ハケンアニメ! [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • あなたは、『アニメ業界』にどんなイメージを持っているでしょうか?

    GDPが世界第二位となり、海外の不動産を買い漁り、ジャパンマネーが世界を席巻した時代。そんな時代が現実にあったとはもはやおとぎ話でも信じてもらえないくらいに堕ちてしまった我が国、日本。技術立国と言っていたものが、いつしか観光立国になり、それもコロナ禍で消え去った今日この頃。私たちのこの国はこの先どうなってしまうのか。そんな時に私たちは、”と、取り返しのつかないことを…取り返しのつかないことをしてしまった…”、そんな思いに囚われてもしまいます。

    しかし、そんなこの国にも、まだ世界と対等にもしくは世界にリード出来るものが残っています。それがアニメだと思います。かつて、”子どものもの”という理解の中にあったアニメも、今や一つの文化として大きく花開きました。海外から日本に来られる方の中にもそんな日本のアニメを意識される方が数多くいらっしゃいます。2016年、リオ・デ・ジャネイロ五輪の閉会式のスクリーンに映し出された日本発のキャラクターたちの存在を見て、”まだだ、まだ、終わらんよ”と心を熱くした方もいらっしゃるでしょう。”まだ僕には帰れる所があるんだ。こんな嬉しいことはない”と身近な人々の姿を目に浮かべて安堵した方もいるでしょう。そう、”やれるとは言えない。けど、やるしかないんだ”。そんな言葉の先に私たちはこの国で生きていく他ないのだと思います。

    そう、日本に最後に残された切り札とも言えるアニメ。しかし、そんな『アニメ業界』に関する話題は決して明るいものではない現実があると思います。

    『儲からないんでしょう。キツいんでしょう、ブラックなんでしょう』。

    ワークライフバランスという言葉が叫ばれ、かつての”24時間戦えますか?”というキャッチコピーが、今や問題視されるまでに労働に対する意識が大きく変わった日本では、『アニメ業界』の置かれた労働の現状は非常に危ういものがあります。そんな厳しい労働環境で働く人たちはどんな思いで働いているんだろう?逆にそんな疑問さえ湧いてもきます。

    さて、ここにそんなアニメの制作の舞台裏に光を当てた作品があります。厳しい労働環境に、それでも身を置く理由を『私は、絵を描くのが好きだ。うまくなりたい。もっともっと、うまくなりたい』と答えるアニメーターが主人公の一人を務めるこの作品。『アニメーションって、なんてすごいんだろう。おもしろいんだろう』という素朴な感情の先に自らの理想を追い求める監督が主人公の一人を務めるこの作品。そしてそれは、そんなアニメの制作に関わる人たちが、『この仕事ができることが、とても嬉しい』と、作品作りに『愛』を込めて情熱を注ぎ込んでいく様を見る物語です。
    
