人質の朗読会 (中公文庫) [Kindle]

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  • 中央公論新社
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  • 地球の裏側の小さな村で、旅行会社が企画したツアー参加者が反政府ゲリラの襲撃をうけ拉致された。
    それから100日以上が過ぎ、その国の軍と警察の特殊部隊が強行突入したが、犯人グループも人質も全員死亡した。
    それから2年の歳月が流れ、ツアー参加者の遺族のもとへ、あるテープが届けられた。
    それは、犯人グループの動きを探るために仕掛けられた盗聴テープで、そこに録音されていたのは、人質8人が自ら書いた話を朗読する声。
    長い人質生活の中で犯人グループとのコミュニケーションも生まれ、命の危険を感じなくなっていたらしく、朗読の合間によく笑っている。
    そんな「人質の朗読会」の8つのお話と、特殊部隊の隊員で盗聴の現場でヘッドフォンを耳にあてていた人物のお話の9章からなる。

    一般人がこんな美しい文章を書けるはずがないと突っ込みを入れたくなるところだが、普通の人たちが普通に暮らしている中で心に残っている出来事が、優しい語り口で書かれている。
    9つのお話だけなら、ほんわかとあたたかい気持ちのまま読み終えることができるのだけれど、その背景にあるのは「そんな普通の人たちが、拉致され殺された」という事実。
    やっぱり悲しいお話。

  • 異国で拉致され、人質として監禁された8人が、監禁されていた時間をしのぐためにそれぞれの物語を朗読する。

    それぞれの朗読で紡がれる物語は、さほどドラマチックなものではない。けれど、シンプルに綴られたその物語の終わりに、語り手の職業と年齢が書き添えられているのを読むと、急に一人の人間が見えてくる。彼・彼女が歩んだであろう道のりが想像できる。
    そうして想像できたその人間は、つまり人質なのだ。

    短編集の始まりには、人質事件の全貌が語られている。人質たちが全員死亡したことも書かれている。
    人生を断ち切られた人々の、「断ち切られる前」を想像させる。描いているのではなく、あくまで読者に想像させる。
    小川氏のその手腕が、切なさを生んでいる。

    登場人物たちが不幸であることと、けれど不幸なばかりではなかったこととを同時に伝えてくれるような、そんな短編集。

著者プロフィール

小川 洋子(おがわ ようこ)
1962年、岡山県生まれ。高校時代に文芸を志し、早稲田大学第一文学部文芸専修入学。在学中から文芸賞に応募。卒業後一般企業に就職したが、1986年の結婚を機に退職、小説家の道に進む。
1991年『妊娠カレンダー』で芥川賞、2004年『博士の愛した数式』読売文学賞、本屋大賞、2006年『ミーナの行進』谷崎潤一郎賞、2012年『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞、2013年早稲田大学坪内逍遙大賞をそれぞれ受賞。芥川賞、太宰治賞、読売文学賞、河合隼雄物語賞などの選考委員を務める。
『博士の愛した数式』は映画化され、大ヒットとなった。受賞作以外の代表作として、『薬指の標本』『人質の朗読会』『猫を抱いて象と泳ぐ』。

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