年収は「住むところ」で決まる ─ 雇用とイノベーションの都市経済学 [Kindle]

制作 : 安田 洋祐(解説) 
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感想・レビュー・書評

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  • アメリカの賃金格差は社会階層よりも地理的要因によって決まっている。

    同じ人物の年収でもその都市にどれだけ高技能の働き手がいるかによって大きく変わる。

    社会的乗数効果:教育・所得が同程度の人でも住む地域の教育・所得の水準によって大きな差が生じる。


  • 年収の格差がどのように生まれていくのか理解できた。
    また、町が栄えたり錆びていく過程も知ることができた

  • やみくもに勉強すれば高収入を得られた時代は過ぎ去ったが、高い教育レベルがもたらす効果は大きいようだ。

  • 最近読んだ、<a href="http://blog.goo.ne.jp/rainygreen/e/596c4622bd5452babef698625a4ca159">冨山和彦氏の『なぜローカル経済から日本は甦るのか』</a>や<a href="http://blog.goo.ne.jp/rainygreen/e/ce4fc0e32d53bf885f5cf014551ad19a">タイラー・コーエン氏の『大格差』</a>と基本的には同じ路線で社会の変化を論じている。

    IT化の進展やグローバル化の拡大により、先進国の社会・経済において、従来多くの雇用機会を提供し、中間層の形成を支えてきた製造業のプレゼンスが下降している。
    その共通認識のもと、冨山氏の著作では、製造業に替わってローカル経済の雇用を吸収しているサービス業の生産性や労働環境をいかに向上させるかを論じており、また、コーエン氏の著作では、中間層が喪失していく中で生まれる格差に着目し、どのような人材が格差社会の上位層となるのか、また下位層の人々の暮らしがどうなっていのかを分析・予測している。

    本著では、イタリア生まれの経済学者であるエンリコ・モレッティが、上述した社会の変化が「都市間の格差」を生み出す現象に着目している。
    かつて、自動車産業など製造業を中心に繁栄したデトロイト、クリーブランド、ピッツバーグなどの諸都市が没落し、イノベーション産業の集積地としてシリコンバレー、オースティン、シアトル、サンディエゴなどの諸都市が繁栄を極めている。
    ここでいう「イノベーション産業」には、サイエンスとエンジニアリングに関わる業種に加え、エンターテインメント、工業デザイン、マーケティング、金融といった産業の一部も含まれている。
    そして、本著の邦題にもある通り、それら都市間の格差が、その都市に住む人々の収入の多寡として顕在化していることをリサーチ結果をもとに示しているのである。

    冨山氏やコーエン氏が、グローバル化したイノベーション産業に従事する高収入の上位層の所得増が、下位層へとトリクルダウンすることに、どちらかというと否定的だった(ように感じられた)のに対し、モレッティ氏は、イノベーション産業が盛んになった都市ではそれに直接従事する人々以外の層にも経済的に好影響をもたらすと主張している。
    そもそもイノベ ーションの世界では、人件費やオフィス賃料以上に、生産性と創造性が重要な意味をもっており、厚みのある労働市場(高度な技能をもった働き手が大勢いる )、多くの専門のサービス業者の存在、知識の伝播という三つの恩恵を得るために企業・産業の集積が進みやすい。
    そして、イノベーション産業は、いまだに労働集約的性格が強い性格をもっており、製造業よりも多くの雇用を生み出す。
    一方で、いったん集積地が確立されると、ほかの土地に移動させるのが難しいということになる。
    都市の繁栄には「経路依存性」があるのだ。

    問題なのは 、雇用の消滅が幅広い地域で起きるのに対し 、雇用の創出がいくつかの地域に集中してしまうことだ。
    すなわち、トリクルダウンを肯定してはいるものの、それは限られた都市でしか起こらないということ。
    基本的な認識は、冨山氏やコーエン氏と共通しているのである。

    本著は主に米国を題材にして語られているが、当然同じことが日本にも当てはまるだろう。
    長期的な人口減少が間違いなく予測されている分、生き残る都市、消滅する都市に二分されていく傾向に今後ますます拍車がかかるのは明らか。
    「地方創生」が提唱されているが、そのような厳しいリアリティに直面することを避ける議論しかされていないことが気になるところである。


    なお、本筋とは直接関わらないが、一点興味深い考察があったので、以下メモ(引用)しておく。

    ・途上国は人件費が安いので、アメリカに比べて工場で人力に頼る傾向が強く、機械の使用が比較的少ない。その結果、途上国の工場は、状況の突然の変化に柔軟に対応しやすいという強みをもっている。「中国はコストが安いというイメ ージが強いが、本当の強みはスピ ードだ」と、中国でビジネスをおこなっているアメリカ人実業家は最近述べている。