    『春のハケンはこれで決まりですね』、『さすがです』と逢里(おうさと)に言われ、『上の空だったことを反省しながら、つい反射的に「ありがとうございます」』と返すのは有科香屋子(ありしな かやこ)。『ハケン、というのが何を意味するのかわからない』ものの訊き返すことができないでいる香屋子に、逢里は『「運命戦線リデルライト」はまだ仮タイトルなんですか?』と訊きます。さらに動揺する香屋子は、『ほぼ確定なんですが…次に来る頃には、正式なタイトルとして…』と微笑みながら答えました。『名実ともに業界のナンバーワンを誇るフィギュア会社』、略称ブルトの企画部長である逢里。そんな逢里に『またご挨拶に伺います。ー その時は、王子も一緒に』と挨拶して香屋子はその場を後にしました。『何かに勘づいている様子はとりあえずない』と感じた香屋子は、自身が『メインでプロデューサーを務める「運命戦線リデルライト(仮)」で監督を務める予定の王子のことを思います。『十代の少女が超常的な力を手に入れることで、変身し、敵と戦うことをメインにストーリーが進む』、『所謂「魔法少女」もの』の『ヨスガ』という作品で高い評価を獲得した王子千晴(おうじ ちはる)。そんな王子の手がけた『魔法少女ものの特徴は、それが、子どもよりは圧倒的に大人の方を向いてい』ることでした。『その支持層の大半は、子どもでも男性でもなく大人の女性』という王子の『魔法少女もの』。そして、『運命戦線リデルライト(仮)』は、『彼の九年ぶりとなる待望の新作』でした。そして、逢里の元を後にした香屋子は、『王子が消えたことを、今日も、言えなかった』と振り返り『頭がずきずきと痛』みます。連絡は全くなく、『彼が制作途中のアニメを放り出して、今日でもう一週間になる』という今を思う香屋子。そして、会社に戻り社長の元へと向かいます。『おかえり』と鋭い声で迎える『今年四十五歳になる江藤社長』は、『香屋子と同じ制作進行からプロデューサーに進み、三十代でスタジオえっじを立ち上げ』た人物です。そんな江藤は『言えた?反応どうだった?』と訊きますが、『それが…』と返事を返せない香屋子は、『おとといの会議で』『監督が変更になる可能性を』関係する会社に伝えることが決まった時のことを思い出します。香屋子は『王子を待つべきだ、と最後まで反対した』ものの、通らなかったというその意見。実際、『もう十一月。春からの放映まで、あと半年を切っている』という『シリーズアニメ放映前のこの時期に監督が不在である、というのは通常では考えられない非常事態』でした。『監督を代えるのは、作品を守るため。わかってるよね』と言う江藤に『もう少し待ってください。王子を探します』と返す香屋子。そんな香屋子に『「待つのも結構だけど、業務はやれ」と、声が飛んで』きました。そんな危機的な状況下でも放映開始へ向けてさまざまなスタッフたちがそれぞれの役割をこなしていく中で、事態はまさかの展開を見せていく…そんなアニメの制作の舞台裏が描かれていく物語が始まりました。

    “辻村深月が紡ぎ出す最高に刺激的なお仕事小説”と内容紹介にうたわれるこの作品。そんな”お仕事小説”が舞台にするのは、今や世界に日本を紹介するにはなくてはならない存在となったアニメの制作に携わる人たちの物語です。そもそも辻村深月さんというと、代表作のひとつでもある「凍りのくじら」で、故・藤子・F・不二雄さんの代表作「ドラえもん」の”道具”を作品内に絶妙に登場させたり、「映画ドラえもん のび太の月面探査記」では脚本を務め、小説としても刊行されるなど、私が読書&レビューの対象としている女性作家さんの中では、最もアニメに親和性の高い方という認識があります。作品のレビューを始めるのに巻末からお話するのもどうかという気もしますが、そこには〈謝辞〉の対象として、”アニメーション監督 幾原邦彦さま”から始まり、”東映アニメーション”、”東宝”、”毎日放送”、そして”KADOKAWAニュータイプ編集部”のそれぞれの関係者のお名前がずらっと並びます。この作品は、上記した通り、アニメ制作に携わる人たちを取り上げた”お仕事小説”です。後で再度触れますが、『アニメーション制作は集団作業なのだ』と言う通り、そんなアニメが私たちの元に届くまでには実にさまざまな人たちの関わりがあり、辻村さんがそんな舞台裏を描くために、アニメに関わるさまざまな人たちに取材を重ねられたことがよくわかります。これは、辻村さんのアニメ愛が垣間見えるものでもあり、その先に感動的な作品が生まれないはずはありません。私は読書&レビューの早い時期に辻村さんの作品の大半を読んでしまい、いわゆる”読む順番”が問題視される作品群の中ではこの作品を残すのみになっていました。当然に読みたい思いはあったのですが、文庫622ページというページ数が心理的ハードルになって読むことなくここまで来てしまいました。そんな中、ブク友のべーるさんのレビューに書かれた”心熱くなる小説をお探しの方へ”という一文に心囚われました。そして、ずっと抑えてきた思いがついに抑えられなくなり今回二日間で読み切りました。興奮冷めやらぬ私の頭の中には、今まで読まずに置いておいたことを後悔する思いと、”2022年私のベスト本”の候補…という言葉が頭を駆け巡っています。

