ここは退屈迎えに来て [Kindle]

著者 :
  • 幻冬舎
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感想・レビュー・書評

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  • 東京に来てよかった

  • 女性を主体に描かれた8編からなる短編集。
    1編を読み終えたあとは、もう終わり?となったが、2編から「椎名」というモテ男が色々な角度から登場することに驚いた。

    これは、女性の心や性を中心に描かれているストーリーだが、椎名が中心になっているとも言える内容ではないかと思った。

    地方⇔東京の女性の葛藤、孤独、迷いが描かれている。

  • 地元へUターンしてきた登場人物たちの、拭い難い田舎への呪詛。
    ずっとこの地で過ごす事になんの疑問も抱かない知人友人たちへの呪いとも言うべき感情をつらつらと描写している最初の方はなかなか面白かったのだけれど、延々と高校生時代のスターでありアイドルでもあったカッコいい男子、椎名くんが登場してきて彼をめぐる女の子たちのなんだかよくわからない群像劇になってしまって後半は、なんというか、どうでもいい話になった気がする。
    ちょっと期待はずれ。

    この作品、廣木隆一が監督し、作者自身が脚本を書いて門脇麦と橋本愛が主演した映画になったらしいけれど、ロケ地が富山、と聞いてなるほどなぁ、と。原作中には言及はないけれどやはりこの舞台(モデル)は富山か。

    その地元富山ではロケ地マップなど作ってちょっとしたイベント、お祭りにしていたみたいだけれど、原作を読めばわかるように、これは作者の(どうやら本当に富山出身らしい)救いようの無い、チェーストア地獄の文化果つる地、どうしようもない田舎=富山への怨嗟さがにじみ出た作品だからなぁ。喜んでる場合ではないような。

  • 読もうと思った理由
    著者の「あの子は貴族」が面白かったので他も読みたいと思ったから

    地方・退屈な女性の感情がうまく書かれていて面白かったです。読みやすくてほぼ一気に読んでしまいました。

  •  テンポが良くて面白いです。地方都市の閉塞感をてんこもりにした8編の短編はすべて「女性」が主人公。特に最初の2編と文学賞受賞作の「十六歳はセックスの齢」の女性2人のコンビが楽しいです。
     僕のイチオシは「君がどこにも行けないのは車持ってないから」。連作の中では珍しく、「女性の自立」を暗示した終わり方なんですが、やっぱりアメリカ在住の僕はこういう展開が好きなんだよね、と思ってしまう。
     連作集の「たて糸」である椎名くんのいかにもありがちな変貌ぶりは男から見ても哀しい。これに限らず、地方出身/在住者には身に沁みる話が多いけど、それだけならばこの本を知るきっかけとなったブクログ友の「ひきこもり女子」や「残念店長」のブログの方が、実話である分、重い。
     地方と都会、女性と男性、リア充とそれ以外、など、いろんな読み方ができる本です。キンドル版は特に安価なのでw、お薦め。
     ところで、どうしてこれ映画化されないんだろ。オムニバスみたいにすれば簡単なのに。あるいは、1つか2つの話を軸にして編集するか...。

  •  「ロードサイド」小説と呼ぶのだそうだ。郊外というよりは、田舎の国道沿いに大型商業施設やチェーン展開の店舗などが並ぶ「ファスト風土」が舞台だ。
     主人公たちは、その街で育った若者たちである。視点人物は「女性」。共通して登場する「椎名」は男性。田舎の閉じられた空間で思春期を過ごす「彼女ら」は「椎名」に憧れたり呆れたりしながら街を出たり戻って来たり、街の中にずっと居たり。
     果たしてこれは、最近言われる田舎のロードサイドのつまらなさや味気のなさだけを描いているのだろうか。「ここは退屈」というのは、「ここ」が田舎だからなのだろうか。東京や大阪には退屈はないのだろうか。そう思いながら読みすすめた。
     「退屈」なのは、田舎だからではない気がした。つまり、「思春期」が退屈なのだ。己が何者かわからない。もしかしたら、何かすごいことができるかも知れない。有名になるかも知れない。白馬の王子様が現われるかも知れない。そんな夢物語を描くからこそ平凡な日々が退屈なのだ。
     そしてその退屈さは、男たち、特に「椎名」の見えかたに現われている。ただのおっさんになっていく「椎名」。しかし、その王子様だった頃の記憶だけを、彼女らは反芻する。もはや「椎名」は生身の「椎名」ではない偶像になる。
     「椎名」だけではない、彼女らが関わる男たち、東京から戻ってきた男や中年でありながら10代の女の子と性関係を持ち、うまいこと逃げていく男など。彼らの中に彼女らの求める「何か」はない。それを彼女らも気づいている。
     どういうわけか16歳でセックスを経験しないといけないと思い込み、王子様を探すが、結局王子様なんていないし、王子様だと思い込みきることもできない。結局、女の子どうしでおしゃべりしているほうがずっと楽しいと知る。思春期はやがて過ぎていくが、少女ともだちとの会話は確実に彼女らの「部品」となって、大人になってもその中に持ち続けていく。その「思春期」の葛藤や煩悶を超えたところに現われる「椎名」は、もう、ただの「男」で、あの熱狂はどこに行ったのかわからなくなる。
     「少女どうし」という関係は、「女どうし」とは違う。個別の思いや憧れを共有したくてたまらない情熱や熱狂は、大人になったら薄れてくる。それぞれの暮らしや人間関係の中で、熱は冷め、自分の体温を知る。互いの熱さを感じていた少女たちは、ほどほどの「人肌」を知る。それは「喪失」でも何でもない。「処女」でなくなったら何かを失くすわけではないように。

