経済学ディシプリンの最後として取引コストを説明した論考。取引コスト理論とは古典的経済学に限定合理性を持ち込んだものであり、企業の範囲を決めるものである。企業は一般的に、自社において資源の調達、製造、販売などを行うだけでなく、外部との取引を通じてバリューチェーンを構成する。つまり、例えば自社で資源調達を行うよりも他社に任せた方がコスト上の効率性が得られるのであれば、そちらの意思決定をすることが合理的ということになる。しかし、前述したように、企業において意思決定を行う主体は限定合理性の下において意思決定を行わなければならず、「不測事態の予見困難性」「取引の複雑性」「資産特殊性」が高い場合、ホールドアップ問題(特定の企業にバリューチェーンの一部を依存し、自社で内製化した方が効率的であるとしても、この状況を脱せない問題)が生じることになる。これは取引コストが高いという状況を表しており、つまり取引コスト理論の観点からすると、企業の存在とは「市場における取引コストが高い部分を内部に取り込んだもの」ということになる。
筆者は提唱されてから100年近く立つこの取引コスト理論が、今後の日本企業にとって重要であるという。それは、今後さらに国際化が進み、海外へ進出する際、海外の他社とどのような取引を行えば良いのかということを示唆するからであるという。つまり、市場においての取引コストが高ければ買収し、完全に内製化をした方が良いかもしれないし、そこまで取引コストが高くなければ、スポットでの外注、ライセンシング、アライアンスなどの他の形態を取る方が効率的である。企業の存在理由を説明する取引コスト理論は、研究者だけでなく、実務家に対しても大きく貢献することができる理論であると感じた。