    ということで、さまざまな魅力に満ち溢れたこの作品ですが、数多い魅力の中から三つを取り上げたいと思います。

    まず一つ目は、上記した”読む順番”に関してです。辻村深月さんの作品を愛する方には改めて説明するまでもないことですが、辻村さんの10数冊の作品には、”読む順番”があります。ある作品に登場した人物がさりげなく、もしくは重要な役どころで別の作品に登場するため、これを意識するかどうかが読書の読み味に大きく影響してくるのです。これは、当該の人物が登場するだけで、その作品に描かれる内容を超えて、他の作品で活躍したその人物のことが思い起こされる効果を生んで読書の時間に圧倒的な奥行きを与えることにも繋がります。このあたり、

    ・辻村深月さん「図書室で暮らしたい」

    の私・さてさてのレビューに詳述していますので是非ご覧ください(笑)。

    そして、この作品に登場する当該の人物が、辻村さんの最高傑作の一つとされる「スロウハイツの神様」のまさしく”神様”と位置付けられるチヨダ・コーキです。さてさてが今もって大切にしている言葉である”いいことも悪いことも、ずっとは続かないんです。いつか、終わりが来て、それが来ない場合には、きっと形が変容していく”という名言を残した偉大な人物。この作品では『王子が昔から大ファンだというライトノベルの作家』と紹介されるチヨダ・コーキですが、「スロウハイツの神様」を読み終えた方には彼が涙ものに登場します。しかも、ある場面ではチヨダ・コーキの名前が予想だにしなかった形でも登場し、これはまさしく鳥肌が立つ思いをしました。さすが!辻村さん、よく分かってらっしゃる!「スロウハイツの神様」を読んだ方には、この作品は辻村さんからの最大級のプレゼントでもあります。是非、ご期待ください!

    次に二つ目は”小説内アニメ”の存在です。小説内にその作品の主人公が書く小説が登場する”小説内小説”は数多あり、傑作揃いです。そんな中でこの作品では、主に二つのアニメ作品が”小説内アニメ”として登場します。王子千晴監督の『運命戦線リデルライト』と、斎藤瞳監督の『サウンドバック 奏の石(略してサバク)』です。前者が『魔法少女もの』、後者が『ロボット少年もの』と全く異なるカテゴリーの作品ですが、いずれもテレビシリーズとして同じクールで放送され、その作品についても語られていきます。前者については、『主人公が”成長するヒロイン”』という注目点を持ち、『初回は六歳。対決のバイクレースは一年に一度。一話ごと、主人公も仲間も、敵対する魔法少女も年を取っていく。全十二話を経て、主人公は最終回で十八歳を迎える』という設定のもと主人公の十和田充莉(とわだ じゅうり)が活躍します。一方の後者は『「奏(かなで)」と呼ばれる石に、現実の音を何か吹き入れることで変形するロボット』が登場します。『業界屈指のメカデザインが、一人三話ずつ、計四名参加する』という話題付き。もちろん、”小説内小説”が元々文章で表現できる分イメージしやすい一方で、”小説内アニメ”は、辻村さんの絶妙な表現をもってしても、アニメの具体的なイメージを思い浮かべるには少しハードルが高い印象はあります。しかし、上記した〈謝辞〉の対象に「美少女戦士セーラームーン」に深く関わられた幾原邦彦さんの名前もあり、辻村さんが相当に念入りに取材された上で取り組まれたと思われるこの作品では、後述しますが作品作りに賭ける人たちの熱さが作品を引っ張っていきます。もちろん、この辺り、アニメを見慣れている人とそうでない人とでも意見が分かれそうですが、それでも”小説内アニメ”として実際には見ることのできないものの、確かな傑作アニメがここに存在するということへの興奮、やはり心を熱くしてくれるものがあると思いました。

