武士道 (岩波文庫) [Kindle]

  • 岩波書店
3.13
  • (1)
  • (1)
  • (4)
  • (2)
  • (0)
本棚登録 : 100
感想 : 3
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・電子書籍 (205ページ)

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 英語版の原著で挫折したので和訳をば.終始日本贔屓であるのと,キリスト教徒としての観点からの言葉が多く,正直美化しすぎではないかという部分も散見され,加えてこの版については古風な訳と相まった難解さもあり,読みにくい内容ではあった.ただ,当時としては卓越したレベルでアジアと欧米の思想を吸収した上での洞察から出ている言葉であることは納得できたし,少なくとも武士道そのものについて違和感を抱く説明はほとんどなかった.

    自省・自責や,神ならざる現実の他人に奉仕することを是とするアジア的価値観に基づき,独特な発展を遂げた倫理規範としての武士道.たまたま外から攻撃を受けずに済む地理的条件があったから生き残れただけ,という見方を私自身は持ってしまうが,そうは言っても欧米以外でこれだけ連綿と自分たちの倫理を維持し欧米に対抗しうる力を有したのは,イスラム圏と日本の他にはなかなか思い浮かばない.守るべき義という前提があって,それは思いやりの仁,礼,誠により支えられており,その実現度を把握する指標が名誉で,耐え忍びつつ向上を支える勇がある.こうしてみると基本的には自分の中での,自身との戦いに重きが置かれ,これにより各人の精神修養が図られることで,集団としても強くなるというものである.

    ただ,ここで欠けていると感じるのは,一つは統治者としての視点.日本人はよい部下にはなってもよいリーダーにはなれないという言説はしばしば耳にするが,それというのもこの辺りに原因のヒントがあるようには思える.そしてもう一つ,本著では書かれなかったものの,日本人の多くが共有する感覚として,技術そのものや,技術ある人に対する敬意というのもあると思う.優れた工芸や料理,芸術が発達したことはその一端を示しているのではないだろうか.

    本著を読んで,現代の課題の一つは,武士道が汚いものと断じた,計算高さがなければ,そもそも生き残ること自体が困難になってきていることに思えた.仁の要素が薄らいでいることも挙げられるが,そもそも仁というのは勝者・強者が敗者や弱者に抱く感覚であって,自身が敗者・弱者である,ないしそうであると思っている状態では,誰しも持つのが難しいものである.そういった意味で,既存の「義」の枠組みを維持しつつ共存可能な計算高さを手にできるかどうかが,今後生きていく中での鍵になりそうではある.

  • 三島由紀夫の映画を見たので読んでみようと思った。よく意味がわからなかったけれど日本人の心に少し触れられた気がする。

全3件中 1 - 3件を表示

著者プロフィール

1862年南部藩士の子として生まれる。札幌農学校(現在の北海道大学)に学び、その後、アメリカ、ドイツで農政学等を研究。1899年、アメリカで静養中に本書を執筆。帰国後、第一高等学校校長などを歴任。1920年から26年まで国際連盟事務局次長を務め、国際平和に尽力した。辞任後は貴族院議員などを務め、33年逝去。

「2017年 『1分間武士道』 で使われていた紹介文から引用しています。」

新渡戸稲造の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×