我が心はICにあらず (小田嶋隆全集 第1巻) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 栴檀は双葉より芳しなんて言いますが、小田嶋さんは若い頃から有能な書き手だったんですね。
    本書は約30年前に小田嶋さんが雑誌に連載していたコラムをまとめたもの。
    ということは、えーと、小田嶋さんが30歳前後の時に書いたものですね。
    才気煥発というか、類まれな筆力とユーモアのセンスが、若さゆえでしょう、抑えも利かずに横溢していて、目を丸くするやら腹を抱えて笑うやら。
    いや、ホント、楽しませてもらいました。
    コラムは「街」「社会」「コンピュータ」「人」「気分」「学生」の6つのトピックにまとめられています。
    30年前の時代背景も描かれており、当時を思い出しながら読みました。
    1編1編はそんなに長くないので、読んでもらった方が早いでしょう。
    「コンピュータ」の中の1編「私家版ワープロ裏技集成」というコラムから、「青春の光トカゲ」の項を紹介します。
    □□□
    言葉について語ることは、かなり深刻にこっぱずかしいことだ。
    「言葉って生き物なのよね」
    といった具合に切り出される話題の行き着く先には空虚な疲労がばっくりこんと口を開けている。私はこの手の話題には極力引っ張り込まれないように心がけている。
    「生き物だってことになると、やっぱりうんこもするんだろうな。当然」
    と私は口を曲げて下品な主張をする。賢明なライフスタイルだ。恥ずかしい時には下品な発言をし、嘘をつく時には早口になる。弁解には怒気を含め、あやまる時には大声を出す。悲しい時にはへらへら笑い楽しい時にへらへらへらと笑う。が、結局のところどんな顔をしていいのか分からない時、我々はどんな顔をしていいのか分からない時のような表情を浮かべている。
    言語にとって美とは何かなんて言われても私にはどうしていいのか分からない。そういうお話はたぶん吉本新喜劇の分野なのだと思う。言語にとって美とは何かとはなんだこのやろお! と私はわめいておくことにする。
    「○○にとって××とは何か」という言い回しがすでに美しくないと私は思う。
    といったぐらいのところで本題に入りましょうね。ふう。
    ワープロを使って何かを書いてみれば一発で分かることなのだが、あいつはバカだ。連中には記憶はあっても考察がない。心配り、惻隠の情、魚心水心、みなまで言うなおぬしの気持ちは分かっておる、といった人情の機微および心のひだひだがすっぽり欠落している。ツーといえばツーしか分からない石部金吉なのである。王貞治なのである。
    であるから、例えば「君と結婚したい」は「君と血痕したい」と不可分のものになる。ワープロにとっては結婚も血痕も同じひとつの言葉に過ぎないのだ。
    彼らは文脈を理解しない。状況を理解しない。彼らは関係も歴史も声のトーンも全く考慮に入れずに言葉を解釈する。彼らにとって言葉は単に音の連鎖であり、さらには信号のパターンの反復に過ぎない。
    これは考えようによっては革命的なことだ。「言語を意味から解放する」などと聞いたふうなことをほざき散らして歩きたがるノンセンスかぶれの黒装束は、いつの時代にでも一定の割合で臭い息を吐いているものだが、連中のクルミ大の脳味噌にもやはり意味は棲みついている。ところがワープロの頭の中では、言語は完全に意味とは無関係な形で認識されることになっている。「意味なんてただの錯覚だよ」と、こいつはどうやら本気で思い込んでいるのだ。
    となると、言葉は我々を裏切ってひとり歩きを始めてしまう。「青春の光と影」は「青春の光トカゲ」というなにやらあやしげな生き物に変身し、
    「わっはっは、筋肉マン、この絞め技からは逃れられまい」
    は、
    「わっはっは、筋肉まんこの絞め技からは逃れられまい」
    という恐慌的な事態に発展してゆくのである。
    無垢はひとつの暴力だ。王様の豪華な衣裳を剥ぎ取り、王様を裸にしてしまったのは無垢の眼であった。そしてワープロの無垢な脳髄は我々の背後にある現実を浮かび上がらせ、ある場合には新しい衣裳を着せかけるのである。
    「結婚資金貯まった?」
    「うん、百万越した」
    「ふーん。私も預金貯まってるわ。ふふ」
    この、何気ないギャルたちの午後の会話も、ひとたびワープロのキーボードに打ち込まれると
    「結婚し金玉った?」
    「うん、百まんこした」
    「ふーん、私もよ、金玉ってるわ、ふふ」
    といった神を恐れぬ放埓な生活を浮き彫りにし始めるのである。
    無垢はまた無垢であることにおいて常に根源的な批評を含んでいる。
    「『くりかえすまい独裁制』気をもむ文化人の声」
    「朝日ジャーナル」がつけそうな見出しだがこれもワープロにいわせると
    「くりかえす毎度くさい性器をもむ文化人の声」
    になる。ありうる話だ。半白の髪を長く垂らした中年男が、二言目には「市民としての良識」なんてことを言っていれば性器だって匂わずにはおれまい。
    といったようなところで下品なお話はうち止めにしておこう。ロータリークラブの人気者みたいにやわらかい言葉で語ることにしよう。左右対称に笑って足の悪いおばあさんに手を貸してあげよう。
    □□□
    あ、結構長かったですね笑。
    本書は、初めてお金を払って買った電子書籍でもあります。
    そういう意味でも印象深い1冊となりました。

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