    最後に三つ目は、”お仕事小説”としてのアニメの制作の舞台裏がこれでもか!と描かれることです。『アニメはお金と、人の手が膨大にかかる』というその世界。例えばよく聞く『絵コンテ』という言葉で表される仕事には『絵コンテは、キャラクターの動きや背景、セリフが書き込まれたいわばアニメの設計図で、これをもとにアニメーターたちは作業に入る』という説明がなされます。これだけだと辞書の上の記述ですが、辻村さんはそんな『絵コンテ』を”お仕事小説”の中でどんどんリアルなものとして肉付けして私たちの中に印象付けていきます。私の理解では、アニメ制作は『絵コンテ』を元に原画が描かれ、動画が描かれて、色付け等され、背景と合体したものができて映像が出来上がる、そして、それに声優さんがセリフを入れていく(いわゆるアフレコ)…という流れで作られるとばかり思っていました。しかし、現実には、『映像の進行が後手に回ることも多く』、『実際の絵がない中、絵コンテの動きだけを追って声を入れ』ていくという流れがあり、『特にテレビ放映のシリーズ作品の場合ではほとんど』がこの流れをとるのだそうです。これには、かなり衝撃を受けるとともに、絵がない中に声を入れていく声優さんの高い演技力が作品のクオリティにかなり影響を与えることがよく分かりました。そして、この作品で主人公の一人を務める監督の王子千晴は、『丸にちょんちょんが入ったようなキャラクターと文字の指示が大半を占める』という『絵コンテ』を描くのが特徴です。『彼があげたものに、絵が描けるスタッフたちが入念に打ち合わせをして肉付けしていくようなスタイルを取る分、時間がかかる』という王子の『絵コンテ』のスタイルは、作画、そしてアフレコにも影響を与えていくものでもあり、ストーリー展開の緊迫感に強い説得力を与えてもいきます。入念な取材を元に絶妙な人物設定を作っていく辻村さん。やはり、凄い方だと改めて思いました。そんな”お仕事小説”には、『フィギュア』、『神原画』、そして『聖地巡礼』などアニメでよく聞くキーワードも多々登場します。アニメに興味がある方もない方も双方を満足させてくださる辻村さんの丁寧な説明と深い描写の両立、これから読まれる方には是非ご期待いただきたいと思います。

    そんな物語は、構成も万全な作りがなされています。四つの章から構成されるそんな物語を簡単にご紹介しましょう。

    ・〈第一章 王子と猛獣使い〉: 王子千晴(監督)と有科香屋子(プロデューサー)が『運命戦線リデルライト』を作り上げていく物語。

    ・〈第二章 女王様と風見鶏〉: 斎藤瞳(さいとう ひとみ)(監督)と行城理(ゆきしろ おさむ)(プロデューサー)が『サウンドバック 奏の石(略してサバク)』を作り上げていく物語。

    ・〈第三章 軍隊アリと公務員〉: 並澤和奈(なみさわ かずな)(アニメーター)と宗森周平(むねもり しゅうへい)(市役所職員)が『聖地巡礼』の準備に携わっていく物語。

    ・〈最終章 この世はサーカス〉: 辻村深月さん的大団円を見るオールスター登場による全てが繋がる物語。

    物語は、上記した二つのアニメに関わるそれぞれの”陣営”の裏舞台がとても興味深く描かれていきます。それは、当然に上記したような”お仕事小説”としての物語ではありますが、そこには『アニメーション制作は集団作業なのだ』という集団の中での細かな人と人との繋がりの軋みやぶつかりが描かれていきます。そんな人と人との関係性を描いていく中では、監督とプロデューサーの組み合わせを描く前二章と、アニメーターが主人公となる第三章は絶妙な色合いの違いを見せます。そんな役割の違いからお互いの役割の見え方がこんなにも違うという対比を挙げたいと思います。まず、第二章で監督の斎藤瞳は、監督とスタッフの位置付けをこんな風に捉えます。

