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感想・レビュー・書評
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天下人の絵師、狩野永徳の絵に寄せる情熱の生涯
山本兼一さんに職人を書かせたらやっぱり天下一品です。「いっしん虎徹」に始まり、「火天の城」「白鷹伝」そして最後の著書となった「夢をまことに」まで読んできましたが、今回はちょっとその「職人」の描き方が面白かったです。
山本さんの書く職人は、誰よりも良いものを作りたい!という若くイキった情熱から成長してライバルを自分自身に見出し、最後には内面の豊かさを熟成させていくような、じっくりとした人生の味わいを感じさせてくれるものが多いのですが、今回は違います。山本さんが描く狩野永徳は、絵に対する情熱の凄まじさや打ち込み方は従来の職人の姿ですが、社会的な責任の重さに絵筆を取ることが辛く、絵に対する情熱はあっても100%自分自身の納得のいく絵がなかなか描けなかったりします。そして永徳のライバルといえば言わずと知れた長谷川等伯。ここで永徳はもう最後の最後まで嫉妬むき出し。ライバルを内面に見いだすなんて大人なことはできず、等伯の絵や一門のスタイルに憧れながらも狩野派を背負う重さからイラつきを抑えられず、そんな気持ちも絵に対する不満足感もどうにもできないままでその生涯を終えるのです。なんて人間らしい!
ここで永徳の境遇を思いやらずにはいられません。初めて好きになった(超絶絵の上手い)女人は(超絶絵の上手い)カレシ持ちであっさり振られ、本当に自分が描きたい絵を描けたと思ったら偉い人たちから痛いところを突かれてディスられ、膨れ上がった狩野一門を背負い本当に描きたいものも分からなくなっても「狩野派」の絵を描き続けざるをえない。承認欲求と高いプライド、低い自尊心。正直、読んでいて共感できない人物ながらも切なさが込み上げてしまいます。今回はそんな苦悩に生きて苦悩に死ぬ人間としての職人の姿を堪能させていただきました。ああ、面白かった!
この本で、山本さんは狩野派の絵を「端正であること」とくくっていますが、実は僕も同じように見ていました。端正、だからこそ噛み応えのない狩野派の絵は、ちょっとつまらない。そんな狩野派の端正ならではのいい部分、悪い部分をすごく的確に評価しきっていて、そこも大変に共感が持てました。
ホント、山本さんにはもっともっといろんな職人のお話を書いて欲しかったなあ。
ここはもう安部龍太郎さんの「等伯」と読み比べてください。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
一門を背負い、戦国の権力者に応え、愚直に命を削って書き続けた狩野永徳の物語。 才を認めつつ妬む心の機微の表現は『利休にたずねよ』然り、この方は本当にうまい。 長谷川等伯の物語にもより興味が湧いた。