失われた江戸を求めて [Kindle]

  • 古典教養文庫
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  • 江戸でも東京でもないワンダーランド

    〈関東大震災により、それまで東京に残っていた江戸情緒は大半が失われました。江戸情緒について書かれた随筆や評論などを青空文庫より集めてみました。どっぷりと江戸情緒に浸ってください。〉

    …などという紹介文に引かれて読んでみました。明治から大正、昭和初期を生きた14人の文人たちの目を通して古きよき時代の東京の姿がここに浮かびあがってきます。大政奉還によって封建的な時代が終わりにわかに近代都市となったかに思える東京ですが、決してそうではなく、江戸の空気の中に近代の建物や風俗が忽然と現れ、それらが徐々にゆるやかに江戸の名残や情緒を侵食していったのだなあという印象を持ちました。

     本書のテーマは「失われた江戸を求めて」なわけですが、14人の著者たちがそれぞれに異なる視点からみつめる東京には、江戸と東京それぞれの気分が混在し、そこにどちらとも判別しがたい不思議な空間の存在を感じるのでした。

     例えば淡島寒月の「江戸か東京か」には、明治の初年には下町の各所に怪しげな見世物があったことが書かれています。そのひとつ蔵前に立った海女の立ち姿の「大人形」。腰巻一つの裸体の人形は胎内に入れるようにっていてその中にはあちこちに胎児の見世物があったそうな。打ちかけ姿の女性を、先に布を巻きつけた竹槍で八文払ってただ突くだけという「ヤレ突けそれ突け」なんて、当時の人々の娯楽とはいったい…と思わせるキワモノですが、おそらく単純で猥雑な江戸時代の見世物をそのまま踏襲したものだったのでしょう。

     一方で高浜虚子の「丸の内」には大正時代完成したばかりの丸ビルについて、中庭をはさんだ向こう側に見える女性用化粧室の窓越しに女性たちが化粧直しをする様を観察する件が出てきます。「中庭のあるビル」というのは、私の中では19世紀のヨーロッパの都会(たとえば「アルプスの少女ハイジ」に出てくるフランクフルトのクララの住んでるお屋敷)の象徴なのですが、これはあきらかに江戸というよりは東京の新しい空間です。

     ちょっと極端な例えで、寒月先生、虚子先生、ごめんなさいですが、「海女の胎内」と「ビルの中庭」、こんな異空間が混在していたのが明治から昭和に入るまでの東京だったのかもしれません。一編一編は青空文庫で気軽に読むことができるようですが、Kindle向けにセレクトされこうして一冊の本(なんとお値段は99円!)としてまとめられたことにより、ここに江戸でも東京でもないワンダーランドをみることができるのです。

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著者プロフィール

小説家(1892-1927)。東京帝国大学文科大学英文学科卒業。創作に励むかたわら、大阪毎日新聞社入社。「鼻」「蜘蛛の糸」など数多くの短編小説の傑作を残した。1927年、服毒自殺。

「2020年 『羅生門・鼻・蜘蛛の糸 芥川龍之介短編集 Rashomon, The Nose, The Spider Thread and Other Stories』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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