風立ちぬ [DVD]

監督 : 宮崎駿 
  • ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社
3.62
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感想 : 360
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  • Amazon.co.jp ・映画
  • / ISBN・EAN: 4959241753410

感想・レビュー・書評

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  • 大学を優秀な成績で卒業した二郎は、幼い頃からの夢だった飛行機の設計技師に。ところが初めて手がけた飛行機が試験飛行で空中分解してしまう。
    上司のはからいで休暇を取る事になり、避暑地へ。そこで二郎は、関東大震災の際に同じ汽車に乗り合わせた菜穂子と再会。すぐさまひかれあうが、彼女は結核を患っていた。
    宮崎駿の『崖の上のポニョ』以来5年ぶりとなる新作は、零式艦上戦闘機(零戦)を設計した実在の人物、堀越二郎と、同時代に生きた文学者・堀辰雄を織り交ぜた主人公・二郎の姿を描く大人のラブストーリー。
    近眼ゆえにパイロットを諦め、日本の技術革新と大空への夢のために、飛行機作りに邁進するが、それは飛行機作りを戦争のために利用されることと表裏一体、そんな矛盾を抱えながら飛行機作りに邁進する堀越二郎の葛藤や同僚の飛行機作りに賭けた思いや結核に苦しむ里見菜穂子との純愛ラブストーリーが組み合わさって、得意のファンタジー路線と違い、宮崎駿監督の飛行機への夢や思い入れが正直に出た映画であり夢を追うことの美しさと残酷さを描いた青春映画になっています。
    主人公の声を演じた庵野秀明、西島秀俊、瀧本美織、野村萬斎、西村雅彦などの声のナチュラルな演技が、印象的です。特に最後のカブローニと話すシーンは、飛行機作りが戦争に利用され、零戦は一機も帰還せず結核に苦しむ菜穂子を救えなかった堀越二郎の苦悩と葛藤が痛いほど伝わってきて、その絶望から生きていこうとする「生きなければ」泣けました。

  • だーれが風を見たでしょう
    僕もあなたも見やしない
    けれど木の葉を震わせて
    風は通り抜けていく
    風よ翼を震わせて
    あなたのもとへ届きませ

    かつて、日本で戦争があった。
    大正から昭和へ、
    1920年代の日本は、
    不景気と貧乏、病気、
    そして大震災と、
    まことに生きるのに辛い時代だった。

    そして、日本は戦争に突入していった。

    当時の若者たちは、
    そんな時代をどう生きたのか?

    イタリアの
    カプローニへの
    時空を越えた尊敬と友情、
    後に神話と化した
    零戦の誕生、
    薄幸の少女菜穂子との
    出会いと別れ。

    この映画は、
    実在の人物、
    堀越二郎の半生を描くー。

    堀越二郎と堀辰雄に敬意を込めて。

    生きねば。

    白い坂道が 空まで続いていた
    ゆらゆらかげろうが あの子を包む
    誰も気づかず ただひとり
    あの子は 昇っていく
    何もおそれない そして舞い上がる

    空に 憧れて 空を かけてゆく
    あの子の命は ひこうき雲

    高いあの窓で あの子は死ぬ前も
    空を見ていたの 今はわからない
    ほかの人には わからない
    あまりにも 若すぎたと
    ただ思うだけ けれどしあわせ

    空に 憧れて 空を かけてゆく
    あの子の命は ひこうき雲

    空に 憧れて 空を かけてゆく
    あの子の命は ひこうき雲


    いいかね、日本の少年よ。
    私は飛行機の操縦はしない、いや、できない!
    パイロットは他にたくさんいる。
    私は飛行機をつくる人間だ!設計家だ!
    はい!
    いいかね、日本の少年よ。
    飛行機は戦争の道具でも
    商売の手立てでもないのだ。
    飛行機は美しい夢だ!
    設計家は夢に形を与えるのだ!
    はい!
    僕は美しい飛行機をつくりたい。

    ...二郎少年へカプローニに語らせたこの台詞は、
    宮崎駿のアニメ作家としての矜持かと思います。

    主人公 堀越二郎の声は庵野秀明が務めます。
    忖度や追従という装飾を忘れた庵野の声は、
    研究に邁進して生きる堀越二郎の生き様に
    ぴったりではないでしょうか。

