日本人のためのピケティ入門―60分でわかる『21世紀の資本』のポイント [Kindle]

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  • 東洋経済新報社
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感想・レビュー・書評

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  • 小冊子ながら内容は濃い、著者の池田信夫氏は日本有数の論客・教養人、世界を理解する一人と評価。

    1.歴史の皮肉 「r>g」
    「戦争」総動員の後、社会的平等を促す
    「平和」経済勝ち組の資本蓄積が社会格差を拡大・不安定化

    2.日本の失われた30年
    資本の巨大化 ROEの低下 資本のスリム化が必要
    ①人件費削減 非正規雇用比率の引き上げ
    ②製造拠点を海外へ移転
    ③企業収益は最高益 内部留保巨額化

    3.30年の低成長・円安で資本のドル価値は半値になった
    →世界から「投資先の魅力=収益期待」が生まれた
     結果、株式バブルが起こっている2024/03/03

  • 日本人のためのピケティ入門: 60分でわかる『21世紀の資本』のポイント 単行本 – 2014/12/12

    資本主義では過去200年間、格差が拡大し、今後も不平等が拡大する
    2015年10月26日に日本でレビュー済み
    池田信夫氏による著作。

    ピケティによると2つの世界大戦後に平等になったというのは資本主義のおかげでは無いのだという。
    グローバルな資本課税が必要であると。
    (だたこれは実現が難しい)

    NHKでもパリ白熱教室と題して21世紀の資本、ピケティの主張を紹介していた。
    内容的にはNHKで紹介、解説していた通りである。
    ピケティも来日の際にもっと若者に有利な税制にする。
    これは富裕層の資産に、もっと高い税金をかけて、
    その税収を、若い人たちの子育て支援などにまわすといった提言をしていた。
    世代間格差などを考えれば当たり前の主張である。
    それをいかに迅速に行うかが日本の今後を左右するだろう。

    個人的に驚いたのはP69にある教育が格差を拡大するという項目で教育経済学の分野ではっきりしているのは、世代間の所得の相関が最小なのが北欧で、最大がアメリカだという事実。
    原因のひとつはアメリカのエリート大学の学費が極端に高いこと。(1990年以降)
    エリート大学に入るには親の社会的地位や大学への寄付などが勘案される。
    アメリカが能力主義の社会だというのは、もはや建前にすぎない。
    下位50%の低所得層の子供が大学に進学する比率は1970年以降10~20%。
    上位4分の1の階層の子供の進学率は40%から80%に倍増。
    つまりアメリカは親の所得で、子供の学歴はほぼ予測出来るようになった。

    本書を読むとトマ・ピケティの主張することがすぐに分かる。
    また日本ではどうなのかという点もきちんと解説しているのが良い。
    21世紀の資本や「国家は破産する」のような分厚い本を読む時間は現代人はなかなか無いだろう。
    どうしても池上彰氏のような解説が必要になる。
    本というのは体裁を整える為に不必要にページが厚くなる傾向がある。
    徹底的に無駄を省き薄い本にしたという点も評価出来る点だ。

    トマ・ピケティの21世紀の資本の訳本が出版される同時タイミングに出た。
    欧米の話題になった書籍(かつ分厚い本)の訳本が出る際にはこういった解説本を同時に出せるかどうかが重要であることを示した。

  • 【第1章「ピケティQ&A」より】
    Q すごい厚さですが、要するに何が書いてあるんですか?
    Q それだけのことに、なぜ700ページも必要なんですか?
    Q 19世紀の所得や資本をどうやって測定したんですか?
    Q その結果、どういうことがわかったんですか?
    Q この不等式はどういう意味ですか?
    Q 資本主義で格差はずっと拡大してきたんですか?
    Q 『21世紀の資本』の何が画期的だったんですか?
    Q こんな専門的な本が、どうしてアマゾン・ドットコムのベストセラー第1位になったんですか?
    Q ピケティってどういう人ですか?
    Q アカデミックな評価はどうなんですか?
    Qこの本はマルクスの『資本論』とはどういう関係があるんですか?
    Q 大学で学ぶ普通の経済学とまったく違う感じですが、どう理解すればいいんですか?
    Q ピケティはどういう政策を提言しているんですか?
    Q 日本とはどういう関係があるんですか?