    『作品世界の最初を作ったのは確かに瞳かもしれない。けれど、その瞳もまた、スタッフの一人に過ぎない。監督、という仕事を務める、全体の一人でしかないのだ』。

    謙虚という言い方も出来るとは思いますが、『集団作業』というアニメ制作ならではの感覚が見て取れます。一方で、第三章で主人公の並澤和奈は、アニメーターの立場から自らの仕事をこんな風に捉えます。

    『アニメ原画は、それがどれだけ手が込んでいようと美しかろうと、それでもやはり、単体の作品ではない。一つの作品を作るうちの全体の一部でしかなく、アニメは監督のものだ』。

    なんとも興味深い対比だと思います。しかし、いずれの主人公にも言えることは、一本のアニメ作品を作り上げるために並大抵でない情熱を注いでいるということです。『お金が莫大にかかる』というアニメ制作。『一クールで一億二千万から一億五千万。二クールになると二億近く。一話平均一千万から二千万の計算だ』というその費用。その一方で、『だって、儲からないんでしょう。キツいんでしょう、ブラックなんでしょう』と言われる『アニメ業界』の置かれた現状はこの作品でもかなり丁寧に説明されていきます。『一枚数千円からよくて数万円』という原画ですが、『うまければうまいほど、描き込みや線が多い原画の注文が殺到』するために『仕事数』がこなせないという問題があると言います。一方、動画になると『単価百八十円から、千円』、結果『月収は十万円以下の月もザラ』という現実もあるようです。また、老舗のトウケイ動画のようなところでは、『絵を描く者の収入は一定の保証がされている』一方で『「見えない」仕事をする演出の立場が軽んじられ、給与も低い』という現実が待っていて、第二章の主人公の斎藤監督も『シリーズアニメを持たなかった一昨年は、一年間で貯金を百万近く減らした』という現実に置かれています。少なくともお金を稼ぐということ自体が目的では、制作現場は成立し得ないことがよくわかります。これでは回らない、どう考えても回らない…はずの制作現場が回っていく理由、それが、『私は、絵を描くのが好きだ。うまくなりたい。もっともっと、うまくなりたい』というアニメーターの思いであり、『守らなければならないと、だから思った。私だけは、絶対に、最後の最後まで彼の立場につこうと決めた』というプロデューサーの思いであり、そして『アニメーションって、なんてすごいんだろう。おもしろいんだろう』と、自らの理想を作品の中に追い求める監督の思いでした。そして、そんな人たちを包み込むものが、

    『この業界周りで働く人たちは、皆、総じて”愛”に弱い』

    という先にある熱い想いの存在です。『自分のやっていることに誇りをもっています、これが好きです、というのを見せられてしまうと、簡単にたらされてしまう』というアニメ制作に関わる人たちの熱い想い。私はこの作品を読んで始終体が熱くなるのを感じ、また、幾度も込み上げてくるものを堪え、ある時は流れてしまったものを拭いもしました。そこに熱く頬を濡らしたもの、それは村山早紀さん「桜風堂ものがたり」の読書で流れたものと同じでした。

    “涙は流れるかも知れない。けれど悲しい涙ではありません”

    そう、アニメ制作の舞台裏を描く”お仕事小説”でもあるこの作品は、一つの作品を作り上げるために人が込める情熱の結晶を見る物語。熱く、熱く、熱く、ほとばしる情熱の炎の中に、人が全てを懸けて取り組む作品の尊さを見る物語だったのだと思います。

