悪童日記 [Kindle]

  • 早川書房
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感想・レビュー・書評

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  • 戦争のために祖母のもとに疎開させられた双子の少年の日々を日記形式で綴る。数ページ分の小編のエピソードを時系列で連続して語る構成をとり、物語は戦時中から終戦後しばらく経過するまで続く。「ぼくら」という一人称複数代名詞で語られ、作中で双子の人格が分離することはない。

    母親に愛されて何不自由なく暮らしていた生活から、戦争によって冷酷な祖母に罵られ虐げられ酷使される日々に身を落とす境遇に遭うなか、二人はたくましく成長する。このように書くとスタジオジブリによる子どもの成長を描く感動作に思えてしまうが、過酷な世界を行きぬくために、二人は犯罪行為も辞さない大人顔負けの冷徹な判断と行動力を発揮する。かといって優しさや人としての礼儀を失っているわけではなく、相手や状況によっては慈愛に満ちた言動を見せ、天使と悪魔の両面を併せもつキャラクターとして描かれている。そして二人が生きる疎開先の世界も、少年たちと同様に残酷さと優しさが入り混じり、死や性についても多く扱われる。

    『悪童日記』という邦題はインパクトがあるものの固定的なイメージが強く、読後の感想と相容れないところがある。訳者あとがきによれば、原題の直訳は「大きなノートブック」らしく、こちらのほうがしっくりくる。二人のその後を想像させるエンディングも印象的だった。本作の双子の少年に影響を受けた作品も少なくないのではないだろうか。

  • それが果たして作品の質を保証するのかはわからないけれどとにかく、一気に読んだ。

    場所と時代は具体的には示されないもののおそらく、ナチス占領下の、そしてのち、ソ連占領下のハンガリー。双子の男の子たちが母に連れられ祖母の家にやってくる。その祖母は周囲から「魔女」と呼ばれており、どうやら夫を毒殺したらしい。
    冷酷な祖母の元で、さらには戦時下の、というよりそもそも理不尽な人間社会で生き延びるために、双子はさまざまな練習を始める。断食の練習に痛みを感じないための練習、罵倒に耐える練習、優しさに感じない練習さえも。価値観がめまぐるしく変わる気まぐれな世界で、2人だけが確かな倫理を築き上げていくのだった。

    本書は2人の訓練の一環としての作文練習という体裁をとっている。原題にあるとおり「大きなノート」に、できのよい作文を清書していくのだ。

    こういうアンファン・テリブル(恐るべき子供達)ものの小説はけっこうあるけれど、本作が何よりすごいのは、こうした、人間性がほとんど皆無である状況下でさえ、幸福を形成しうるということを見据えて描いているということだ。真実とはこういうことだ。
    もはや忘れたくても忘れられない本として、この生に根を張ってしまった。

  • 第二次世界大戦末期から戦後にかけての数年間、場所は中部ヨーロッパ、正確には当時ドイツに併合されていたオーストリアとの国境に近いハンガリーの田舎町と思われる

    激しさを増す戦況を逃れ、若い母親が双子の息子を田舎に住む自分の母親に預けに来たところから話が始まる

    この祖母は、文盲にして粗野、不潔極まりなく、部類の吝嗇家
    この祖母のもとで、苛酷な境遇に屈するどころか、この双子は持ち前の天才を発揮し、文字通り一心同体で、たくましく、したたかに生き延びる

    労働を覚え自学自習し、殺伐たる現実から目を逸らさず
    冷酷さを身につけおそるべき成熟に達していく

    その様子が余計な感情を入れず、少年が見たままを淡々とした日記形式で書かれている

    それをどう感じるかは読者に任されている
    それだけに余計に恐ろしい

    少年たちの目の前をユダヤ人たちが強制連行されていく様、若い女性が兵士を手招きし、体を委ねる様・・・

    やがて、ドイツは敗れ、解放軍と称されるロシア軍が入ってき、人々は歓喜するが、やがて共産主義者スターリニストたちが権力を掌握していくことになる

    まるで、ウクライナに不法に軍事介入したロシアを彷彿とさせる

    このシリーズは第三作まであるそうだが、続きを読もうかどうか正直迷っている
    この少年たちがこの後、どうなるのか読みたいような、もうこんな残酷な話はたくさんだという思いも・・・

