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感想・レビュー・書評
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15年ぶりに再読。三編全部好き。どこか不思議で、不気味で、可笑しくて、じんわり切ないお話。和風ゴシックファンタジーホラーって感じ(秋の牢獄はちょっと違うか)。心に残る作品は、何年経っても断片的に覚えているものですね。
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3つの中編が入っているが、どれも不思議な世界観に引き込まれ夢中で読んだ。
11月7日を繰り返す『秋の牢獄』、家を守るものとして閉じ込められる『神家没落』、宗教団体の姫として閉じ込められる『最後の幻は夜に成長する』。
お気に入りは『神家没落』と『最後の幻は夜に成長する』。やっぱり恒川さんの小説は好きだな。 -
3つの中編から構成されていて牢獄と名のつく物語は一つでしたが、全てが何らかの牢獄を思わせるテーマ性を持っていたように思えました。1話目の『秋の牢獄』は時間的な牢獄で突然同じ日を繰り返すようになってしまうという物語。タイムリープ物は珍しくはないですが、これはいつまで続くか分からないという設定で、そのうちに何周目か分からなくなるほど記憶が曖昧になっていく様子には世界から切り離されてしまった孤独感が伝わってきます。繰り返される中でギャンブルの結果を利用したり死ぬ運命の人を助けたりするのも、ループの終わりが見えているから意味のあることなのだと気付かされます。そのような繰り返しの日々を送るうちに同じループ仲間に会えるという展開には再び止まった時間を動き出させるような感覚を覚えました。しかしその仲間たちと膨大な時間を過ごした末に同じように陥る厭世観は、未知のものが無くなるという現実にはありえない状況での人間の精神状態を想像させます。北風伯爵について季節は精霊が運んでくるという寓話的解釈もこの止まった時間の中では考え方として面白いです。十分に楽しみ悲しみ苦しんだと最後の時を迎える様子は、解放感と希望に満ちていたように思えました。
2話目の『神家没落』は直接的に場所としての牢獄でしょう。神域を思わせる不思議な空間は謎に満ちていました。主人公は選ばれた存在だったのかは分かりませんが、後にとんでもない男と入れ替わってしまった事を考えれば、主人公も単なる偶然だったのではないかと思います。なんとなく住めば都という表現が浮かびました。
3話目の『幻は夜に成長する』は幻想を見せる特殊な能力が彼女の人生にまとわりついた事を思うと、その能力に囚われた物語だったと思います。彼女のストレスも相当なものでしたが、過去にもうたくさんだと逃げ出したお婆さんの背景も気になります。人々の地獄を光と交換しながら貯め続けた彼女の中の暗闇がどれほどの物に成長していたのかは想像するだけでも恐ろしいです。所詮は幻と言えども、人々は過去の記憶を頼りに現在を生きているのだとすれば、そこに強烈な記憶を植え付ける幻も現実に並び得るという見方ができるかもしれません。 -
「秋の牢獄」、「神家没落」、「幻は夜に成長する」の三篇を収録。
「秋の牢獄」は、朝起きると11月7日に戻ってしまうリプレイヤーの話。自分だったら何をするだろうかと思わず考えてしまった。
「神家没落」は、神出鬼没の不思議な旧家に囚われてしまった男の話。身代わりを立てないと脱出できず、やっと見つけた身代わりは…。不思議と狂気がミックスされた独特の味わい。
「幻は夜に成長する」は、幻術師の老婆に育てられ、幻術の力を開花させた少女が、新興宗教に利用されながらもその力を増大させていく、というオカルト話。
どれも味わい深い作品だった。長さも丁度よかった。 -
様々な異界に隔離されるお話の3連作。
タイトルに「牢獄」とある通り、静かで怖くて、どこか仙界的な魅惑のある世界に閉じ込められるお話。蜃気楼のように移動して時折人里に立ち現れる家。何度も何度も繰り返す11月7日。果てしない幻の世界。
3つのなかでは「神家没落」が昔話のような世界観に現実のドロドロした恐ろしさが対照的でとくに好きでした。
読んでいると、現実のどこか後ろにこんな世界が佇んでいるのではと思わせる空気があり、何もかもを放り投げてリセットしたい気持ちを刺激するところが少し怖い。
夜行の冬と同じく、季節や時間に縛り付けられるお話があるのも面白かったです。
11月の穏やかな日差しの日に読めたのもかなり良かったです。
主人公への没入とともに、自分ならどうする/どうなるだろうと考えながら読めました。 -
3つの短篇集。
どれもが凄まじい余韻を残して終わる。
この雰囲気好きです。 -
この人の作品は丁度良い非日常感だと思う。
変化の少ない日常の先に、フッと現れるかもしれない地獄や絶望を巧妙にチラ見せしてくる。
わたしはそれを軽く触れることしかできないけれどそのお陰でか、読後の日常は少し色を濃くしてくれる。
なんとなく背後が気になるような
世界の裏側を信じられるような
ほどよい没頭を教えてくれる。 -
ホラー小説におぞましい描写だけでなく、情緒性や詫び寂びを求める人にピッタリな短編集。グロい部分はグロく、人間の愚かしくも儚い描写はどこまでも儚く描かれているバランス感覚が素晴らしい。
「神家没落」は昔話の様な雰囲気と、現代ホラーが見事に調和した傑作だと思う。
「幻は夜に成長する」に登場した「何かいいたげだが、その言葉は自分自身をも傷つけるほどの醜さを孕んでいるため、口に出すことを躊躇している。そうしたものが微かに伝わる」という文章は、日常生活で経験することのある、対人関係における心の機微を正確に捉えた素晴らしい表現。 -
この雰囲気がたまりません。
好きです。