  • 年を跨いで読了。既に刊行から3年半も経過しているので、新たな発見と感じるものは特になかったが、今日の地域活性化策や地方創生の政策・施策の根底にはこの考え方があるのだなということがよく分かった。但し学者らしく、言葉が抽象的であるものが多く、データも”大きすぎる”ものが多いため、「それは本当?」「具体的にどういう意味?」という箇所も多かった気がする。”大きな流れ”を理解するのには良いのかもしれないが、読んで実際にどのような役に立つのか、効果がアウトプットできるようになるのかが、私レベルの能力では、ちと分かりかねる内容であると感じた。

  • 題名で忌避しまっていたが原題は「THE NEW GEOGRAPHY OF JOBS」新たなイノベーションを生む産業クラスターが根付いた都市は、選ばれなかった都市と比べると単純労働の給与も上がるという。現代社会の雇用に大多数はローカルなサービス業が占めている。シリコンバレーですらハイテク企業に勤務している人より、地元のお店で働いている人の方が多い。アメリカではすべての雇用の2/3が非貿易部門、つまりそのサービスを他の地域に輸出できない

    しかし、貿易部門の産業で労働者の生産性が高まると、その産業だけでなく、ほかの産業でも労働者の賃金水準が高まる傾向がある。過去には製造業の賃金が上がると、ほかの産業でも賃金が上昇した。人材確保のためだ。最近ではハイテク産業の雇用が他の産業に波及するようになり乗数効果は5倍だと言う。

    例えばアップルの直接雇用は1万2千人だが地元のサービス業にさらに6万人以上の雇用を生み出している。著者の分析によれば伝統的な製造業の場合1件の雇用増が地元に1.6件のサービス関連の雇用を生むが、非常に高給取りのハイテク産業には及ばない。シアトルの場合直接雇用はボーイングがマイクロソフトの2倍に及ぶが地域に生み出している雇用はマイクロソフトの方がずっと多い。

    マイクロソフトの創業は1975年、ニューメキシコ州アルバカーキで79年にシアトルに移ったが当時のシアトルは絶望の街と呼ばれ今のデトロイトのような状況だった。犯罪も多く学校の質も悪い。マイクロソフトがシアトルを選んだのはただビル・ゲイツとポール・アレンがシアトル出身だったからだ。それが今ではシアトルはアメリカ屈指のイノベーションハブとなり、アルバカーキは停滞している。シアトルは大卒社が人口に占める割合が45%に達し、シアトルとアルバカーキの大卒者の初任給の差は1980年には4200$だったのが今では14000$に拡大している。市民生活のあらゆる側面で明暗がわかれ今や殺人事件の発生率にいたってはアルバカーキの方が2倍以上多い。

    大卒者の割合が最も高いコネチカット州スタンフォードでは高卒の平均年収も10万$を超える。これは極端な例だが大卒者の多い都市の高卒者の平均年収は大卒者の80%前後となっておりほぼ5万$を超えてくる。これは大卒者の少ない都市の大卒者の平均年収とほぼ変わらずこちらの高卒者の平均年収は大卒者の60%前後に留まっている。平均年収が高い都市の家賃や物価が高いにせよかなりの差だ。ハイテク産業の集積地には高度なスキルを持った人材が集積し年収を押し上げるだけでなく、知識の伝播が促進され高い技能を持たない人たちの生産性も向上する。ある都市における大卒者の数が増えれば高卒者の給与の伸びは大卒者の4倍に達する。

    最後の方に1980年代に世界市場を席巻していた日本について言及しているがアメリカが世界の国々から最高レベルのソフトウェアエンジニアを引き寄せたのに対し日本では法的、文化的、言語的障壁により人的資本の流入が妨げられ、人材の層が比較すると薄かった。専門的職種の労働市場の厚みは、その土地のイノベーション産業の運命を決定づける要因の一つなのだ。移民か教育かであれば日本は教育への道を取り法的規制を緩和するしかイノベーション産業発展の道はなさそうに思える。

  • 2015.04・03 発展する地域の高卒の年収は、衰退する地域の大卒より年収が多いという。典型的な場所はシリコンバレー。高給のIT企業で働くものばかりでなく、そのエリアのサービス業で働く者も恩恵にあずかることができるようだ。アメリカでは(日本も同じだと思われるが)、知識資本が集まる都市とそうでない都市で、都市間の格差が大きく広がっているらしい。

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