- Amazon.co.jp ・電子書籍 (312ページ)
感想・レビュー・書評
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初めて中島 らもの作品を読んだ。
中島 らもの文体は初めて触れるのにまるで普段飲んでいるほうじ茶が自分の体にそっと染み込んでくるかのような親しみやすさがある。それでいて丁寧な文章で心を鷲掴みにされた。
この作品は簡単に言うと、主人公がアルコール中毒を克服する話である。その内容を通じて自分は2つの生き方について思考を巡らした。未来を見据えた生き方と刹那的な生き方である。自分で言うのもなんだが、自分は所謂「意識高い系」に近い考え方を持っているので、その時の欲に負けて行動を変えてしまう生き方というのをあまり好まず、未来の自分が良くなるように今の行動を決める生き方をしたいと今まで思っていた。けれど井伏鱒二の「花に嵐のたとえもあるぞ さよならだけが人生だ」という詩にもあるように今は綺麗に咲いている花も次の瞬間は嵐で台無しになってしまうかもしれない、だから今この瞬間を楽しむという生き方の良さを内容を通して目一杯感じた。
人間誰でも自分と世界との間にパテを必要としている。言い換えれば自分が世界で生きていくためにその緩衝材となるものを欲している。主人公はそれにアルコールを利用した。自分を傷つけることになるけれど。最後はそこに心から愛せる人を持って来れたのでこれから幸せに生きていくのだと思う。
すごく人に勧めたい作品。 -
遠い昔に購入し、面白く読んだ記憶があったので、電子書籍版で購入。話のあらすじは大体覚えていた通りだったけど、ディテールは忘れていたので、はじめて読むように楽しめました。ラストのオチはよく覚えていましたが、昔読んだときと比べて受ける思いがずいぶん違うな、と感じたりもしました。みずみずしい感性の時に読めて良かったし、中年になって読み返しても面白かったです。
巻末の中島らもさんと山田風太郎さんの対談が、電子書籍版でばっさり割愛されていたのがビックリでした。電子書籍はたまに後書きとか無いケースがあるので困るんですよね。本作は抜群に面白い作品ではあるけれども、ここだけはマイナスかな。 -
アル中文学。
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題名で購入したが、内容が違っていた。題名から、バーに関連した客や店についてのでのエッセイであると勝手に思っていた。しかし読むとアルコール依存症に関連して生き方を考えさせる内容であった。自分の体は自分でメンテナンスするという当たり前のことをもう一度考えさせられた。アルコールは控えよう?と思った。しかし、読んだあと山梨の地ウイスキーを買ってしまった。いい時間を過ごせる日一日でも多く持ちたい。
○外見は退屈そうに見えても、単調な作業というのは案外「効く」ものなのだ。
○酒をたしなむ人間の中で、依存症になっている人間の比率ってのは60人に1人どころじゃないはずだ。おそらく10人から20人に1人ってことになるんじゃないかね。
○リアリティに対してもともと抗性のない人間が、アル中なり薬物中毒になるのかもしれない。
○アル中というのはリアリティに真っ向からたちむかえず、 鈍麻の中に逃避する人間だと言った。そうした脆弱さへのしっぺ返しは、皮肉にもアル中の苦手な「リアリティ」を持った幻覚としてたちあらわれてくる
○我々はむしろ健常な人間の中で1人病んでいる方が、まだ気が楽なのだ。
同じ苦痛を引き受けて生きていても、中毒になる人間とならない人間がいる。幸か不幸か、なにかの依存症になってしまった人間が、一番言うべきでないのが、プレスリーの台詞なのではないか。
○中毒者でないものが薬物に関して発言するとき、それは「モラル」の領域を踏み越えることができない。
○ギャングにドラッグの利権を渡すくらいなら国が汚名をかぶって管理すればいい。
○アルコールとドラッグは、日本が経験しなくてはならない通過儀礼なのかもしれない。一度死の手前まで行ってみなければ抗体もできない。
○いつの時代でも国家や権力のやることはデタラメだ。
○アル中の要因は、あり余る「時間」だ。平均寿命の伸びと停年の落差も膨大な「空白の時間」を生む。「教養」のない人間には酒を飲むことくらいしか残されていない。
○思い出になってまで生き続けるために、死をたぐり寄せる人たちと関わりたくない。
○人間の〝依存〟ってことの本質がわからないと、アル中はわからない。わかるのは付随的なことばかりでしょう。〝依存〟ってのはね、つまりは人間そのもののことでもあるんだ。何かに依存していない人間がいるとしたら、それは死者だけです
○子供なんてのは、人生の中で一番つまらないことをさせられてるんだからな。面白いのは大人になってからだ。ほんとに怒るのも、ほんとに笑うのも、大人にしかできないことだ。なぜなら、大人にならないと、ものごとは見えないからだ。
○患者は自分で自分を助けるしかないんだ。 -
こちらの方が先だが、アル中病棟の小説版。
著者が酒が原因で死んだのは知っていたが、これほどアルコール中毒について博識だったとは思わなかった。それでも呑むことをやめられなかったというのが、アル中の恐ろしい所だと改めて認識させられる。 -
小説のような、エッセイのような、ドキュメンタリーのような作品。10代から飲み始めて完全にアル中になった男が入院して治療するのだが、医者も患者も変人ばかり。その人間模様も面白いが、語り部である主人公がアル中について妙に勉強しており、まるで教科書のようでもある。
作者本人もアル中だったようなので体験記なのかもしれないがそれにしては登場人物ができすぎているので、体験を元にした小説だろう。しかし主人公は本人のイメージにピッタリで、クズなのにあまりに魅力的だ。
こういう本を読むとアル中になりたくなってしまう。もちろん現実はそんなに甘いものじゃないだろう。体がボロボロになっているのだから苦痛も大変なものだろう。そこそこ酒を飲む者としては十分に気をつけて避けなければいけない状況だ。なのに魅力的に感じさせるところが、さすがというべきか。
酒飲みのバイブルにしたい一冊だ。 -
面白い。作風が独特な気がする。
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ヴィレバンでよく見かけたからアングラな内容かと思ったが、読み始めたらぐんぐんと引き込まれてしまった。素晴らしいリズム感と構成だと思う。ぜひ氏の別の書もよみたいと思った。
実のところ禁酒の助けになるだろうと思って読みはじめたのだが、そちらに関してはむしろ逆効果かもしれないと思う。