼女の発言には多い。受賞を契機に鬼の首をとったかのような嫌味や皮肉を既存メディアにぶつけているのだ。

    もちろん非科学的なアンチワクチン思想を様々な動機から主張する声の大きい少数派に阿って偏向報道をするメディアが最も残念な存在ではある。しかしながら、そうしたメディアにたいし、嫌味や皮肉で応酬するという子供っぽさは、科学的に正しいのが彼女の側であることを理解している人間すら辟易させてしまう。

    況や、攻撃されているメディアやアンチワクチン運動家をやだ。相手を自論に固執させるだけで、良い成果を生むことはない。

    そこへいくと本書の著者である佐藤氏は筆致のバランス感覚が絶妙だ。似非科学を信じてしまう人々を馬鹿にしたり非難したりすることなく、なぜそうなってしまうのか、その過程についての理解を示しつつ、「リスク」というものを相対的・合理的に査定するための基本的な考え方をわかりやすく淡々と説明する。

    科学で完全に効能を否定できるからといって、否定されまいとヒステリックになっている信者の神経を逆なでしない。たとえばホメオパシーをとりあげたセクションでは、それがなぜ効能がないのかについて科学の観点から説明した上で、ホメオパシーのような詐欺的な代替医療が生まれてしまう背景にある現代標準医療の問題点についても指摘している。信者の目を覚まさせる材料を提供し、同時に「なぜあなたをふくめ、信じてしまう人がいるのか、現状を考えれば充分理解できます」と手を握ることを忘れないのだ。

    各セクションがこのようにうまくバランスをとってまとめられているのが素晴らしい。

    科学を正確に伝えようとするとどうしてもわかりにくくなる。だからといって簡略化して伝えると今度は正確でなくなる。この両者を満たす文章を書くことは非常にむずかしい。しかしながら、この両者が満たされて初めて、似非科学や非合理的なリスク計算によって人生を狂わされてしまう人たちを減らすことができる。

    サイエンスライターに求められる文才はとても厳しいものだが、こういうライターがもっと出てきてくれることを願う。

    P.S.
    子宮頸がんワクチン接種が再開されますように。

  • 分母が大事。

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著者プロフィール

1970年兵庫県生まれ。東京工業大学大学院理工学研究科修士課程修了。大手医薬品メーカーの研究職を経て、サイエンスライターとして独立。文系の読者にもわかりやすい解説で定評があり、東京大学大学院理学系研究科の広報担当特任助教も務めた。『医薬品クライシス』(新潮新書)で2010年科学ジャーナリスト賞、2011年化学コミュニケーション賞を受賞。著書はほかに『炭素文明論』(新潮選書)『「ゼロリスク社会」の罠』(光文社新書)『世界史を変えた薬』(講談社現代新書)などがある。

「2016年 『医薬品とノーベル賞 がん治療薬は受賞できるのか?』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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