以下の問いに理由(WHY)を3つセットにして答えられるか?
・顧客にとって、嬉しいことなのか?(顧客価値)
・それは他の会社とは違うのか?(差別化)
・自社は儲かるのか?(収益性)
シンプルな戦略 戦い方のレベルを上げる実践アプローチ その戦略は一言で言えるか
私が実際に目にしてきた典型的な悪例を箇条書きにしてみると以下のようになる。
・① 「具体的な目的、それを達成する明快な方向性、それと整合する一連のアクション」という戦略の基本要素が備わっていない。
・②「顧客、競合、自社」という戦略立案にあたって考慮しなければならない3要素をバランスよく捉えていない。
・③ 多くのこと、色々なことを網羅しているが、複雑すぎて、要はどんな戦略なのか判然としない。
・④ 課題もそれら辺の対応も。全てあれもこれもであり、的が絞られていない。
・⑤ 隣の会社に持って行っても通用する、10年前にも10年後にも当てはまる・・・独自性や具体性に欠けている。
こうした現象の主因は戦略と戦略の作り方に関する理解不足にある、ということだ。
■なぜ、そうなるのか。なぜ、うまくいかないのか
・重要なのは「シンプル」であるかどうかである。
・優れた戦略は本来シンプルなものだ。どんなにチャレンジングな目標を目指しても、非常に困難な経営環境に直面している場合でも、それを乗り越え目標を達成するための戦略はシンプルに作り上げられるべきだ。そうした戦略を構築することが簡単だと言っているのではない。どんなに難しい場合でも戦略は考え抜き、大胆な判断を下すことで、シンプルになるまで作り込み、削り込み、磨き上げるものなのだ。
■PART1:シンプルな戦略とはどのようなものか
●目的や達成したい目標が明快かつ具体的な上、戦略としての基本的な方向性が絞り込まれており、潔い。
●なぜ、その戦略が有効であるか明快であり、説得力がある。
●戦略全体で一言で言え、分かりやすく、伝えやすく、覚えやすい。
●戦略の三大基本要件を満たしている。「顧客に喜ばれ」「競争に勝て」「儲かる」。
●振れない継続性や組織の一体感とエキサイトメントを生み出し、現状打破、難題解決を促進できる。
1 その戦略は一言で言えるか
1-1 シンプルな戦略のエッセンス=「明快さ」
■WhatもWhyも明快であることが重要
・「その戦略は一言で言えるか」ーこれが、シンプルな戦略の最も重要な要素である。戦略目的や達成したい目標が明快かつ具体的で、かつ目指す方向性が一言で言える戦略こそが明快な最上の戦略と言える。戦略が一言で言えるのは、戦略としての基本的な内容が絞り込まれているからである。
・そして戦略のWhatが明快であることと同時に、その背景であるWhyも明快であることが重要である。
・Whyーなぜこの戦略が良いのか、なぜこの戦略で目的が達成できるのか。なぜこの戦略が他のものより有効なのか。こうした基本的な問いに対して、「Aという目的のためにB戦略でいく。それがなぜいいかと言うとC、D、Eの理由による」と明快に答えられることである。
・WhatもWhyも明快である戦略は、考え抜かれ議論され尽くされている。それによって絞り込まれ、戦略の肝やフォーカスもはっきりとしたものになっている。戦略を明快なものに磨きこむプロセスがメリハリやフォーカスを、そして簡潔さを生み出すのである。
■シンプルであるがゆえに、誰にでも伝わりやすく、誰にも覚えられる
・シンプルな戦略はまた一言で言い表すことができるがゆえに、誰にでも伝わりやすく誰にも覚えやすいという長所を持つ。
・組織階層がいくつもあるために正確な伝達が難しいだけでなく、組織には上からの方針を自分に都合のいいように解釈して下につなぎ、故意に歪ませてしまうという性質もあるようだ。そして企業の従業員数が数百、数千、数万人と多くなれば多くなるほど真意は伝わりにくくなる。
・シンプルな戦略は、その明快さゆえ、こうした大きな組織においても、わかりやすく、伝えやすく、覚えやすい。すなわち共有されやすいという長所を持つ。
1-2 顧客に喜ばれる、競争に勝つ、儲かる
■3大基本要件をシンプルに満たしているか?