    【主な内容】
    第1章 ピケティQ&A
    第2章 ピケティをどう読むか
    第3章 『21世紀の資本』の3つのポイント

  • ピケティをどんなものか知るために読んでいる.比較的わかりやすいのではないだろうか.

  • 池田信夫『日本人のためのピケティ入門』東洋経済新報社,2015年
     トマ・ピケティ『21世紀の資本』の解説本で、三章からなる。翻訳は700頁あって高いので、入門書ですますことにした。
      第一章は、『21世紀の資本』がどんな本なのかということを解説している。要するに、ピケティの属するパリ経済研究院が、19世紀からの課税史料を20カ国以上にわたって蓄積し、さまざまな手法でデータの穴をうめ、比較可能なようにして、資本収益率>国民所得の増加率(r>g、資本は所得より速く増える。「会社が(土地を買うとかして)でかくなっても、給料はそうあがらん」?)が成り立つことを史料から指摘した(ただし、なんでそうなるのかはまだよくわからんらしい)。ピケティは歴史史料との比較の観点から「資本」を「資産」の意味として用い、労働所得以外は「資本」としている。この点は問題もあるらしい。ピケティはグローバルな資本課税と金融情報の国際的共有を政策として主張しているが、実現の見込みはほとんどないとのこと。
     第二章は、ピケティを読むための基礎知識を整理している。所得分配には不平等の拡大をとめる自然な傾向はないとのこと。文明の発展につれて人的資本の価値が高まり、労働者の所得が高まるという説もウソであり、18世紀も最近も物的資本の重要性は変わらない。階級間より世代間格差が大きいというのもウソで、格差の大部分は同世代で起こり、遺産相続によって格差は拡大再生産される。歴史上、r>gがくずれ、国民所得の増加が資本収益率を上回ったのは、第二次世界大戦後の欧州や日本で、戦争により破壊された資本を再建したからであるが、これは例外的な時期で、この例外を「資本主義の根本的矛盾が克服された」としたのは間違いであった。つまり、戦後資本を再建する過程で貧乏人をあつめて働かせたから、国民所得が速いスピードで伸びたけど、資本が再建されると、金持ちがより金持ちになるスピードの方が速くなるということ。
     第三章は、「三つのポイント」をのべている。「戦後の平等は幻想だった」では、グズネッツが提唱した「経済が成長するにつれて多くの人が成長の果実を得る」という「中流化」の神話が否定されている。資本が再建されてしまえば、結局、働き手の方が弱いから安い賃金でこき使われるということなのかな?「格差の原因」では、教育とテクノロジーの競争(高い教育をもつ人は需要があるが、テクノロジーによって教育のある労働者などいらなくなるという競争)で賃金がきまるという理論があるが、実際は、大学進学率が上がっても所得分配は変わっていない。教育がなければもっと所得の集中が起こっていたかもしれないので、長期的にみれば教育は賃金格差を減らす手段ではあるが、教育を受ける人が増えても金持ちが増えるわけじゃないのだ。70年代からアメリカで「スーパーマネージャー」がでてくるが、かれらの給与は能力ではなく会社の規模に比例している(ビルゲイツも現役時代より引退したときの方が資産が多い)。サッチャーやレーガンなどの「保守革命」によって、英米で経営者のやる気(インセンティブ)が高まったので、国民所得もあがったのだというのは間違いで、経営者の生産性が上がったという証拠はなく、国民所得が増えたのは人口増のせいで、経営者の報酬の増加は保守革命による税率の低下によるところが大である。世界全体で、対外資産がマイナスであり、「地球人は火星人に借金をしている」状態なのだが、これはタックス・ヘイブン(租税回避地)のせいで、タックス・ヘイブンにかくされている資産の規模は世界の国民所得の10%程度で、先進国の大富豪のものである。