批評理論入門 『フランケンシュタイン』解剖講義 (中公新書) [Kindle]
- 中央公論新社 (2005年3月25日発売)
- Amazon.co.jp ・電子書籍 (270ページ)
感想・レビュー・書評
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小説のテクニックについて、そして批評の仕方について書かれた本。フランケンシュタインという小説を題材にして紐解かれる技術は、詳しく開設されていて、読んでみると確かにこういう批評を見たことがあるなと感じた。
1部では小説の技法について書かれていて、どういう風に小説が世界を作っているのか解説してある。文章で正解を写し出すのには、精密な作業が必要だと分かる。時間の章が面白かった。
2部では批評の理論について書かれている。これは、どの観点からの批評があるのかといった話で、一般の人が活用できるタイプではないと感じた。マルクス主義の立場から物語を批評することはあまりないと思う。その中でも文体で作品を見たり、ジェンダーやフェミニズムで見ることは、作者の人生を知って作品を見るということで、私も良くやることだ。
最後に書かれた、透明な批評という章が、一般的なネット社会の批評を表しているようで面白い。
批評を「透明な批評」と「不透明な批評」に分類して、「不透明な批評」とは、テクストを客体として見て、その形式上の仕組みを、テクストの外側に立って分析する方法だと書いてある。この本の一部のように、テクストを言語的な構築物であることを前提とした形式主義的アプローチを取り上げものが、この範疇に属する。
それに対して、作品世界と読者の世界との間に仕切りが存在しないかのように、テクストのなかに入り込んで論じるような方法を「透明な批評」という。フランケンシュタインで透明な批評をしようとすると、途中で出てこなくなってしまうキャラクターのアーネスト・フランケンシュタインはどこへ行ったのかということや、なぜフランケンシュタインが黄色いのかといったことが透明な批評に当たるようだ。
物語の中に入って、キャラクターや世界が、その後にどう変化したのかを考えるのは、映画や漫画ではメジャーな楽しみ方ではないだろうか。そして、それを作品にすると二次創作になっていく。
様々な批評があり、物語を政治に絡めたり、自分の得意分野を通して見ることは嫌われることが多いが、どれも批評の一つのあり方ということが分かった。自分がどういう風に作品を見ているのかが分かる良い本だった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
前半が「Ⅰ.小説技法篇」の15項目、後半が「Ⅱ.批評理論篇」13項目の二部構成。
各パートで個別の小説技法と批評理論を説明したうえで、小説『フランケンシュタイン』の中でそれぞれがどのように現れるかを示す。『フランケンシュタイン』が面白かったことから本書に興味を持ったが、『フランケンシュタイン』そのものは便宜上「解剖」の対象として扱われるもので、文学における構成要素と批評方法を解説すること自体が目的となっている。それだけに、上から順番に読むというよりは目次から気になった項目を拾って読むほうが適しているのかもしれない。前後半については、どちらかといえば知っているようで実は理解していない小説用語を多数扱っていた、前半の「小説技法」を興味深く読んだ。タイトルにもなっている後半の「批評理論」編は、先に読んでいた同じ発想の著書である『文学のトリセツ』と重なった(こちらは『桃太郎』を例にとり、文学批評の解説に特化している。今日的なトピックも多数取り入れたソフトさが特徴)。きっちりした学術的な内容で文学的な知識が集約されている。一方、個人的に期待していた、『フランケンシュタイン』を読み解き作品の面白さを深めるような方向性の著作ではなかった。 -
帯に「中公新書のロング&ベストセラー」と書いてあったが、ベストセラーと謳っているだけあって、面白いし多くの批評理論がまとめられてあり勉強になる。
ただ一点、第二部13章の「透明な批評」の記述について気になったことがある。この章の冒頭で、「透明な批評」の代表例としてL・C・ナイツの論文を紹介し、ナイツはテクストから逸脱した憶測に踏み込むやり方を批判し、客観的な批評を推奨した、と記述されている。(p.231)
ここで気になるのは、「客観的な批評」というのは「透明な批評」というより「不透明な批評」の方に該当しそうな気がすることだ。著者はナイツの論文を「透明な批評」の代表例として紹介しているのだけれど、前後の文脈から判断すると、どうも「不透明な批評」の代表例なのではないかと思える。
ただ、僕が読んだ本は10版だったため、誤植が10版になっても残っているというのはあまりないかもしれないし、もしかしたら僕が何か勘違いをしているのかもしれない。ただ、とりあえず書き残しておく。 -
■なぜ読んだか?
