ザ・ラストマン 日立グループのV字回復を導いた「やり抜く力」 (角川書店単行本) [Kindle]

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  • KADOKAWA
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  • 7000億円を超える赤字を抱え、沈没寸前だった巨艦、日立製作所。子会社の日立マクセルの会長を勤め、70歳を目前にしてぼちぼち引退しようと考えていた著者に、異例ともいえる日立製作所社長への就任要請がなされた。ザ・ラストマンの覚悟をもって2009年4月から5年間、日立製作所の舵取りを行った著者は、見事「二〇一四年までの五年間で、日立グループを、過去最高益を出すところまで復活させることができた」。その著者が、自らの成功体験に則して語るリーダー論。

    ザ・ラストマン=「最後に責任を取ろうとする意識のある人」。

    著者が日立日立製作所社長・会長として行った主な改革は、意思決定時間の短縮、選択と集中、組織体制の強化など。

    ・「改革は、スピードさえあれば何とかなる」ことを踏まえた、意思決定者を少なくするなどの「日立時間」(決断や実行が遅い、かつての日立製作所の体質)短縮。

    ・上流と下流を合わせ、「社会イノベーション事業に集中する」方針を決定。半導体、プラズマパネル、携帯電話事業から撤退(上流=製品の企画・開発、中流=製品を組み立てて・流通、下流=販売・サービス)。

    ・上場子会社の完全子会社化と、「社内カンパニー制」の導入。

    「ラストマン」として意思決定をして、実行するためのプロセスは、 ①現状を分析する ②未来を予測する ③戦略を描く ④説明責任を果たす ⑤断固、実行するだが、反対勢力・抵抗勢力に妥協すること亡く断固実行することこそそのキモだという。

    本書の中で心に残った言葉は、「ラストマンは「情」を理解しつつ、「理」をとることができる人間」、「小事には情、大事には理」、戦術は変えても「戦略は変えない、ぶれさせないのがラストマンの役目」、「早く、小さく失敗する」、「リーダーは〝慎重なる楽観主義者(cautious optimist)〟であるべきだ」など。

    「経営方針や経営計画のような大きな決断はトップダウンで下し、現場レベルの提案はボトムアップで吸い上げるという二つの働きが循環しているのが、企業として理想的な姿」という言葉にも頷ける。

    著者は、「読書で精神を向上させるべき」とも言っている。本書で著書が上げた書籍は、孔子の『論語』、佐藤一斎の『言志四録』、バートランド・ラッセルの『幸福論』、カール・ヒルティの『幸福論』、藤沢周平の『三屋清左衛門残日録』『海鳴り』『風の果て』など、ドストエフスキーの作品。『幸福論』などいずれ読んでみたい。

  • 経営方針や経営計画のような大きな決断はトップダウンで下し、現場レベルの提案はボトムアップで吸い上げるという二つの働きが循環しているのが、企業として理想的な姿だ。日立では、現在でも、会社としての意思決定のうち、おそらく九〇パーセントはボトムアップで決められています。残り一〇パーセントの難しい意思決定、痛みを伴う意思決定をトップダウンで行わなければならない、ということでしょう。

    会社員の業務時間の二〇~三〇%、マネージャークラスになると、六〇~八〇%を会議に費やす。これでは、会議に出席するだけのために会社に来ているようなものです。

    日本の部長クラスは、数字は語れてもヴィジョンを語れないので、現地の人たちの求心力を失うという話をよく聞きます。  数字だけではなく、「なぜ必要なのか」「何のために必要なのか」「それを達成すると何が起きるのか」といった背景や将来を語ると、部下も「それなら私も実現させたい」と意欲がわくでしょう。日本人はチェック(C)、改善(A)は得意ですが、プラン(P)と実行(D)は弱い気がします。プランと実行にスピードがないので、PDCAのサイクルがうまく回らないのでしょう。

    部下を育てる立場の人にも、同じように五一点を受け入れる度量が重要です。また、「部下の指導には、自分の持っている時間の二割を割け」とよく言っています。

    リーダーは〝慎重なる楽観主義者(cautious optimist)〟であるべきだ」というのが私の持論です。  この言い回しは、フランスの哲学者アランの『幸福論』の一節「楽観は意志に属する、悲観は気分に属す」から考えたものです。よくあるたとえ話ですが、コップに半分の水が入っているのを見て、「半分しかない」ととらえるか、「半分もある」とポジティブかの違いがある。ラストマンはそのどちらでもなく、「水が半分も入っているけれど、コップいっぱいになればもっといい」と考える人でしょう。そしてコップをいっぱいにするにはどうすればいいかを考え、みんなを引っ張っていくのです。

    トップが社員に「このまま赤字を解消しないと会社は潰れます」というメッセージを送るのは、社員を失望させる効果しかありません。たとえ同じ状況であっても、「赤字部門を縮小して、利益率を二年間で五%上げれば、黒字に転じることができます」という明るく前向きなメッセージなら、苦しい中でも一筋の希望、モチベーションになる。

    結局私が経営者としての人生のプロジェクトに取り組み始めたのは、四〇歳を過ぎてからでした。もう少し早く始められていたら……という思いが今はあります。 人生のプロジェクト・マネジメントを始めるのは、早ければ早いほうがいいでしょう。