「格差をいかに防ぐか」では、現代のアメリカでは金持ちの子が金持ちになる比率が高く、70年以降、下位50%の低所得者の子供の大学進学率は10〜20%で横ばいだが、上位25%の階層の子供の進学率は40%から80%に増えた。現在のアメリカや欧州の教育は格差の固定につながっており、社会的流動性を高めるものではない。マルクス主義者は、金利や搾取をなくすために私有所有権をなくしたが、r>gがなくなった代わりに価格も機能しなくなってしまった。市場と所有権は多くの人を協調させるシステムで、なくてはならないが、グローバル資本をコントロールするには、当初は0.1%くらいでいいので、グローバルな累進資本課税をし、金融情報の共有が必要であるとのこと。
     要するに、世界中で好き勝手に資本を増やすなら、税も世界中に払えということなんだろう。グローバリズムというと、儲け方ばかりを言うが、儲けた者の義務である課税はいっこうに「グローバル」にならない。これが問題なんだろう。「グローバリズム」をいうなら、租税もグローバリズムにせよということなんじゃないかな。
     池田氏は日本経済の分析もしており、日本で正社員が減ったのは、正社員の多い製造業が海外移転したからで、現在、非正規雇用は年収300万円以下が40%、200万以下の貧困層が24%だそうだ。日本の企業は資本収益を株主にあまり還元せず、内部留保しており、貯蓄超過の状態で、投資されないので、格差はアメリカほど拡大しないが、成長もしないとのこと。アベノミクスの経済成長による「果実」なんて、ないかもしれないのである。日本の会社は給料を上げずに、貯金しちゃう体質なんである。日銀の金融緩和後も円が安くなって輸出がしやすくなると思いきや、貿易赤字は増えており、円安が安定したら生産拠点が日本にもどるというのも、原発停止にともなう電気代の高騰(電気を使って作るもの、つまり機械生産のものも値上がりするのは見えている)や、法人税の高さからみて期待薄である。もはや日本は「ものづくり」の国ではなく、電機メーカーなどは海外の子会社から利益の付け替えなどをして決算を「化粧」することもなく、「税金の安い国で利益を出す」だけである。トヨタが国内生産しているのは「義理人情にあつい」特殊な会社だからとのこと。中国などの国営ファンドが世界を買い占めるというのも誇張で、国内労働者の年金にとられて、海外投資は多くならないだろうとのこと。
     要するに、マルクスが『資本論』で指摘したピュアな資本主義の恐怖は全然克服されておらず、戦後の一時期、貧乏人を動員して再建された資本の自己増殖が再び暴走しており、これが現代の格差問題ということなんだろう。鄧小平の言った「先富論」も経済復興では有効だが、いつまでもしがみついていると、資本の暴走を招く。今の日本で「先富論」式に労働者にガマンさせても、冷徹な資本が民草の生活を考えるわけがない。まあ、資本は人間じゃないから、人間の暮らしはトレードオフを考えて、人間どうしが考えねばならないということだ。

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著者プロフィール

1953年生まれ。東京大学経済学部卒業後、日本放送協会(NHK)に入局。報道番組「クローズアップ現代」などを手掛ける。NHK退職後、博士(学術)取得。経済産業研究所上席研究員などをへて現在、アゴラ研究所代表取締役所長。著書に『イノベーションとは何か』(東洋経済新報社)、『「空気」の構造』(白水社)、『「日本史」の終わり』(與那覇潤氏との共著、PHP研究所)、『戦後リベラルの終焉』(PHP研究所)他。

「2022年 『長い江戸時代のおわり』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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