テンペスト 第一巻 春雷 (角川文庫) [Kindle]

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  • KADOKAWA
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  • 孫家に生まれた女の子、真鶴は宦官と偽って孫寧温と名乗り、琉球王国の宮中で王国に次々と降りかかる難題を解決していくが、明治の世になって琉球はあっけなく解体されてしまう。

    ずっと課題図書だったテンペスト、ようやく読みました。本も分厚いし、重厚な歴史物と思っていたのですが、案外軽い歴史エンタメという体裁で、わかりづらい琉球の二重冊封体制や宮中の仕組みを現代の表現に置き換えて解説されていて、とても読みやすいし勉強になりました。ストーリーの中でも儀間ペーチンや真美那など、ユニークで親しみやすいキャラクターを立てていて軽妙に話が進んでいき、また、真鶴と寧温という人格の駆け引きも奥行きと緊張感を与えていて読み疲れしませんでした。
    このお話は仲間由紀恵さん主演でNHKのドラマにもなっているので知っている人も多いかもしれませんが、清と日本(薩摩藩)という二つの強国、そして幕末という時代に翻弄される琉球王国をベースに、そこに生きる女性を描いたものです。その時代の特徴や暴力的な国家の間の力学もそうですが、何より作者が表現したかったのは、今の時代にも通じる女性の生きづらさというもの、なのではないでしょうか。
    物語も佳境に入る頃に、堰を切ったように男女の越えられない壁と好きなように生きられない女性の生きづらさが語られます。琉球王国の場合、男性が政治を、女性が祭祀を司り、女性の地位が決して低いわけではないのでしょう。その意味で日本よりもマシだと言えるかもしれませんが、能力があっても女性という理由で理不尽な扱いを受ける分厚い「ガラスの天井」というものが確固として存在し、箱の中に閉じ込められるように、男性の添え物のようにしか生きられなかった女性たちの姿が真鶴や真美那を通して浮き彫りになっていくのです。それらは時代小説としてストーリーの中で吸収されていくのですが、このテーマは出版から15年ほどが経った今でも続いているか、もしくは際立っているようにすら思います。いつの日か、真鶴が生きたかったように生きられる時代が来るのでしょうか。
    ということで、人間の業と性を上手にエンタメに仕上げたお話でした。読み応えも考えさせられる部分もあって、総合的にすごくいい作品だと思います。沖縄行きたい。

  • 19世紀の琉球王朝。嵐吹く晩に生まれた真鶴は、厳しい父の命に従い、男として生まれ変わることを決心する。名を孫寧温と改め、13歳の若さで難関の科試を突破。憧れの首里城に上がった寧温は、評定所筆者として次次と王府の財政改革に着手する。しかし、王室に仕える男と女たちの激しい嫉妬と非難が寧温の前に立ちはだかる…。伏魔殿と化した王宮を懸命に生き抜く波瀾万丈の人生が、春の雷のごとく、いま幕を開けた。

  • おもしろく、美しく、最後の方は少し悲しい物語でした。寝る前に泡盛を飲む。琉球王朝の叡智と美に乾杯。

  • 沖縄への旅に向けて読み始めたのだが、これはハマる! 冊風体制の中で難しい舵取りを求めらる琉球王国。 伏魔殿たる首里城内。この先の立ち回りが楽しみ。 学問とは、『情を理と融合させる為であるべき』は響いた。

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著者プロフィール

池上永一
一九七〇年沖縄県那覇市生まれ、のち石垣島へ。九四年、早稲田大学在学中に『バガージマヌパナス』で第六回日本ファンタジーノベル大賞を受賞しデビュー。九七年刊の『風車祭』が直木賞候補に。二〇〇八年刊の『テンペスト』はベストセラーとなり、一一年の舞台化をはじめ、連続テレビドラマ、映画にもなった。一七年『ヒストリア』で第八回山田風太郎賞を受賞。他の著書に『シャングリ・ラ』『レキオス』『ぼくのキャノン』『統ばる島』『トロイメライ』『黙示録』などがある。

「2023年 『海神の島』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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