    『巧い、と思う。悔しい。羨ましく、そして、どうしようもないくらい興奮する』。そんな傑作と呼ばれるアニメ作品が誕生していく様を垣間見るこの作品。そこには、アニメの制作に人生の全てをかけて真摯に向き合っていく人たちの生き様が描かれていました。“お仕事小説”として普段見ることのできないアニメの制作の舞台裏を知ることのできるこの作品。辻村深月さんの作品作りの王道を行くように、緻密な伏線の数々と怒涛の伏線回収にカタルシスを感じるこの作品。

    名作、傑作の山しかない辻村深月さんの作品群の中に、また確かな傑作の頂を見つけた、そんな圧巻の素晴らしい作品でした。

    • さてさてさん
      koshoujiさん、はじめまして!
      こちらこそありがとうございます。
      私は2019年の暮れから読書&レビューをスタートしました。kos...
      koshoujiさん、はじめまして!
      こちらこそありがとうございます。
      私は2019年の暮れから読書&レビューをスタートしました。koshoujiさんとは重なる作品も多く、以前からレビューでよくお見かけしておりました。うっすら記憶ですが、島本さんの「ファーストラブ」でいいね!をいただ いたような?当時駆け出しだったので、長年ブクログをやられていらっしゃる方に繋がって嬉しく感じたのを覚えています。
      確かにkoshoujiさんのレビューも長くていらっしゃいますね。私もどんどん長くなる傾向が顕著で、気づいたら今のようになっていました。最近レビューした「源氏物語」で11,000字を超えてしまって流石にちょっとやり過ぎな気もしています。その一方でブクログの文字数制限なしの太っ腹ぶりに感激しています。賞もいただいてありがたい限りと思っております。気がついたら1,200名を超える方にフォローいただいてありがたい限りです。ただ、その分の使命感はあるなと思っており、koshoujiさんが最近upされた辻村さんの「図書館で暮らしたい」のレビューなどでは、企画物でレビューしました。半年に一度くらいレビューに企画物を入れておりまして今週末もしくは来週末あたりに、また企画物を入れる予定です。
      ブクログは、読書メーターと違ってユーザー間のコミュニティ度が低いと思います。ただ、koshoujiさんがたくさんupされていらした時代に比べると、そうですね、個人的感覚では、この一年強くらいでしょうか?急速にユーザーさんの動きが活発になってきた印象があります。この「ハケンアニメ!」のレビューも120以上のいいね!をいただいていますが、一年半前だとあり得なかったことかなという感じです。コロナで本を読まれる方が増えたのか?そういったいろんなことがあるかなあとも思ったりしております。
      koshoujiさんはYouTuberとして活躍されていらっしゃるのですね。元々、koshoujiさんのことはアイコンで印象付きました。あれ?と思った次第です。アイコンってやはりその人を印象付けるのに重要ですよね。私のアイコンは、恩田陸さん「蜜蜂と遠雷」をイメージして作ったものです。
      YouTubeの方見せていただきました。馴染みのある「さよなら」など、2.6万回視聴って凄い数ですね。なるほど。世界が広がりそうです。ありがとうございます。
      お忙しい中とは思いますが、ブクログの方への投稿も楽しみにさせていただきます。
      どうぞよろしくお願いいたします。
      2022/09/29
    • koshoujiさん
      えー、
      ブクログ様から「youtube」への直リンクを張ったものは削除せよとの警告メールが来たので、先に書いたメールは削除しました。ご了承...
      えー、
      ブクログ様から「youtube」への直リンクを張ったものは削除せよとの警告メールが来たので、先に書いたメールは削除しました。ご了承ください。
      ブクログの現在の担当者は、この10年間(と言っても2012年から2016年くらいまでですが)、ブクログの普及にどれだけ私が貢献してきたか知らないらしい・・・・・。

      ですので、その部分だけ削除した文章を残します。

      初めまして。koshoujiと申します。
      私のレビューに対して“いいね”ありがとうございました。
      本棚を拝見し、フォローもさせて頂きました。

