あなたのための物語 [Kindle]

著者 :
  • 早川書房
4.09
  • (22)
  • (29)
  • (12)
  • (2)
  • (0)
本棚登録 : 215
感想 : 30
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・電子書籍 (393ページ)

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 意味深なタイトル、読み進んでいくとタイトルにこめられた意味と物語が交差する。その瞬間から本当の物語が始まる。サマンサと<wanna be>を第三者としてみる目から、サマンサの脳に自分のITPテキストが転送されたかのように、サマンサ(自分)と死との壮絶な対峙が始まる。背けてはいけない現実を環境セルというある種死からは遠い世界から否応なく直視することになる。しかし、その壮絶な死との戦いは、詩的で美しい文体で綴られていく。時折登場する故郷の挿話はノスタルジックさと現実(未来・死)とのコントラストを織り成し、なお一層悲壮感を抱かせる。読後の感情は整理を必要とするが、決して悪いものではない。読んでおくべき一冊である。

  • 決して読みやすい文章ではないけど、心にぐさぐさ刺さる。

  • 読み返すとダメージがくる
    長編で読んでこそ意味のある作品だった

  • 人間の神秘性の喪失、相対化、大きな物語の死が行きわたった現代の先で、【死=無意味】に対する人の救いは【(個人の)物語】

    目的(方向)を持って作られた自我(流れ/渦)が、成長し生き死ぬ。
    純粋な人の物語をコンピュータ(AI)を題材にして分かりやすく見せている。
    複雑に見える人間も、同じ地平に収斂していく。
    肉体=苦しみ=逃げがたい死=無意味との抵抗

    私の問いである、人生の理不尽さとの戦いに対しても一つの答え。
    希望と絶望を感じた一冊

  • どのような本かも知らず、タイトルに惹かれ、とりあえずページを開いて読み始めると、そこには今まさに命が消えようとしているサマンサ•ウォーカーという女性の、しかもそれは美しい物語のように儚く消えていくのではなく、一人の人間が懸命に生きた証として、断ち切られる命の苦しみを、あからさまな描写で、読むのも苦しいほど克明に綴られていた。
    当たり前のことだけど、生きている人なら誰でも想像を決して脱することが出来ない「死の瞬間」。ただただ恐ろしいと思ってしまう。生まれてきたことを後悔するほどに。

    サマンサは人工神経制御言語の開発者だ(既にここでもう理解できていないあたし)。彼女は人工知能に小説を書かせることによって、それに人格を持たせる研究をしていた。しかしあるときサマンサの余命があと半年であることが判明する。激しい苦痛を伴う病気の恐怖から逃れるために、彼女は犯してはならない領域に踏み込むのだけど、その部分はとても恐ろしかった。
    まあでもしかし、読むのに非常に時間がかかった。こういうの苦手なんだよね。『パラサイト•イブ』を読んだときにもずっと感じてた。
    極端にわたしが馬鹿なんだろう。でもほぼ9割方、サマンサの研究を理解できないのに読み続けたのは、このタイトルである『あなたのための物語』は、誰のために誰が、なんのために書かれたものなのかと知りたかったから。それが果たして彼女を救ったのかどうかも。