・もっと文学作品を複数の観点から評価/味わえるようにするために
・漫画も評価する観点やフレームワークは欲しい
■面白かったところ
・脱構築の概念。西洋文化の二項対立が消滅していく、曖昧になっていく。これはHunter×Hunterの蟻篇とか、進撃の巨人とかを解釈するフレームワークになりそう。あるいは、地下室の手記とかかな
・マルクス主義的解釈。作品を、時代の文脈(階級闘争の歴史)から生じた産物として捉える。H×Hの蟻篇。ネテロという生命さえも搾取される労働者と協会に蟻討伐を命じる資本家の関係として読み取れるか(無理やりかもしれないが)。科学技術が、人間を道具としてしまう現代の批判。人間の能力(念)ではなく科学技術で倒したあたりに人間性の疎外を読み取ることもできるか -
『批評理論入門』は二部構成になっていて、第一章「小説技法篇」では小説で使われるテクニックやその意図が説明されている。第二章「批評理論篇」では歴史的に作品がどう分析されてきたのかが解説されている。どちらの章も小説『フランケンシュタイン』を扱い、具体的な読み方の実例があげられている。
様々な解釈の方法を知ることで、より小説を楽しめるようになると思った。この本を読みながら最近好きな物語を思い浮かべ、「この登場人物は『信頼できない語り手』なのではないかな」「ストーリーに空白部分がある部分があるからこんなに興味深いのかな」など考えることができ、楽しかった。 -
メアリー・シェリーの小説「フランケンシュタイン」を題材に小説技法と批評理論を解説。そもそも「フランケンシュタイン」を本で読んだことはなかったので(ケネス・プラナーの映画を見たがかなりうろ覚えなところがあり)、そのあらすじが非常に簡潔にまとめられているのでそれだけでも価値があった。そもそも文学などというのは読むときのシチュエーションや年齢によって受け取り方も感じ方も全く異なるので、現代国語という科目と試験に非常に疑問を持っていた。しかしながら作者の生きた時代やその原体験が作品に影響を与えるのは読み手がそうであるのと同様に当たり前のことであるので、それらのバックボーンを考えながら文学を理論的に解き明かすというのは面白い試みだと思った。ただし、いくつもの理論が存在するし、当然それぞれに対する反対意見も存在するようなので、結局のところ文学を理論的に分析することは自己満足でしかないようだ。作品の中に書かれていることは結局は作者自身でも正確な意図は分からないだろうし、そんなことを理論的に考えて書いている訳でもないだろうから、当たり前なのだろう。
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小説フランケンシュタインを題材に、文学の読み方、解釈の仕方などの文学理論を学ぶ。
内容的に少し難しく感じたが、きっと文学部ではこういう理論を学んでいるんだろうなと思う。
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小説「フランケンシュタイン」を題材に、数々の批評理論を概観できる。具体例のおかげでかなり理解しやすい。新歴史主義と読者反応批評をもっと深掘ってみたいな。入り口に最適。
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メアリーシェリーの小説『フランケンシュタイン』に沿って、小説の技法と批評理論について語った一書。「小説技法篇」の元本となったロッジの『小説の技巧』は既読で、ピンと来ていなかったのが、今回『フランケンシュタイン』を読了してから、この本を読むと、めちゃくちゃ良く分かるし、面白かった。「批評理論篇」もわくわくして読んだ。素晴らしい概説書を、廣野先生、ありがとうございました。これで、文学テクストをより豊かに読めるようになる。かな?