  • 若い頃にあった鮮やかな感情が歳を重ねることで色褪せていくような感じを味わうことができた。
    椎名がそれぞれの短編に色んな形で出てくるところが地方特有の狭い人間関係を暗示しているようで、嫌な気分になって大変よかった。

  • 2012年刊行。
    窓際三等兵が言及しているのを見て、そう言えば読んでなかったとポチッた。「16歳はセックスの齢」がいちばん面白かったかも。作者はこの後は小説家じゃなくてエッセイストになってしまったらしくて残念。この本から影響を受けた作品、いろいろ思い浮かびますな。

  • ものすごい閉塞感が伝わってきた。タイトルも秀逸

  • おびただしい固有名詞と皮肉っぽい語り口が特徴の、いわゆる〈Twitter文学〉とか〈増田文学〉とかと呼ばれてるものの上位互換なんでしょという気持ちで読み始めたのだけど、通して読んでみると意外にも(というべきか)文学的?な仕掛けが施された短篇集だった。

    第2話の「やがて哀しき女の子」を読みすすめると、第1話に登場する椎名くんという男性がこっちにも出てきたので、はじめはジョナサン・キャロルみたいに登場人物がちょっとずつ連鎖していく構成なのかと思ったのだが、そうではなくて椎名くんはすべての短篇にあらわれるのであった。そしてこれらの短篇は時系列がさかのぼる形で並べられていて、つまり椎名くんはだんだん若返っていくみたいな印象である。問題は、こういう仕掛けがいったい何のためにあるのかがようわからんことである。

    各編の主人公たちは全員椎名くんと何らかの関わりを持っていて、まるで椎名くんとの距離を測りながら日常を生きているようにも見える。そのくせ椎名くん本人の心情は徹底して明かされることはない。こうなると似非インテリとしては「空白の中心としての椎名一樹」とか言いたくてしょうがなくなるのだ。

    まあ天皇制うんぬんは置いとくとしても、作中でさんざん持ち上げられたり落とされたりする椎名くんにも、当然いろいろ考えるところもあったろうし迷いや悩みもあったはずなので、そこをまるっとスルーしてただ「見られる存在」としてしか描かれないのはなんだかフェアじゃないなあと思ってしまった。また時系列が逆順になっているせいで、「彼はかつてはクラスのヒーローで人気者だったがやがて挫折し今では自動車学校の教官である」という<転落>の歴史があらかじめわかっちゃってるわけで、これは普通に時系列順に語っていったほうが哀れさが出たんじゃないの? という気がする。

    もうひとつの仕掛けとして、第3話に叙述トリック的な話法が採用されているのだけど、これも普通に一人称で語ればよかったのでは? なぜわざわざこういう書き方をしたのかもよくわからん。

    私も田舎の出身(作者の隣の県である)なので「地方都市の閉塞感」みたいなのは死ぬほど身に覚えがあるけど、それにしてもこれらの露悪趣味にはちょっと辟易してしまった。ただそのなかでも、最後の話「十六歳はセックスの齢」だけはちょっとマジック・リアリズム風味でおもしろくて、うまく言えないけどこういうのこそが「〈ここより他の場所〉につながる可能性」なんじゃないかしら、と思ったのでした。

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著者プロフィール

山内マリコ(やまうち・まりこ):1980年富山県生まれ。大阪芸術大学映像学科卒。2008年「女による女のためのR-18文学賞」読者賞を受賞し、12年『ここは退屈迎えに来て』でデビュー。主な著書に、『アズミ・ハルコは行方不明』『あのこは貴族』『選んだ孤独はよい孤独』『一心同体だった』『すべてのことはメッセージ小説ユーミン』などがある。『買い物とわたし お伊勢丹より愛をこめて』『山内マリコの美術館はひとりで行く派展』『The Young Women’s Handbook~女の子、どう生きる?~』など、エッセイも多く執筆。

「2024年 『結婚とわたし』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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