人質の朗読会 (中公文庫) [Kindle]

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  • 中央公論新社
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レビュー : 3
  • Amazon.co.jp ・電子書籍 (128ページ)

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  • 久米宏の「ラジオなんですけど」で紹介された本。それだけの理由で読み始めたが、素晴らしい短編集だった。小説を読んでいる間、幸福な気持ちになれた。そんな小説は稀有である。

    中南米の某国で8人の日本人旅行者と添乗員がゲリラ組織の人質になる。人質救出のため、軍隊が突入。しかし、9人とも死んでしまう。
    事件のあと、ある録音テープが発見される。そこには、人質たちがそれぞれに綴った物語が朗読されていた。
    「朗読の合間 、彼らは実によく笑っている 。涙ぐむ場面があったとしても 、それは絶望からではなく 、生きている実感からにじみ出てくる涙であったことが 、テ ープからはうかがえる 」

    綴られた物語は9編。7編は旅行者、1編は添乗員、そして最後の1編は朗読会を盗聴していた特殊部隊通信班の軍人が綴ったもの。
    もちろん、最後の軍人は日本語を解さない。しかし、彼が感じたのは
    「めくる音 、咳払い 、そして拍手 。私はあんなにも慎み深い拍手を 、それ以前も以降も耳にしたことがない 。華やかさや興奮とは無縁の 、遠慮がちで 、今にも消え入りそうな 、しかしこれから語られる物語への敬服の念に満ちあふれた拍手だった 」。

    勝手な解釈だが、9編とも少し不思議な、しかし、誰かに話したくなるような心地よい経験談。そして、読み終わるたびに何かしらの爽快感というか、充実感みたいなものが得られる。
    もっとも気に入ったのは「山びこビスケット」。短編集を読了した直後、この1編は再読してしまった。

    星がいくつあっても足りない本。母国語が日本語で幸せと思った。

  • 地球の裏側の小さな村で、旅行会社が企画したツアー参加者が反政府ゲリラの襲撃をうけ拉致された。
    それから100日以上が過ぎ、その国の軍と警察の特殊部隊が強行突入したが、犯人グループも人質も全員死亡した。
    それから2年の歳月が流れ、ツアー参加者の遺族のもとへ、あるテープが届けられた。
    それは、犯人グループの動きを探るために仕掛けられた盗聴テープで、そこに録音されていたのは、人質8人が自ら書いた話を朗読する声。
    長い人質生活の中で犯人グループとのコミュニケーションも生まれ、命の危険を感じなくなっていたらしく、朗読の合間によく笑っている。
    そんな「人質の朗読会」の8つのお話と、特殊部隊の隊員で盗聴の現場でヘッドフォンを耳にあてていた人物のお話の9章からなる。

    一般人がこんな美しい文章を書けるはずがないと突っ込みを入れたくなるところだが、普通の人たちが普通に暮らしている中で心に残っている出来事が、優しい語り口で書かれている。
    9つのお話だけなら、ほんわかとあたたかい気持ちのまま読み終えることができるのだけれど、その背景にあるのは「そんな普通の人たちが、拉致され殺された」という事実。
    やっぱり悲しいお話。

  • 異国で拉致され、人質として監禁された8人が、監禁されていた時間をしのぐためにそれぞれの物語を朗読する。

    それぞれの朗読で紡がれる物語は、さほどドラマチックなものではない。けれど、シンプルに綴られたその物語の終わりに、語り手の職業と年齢が書き添えられているのを読むと、急に一人の人間が見えてくる。彼・彼女が歩んだであろう道のりが想像できる。
    そうして想像できたその人間は、つまり人質なのだ。

    短編集の始まりには、人質事件の全貌が語られている。人質たちが全員死亡したことも書かれている。
    人生を断ち切られた人々の、「断ち切られる前」を想像させる。描いているのではなく、あくまで読者に想像させる。
    小川氏のその手腕が、切なさを生んでいる。

    登場人物たちが不幸であることと、けれど不幸なばかりではなかったこととを同時に伝えてくれるような、そんな短編集。

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著者プロフィール

小川 洋子(おがわ ようこ)
1962年、岡山県生まれ。高校時代に文芸を志し、早稲田大学第一文学部文芸専修入学。在学中から文芸賞に応募。卒業後一般企業に就職したが、1986年の結婚を機に退職、小説家の道に進む。
1991年『妊娠カレンダー』で芥川賞、2004年『博士の愛した数式』読売文学賞、本屋大賞、2006年『ミーナの行進』谷崎潤一郎賞、2012年『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞、2013年早稲田大学坪内逍遙大賞をそれぞれ受賞。芥川賞、太宰治賞、読売文学賞、河合隼雄物語賞などの選考委員を務める。
『博士の愛した数式』は映画化され、大ヒットとなった。受賞作以外の代表作として、『薬指の標本』『人質の朗読会』『猫を抱いて象と泳ぐ』。

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