将棋の子 (講談社文庫) [Kindle]

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  • プロ棋士の養成機関的位置づけである「奨励会三段リーグ」。ここはプロ棋士を目指す才能豊かな若者が、プロと認定される4段への昇段を目指して切磋琢磨する場です。奨励会には厳しいルールがあり、その第一関門が「26歳までに4段に昇段すること」。これに到達できなければ退会となり、その時点でプロ棋士への道は閉ざされます。年齢制限ギリギリのリーグ戦、勝って昇段できるか、負けて退会となるか、最後の一手は自らが追い求めてきたプロ棋士への夢が叶うか、そこで終わりとなるかの瀬戸際です。
    本書はその瀬戸際を乗り越えられなかった棋士達の”瀬戸際”と退会してからの生き様を、退会した棋士の一人を軸に描いています。著者は雑誌「将棋世界」の編集に携わりつつ、奨励会を去った多くの棋士を見つめてきた経験を本書に存分に織り込んでいます。奨励会に入会できるだけでも、将棋に関しては相当のエリートです。10代から夢を追い求め、20代の後半までの10数年間を自分の夢に捧げたそのエリートが自分よりも遥かに優れた才能の持ち主と遭遇し、自らの限界を突き付けられる様子は非情で、残酷です。しかし、勉強でも仕事でも自分より優れた人に出会い、自分の非力さを実感させられる経験をせずに生きて行ける人は皆無だと思います。大半の人は自分の限界をどこかで感じた経験があるはず。だからこそ、本書に登場する棋士達が自分の夢を諦める課程に感情移入できるのではないかと思います。退会する棋士達と将棋に対する、筆者の温かい眼差しと愛情が感じられるノンフィクションで、将棋に関する知識はほとんどなくても本書の世界に浸る事ができます。
    奨励会が如何に過酷な場であるかをプロローグで描写されるある棋士の姿が雄弁に語りかけ、一気に本書の世界へと引き込まれます。第23回講談社ノンフィクション賞受賞作品です。

  • 将棋で生きることを選び、散っていった男たちの話。
    将棋の世界に翻弄され、世間とは遠く離れた生き方に身を落とすことになっても、将棋だけが支えだと言い切る成田に、哀愁にまみれた希望を感じた。

  • 奨励会を挫折した少年の物語。過酷な競争に敗れた少年たちの行方を著者の目線で語る。これまで知らなかった将棋界の厳しさを知ることができて本当に感動した。

  • 勝負の世界は残酷な世界だな。

  • 1995年度下期の三段リーグで劇的な昇段を決めた中座真の裏で、4人の奨励会員が年齢制限で姿を消している。そのなかの一人が後に編入試験を経てプロ入りする瀬川晶司なのだが、本書の出版当時はまだ瀬川はプロ入りしていない。著者の大崎にとっては「消えた」者なのだ。

    『聖の青春』が村山聖への鎮魂歌だとするならば、『将棋の子』は年齢や才能の壁を越えられなかった奨励会員たちへの応援歌だ。夢破れ、北海道で極貧生活を送るようになった成田英二に会いに行く大崎が、成田を軸に様々な奨励会員のことを思い出す。羽生世代によって変わってしまった将棋界のなかで、記録すらされなかった奨励会員たちの苦闘を描く筆致はどこか優しい。

  • 「18年間自分がこの目にしてきた、成長していく台風のように変化し続けた将棋界。
     そんな数々の輝かしい場面に紛れるように、ほとんど誰に知られることもなく将棋界に足を踏み入れ、誰に知られることもなく去っていった大勢の若者たち。
     光を追い続け砕けていった者、光を追おうともせずに消えていった者。栄光に満ちたトップ棋士たちのシーンと何の遜色もなく鮮明に蘇ってくる彼らの青春。通りかかった廊下の片隅で、奨励会三段の若者が流していた涙、悔しさとやるせなさと後悔と、そんなものがないまぜになった宝石のような涙。
     ダムが決壊するように思い出と感情があふれだしてとまらなくなる。北海道のど真ん中を走り抜けていく特急列車の中で、私の心の奥底にしまいこんでいた何かが確実に決壊してしまっていた」

    天才も神童も秀才も、努力も才能も戦略も、希望も夢も快活さも、嫉妬も恨みも対抗心も、悔しさも後悔も絶望も、すべてを飲み込んで、半期に2人、年に4人ずつしか抜け出せない三段リーグ。プロ棋士たちの収入を維持するために設けられた産児制限のような極端なくびれが生み出す悲喜交々。あらゆるものを飲み込む渦は、でも、だからこそ、それを突き抜けた先の世界をより一層輝かせる役目を担っている。神に祝福されたひと握りの天才の、栄光の道を彩る脇役たちにもそれぞれの人生があり、そこで彼らは自分の人生の主役となる。どちらも等しく、愛おしい。

  • 将棋の棋士の養成機関,奨励会を舞台にしたノンフィクション.すさまじいまでの競争と,それに敗れた人たちの人生いろいろ.みんなが藤井聡太になれるわけではない.当たり前だが.

  • 3月のライオンが好きで将棋関連の本を読んでみました。そんなのほほんとした気持ちでは受け止められない、厳しさと切なさの塊です。

  • 将棋の小説は結構少ないけど、この作品はとても良かったです。

  • 読んでる途中に幾度となく涙が出そうになった。将棋の世界でプロとして生きて行くのがいかに大変なことなのか?プロの道を諦めざるを得ない人たちがどのような人生を過ごすのか?がよく分かる話し。将棋を愛するがゆえに、将棋に苦しめられることになる。でも将棋を愛してる人たちのお話。

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著者プロフィール

1957年、札幌市生まれ。大学卒業後、日本将棋連盟に入り、「将棋世界」編集長などを務める。2000年、『聖の青春』で新潮学芸賞、翌年、『将棋の子』で講談社ノンフィクション賞を受賞。さらには、初めての小説作品となる『パイロットフィッシュ』で吉川英治文学新人賞を受賞。

「2019年 『いつかの夏 名古屋闇サイト殺人事件』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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