・Q1 :お客にとって、嬉しいことかどうか(顧客価値)
・Q2 :それは他の会社とは違うのか(差別化)
・Q3 :自社は儲かるのか(収益性)
・この三つのチェックリストへの回答が完璧にできていれば、それは最強の戦略だ。逆に、どんなに複雑な思考や検討を経て作られた戦略でも、どんなに高度に見える戦略でも、この三つのチェックリストに対してシンプルな回答を持っていない戦略は実効性に劣ると言えるだろう。
1-3 実際の企業に見るシンプルな戦略
■シンプルな戦略の代表例①=ユニクロの戦略
・ユニクロの戦略は、「付加価値を持った目玉となる戦略商品をとにかく徹底的に最大限売る」ことだといえるだろう。
・目玉となる戦略商品はその時々で変わる。フリースであったりヒートテックであったり、最近であれば夏のエアリズム、冬はカシミヤ製品かもしれない。しかし基本戦略は同じ。全商品の中でその時に最も推すべき商品がはっきりしており、その商品をとにかく徹底的に最大限売る。100万、200万という単位ではなく、何千万枚を売る。ヒートテックは発売から10年の累計数では約3億枚を売り上げている。
・重要なポイントであり同社が強い理由でもあるのは、その目玉商品を徹底的に売るというその戦略が組織内の全員で共有できてるということだ。
■シンプルな戦略の代表例②=すき家の戦略
・すき家のシンプルな戦略は「これまでの牛丼チェーンのお客さんとは違うセグメントを取り込む」というものである。
■シンプルな戦略の代表例③=サントリーの戦略
・同社のシンプルな戦略はズバリ「グローバル企業になること」である。漠然としたグローバル化の推進ではなく「世界市場で本気で戦えるグローバルの食品メーカーとしてのスケールを持つ」ということである。
■なぜ彼らの戦略がシンプルになり得ているのか
・彼らの戦略がなぜシンプルな戦略となり得ているのかといえば、まず戦略としての基本的な方向性が絞り込まれていて、達成したい目的や目標が明快でわかりやすいということが挙げられる。また、なぜ、その戦略が有効であるかも明快であり、説得力がある。
・ただシンプルな戦略は、戦略を作ること自体やその過程が単純だということではない。決してシンプル=簡単な戦略ではない。
2 適切で無い戦略、戦略不在が悲喜劇をもたらしている
2-1 適切でない戦略がもたらす悲劇
■3Cがない
・適切な戦略とは、前述の通り、まずは三大基本要件が揃っていることが必要条件となる。すなわち①顧客に十分な価値を提供できるのか、②他社との差別化が十分になされているのか、③この戦略によって自社は儲けられるのか、という三つの質問に明確に答えられることである。
・しかし多くの日本企業の戦略を見てみると頭10そもそもこの三つの視点、顧客、競合相手、自社の視点のうちの一つか、二つが抜け落ちているケースが多い。
・ここで忘れてはならないのは、競合企業もまた環境に合わせて進化するということだ。 Amazon や楽天が現時点に止まっているわけではない。
・従って、本来であれば、顧客、競合、自社という3 C の視点でまず現在の経営環境を捉え、その上で消費者や競合はどう変わるかの分析が必要なのである。こうした分析を踏まえて自社はどのような差別化された価値を提供できるのか、顧客に対してなぜ自社の方が良いと言えるのかという議論の中に戦略の要があるといえるだろう。
■実現性・持続性がない
・企業の戦略には実現性と持続性が必要である。適切ではない戦略のもう一つの例は、実現性、持続性に欠ける戦略である。
2-2 戦略が戦略になっていないことが生み出す喜劇
■目指す頂のみ型
・「目指す頂のみ型」とは、戦略を記した計画書なり企画書には何々を達成したい、という目的は書かれているのだが、それをどうやってやるのか、「How(いかにして)」が抜け落ちている「戦略」だ。実際に一流企業でもよくある。
・例えば「北米市場でシェア5%を目指す」という。今1%なのに大きな目標だ、たいしたものだと思う。しかし、それをどうやって成し遂げるのかについての記述が一切ない。これでは到底戦略としての機能を果たしているとは言えないだろう。
■何でもかんでも型
・もう一つよく見受けられるのは「何でもかんでも型」である。「やっている事業や商品何でも全てに勝つ」とする「戦略」である。これはトップの気質によるところが大きい。ガッツがある。心意気もいい。しかし心意気と戦略が別次元の話である。ある事業分野でシェアナンバーワンや大きな成長を目指すには、相当の企業体力を要する。お金も人材もだ。限りある経営資源をどこにどれだけ投入するか。現実的に考えると当然メリハリが必要になる。
3 シンプルな戦略だけが現状を打破できる
3-1 現場は打破しなければならない
■現状維持=衰退の時代には、何かしらの「ニュー」が必要
・現状を超える何らかの「ニュー」が求められる時代なのである。それは新しい市場なのかもしれない。新しい事業モデルなのかもしれない。新しく何かにフォーカスすることなのかもしれない。これまでやってきたことの延長上にある改良、改善のレベルとは明らかに異なる、文字通りの「ニュー」な何かが求められている。
・そして、それにはシンプルな戦略が強力な突破口となると考えるのである。
■シンプルな戦略は壁を破るきっかけ、指針ともなる
