最貧困女子 [Kindle]

著者 :
  • 幻冬舎
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感想・レビュー・書評

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  • 低所得で人間関係も希薄な、セックスワークに従事する女性の実態を書いた本。なかなかに悲惨な状況だが、いったいどうすれば彼女たちが貧困から抜け出せるのか分からない。

    著者によれば、彼女たちは低所得であるのに加え「3つの無縁」と「3つの障害」によって貧困になっているという。3つの無縁とは「家族の無縁・地域の無縁・制度の無縁」である。ようするに助けてくれる人がいないということだ。3つの障害とは「精神障害・発達障害・知的障害」である。軽度でもいずれかの障害を持つことによって、コミュニケーションが上手くいかず、書類手続きも不得意となる。結果、「3つの無縁」につながるというわけだ。

    そうして繋がり絶たれた彼女たちは、その場を凌ぐためセックスワークの世界に取り込まれる。ここで厄介なのが、セックスワーカー = 貧困というわけではないことである。また、セックスワークの元締めが上手いこと最低限の世話をすることもある。その結果、彼女たちの貧困状態は可視化されない。自分たちからは助けを求めることができず、制度の方も彼女たちを補足できない。だから貧困状態が続く。本書が発売されたのは2014年だが、2021年現在はどうなっているのだろうか。

  • この本を読んでいる間中、私はきっと思い切り眉をしかめていたに違いないと思う。

    著者は鈴木大介、底辺の若年層のルポライターといては群を抜いた存在であり、本書も新潮ドキュメント賞を取っている。

    本書に書かれていることは、とても単純には信じられない、と思う。ただ私はここにあるようなことがらを現実に知る立場にあり、堕ちていく瀬戸際にある少女たちが手の届くところにいる。でもできることはとても、とても限られていてそのことが眉を思いっきりしかめさせるのだ。

    著者はこういった少女たちに共通した特徴として家族・地域・制度との三つの無縁、及び精神的・知的・発達の三つの障がいを挙げている。

    正しいと思う。

    私が接する機会のある子たちも、ふた親が揃っているケースはまずなく、祖父母や叔父叔母とも接触は少ない(家縁)引っ越しが多く、なんらかの理由で不登校になるケースも少なくなく、地域に友だちもない(地縁)かつ親が多忙なのか無知なのかで制度との接触もほぼ無い、そういったケースが大半を占める。

    そして障がい。10代から抗精神薬、眠剤を複数処方されている子、希死願望が強く、毎日のようにSNSで一緒に死んでくれる人を探す子、両手両足首に何本もの切り傷がある子、こういった少女たちの中から何人かが風俗に流れて行くのだろう。

    でも普通の生活をしていたらこういう子たちの背景を知ることはできない。それはこの国で特に強い排外意識の中にあるものだからだろう。

    入院設備のあるような精神病院は、たいてい町のはずれにある。支援学校も然り。この国はぜったい「異質なるもの」を日常生活に取り込もうとしないのだ。

    そうやって取り残された人たちが、食い物にされ、さらにその環境の中で子どもを育てる。

    著者によれば、この業界の人間たちは多かれ少なかれ似たような生育環境から来ているので、同調しやすく、またされやすい。しかし一方で倫理観や道徳感はとても未熟な場合も少なくない。

    そのためかつて異常性欲を扱うAVの出演者は多くが知的障がい者で、その多くはやはり同種の障がいを持つ親から「売られて」きていたのだという。

    「女はいざとなれば身体で…」と嘯く♂、これでもそう言い続けられるだろうか。

  • あまりの事実に打ちのめされた。
    感想を書くことさえ、ためらわれた。
    どうしていいかわからない。
    ただ、伝えていくことに意味があると思うので、感想を書いた。
    貧困と貧乏は違う。
    あと、筆者自身が「自分はこのテーマから逃げ出したんだ」という述懐があってそれが重かった。
    こうすればいいじゃないか、という安直な議論の前に、自分や社会制度が前提としている条件を持ってない(そしてそれは必ずしも自分のせいではない)人が、こんなにもいるんだ、その事実を知ることから全てが始まるのだと思う。

  • 一介のルポライターである著者が、セックスワークをせざるを得ない貧困女性を中心に密着取材を重ね、彼女らを取り巻く環境や人間関係、生きづらさを渾身を振り絞って書き記した力作。

    まえがきから抜粋するが、著者による考察として、人が貧困に陥るのには低所得に加え「三つの無縁」と「三つの障害」があると言う。

    前者は「家族の無縁・地域の無縁・制度の無縁」、後者は「精神障害・発達障害・知的障害」である。

    例えば、同じ年収125万円前後でも、プア充やマイルドヤンキーと呼ばれるように、非常に生き生きとした生活を送る女性がいる一方、何人も子供を抱えて生活保護を受けるシングマザーもいる。

    ショックだったのは、売春を選ばざるを得ないシングルマザーの中に、正にその場から排除を受ける人がいるという事実。

    容姿に恵まれ、正社員の地位がありながら、小遣い稼ぎのために週一のペースで性風俗の仕事に就く女性。十代で家出をして、非行を繰り返し、そのまま風俗業界へ入り抜け出せない元少女。