  • 戦時下の厳しい状況での悪童二人の日記。
    淡々としかしリアルに二人は生き抜いていく。
    ハンガリーが舞台で現実味があり、命が儚くも力強いものでもあることを教えられた。

  • 衝撃作品

    三部作の第一作目。
    「大きな町」は戦争の影響も大きく食べるものもない。「ぼくら」は大きな町から「お母さん」に連れられて国境すぐそばの家に住む「おばあちゃん」に預けられることとなった。

    一作目、物語は「ぼくら」の視点で語られる。双子の「ぼくら」をはじめ、固有名詞は全く出てこない。

    ものすごいスピードで、しかし淡々と、物語が進む。
    戦下といえ、「ぼくら」をはじめ人々の異様な行動に眉を顰めつつも読むのを止められない。

    最後のオチがショッキングで、第一部を読み終えた後に第二部第三部を読まずにはいられなくなる。

    のちに大きなキーになってくるが、原作タイトルは「Le grand cahier (大きなノート)」である。

  • 「僕ら」の一人称視点で進む独特な小説。明言はされていないが第二次世界大戦下のハンガリーが舞台となっており、暴力的で性的で荒廃した世の中が描かれる。あまりにも死が身近であるし、粗野や粗暴も生き抜くのに必要とされる。それでも主人公である双子の「僕ら」はしたたかにたくましく、時には大人をも強烈な意志と聡明さで打ち負かしながら生きていく。そんな「僕ら」の生き様は爽快感さえあり、エンタメとして十分に成立している。そして、衝撃的なラストで「僕ら」の物語は終わる。

  • 戦時中の暗い雰囲気は少しあるものの、淡々と話が進むので読みやすい。その反面、一つひとつの話がガツンと衝撃的でうまく言えない。

  • 素晴らしい! 本書、いやこの作家のことをいままで知らなかったのが恥ずかしく感じたくらい。翻訳者もかなり思い入れを込めた作品のようだけれど、訳者の解説を読むにつれ、原文で読むべき作品なのだろうと思った。無理だけれど。

  • 「作者が移民で主人公が子供たちなので、フランス語初心者にも読みやすい」といわれて原書を買ったのですが、読めずにいるうちに時が流れ、結局和訳で読んじゃいました。
    非常に強烈な出来事が次々起こって、あまりにも自分の日常から遠いのだけれど、固有名詞が一切出てこないことと、2人で1人であるかのような双子が主人公であることで、ある種の神話性というか現実との距離感があるので読み進められた気がします。現実だけを書く、という形式と、短くて単純な公正な文章が逆に詩的で、俳句との類似を指摘する訳者のあとがきにもうなずけるものがありました。
    まあ、理屈じゃなく一気読みですね。続編も読みます。

  • 堀茂樹訳と解説つきで新たにこの作品の魅力というかすげーところに気付かされた。原書にあたるだけでなくやはり邦訳を読むことで別の視点というか見えなかったものが見えてくるという体験になった。この二人の続編があるようなので、チャンスがあれば読むだろう。

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著者プロフィール

1935年オーストリアとの国境に近い、ハンガリーの村に生まれる。1956年ハンガリー動乱の折、乳飲み子を抱いて夫と共に祖国を脱出、難民としてスイスに亡命する。スイスのヌーシャテル州(フランス語圏)に定住し、時計工場で働きながらフランス語を習得する。みずから持ち込んだ原稿がパリの大手出版社スイユで歓迎され、1986年『悪童日記』でデビュー。意外性のある独創的な傑作だと一躍脚光を浴び、40以上の言語に訳されて世界的大ベストセラーとなった。つづく『ふたりの証拠』『第三の嘘』で三部作を完結させる。作品は他に『昨日』、戯曲集『怪物』『伝染病』『どちらでもいい』など。2011年没。

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