    大地が吠え、地面がのたうち、うねる
    関東大震災の描写は恐ろしく、
    自然の冷酷さとダイナミズムを感じました。
    また自然の前では人間活動のなんと儚いことか、
    些事に煩う虚しさを考えさせられます。

    まだ風は吹いているか?日本の少年よ!
    はい!大風が吹いています。
    では生きねばならん!
    ゛風立ちぬ、いざ生きめやも゛

    まだ風は吹いているかね?
    はい、吹いています。
    では私の引退飛行に招待しよう。
    設計で大切なのはセンスだ。
    設計は時代を先駆ける。
    技術はその後に付いてくるんだ。
    私はこの飛行を最後に引退する。
    想像的人生の持ち時間は10年だ。
    芸術家も設計家も同じだ。
    君の10年を、力を尽くして生きなさい。

    このシーンでカプローニの地元のひとたちが
    カプローニの飛行機に乗って笑い合う様子は、
    フェリーニのアマルコルドを思い出しました。

    世界は至るところ美に満ち満ちているとは言え
    我が町に勝るとは言えず。
    あぁ我は如何にとやせん
    帰りなんいざ、我が故郷、我が永遠の憩い場へ。
    ~アマルコルドのワンシーンより~

    菜穂子のいる軽井沢へ向かうトロッコ列車は、
    アプト式の碓氷峠の鉄道ですね。
    めがね橋を渡ってます!
    見事な写実描写です。
    今は廃線となり線路跡は散策道となっていますが
    いやぁ現役時代の動くトロッコ列車に感動です。

    ...二郎と菜穂子の物語...
    母をなくしました。結核でした。
    私も同じ病に罹っています。
    僕はあなたを愛しています。
    帽子を受けとめてくれた時から。
    私も!風があなたを運んできてくれた時から!
    僕と結婚してください。
    はい。でも必ず病気を治します。
    それまで待って戴けますか?
    もちろん。100年だって待ちます。
    ...素敵なプロポーズ、素敵な2人ですね。
    おめでとう。彼はいい青年。お嬢さんも立派。
    いい。この夏、いい夏です。

    二郎恋しさに山の療養所を抜け出す健気な菜穂子

    二郎さん、二郎さん。
    良かった。
    見付けられなかったらどうしようかと思った。
    もう大丈夫だよ。歩ける?行こう。
    私、ひと目会えたらすぐ帰るつもりだったの。
    帰らないで。ここで一緒に暮らそう。

    私が飛行機をやめて付き添わなければなりません。
    それはできません。
    君のは愛情じゃなくエゴイズムじゃないのか?
    私達には時間がありません。覚悟しています。

    僕らは今、1日1日を
    とても大切に生きているんだよ。

    お姉さま、菜穂子さん山へ帰るって!
    私、呼び戻して来ます!
    ダメよ!追ってはいけません。
    菜穂子さんが汽車に乗るまで
    そっとしてあげましょう。
    美しいところだけ好きな人に見てもらったのね。
    ...健気だね。切ないね。

    やぁ来たな。日本の少年。
    カプローニさん。
    ここは私達が最初にお会いした草原ですね。
    我々の夢の王国だ。
    地獄かと思いました。
    ちょっと違うが、同じようなものかな。
    君の10年はどうだったかね?
    力を尽くしたかね?
    はい。終わりはズタズタでしたが。
    国を滅ぼしたんだからな。
    あれだね?君のゼロは。美しいな。いい仕事だ。
    一機も戻って来ませんでした。
    君を待っていた人がいる。
    菜穂子!
    ここで君が来るのをずっと待っていた。
    あなた、生きて。......生きて。
    うん。うん。
    行ってしまったな。美しい風のような人だ。
    ありがとう...ありがとう。
    君は生きねばならん。
    その前に...寄ってかないか?
    いいワインがあるんだ...。

