傷を受けることが、人にどれだけ負の影響を与えるのかということを、否応なしに考えさせられた。影山さんが受けてきた傷は、自分にとっては日常から遠すぎて、途中からぼやけてしまう部分もあったのだけど、そこから動けなくなるほどに重いものだということは、とてもよくわかる。残酷さを受けとめて、残酷さを発することもできてしまう。影山さんの心の動きは、とても複雑で、おそらくかれ自身にも、追いつけないと思ってしまう部分があったのではないかと感じる。
詩織が受けた傷は、言い方が悪いかもしれないけれども、わかりやすい。事件を境に、詩織のなかで大きな変化が生じてしまう。戸田くんを受け入れてしまう件も、その後の恐怖も、とてもわかりやすい。はっとしたのは、詩織が戸田くんに対して言葉にした、自分の言葉が聞こえている? という問い。「愛」を盾に、自身の我が儘を相手に押しつけてしまう身勝手さは、ものすごくよくわかる。事実を知らされていない戸田くんにとっては、蚊帳の外の出来事であり、戸田くんには詩織の行動のすべてがわからないことだらけだっただろうと思うが、だからといって、戸田くんの身勝手さそのものが許されるわけではない。言葉をそのままに聞いてもらえなかった人たちは、この世にどれだけいたのだろうと、そんなことを考えさせられた。
詩織と影山さんとの間に生まれた情は、必然だったのだろうと思うのだけど。お互い、なんだかんだで、当初から惹かれてたよね? それが互いの傷を癒す力になればいいなと、切に願う。
ノリくんの父親の存在が、とてもよかった。情けなくて辛すぎる過去の記憶があり、それをなんとか乗り越えて今がある。男性のヌードを描くというのは、日本画壇では今ですら非常に珍しい行為ではないかと思うので、そういうエピソードが入ってくることを面白いと思った。歳を重ねて、若い人たちとは異なる、立ち止まらないという重要性を伝えることができるかれを、とてもいい人だと思うし、影山さんにとって、とても重要な人物だったのだろうと思う。自身の失言を、若い人に対して即座に謝れる姿勢なども、見習いたいというか。こういうふうに歳を重ねられたら、それは悪いことではないと思えるのではないかと思う。自身にも、周囲の人たちにも。この作品のなかでは、特に影山さんにとって。
深刻な事件がいくつも起こる陰鬱な話なのだけど、えびねさんの優しい絵柄で緩和されていた。それが良いのか悪いのかは、ちょっと判断しがたいけど。
詩織が、ベリーショートにフェミニンな服装がメインの人で、こういうの良いなぁと思う。実際に似合う人は少ないんだろうなと思うけど。