新装版 翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件 (講談社ノベルス) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 途中何度かぶん投げたくなったけど最後まで読んでしまえば傑作でした。長いですが、それなりに納得できそうな推理が作中何度も覆される快感で読める。ただ「それなりに納得できる推理」がかなりお粗末というか、そんなんねーーーよ!!って話を探偵が堂々とやるので困る。
    あと探偵のスペックが状況に左右されすぎていて、作者が都合のいいようにコントロールしている様子が透けて見える。
    事件の「悪趣味な芸術」らしさがそこまで感じられなかったのは叙述の問題かな。木更津、メルカトルという名探偵たちが苦戦する舞台としてはいささか表面的な部分がしょぼい。
    まあでも面白かったです。

  • 残念ながら人生ベストミステリ小説のうちの1冊です。
    自分でもこれが人生ベストでいいのか?という疑問はありますが。

    例によって例のごとく、「ミステリ小説内で示された真相は本当に真相なのか?」といった問題に挑戦した小説。探偵が高説ぶった名推理たって、本当は口先三寸で言いくるめてるだけなんじゃないの? 後から証拠出てきたら簡単に覆るんじゃない?といった問題なのだけど、この小説でもひたすら後出しじゃんけんが繰り返される。僕の少ないミステリ読書経験でもこの問題に挑んだ作品は何作かあって、本作よりも徹底的にぶちのめした作品もあったのだけど、この作品の独自性、面白いところは物語が進むにつれて、どんどん、加速度的に、リアリティが失われて、別に真相なんて”どうだって”よくなってくる」ところだ。それはただ推理がなんども繰り返されることによってどうでもよくなってくるだけではなく、むしろその効果を高めるために施された幾つかのギミックに依る。まず、事件の始まりは”まだ”地に足がついた感じで始まる。どうも登場人物全員これがミステリ小説だって意識してるような考え方するなーレベルのメタメッタな会話が織り交ぜられるだけだ(犯人がそんな単純なことするわけがないーなんつって。読み終わってから思うとミスリードなわけなんだけど。いや、ミスリードっていうか、強引すぎるミスリードだけどさあ)。それが話が進むにつれて、だんだんと衒学的な会話が混ざり始めてくる。しかも、あんまり本筋に関係なさそうな、と言うか関係あったら突飛すぎるでしょ、みたいな。まあ、関係あるんですけどね。ロシアの革命がなんたらかんたら。陰謀論と大差ないぞ! そして、作品のリアリティが急速に消失していくのと反比例して、今度は”主人公の存在感”が作品の前面に現れ始める。ブロローグなんて、これ主人公空気か?全く存在感を感じないぞ?って具合なのに、最後に至っては「————閉幕(カーテンフォール」で高笑いだ。しかもよくよく考えると、お前、一人称で嘘ついてるじゃないか。嘘は付いてない、言ってなかっただけじゃ通らないぞ、おい、何が「————閉幕(カーテンフォール」だよ! 読者虚仮にしてんじゃねー!!!!! バカやろー!!!!! あと、個人的には木更津の最終的な結論がとてもツボだったので推していきたいと思った。首は繋がる。繋がるんだよな。

  • 10年ぶりの再読。ラストの香月くんのことしか覚えてなかった。こんなに好きな要素モリモリなのに!当時の自分にとってよほど衝撃的なラストだったんだろうな…
    あと、メルカトル鮎も木更津悠也もこれっきりじゃないの凄い!

  • この『翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件』という作品は、いかにも麻耶雄嵩というか、とにかく徹頭徹尾論理が爆発するタイプの作品だ。普通の探偵小説(ミステリ)では多少なりとも物証というものが出てくるのだが、本作はいわゆるクローズドタイプの作品でないにも関わらず、ほとんど物証の話が出てこない。探偵が出てきては自分の推理(というか思い込みに近い)を開陳していくということが繰り返される。

    元々、新本格と呼ばれるカテゴリーはそもそもロジックを楽しむという方向性があったとはいえ、本作はその方向性が極限まで進められた結果として、『謎を解くことそのもの』がいわば事件の目的となっているという解釈さえ登場する。エラリー・クイーンは探偵がいるからこそ事件が起こるという悩みを抱えるに至った探偵だが、本作ではそれがさらに一歩進んで「探偵のためにこそ事件が起こる」と状況なのだ。