  • 「いい男」と「いい女」像をこれでもかとばかりに描いた映画だと思った。

    二郎は結局自分の夢を一番に追いかける。どんだけ妻のことを好きだと言っても、死にかけてても、やっぱりタバコを吸いながら図面を描き続ける。

    菜穂子はそれでも仕事に行かせる。自分は死ぬほどしんどくても、旦那が帰って来たらそのまま受け入れて、仕事の話を聞いてやる。最後には記憶の中の自分の姿を取っておいてほしいと、死ぬ前に家を出る。

    賛否両論あるけど、アニメでやるべきか、ジブリでやるべきか題材だったかは分からないけど、凄く良い映画だと思った。

    図面を必死で描く二郎の描写が凄く格好いい。タバコを吸って頭を埋めてる絵とか、鉛筆の走らせる音とか、計算尺の使い方とか。宮崎駿は女の子を描くのを得意としてたのかもだけど。なんだかんだかっこいい男の描き方も知ってる。

    図面を描く男はカッコいい。生まれ変わったら図面を描きたい。

  • ユーミンの『ひこうき雲』を聴きたくて視聴。

    直接的には表現されていないけど、やはり妻は亡くなってしまったんだなぁ。はかなさが歌詞とぴったりして沁み入る。聴いただけで涙が出そうだった。
    名曲だと思う。

    この映画は大人向け。
    子供だと退屈してしまうんじゃないか。

    個人的には好き。
    特に二郎の夢の中と現実が交わって、どちらも夢のような現実のような境界があいまいなところ。

    たくさんの人を乗せるための飛行機が、やがて爆弾を積むようになって、一機も帰ってこないなんて胸が詰まる。
    零戦は美しい飛行機なだけに目的と結果が重くのしかかる。

    ここをもう少し深く掘り下げて欲しかった。
    それだけでも一本映画ができそう。

    関東大震災の表現は素晴らしかった。
    絵はもちろん、音。得体の知れない底から湧き上がる恐ろしさが伝わった。
    震災シーンとエンジン音は人の声を使っていると後から知って、もしかしたらそうかなと思っていたので納得。

  • 主人公の男性の声が素人。
    プロを使って欲しかった。

  • 震災の描写はさすがのひとこと。いままでに関東大震災を扱った映画はいろいろと観てきたが、アニメーションでなら表現できることというものを目一杯みせてくれた。

    いろいろとこの作品のことをとやかく言う人がいるようではあるが、以下の記述を目にした上で本作を観ると納得がいく。そういう意味で「ゼロ戦」は主役ではないのだ。

     鈴木は戦闘機や戦艦を好む一方で戦争反対を主張する宮崎の矛盾を指摘し
     「矛盾に対する自分の答えを、宮崎駿はそろそろ出すべき」と述べて
     映画化を促した。

    庵野秀明の声優としての仕事はトトロでの糸井重里を髣髴とさせるもので、その朴訥とした感、一般人感はきちんと倍増していた。

    てかこの英語版の声優がJoseph Gordon-Levittだと!?
    いかん、こちらも観なければ…。

  • こんな話だとは思ってなかった。
    宮崎監督の飛行機愛だの戦闘機オタクだのなんだのと評判だったし、主人公がゼロ戦の開発者であることから、戦争がもっと色濃くストーリーに絡んでくるのかと思っていたし、それなら反戦のメッセージが強いのでは?と、勝手に思っていた。
    そんな側面もあったけれども、終わってみればラブストーリーでもあった。
    二人の生活は儚く短かったけれども、渾身の愛情で結ばれた姿には泣かされてしまった。仕事をやめられない夫のそばに、すこしでもいたいという気持ちがいじらしかったし、苦しむ最期の姿を見せたくなかった菜穂子の気持ちはとても切なかった。
    限られた人生の中で深く愛し合う相手に出逢えたから、夭逝してしまったが彼女は幸せだったと思う。

    実は主人公の声を演じたのが庵野監督だということ、擬音効果音のすべてを人の声を加工するなリして当てたということを忘れていたので、始まってからのけぞってしまった。そうだったなーと。声は正直私的にはダメだった。なんて下手くそなんだ!あなたも監督なら演技指導とかするのではないの?それがこんなに下手でいいのか?とつっこんでしまった。
    効果音もときどき人の声や吐息がそのままに聞こえて違和感があったりした。
    だから私はこの作品はダメだなと思いながら見たのだけれど、不思議なことにだんだん慣れてきた、いや、最後まで下手なのは許せなかったけど(ナニサマ)やはり久石譲の音楽含めてハヤオマジックにかかったか、最後は泣けて泣けて仕方なかった。
    そこへユーミンのひこうき雲…。
    泣いた。
    見て良かったです。