・シンプルな戦略は、以下の二つの性質ゆえに力を一箇所に集めることができる。
・一つはフォーカスがはっきりしているから、そこに経営資源を重点的に投入できる。
・もう一つは、よりパワフルに働くのは、誰にでもわかりやすいことから大勢の社員のベクトルを一つの方向にまとめあげる力を持つことだ。 社員が同じベクトルで力を合わせることができるかどうかは、組織が発揮できる力を大きく左右する。
・シンプルな戦略は、壁の向こうに一つの高い目標を掲げ、この壁をぶち破ったらどんなに素晴らしいことが達成できるのかを全員にわかりやすく見せることができる。そしてその達成に向けて壁の一箇所に全ての力を集結して、ぐっと攻め込むということができる。それがブレークスルーへと繋がる。
・つまり、シンプルな戦略は、壁をぶち破ろうとするきっかけになり、そのための指針にもなるのである。
・シンプルに作り上げる事ができた戦略には、継続性がある。逆に言えば、方向性が絞り込まれたシンプルな戦略であるがゆえに、枝葉は柔軟に変化させながらも、幹がぶれることなく継続できるのだと言える。ブレないという意味には、同じことを1、2年とやり続けるという時間的な意味もあるが、例えば途中で思いがけない事態により計画がうまくいかなかったり競合相手が新たに何かを仕掛けてきたり、為替などの経営環境が大きく変動したりしても、同じことが継続できるということでもある。
■シンプルな戦略がもたらす効能効果|明らかなビフォー&アフター
・シンプルな戦略は、フォーカスがはっきりしており、また根拠となる理屈もはっきりしているがゆえに、戦略の前と後での変化がはっきり見える。
・またもう一つのビフォー&アフターは、フォーカスやメリハリが効いているので、ヒト・モノ・カネ・情報といった経営資源を大きくシフトさせることにつながるという点だ。
・さらに「これを狙ってやります」と言ってポイントを絞って実行するので、狙い通りになっているかどうか、一目瞭然で戦略の評価がしやすい。
・戦略を策定し実行するだけではなくその評価が重要だが、どれだけ良い戦略を作ってもその狙いや支度が複雑であれば効果測定も複雑になり時間もかかる。シンプルな戦略であれば評価もシンプルである。
■PART2:戦略構築の基本:そもそも戦略とは何か
■シンプルな戦略構築の6つのステップ
●戦略の目的を具体的に明文化する
●戦略の策定・実行における境界条件を極力広く再定義する
●経営環境を多面的に捉え当店独自の洞察を創出する
● 戦略目的の達成に向けた重要課題を抽出、構造化し、真の重要課題を絞り込む
●真の重要課題を解決するための方向性のオプションを導出、選択し、その方向性に沿ったアクションを設計する
●戦略全体を所定のフォーマットにまとめあげる
■戦略と事業計画を混同している
・戦略は「重要な目的を達成するための明快な方向性、及びそれに沿った一連のアクション」であり、事業計画は戦略を実行に移すための6 W 2 H を明らかにしたもので、投資計画、売上計画、利益計画などのファイナンス面と事業上の重要なオペレーションや取り組みなどを含んだ実行計画と言える。
■真の課題を見出し、解決のための方向性とアクションを創出する
・課題に対してまずロジックツリーを作る。
・ロジックツリーからイシュー・アナリシスを行う。最も重要でかつ頭を使うのはここからである。
・ブレイクダウンした個々の問題を整理して、その中から目的を達成するために重要だと思われる課題を絞り込む。 例えば価格が高いのは実は問題ではなくて、本当に大事なのは①性能いかに上げるかと、②それをどう説得するかというコミュニケーションプラン、さらに③新しい営業組織体制の構築となるかもしれない。もちろんこの段階では仮説である。
■イシュー・アナリシスに必要なポイント
・ イシュー・アナリシスを用いて真の課題を抽出するためにはいくつかの能力が求められる。
・まず一つはロジックツリーを作って戦略目的をブレイクダウンして課題を網羅的に出すことができるということ。
・2番目にはその中からこれが重要課題ではないかと絞り込んで仮説が作れるということ。これが第一段階のイシュー・アナリシスである。
・3番目は腹をくくれること。仮説を作ってそれを踏まえて次の段階に進むには、頭で仮説を作ることができると同時に、マインドセットが重要だ。腹をくくって決断することである。これは言い方を変えると、思い切って何を捨てるかを決めることだと言える。腹をくくれないとあれもこれもと気にかかって先に進むことができない。
・そして4番目だが、本当のイシュー・アナリシスはここからで、重要課題として出した仮説から、それらを構造化して、いかに本質的な「真の課題」にセットし直すことができるかである。重要課題をそのまま解決するのではなく日に直したり消化させたりしながら、目的を達成するための本当の課題として組み直すことが求められる。
・この第二段階のイシュー・アナリシスで頭を絞って構造化された課題を抽出するからこそ、シンプルな戦略が生まれるのである。この部分はなかなか難しいが、スポーツと同じように実践でトレーニングを重ねながら身に付けていくスキルである。ただし、大成功した経営者や起業家には、直感的に「真の課題」を把握し、新しいビジネスモデルを生み出せるような人もいる。