生命のからくり (講談社現代新書) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • この本は、下記の三点に置いて本当に素晴らしい。
    1.最新の生命科学を平遥な日本語で丁寧に説明してあること
    2.プロの物書きかと思わせるような格調高い日本語で書かれていること(まれに、少々野暮ったい表現もあるが)
    3.生命科学や進化論を、文明の発展、精神文化に投影して見事に説明しきっていること。

    本来なら、この本は上記のような感想でいいのだろうが、もう一点どうしても書きたいことがある。この本の前半に書かれいる「アブラムシ」とそれを宿主とする細菌「ブフネラ」の関係である。このブフネラは、アブラムシへの寄生期間が長すぎて、アブラムシなしでは生きていけない。それどころか、この大腸菌近縁の細菌、この寄生期間に多くの遺伝子を喪失している。これを今のソニーとそれに寄生する糞ヤローたちへのアナロジーととらえてしまった。違いはただ一点。アブラムシはブフネラなしでは生きていけないが、ソニーは、この糞ヤローたちなしでも生きていけること。それどころか、この糞ヤローたちがいなくなれば、今の病気も治るかもしれない。でもなー、この糞ヤローたちは、ブフネラ同様、ソニーなしでは生きていけないことをよく知っているからなー。

  • DNAの二重螺旋の意味するところ。修復に効果的、というだけではなく、情報の保存と情報の変革の仕組みを内包する。それこそが、進化の秘密である、という説に、なるほどと感じる。静と動、陰と陽、保存と変革。この対になった仕組みが生命を進化させた源の原理であるようだ。

  • 宇宙の始まりとか生命の始まりとかが、最近やたら気になる。同じ著者の「ウィルスは生きている」が面白かったので、この本も購入した。著者の中屋敷均さんの専門は染色体外因子。ウィルスがこれに当たり、生命と非生命の間の研究をされているようだ。本の中でも生命と非生命の境界が説明されている。これが滅法面白い。

    本書のテーマは複雑で興味深い。生命はもともとは単なる化合物。それが進化を遂げて人類が誕生した。生命は自己を複製し、子孫を残すが、同時に環境に適応するよう自己を変革しなければならない。
    「すなわち 「生命 」には今を維持しようとする力と 、それを変えようとする力という 、二つの矛盾した力が内包されており 、そのいずれもが 「生命 」を成り立たせる上で 、必須なのである 。しかも 、この両方は相矛盾するベクトルを持っており 、どちらか一方に偏ってしまっては 「生命 」が成り立たない 。いったい 、この 「究極の矛盾 」を生物はどうやって解決しているのだろうか ?」
    これはやっかいな問題だ。自己複製(DNAにおける情報の保存)ができなければ子孫は絶えるし、自己変革(情報の変革)ができなければ環境への適応ができない。どの場合であっても、その生命体は滅亡する。
    著者は子孫DNAが2種類あるという不均衡進化論、ゲノム倍数化を紹介し、「情報の変革 」と「情報の保存 」の逆方向のベクトルをどういう戦略で解決したのかを説明する。

    進化は突然変異によって起こったと、学校で習った。突然変異が事故だとすると、突然変異から進化という道筋には子どもながら違和感を感じた。
    著者は情報の変革は小さなゆらぎ(エラー)から起きると考察する。
    「つまり生命は 、エラ ーによって生じる日常的な小さな効率の悪さには目をつむり 、いつの日かエラ ーが有効に働く環境を待つ 、あるいは劇的に有用な 「エラ ー 」が現れる 「幸運 」を待つという戦略をとったのだろう 」。
    この当たりの考察は推理小説なみの楽しさがある。

    面白い本には違いないが、やはり一種の学術書であり、集中しないと読めない。また「ウィルスは生きている」と同様、注釈が分かりにくい。それでも、生命を考えるのなら最高の良書と思う。★4つ。

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著者プロフィール

中屋敷均(なかやしき・ひとし):1964(昭和39年)年、福岡県生まれ。1987年京都大学農学部卒業。博士(農学)。現在、神戸大学大学院農学研究科教授(細胞機能構造学)。専門分野は、植物や糸状菌を材料にした染色体外因子(ウイルスやトランスポゾン)の研究。著書に『生命のからくり』(講談社現代新書)、『ウイルスは生きている』(同/2016年講談社科学出版賞受賞)がある。

「2024年 『わからない世界と向き合うために』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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