    競争が激化する風俗業界にあって、若さや容姿に恵まれない女性は容赦なく切り落とされるのだ。

    「風俗の世界へ足を踏み入れるのは自己責任だ」「風俗は稼げる仕事だ」、これは現代では明らかな間違いである。

    貧困の底辺で喘ぐ女性たちは、また一方で非常にやっかいな性格で、かわいくないし、扱いづらく、近寄りがたいのである。筆者のように、日常的にアンダーグラウンドの世界に密着している人間であっても、数十分も接していれば気が滅入ってくるのだ。それだけに、彼女らの存在は見えづらい。



    最後に、あとがきから抜粋。

    『抱えた痛みは同じなのに、なぜ彼女らを救おうとするものがこれほどまでに少ないのか。彼女らを放置することは、例えば同じ病院の待合室で同じ病気で苦しむ人々がいるとして、一方を診察室に入れ、一方を放置する状態となんら変わりない。果たしてこれが正しい社会とはとても思えないし、これを見過ごすことは絶対的に悪ではないのか』

    この正義感と使命感に心を打たれた。

  • 貧困やセックスワースと知的障害の関係など、新たに知らされることは多かったし、田舎出身者としていわゆるマイルドヤンキー層のリアルな声を読めたのはおもしろかった。

    貧困女子のセーフティネットであるセックスワースを法的に認め、その代わりに最低限の労働環境を整える。日本では難しいかもしれないが、個人的にはそうなって欲しいと思う。

  • 貧困層に分類される女性を取り巻く環境や、同じ貧困でも由来※や性質が多岐にわたるということを知った。 基本的な性質として、●文章を読む/理解すること自体に拒絶反応がある●知識がなく客観的な判断ができないため、聞こえがよかったり自分にとって肌触りのいい環境に流される。これらのことから法制度をいくら整備しても、うまく救い上げることは難しいのだと感じた。※上京、虐待からの避難、「普通」に馴染めず半グレ集団で居場所を確保するため等 この本に書かれた人々の苦しみはみんなが目を背ける範囲にあるという点が辛いと感じた。

  • 難しい問題。
    って、それで思考停止しちゃいけないけど、筆者がずっと追い続けられなくなる気持ちはすごくわかる。必要なところに手が届かない現実……
    自分が想像してた以上に信じがたい現実があること、この認識が広がるだけでも違うのだと思いたい。

    本文より
    人は低所得に加えて「三つの無縁」「三つの障害」から貧困に陥ると考えている。
    三つの無縁とは、「家族の無縁・地域の無縁・制度の無縁」
    三つの障害とは、「精神障害・発達障害・知的障害」

    貧困とは、低所得は当然のこととして、あらゆる人間関係を失い、もう一歩も踏み出せないほど精神的に困窮している状態。貧乏で幸せな人間はいても、貧困で幸せな人はいない。

  • 現実と誤解、怖い

  • 貧困に喘ぐ女性にも色々なパターンがあるということは、結構見逃されがちなので、そこを丁寧に分析しようとしたという意味で価値ある本だと思う。
    こと、セックスワーカーとなると関わりのない人は、考えるのが面倒だし、そもそも考える価値がないと思ってるから、思考停止に陥りステレオタイプに捉えがちだ。
    けれども、当然様々な事情でその仕事している人がいることや、様々な形態のサービスを提供している人がいることは心に留め置いた方が生産的に話ができると思う。

  • 読むと割と胸糞悪くなります。

    世の中には馬鹿でどうしようもない人がいるってことがわかります。どうしてそこでそれを選ぶのかと問い詰めたくなります。

    馬鹿だから最悪の選択をして、性格が悪くて助ける人がいなくて、公的援助からも逃げ出し、ブスだから性産業ですら需要がない。

    救いがなくて読むと気が滅入ります。

    彼女達に非が無いわけじゃない。でも彼女達だけのせいでもない。公的援助から逃げ出すのは彼女達だけに問題があるわけじゃない。

    貧困女子は気が滅入る問題です。でも放置すれば無くなるわけもなく、社会が劣化し続ければ一番ワリを食うのは一般庶民ですからね。なんとかしなきゃ、なんとかなるのかな?

著者プロフィール

1973年千葉県生まれ。文筆業。子どもや女性、若者の貧困問題をテーマにした取材活動をし、代表作として『最貧困女子』(幻冬社新書)などのあるルポライターだったが、2015年、41歳のときに脳梗塞を発症し高次脳機能障害が残る。当事者としての自身を取材した闘病記『脳が壊れた』『脳は回復する』(ともに新潮新書)が話題に。他にも、夫婦での障害受容を描いた『されど愛しきお妻様』(講談社)『発達系女子とモラハラ男』(漫画いのうえさきこ。晶文社)、当事者視点からの実践的な援助ガイドを試みた『「脳コワさん」支援ガイド』(日本医学ジャーナリスト協会賞受賞。医学書院)、当事者と臨床心理士との対話を記録した『不自由な脳』(山口加代子氏との共著。金剛出版)などの著書がある。

「2021年 『壊れた脳と生きる』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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