      私のレビューも長いですが、それ以上に強烈なレビューを書かれてますね。驚愕です(笑)。
      辻村深月さん、津村紀久子さんとかお好きなようで、お二人とも素敵な作品ばかり書かれていますよね。

      私は数年前、ひたすらブクログにレビューを書き続ける毎日を送り、300本以上のレビューを書いたのですが、仕事が忙しくなり、最近は殆ど本も読めず、レビューも書いていません。そのうち、また面白いレビューを書くつもりですので、今後ともよろしくお願いいたします。
      2022/10/13
    • さてさてさん
      koshoujiさん、ご連絡ありがとうございました。ブクログはとても長い歴史があるなあと90年代の作品のレビューを最初まで送ってみる時なんか...
      koshoujiさん、ご連絡ありがとうございました。ブクログはとても長い歴史があるなあと90年代の作品のレビューを最初まで送ってみる時なんかに思います。私もそんなブクログを未来に繋いでいける一人になれるよう精進していきたいと思います。
      koshoujiさんの新しいレビューも楽しみにしています。
      今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
      2022/10/13
  • 久しぶりの辻村作品、小説の中に懐かしい方が登場し、感動する。こういうの好き!まずアニメプロデューサーの有科香屋子は、天才アニメ監督と言われる王子千晴の作品「光のヨスガ」の大ファンで、そんな香屋子が口説き、王子は9年ぶりに「運命戦線リデルライト」の制作に挑む。次に、時を同じくして、新人監督の斎藤瞳とプロデューサーの行城がタッグを組み両者が激突。アニメはあまり見ないけど、原画、声入れだけではなく、監督の業務がリアルに伝わった。リーダビリティ抜群で、ラストはイメージできたけど、ワクワクしながら最後まで読めた。⑤

  • 舞台はアニメ業界。お仕事小説。

    この業界やアニメについては無知だけれど、NHKの朝ドラ「なつぞら」を観ていたので、イメージしながら読むことができた。
    そしてこの仕事に対する情熱を類似体験できたように思う。最後は清々しい気持ちになれた。

    また、辻村深月さんのある小説に出てくる人物が登場する。
    あ!ここに出てくるんだーー!と、嬉しくなった。
    確かにこの小説の世界で活躍していてもおかしくない人物であろう。辻村さん、うまいなぁ〜。

    • ポプラ並木さん
      なおなおさん、

      <<辻村深月さんのある小説に出てくる人物

      =はい、びっくりしました。久しぶりに会えてよかったです。V.T.R.も...
      なおなおさん、

      <<辻村深月さんのある小説に出てくる人物

      =はい、びっくりしました。久しぶりに会えてよかったです。V.T.R.も読もうかな!
      辻村作品はリーダビリティ抜群で、すぐに読めました。
      2023/07/03
    • なおなおさん
      ポプラ並木さん、おはようございます。
      あの方が出てきて、おお!ここで!?とびっくりですよね。
      私もあの方のV.T.Rを読もうかなぁ。辻村作品...
      ポプラ並木さん、おはようございます。
      あの方が出てきて、おお!ここで!?とびっくりですよね。
      私もあの方のV.T.Rを読もうかなぁ。辻村作品は読む順があり、その通りに読むとより面白いとか。
      それで言うと私は次にV.T.Rを読むべきなんです。省略するなら「冷たい校舎の時は止まる」。
      辻村深月さん、面白いですよね。
      2023/07/03
  • 派遣社員の悲哀を描くゆるいラノベかと思いこんでいたから、読んでびっくり。表紙にだまされてはいけない。心ゆさぶるハードなお仕事小説で面白い。アニメ業界のプロデューサー、監督、アニメーターといったそれぞれの立場の女性を各章で描いていきます。全く知らない世界ですが、どの世界にも共通していることも多くありとても心に響いてきます。
    経営者からは悪用されることの多い労働者の情熱とか想いとかの熱量はやっぱり人の魅力につながるものだと思います。その納得のいかない関係性も突破していくバイタリティーも描かれていて、いろいろな表現方法はあるけれど情熱って大事だなと改めて思います。歳とってくるとこの情熱っていうのが小手先の技みたいになってくるんだよなぁ。反省。