  • 人格が肉体から解放されるテクノロジーが出たときに、人格はどのように扱われるか?その人格に尊厳はあるのか?を問う物語。
    良かった。

  • かなり長かった。(1ページ18行で429ページ)だが、読んでみて良かった。死についてかなり詳しく描かれているところが興味深かった。この本ではITPとサマンサという一人の人間が描かれていて、文体は論理的で科学の話だった為、読みにくかったが、それもこの本の魅力だと思う。私はAIについて興味があってその関連で本書を読んだわけだが、ITPの仕組みはなかなか興味深かった。(難しくていまいちわかってないところもありますが。)確か「脳神経の発火を伝達することで人格を作ることができる」みたいな感じだったと思う。また、《wanna be》が感情を持ち、サマンサに好意を持ったことに驚いた。
    この物語は、「いきなり死の場面から始まり、時系列が戻って、死までを描き、最後に死で終わる」という風になっていた。良い終わり方だと思う。いきなり断末魔の様子が描かれるのは衝撃的だったが。また、ITPで直接自分の感情を作る場面は不思議な感覚になった。また、考えさせられた。ただ、一番印象に残ったのは、ほぼ物語の最後でサマンサとサマンサの鏡である《サマンサ》が話す場面だ。サマンサが自分の醜さに気づいていくのはなかなかに皮肉だった。
    ‘’物語‘’に色々な意味が重ねられていたのも面白かった。(wanna beが書く物語 人間は物語であると言える・・・・・)

    全体的に

    本作品での一番のテーマは「死」であったと思う。文体は難解だが不思議と引き込まれていくもので、死について本当に考えさせられた。「死はどんなに科学が進歩しても避けられないものである」と本書にあり、当たり前だが深く心に刺さった言葉だった。近年の安楽死議論について考える時に、本書の内容は大いに役に立つと思う。
    とても長く、読むのに時間がかかったがそれだけの価値はあった。読んで良かったと思う。

  • 重厚で難解。読解力が無い人は置いてけぼりを喰らう記述の難しさ。形而上学的に死や人間性について延々と語られる。しんどかった。
    中盤で、サマンサが頑なで気難しい人物に段々となっていくのだけど、その描写があまりにも長くて若干うんざりした。そんなに嫌な奴になる必要ある?と思ったけど、これが死にゆく人としてはリアルなのかな。

  • 「言語ものSF」と呼ばれる類いだろうか。
    21世紀末のシアトルが舞台。主人公の天才研究者サマンサ・ウォーカーがオーナーの一人であるニューロロジカルというハイテク企業が産み出した技術、NIP (Neuron Interface Protocol)とか、ITP (Image Transfer Protocol)とかとかの技術を使って、擬似神経によって思考するAI “Wanna Be”を起動する。Wanna Beは小説を書くというミッションを与えられる。余命が残り少ないとわかったサマンサは研究に没頭し、会社も無視して孤立しながらWanna Beと研究を続けるうちに、だんだんWanna Beを人間のように思えてきてしまうというタイプの話。

    ハイテクSFものかと思いきや、死、感情がテーマであり、文章も難解気味で、展開が少なく、それでいて長いということで読みにくさもあったけど、その設定自体は興味深く、あり得なくはなさそうだという「ハードSF」マナーに則った物語。サマンサとWanna Beの間の「人間模様」も見どころ。

    身の回りに近未来的な発明があるのもおもしろい。
    ・環境セル:自動で温度調整がされるドライスーツのようなもの。便利だがファッション的な観点で普及してないらしい。
    ・全自動車(ロードキャビン):こっちは普及してる。
    ・紙状端末:紙のように薄いタブレット端末みたいなものだろうか
    ・羊水タイプの介護ベッド:液体に使って、皮膚から栄養素をとれる
    ・版権切れの小説を自動製本機で製本して読む無料の娯楽

    アシモフ、レイブラッドベリ『火星年代記』、ジョージ・オーウェル『1984年』など、SF作家は古典SFを引用したがるの法則。

  • 読了後、即冒頭部分を再読しました。
    「死」に対する非常に深い考察、期間を空けて再読します。

全30件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

「戦略拠点32098 楽園」にて第6回スニーカー大賞金賞を受賞。同レーベルにて「円環少女」シリーズ(角川書店)を刊行。「あなたのための物語」(早川書房)が第30回日本SF大賞と第41回星雲賞に、「allo,toi,toi」が第42回星雲賞短編部門にそれぞれノミネートされた。

「2018年 『BEATLESS 上』 で使われていた紹介文から引用しています。」

長谷敏司の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
ロバート A ハ...
野崎まど
ジョージ・オーウ...
伊藤 計劃
米澤 穂信
フィリップ・K・...
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×