    カール・ヒルティの『幸福論』には、一仕事終わったら、きちんと家に帰りなさいと書いてあります。 「必ず晴耕雨読の生活に戻り、再び俗世界に呼び出されたときは、あまりグズグズ言わないで行きなさい。あいつは仕事をしてくれるだろうと期待されて声をかけられたのだから、グズグズ言わないで応じて、しかるべくちゃんと働いて、そのプロジェクトが終わったら帰りなさい。帰って晴耕雨読の生活に戻りなさい。なぜなら晴耕雨読の生活が人間の一番理想とする形だから」といった意味のことが書いてあり、こちらも現代の生活に通じるものがあります。仕事に役立つかどうかばかりを考えず、さまざまな本を読むことをおすすめします。

    仕事上でコミュニケーションをとり、成果を出せているのであれば、それで充分ではないでしょうか。職場の仲間と良好な関係を築くのは大事ですが、必要以上に群れると柵が生まれ、内向き志向になるので却って危険です。 職場の外に出会いを求め、職場にいると知り得ないような情報に触れられる場をつくるほうが、自分のキャリアアップにもつながるのではないでしょうか。「君子の交わりは淡きこと水の如し、小人の交わりは甘きこと醴の如し」というのは『荘子』の中の一節です。 「君子の交際は水のようにさらっとして淡々としているが、小人物の交際は甘酒のように甘くてベタベタした関係である」と解釈されます。

    私は、安定成長期の会社では、同じ人がいつまでも会社のトップを続けるよりは、ある時期が来たら交代したほうがいいと考えています。

    組織には「共同体」と「機能体」があります。共同体は家族や地域社会などの自然発生的なつながりであり、構成員の満足を満たすのが目的の組織。機能体は軍隊や行政のように、外的な目的を達成するためにつくられた組織です。  企業も利益の追求のためにつくられているので、本来は機能体に当てはまります。しかし日本の企業は、いつしか村落共同体に成り果てていました。
     ただし、機能体とはいうものの、効率一辺倒を良しとするわけではありませんし、またそれでは人がついてきません。 機能性重視の合理的な仕事の運び方の中に、ほんの時折、人間性が強く見える瞬間があり、まさにそのときに人間と人間の絆が強くなる、という経験を私は何回もしています。

    いないことがわかりました。 「自分の将来について明るい希望を持っているか」との問いに、「希望がある」「どちらかというと希望がある」と答えた日本の若者は六一・六%。アメリカやスウェーデンは九〇%を超え、お隣の韓国でも八〇%を超えているのに、日本は最下位です。  そして、「四〇歳になったときに幸せになっている」と答えた割合は六六・二%。他の国はすべて八〇%を超えているなか、やはり最下位です。

  •  日立の経営再建を牽引した川村さんが経営に対する考え方について述べた本。2009年から5年間社長・会長を務めている。日立は2008年に8,000億円近い巨額赤字を計上。川村さんは子会社社長で本流ではなかったが抜擢されて社長に就任している。ラストマンとは最後の責任を引き受ける人を指す造語。
     淡々とした口調で語られていて、人柄が感じられる文章。当たり前のことを当たり前にやることの必要性を再認識できる。
     以下、備忘録。
    ・会社の緊急時はトップダウンで決断する
    ・「普通の製品と違って、株には保証書がない。私は保証書のない製品を初めて売ったのです。多くの投資家の皆さんは日立を信じて買ってくれた。これから私たちは、その期待に応えていかなくてはなりません」(増資への株主説明を経て)
    ・ラストマンは「情」を理解しつつ、「理」をとることができる人間
    ・部下の指導には、自分の時間の2割を割く
    ・自分の役目が終わったらサッと退き、次の人が活躍できる場をつくる

  • この手の本は、ページをめくっても
    めくっても自慢話、という展開が多いが
    この著者は違う。

    謙虚で努力家。
    参考になる情報が多い。

  • 私は、「部下の指導には、自分の持っている時間の二割を割け」とよく言っています

    自分が下っ端だった頃、こういう風に思って指導して頂いていたのでしょうか。今となっては定かではありません。

    今、自分が指導する立場になって見たところ、これ、かなり難しいと思います。どうしても自分でやったほうが早いと思ってしまいます。手綱の微調整がなかなかうまくいきません。

    前は結構手取り足取りだったので、今は少し放置気味です。これの正しさは現実でこなしていくしかわかりません。一歩ずつ、マネージャーの練習を進めていきたいと思います。

  • 良書。凄い覚悟、経験と知見。

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著者プロフィール

川村 隆(カワムラ タカシ)
1939年生まれ。日立製作所元会長。東京電力前会長。1962年東京大学工学部を卒業し日立製作所入社。電力事業部火力技術本部長、日立工場長を経て1999年副社長。その後、日立マクセルなどグループ会社の会長を歴任したが、日立製作所が7873億円の巨額最終赤字を出した直後の2009年に呼び戻され、執行役会長兼社長に就任。日立再生を陣頭指揮した。黒字化の目処を立てた2010年に社長を退任、2014年には取締役会長を退任。2010~2014年日本経済団体連合会副会長。2014~2019年みずほフィナンシャルグループ社外取締役。2015~2017年カルビー社外取締役、2016~2017年ニトリホールディングス社外取締役。2017年に東京電力ホールディングス社外取締役会長に就任し2020年退任。

「2021年 『一俗六仙』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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