  • 最初観たときは、完全に”作り手”の話だと思った。戦闘機大好きだけど戦争には反対、という宮崎監督の葛藤のうちに生まれた「自分が好きでやってるんだ」という強烈な自覚が、逆ギレのように表れた作品だと…。
     しかし鑑賞後に、この映画がほとんどフィクションであり、実際の堀越二郎は妻を亡くしたりしていなかったことを知り、これは”作られる側”についての物語でもあるのではないかという気がしてきた。”カプローニさんの妄想をする二郎>そんな二郎の妄想をする宮崎監督”という、重なった構造が見えてきたからだ。
     二郎が自分の勝手さを、「カプローニさんが”美しい夢”だと言っていたから」という風に心の中のカプローニさんから許されているのと同じように、宮崎監督は、心の二郎をドラマチックに描くことで、「戦争のことなのに、楽しそうに描いてごめん」という罪の意識から解放されようとしているのではないか。
     こう考えたときチラつくのが、そんな宮崎駿を思い描く、後世の存在である。まだ亡くなっていないとはいえ、巨匠として、十分妄想される側の人間である宮崎監督が、妄想する側として最期に作った作品がこれ、ということなのではないだろうか。すると、自ら姿を隠し、”美しい夢”の住人となった菜穂子とも、重なるのだ。

  • (2020/6/2)

    宮崎駿監督、2013年、日本。

    宮崎駿氏、最後の(?)長編アニメ。

    結局は兵器礼賛(偏愛)な話かと思って敬遠していたが、様子は違った。

    のちに零戦を設計した堀越二郎の生涯と、堀辰雄の小説「風立ちぬ」を組み合わせた、ある意味シンプルなラブ・ストーリー。劇的な転回のようなものはなくて、年齢を重ねた巨匠監督の枯れた筆致が感じられる。

    事前に思ったより面白かった。

  • 随分前に録画したまま忘れていて、数年寝かせてようやく観た。

    太平洋戦争で使用されたゼロ戦を作った、実在の人物をモデルとして制作された映画らしい。

    ジブリらしさはないけれど、宮崎駿さんがこの作品を作りたかった理由は分かる気がする。
    派手な展開は一切ない。
    だが、昭和初期、関東大震災や太平洋戦争をを生き抜いた彼らの姿を「今」に残したかったのでは?と私は考える。

    「時代」を残したかったのではないかな。
    あの時代は、男には何より仕事が優先で、女は男の後ろを歩くもの。あの時代だから、結核のような病気で2人が別れるなんてことにもなり…。
    今なら考えられない生活だと思う。

    記録映画的印象を受けるけれど、なんだかじわじわと涙腺にくる。

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著者プロフィール

アニメーション映画監督。1941年東京都生まれ。学習院大学政治経済学部卒業後、東映動画(現・東映アニメーション)入社。「ルパン三世 カリオストロの城」(1979)で劇場作品を初監督。1984年には「風の谷のナウシカ」を発表。1985年にスタジオジブリの設立に参加。「天空の城ラピュタ」(1986)、「となりのトトロ」(1988)、「魔女の宅急便」(1989)、「紅の豚」(1992)、「もののけ姫」(1997)、「千と千尋の神隠し」(2001)、「ハウルの動く城」(2004)、「崖の上のポニョ」(2008)、「風立ちぬ」(2013)を監督。現在は新作長編「君たちはどう生きるか」を制作中。著書に『シュナの旅』『出発点』『虫眼とアニ眼』(養老孟司氏との対談集)(以上、徳間書店)、『折り返し点』『トトロの住む家増補改訂版』『本へのとびら』(以上、岩波書店)『半藤一利と宮崎駿の腰ぬけ愛国談義』(文春ジブリ文庫)などがある。

「2021年 『小説 となりのトトロ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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