  • 読み始めたばかりだけど、読むのを断念。積読に移しました。

    断念の理由は自分でもよくわからなかったけど、友達に借りた時、大人向けだということを聞いてしまったのが間違いだったかも。一気に読む気がダウンし、読み進めるも大人向けという言葉が頭から出ていかなかった。読んでも終わらない感じが苦手で、10分の1も読めなかった。字は小さくて内容は長い。きっとおもしろかったんだろうけど、夏休み明けに友達に返します。

  • すごく好きな感じの辻村深月作品だったので、「当たりだー!」とホクホクしながらわりとはやく読んでしまえた。
    どの章もよかったが、やはりメインは第三章という気がした。何よりこの小説で泣くとは思っていなかったのに、和奈が宗森に「かわいい」と言われて泣くシーンで一緒にボロボロ泣いてしまった。そして、半月くらいは日常のふとした瞬間にも思い出してうるうるしていた。それくらいに私の拗らせた「どうせ私はダサいオタク」というコンプレックスも救ってくれるようなシーンだった。
    辻村作品にはたまにこうやって自分の拗らせた部分を登場人物が肩代わりしてくれて、それを別の登場人物が救ってくれるシーンが出てくるので、油断できない。涙腺崩壊である。

  • アニメの放送クールごとの覇権を争うお仕事小説です。私自身、アニメが好きでよく見ますが、これからアニメを見る目が変わるなと思いました。 それぞれの業務の方が情熱やプライドを持って仕事をし、覇権を取る!そりゃ日本アニメが面白くないわけがないですよね! この本では3人の女性にスポットが当てられ、物語が進んでいきます。ここまで情熱を傾けられることをお仕事に出来て羨ましい気持ちもありますが、私も今与えられた仕事を頑張ろうと思えました。 (ハードカバーで既に読んだことを忘れて楽しんでました。笑)

  • (2023/188)プロデューサーとして、監督として、絵師としてアニメ制作に携わる3人の女性の視点を通して描く、同一クールで放映される中での「覇権」を競うアニメ業界のお仕事小説。圧巻は聖地巡礼を盛り上げようとする舞台となった地元の辺りか。全編通してハートウォームなのも大変心地よい。アニメは嫌いではないけれど、長らくテレビを観る習慣がなくなっていた僕が、久し振りにアニメを観たいと思うくらいに、それぞれの登場人物からアニメ愛を感じまくり。良い。

  • 面白かった。王子はコウちゃんとなんか似てる。なかなか可愛い。「軍隊アリと公務員」の章はなかなか興味深かった。今でこそアニメはあまり観ないが、オタクであることに変わりはないので、共感する部分も多かった。

  • 好き、がつなぐ社会人の青春

    アニメが好きで繋がる人々が熱い思いでアニメを作り上げるまさに青春小説だと思う
    小説内で登場する作品を見ることはできないが見てみたいと感じるリアルさがあった

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著者プロフィール

1980年山梨県生まれ。2004年『冷たい校舎の時は止まる』で第31回メフィスト賞を受賞しデビュー。11年『ツナグ』で第32回吉川英治文学新人賞、12年『鍵のない夢を見る』で第147回直木三十五賞、18年『かがみの孤城』で第15回本屋大賞を受賞。『ふちなしのかがみ』『きのうの影ふみ』『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』『本日は大安なり』『オーダーメイド殺人クラブ』『噛みあわない会話と、ある過去について』『傲慢と善良』『琥珀の夏』『闇祓』『レジェンドアニメ!』など著書多数。

「2023年 『この夏の星を見る』 で使われていた紹介文から引用しています。」

辻村深月の作品

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