    なにしろ作品全てがその方向性を追求し、かつその方向性を笑い飛ばす(崩壊させる)ためにあるのだから、登場人物も躊躇なくドンドンと殺されていく。彼らの死というのは探偵の推理を進めるためのフラグでしかないのだから、一人一人の死に対して意味づけをする必要などどこにもないのだ。最終的には、一人を除いた事件の関係者全てが死亡するという形で、事件は終結を迎える。


    そしてその終結の迎え方も、いわゆるミステリーの王道という終わり方はしない。WEBを見ると麻耶雄嵩という作家は「カタストロフィを意図的に起こす」と紹介されていたのだが、デビュー作の本作においてもその傾向は変わらない。・・・というか、その方向性を高らかに宣言したのが本書という感じなのだろう。
    何せ、作中で最初の披露される探偵の解釈は大間違いであり、突然介入してきたメルカトル鮎の妄想もあっさりと論破された上に彼は死亡。最終的な解決とされた探偵の推理ですら、最後にはワトソン役に木っ端微塵に破壊されるという有様なのだ。そしてそのワトソンですら、叙述トリックの一部であるという形で本作は唐突に物語を終了する。

    全体を通してみると、やはり読む人を選ぶという感想は変わらず「すごい/陳腐」という評価と、「好き/嫌い」の感想が折り合わないタイプの作家ではあると思う。自分はしばらくの間はまた彼の作品を読もうとは思わないかな・・・。

  • これがデビュー作か・・・

  • ぶっ飛んでると思いながらも、読む手は止まらない。論理の破綻だとか、現実的にありえないだろみたいな考えを一旦脳から消し去ることができる。アンチミステリとはよく言ったものだ。デビュー作なの恐ろしい。

  • まさにカオス。登場人物一覧で探偵の他に名探偵と銘打たれたメルカトル鮎がいることで「ああ、本格ミステリに一捻り加えたものなのね」と思い、読み始めると序盤はコテコテの本格ミステリ。途中語り手のよく分からない言動に首を傾げつつもメルカトルの登場に期待する。そして絵に描いたような奇人の名探偵メルカトルが登場し、そこまで意外ではないが説得力のある真相を披露して終わりかと思いきやこの辺りからだんだんと明らかになる事実で物語全体の現実感がなくなってくる。そして奇妙な心地のまま真相が明らかになったかと思いきや急に横から冷や水を浴びせられるのである。
    いかに我々は名探偵を信仰し、側から見れば夢物語のような突拍子もない論理をありがたがってしまうのか。そもそもミステリにおける論理の優位性は揺るぎないものなのか。細かい矛盾とか文章表現のフェア・アンフェア、犯行の実現可能性などがどうでもよくなってしまうアンチミステリ。今まで味わったことのない感覚だった。
    これがデビュー作だとははじめは驚くがよくよく考えると納得。反抗心で溢れている。

  • え、メルカトル鮎さんあんな飄々としてて、ちゃんと頭もキレる人なのに、90才の老女に殺されちゃうの??
    主人公さん、そいつが双子の兄弟って知っててあの態度?完全スルーなの??
    うーん
    疑問ばかり残った。

  • 途中で何度も挫折しかかったけど、なんとか最後まで
    詰め込み過ぎ
    ポキポキした感じの文章でイメージをふくらませるのが難しかった

  • 15年前に読んだきりなので、面白かったのは覚えていても、さすがに内容の9割は忘れ去っていた。しかし、あの驚愕のラストを綺麗に忘れてる私って…。昔も今も自分が、バカミスすれすれ、アンチミステリとも言われる本書を好きだと思える感性の持ち主で嬉しい。

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著者プロフィール

1969年三重県生まれ。京都大学工学部卒業。大学では推理小説研究会に所属。在学中の91年に『翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件』でデビューを果たす。2011年『隻眼の少女』で第64回日本推理作家協会賞と第11回本格ミステリ大賞をダブル受賞。15年『さよなら神様』で第15回本格ミステリ大賞を受賞。

「2023年 『化石少女と七つの冒険』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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