新装版 孫子(下) (講談社文庫) [Kindle]

  • 講談社 (2008年7月15日発売)
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感想・レビュー・書評

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  • 面白かったです。

    孔子の書いた歴史書の注釈書である「春秋左氏伝」をベースに、海音寺潮五郎が描く孫子モノの決定版。主人公の孫武は、著者の想像力が作り出した人物ですが、本書が史実のように扱われることすらあるそうです。

    上巻は「孫子兵法」の作者である孫武の呉国(紀元前585年頃〜紀元前473年)での活躍、下巻は孫武の子孫である孫臏の波乱万丈の生涯を描きます。上下巻の構成ですが、2冊の間は150年以上離れているので、全く別の物語です。

    本書で面白いのは孫武の人物形成。本書は孫武を気の弱い軍事オタクとして描いています。
    「世に立って働く者には 、度胸 ─ ─勇気と言ってもよい 、気の強さといってもよい 、図々しさといってもよい 、埃りやはね返りを事ともしないものがなければならないのだが 、わしにはそれがない 。わしは単に鋭いカンとよい頭を持っているだけの人間だ 。しょせん 、世に立って仕事をする人間ではない 。整理し 、発見し 、教えるだけの人間だ 。世に立って実地に応用するのは他の人の仕事だ 」。
    しかし、時代は孫武を将軍として春秋戦国時代の第一線に立たせます。そして、ほとんど全戦全勝の実績を残します。
    「孫子兵法」をビジネスの戦略論として解く本も出版されていますが、本書のように小説という形態で、孫武の考えが戦いにおいてどう生きていくのかをハラハラしながら追っていく方が読書の楽しみを得られます。例えば、有名な「戦わずして勝つ」という理論について、孫武は次のように論じます。
    「百戦百勝することが最上の戦さ上手とは言えない 。戦わずして敵を屈服させるものが最上の戦さ上手と言えよう 。そうあるためには 、日常のことが大事だ 。領内にりっぱな政治を布いて民を悦服させ 、賞罰厳正で役人らに恐れられるとともに慕われ 、国富み 、また列国との交際も礼節と威厳とが調和して行われ 、列国から尊敬され 、軍隊の訓練は厳格であるとともに愛情に満ちて行われ 、ために兵士らは軍規厳正で犯さず掠めず 、戦場においては勇敢で 、私闘には臆病であらせることだ 。もしこの世にそんな国があれば 、その国は戦わずして列国を屈服させることが出来るであろう」。そして、本書で展開される孫武の戦いは、この考えが基本であることが確認されます。

    面白い本ですが、冒頭は登場人物が多いこと、前後関係が理解困難であることより、つかみは悪いと思います。ただ、冒頭のややっこしい部分は本筋とは関連性が薄いので、理解できなくても問題ありません。おすすめの★★★★。

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著者プロフィール

(かいおんじ・ちょうごろう)1901~1977。鹿児島県生まれ。國學院大學卒業後に中学校教諭となるが、1929年に「サンデー毎日」の懸賞小説に応募した「うたかた草紙」が入選、1932年にも「風雲」が入選したことで専業作家となる。1936年「天正女合戦」と「武道伝来記」で直木賞を受賞。戦後は『海と風と虹と』、『天と地と』といった歴史小説と並行して、丹念な史料調査で歴史の真実に迫る史伝の復権にも力を入れ、連作集『武将列伝』、『列藩騒動録』などを発表している。晩年は郷土の英雄の生涯をまとめる大長編史伝『西郷隆盛』に取り組むが、その死で未完となった。

「2021年 『小説集 北条義時』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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