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感想・レビュー・書評
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『人間を幸福にしない日本というシステム』『日本/権力構造の謎』といったベストセラーで知られるジャーナリストの最新著作。
十数年前に一度ウォルフレンを取材したことがある。『人間を幸福にしない日本というシステム』を持参して取材に臨んだら、本の扉にサインを入れてくれた(「サインして」と頼んだわけじゃないのだがw)。
あのころの勢いに比べると最近は目立たなくなってしまった気がするが、久々に著作を読んでみたらけっこうよかった。
章立ては次のようになっている。
第一章 TPPの背後に潜む「権力」の素顔
第二章 EUを殺した「財政緊縮」という伝染病
第三章 脱原子力に抵抗する「非公式権力」
第四章 「国家」なき対米隷属に苦しむ沖縄
第五章 権力への「無関心」という怠慢
各章は独立したテーマではあるが、内容は相互に関連し合っている。
ウォルフレンは「日本はまだ民主主義国家とは言えない」として日本の官治国家ぶりを批判しつづけてきた論者だが、本書では意外にも日本の潜在的ポテンシャルを高く評価している。といっても、“米国とEUの現状があまりにもひどいことになっているから、それに比べたら日本はまだましだ”という相対的評価の側面が大きいのだが……。
米国もEUも、「経済の金融化によって、ごくひと握りのわずかな人々が莫大な富を獲得するにいたった」すえ、おかしくなってしまったと著者は言う。
いっぽう、80年代の日本のバブル経済は、「日本企業の国際競争力を維持する」という目的のもとに仕掛けられたものだった分、まだましだと評価する。「銀行のマネージャーや株主のふところを肥やしたアメリカやヨーロッパのバブルとはわけが違う」と……。
後半の、米国の覇権主義への批判は筆鋒鋭い。本書を読んだあとには、「いまの米国こそ『ならず者国家』だ」と思えてくるほどだ。
《国際秩序を維持する側から、世界に混乱をもたらす国へと、アメリカはその立場を大きく変えた。オバマ大統領の攻撃対象にはパキスタンとイエメンが加わり、アメリカは遠隔操縦による無人機で、世界中を人質にとり、脅すことすらできるようになった。》
そして、そのような変質の最大の要因は、軍産複合体の極端な肥大化にある、とする。
《国家支配を寄せつけなくなったこの軍産複合体は、逆に国家の外交政策ヴィジョンを一変させてしまった。
政治支配が軍部におよばないということは、つまりもはや知的な目標がなくなったということだ。本来なら劣化したアメリカ国内インフラの再建に使うべき巨額の納税者の金を、勝算もないままふたつの戦争に投じたのも、知的目標が欠如していたからだ。》
政府が軍部と金融機関へのコントロールを失い、暴走するアメリカに、いまも日本は盲目的隷属をつづけている。それ自体が日本という国が陥っている「罠」だと、著者は警告する。詳細をみるコメント0件をすべて表示