雌雄を決せ、パズルゲームの幕開けだ。
一巻では作品の前提となる「魔人」ならびに「希望崎学園」を二分する二大陣営「生徒会」と「番長グループ」、そして第三勢力「転校生」の大まかなところが語られたわけですが。
ここ二巻においては勝敗を左右する「性別」に関する能力および決戦「ハルマゲドン」に突入するに至った経緯について触れるとともに本戦に雪崩込みます。
「男」のみを対象とする必殺の広範囲殲滅能力「災玉」を戦略の要として置き、籠城からの防衛ラインを敷く「生徒会」。
対しては主人公「両性院男女」の性転換能力「チンパイ」によって構成員を「女」に揃え敵のプランを崩し、奇襲による畳み掛けを狙う「番長グループ」。
時に、ゲームのリプレイという体「も」取った小説のコミカライズであるこの作品なんですが……。
実際のゲーム中ではこの「災玉」、プレイヤーが提案したとしたら強すぎてまず運営側が通してくれません、それくらいに強いです。
人類の半分は「男」、魔人なら多少の性差は覆せるとは言え、前線に出てくる荒事要員はやはり男が多いという事で。
よって、「能力バトル」というジャンルの中では性癖を満たす意味でしかないと思われた性転換能力がバランサーとして働くのは本当に意外であり必然と言えるのかもしれません。
倒錯、じゃなかった当作こそが「TSF(後天的性転換を題材としたフィクション作品)」の中で最も機能的に発揮された好例と言えるのかもしれません。
反面、あくまで一時的措置であるということ、加えて被験者の大半が盛りのついた愛すべきアホな男子どもが占めるという事もあるので心理的なあれこれについてはあんまり現時点では期待しないでください。
なんにせよ、個々の能力の強弱や相性はもとより味方同士の連携/コンボが冴え、意外な展開を演出することこそが集団戦の醍醐味と言えるでしょう。
戦いは始まる前にどれだけの準備をしてきたかによって決まるというわけで、情報系能力を両陣営に抱えていたりします。
また、移動手段を提供したりと、後方支援系能力者の重要性はこの作品においては相当に高いです。
続き、この巻におけるもう一つの軸について述べます。
すなわちそれは、圧倒的な力によって厳格な秩序を押し付けようとする「生徒会」の暴走と、人情によってはみ出し者を受け入れる反面、激情を押さえきれない「番長グループ」の対比に他なりません。
主人公を含めた一般生徒から頼もしく思われている「生徒会」、延いては生徒会長「ド正義卓也」がけして完全無欠の人ではなく、逆に全校生徒から蛇蝎の如く嫌われている番長「邪賢王ヒロシマ」が鷹揚で心優しい人柄の持ち主だった、という事実は大きいです。
この辺りは続刊の中で徐々に語れることになるので今回は割愛するとして、全面戦争勃発の決定打となったのは生徒会所属の原作者(と同じ名前の)「架神恭介」だったりで、その経緯を見ると納得いくと思います。
カレー作りに能を発揮するだけのバカな男と思われた架神が、番長グループのハト派筆頭であり正面対決ならほぼ落とせない切り札的存在「口舌院言葉」を暗殺せしめた。
落とし前とばかりにド正義が処刑したところで駒交換として見合うわけがないのが無いのは当然で、副番長「白金翔一郎」は恋人の死に激高します。
戦後を見据えて戦力を温存しないといけないため、冷徹な駒交換の論理が働いたりと残酷なシーソーゲームの論理が本作では支配的なのです。
その一方で「情」と「理」のうち、漫画版は「情」の部分の強化が著しく、登場人物がなぜそんなことをしたのか動機部分が加筆されたことで感情移入の度合いを大きくしています。
ゆえに無惨な死がより際立つのです。
二巻目にしてやるのはいささかアンフェアかもしれませんが、それこそ架神の処刑シーンはここまでされなきゃ「死ねなかった」というエグさです。
流石に見せずに察してもらう演出にしていますが、だからこそキツいかもしれませんね。
この辺りは結構嫌な役回りなので、原作者の分身が引き受けることにしたそうですが、処刑ショーを女子高生ばかりが観劇しているとご褒美になってしまうので男子高校生も配置されたそうなんです。
……実際の漫画を読んだとしてもなにを言っているかわからないかも知れませんが、そういうものなんです。
ちなみに原作小説の彼はもうひとつ結構重要な役割も担っているのですが、漫画版では媒体が違うため割愛されていたりします。
あと追記しておくとするならば。
その都度、注目すべき個人に光を当てて話を進めていくこの作品ですが、今回は可愛らしくその身を変じた「邪賢王ヒロシマ」と「怨み崎Death子」のそれも然り、でした。
巻頭で格闘ゲーム風に配置され、生死ごとに明滅するキャラクター紹介もこの巻でほぼ出そろったことになります。
さて、次なる三巻は二大陣営が激突する裏で暗躍する「転校生」のターンですね。
主人公と共に番長小屋に残る「鏡子」に向け、生徒会が戦力を差し向ける中、複数の戦線が交差することになります。
この戦いの最後に何が待っているのか? 読者はそれを知っているとも知らないとも言えます。
けれど、最後の答えは、わずかに唇を震わせるだけで伝わると、そう信じています。