いつも「時間がない」あなたに 欠乏の行動経済学 (早川書房) [Kindle]

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  • なぜ人は欠乏状態に陥るのかを説明した本。タイトルは後半が本質で、「時間がない」は欠乏の一例に過ぎない。本書は欠乏の本質本※ だと言える。

    本書では欠乏が生じるメカニズムと、欠乏状態から抜け出すことの困難さをメインに書いている。簡単に一連の流れを説明すると以下のようになる。

    ・人はリソースが潤沢にある時は無駄に使う
    ・突発的な出来事でリソースが不足する = 欠乏状態になる
    ・欠乏状態になると人はそのことに集中し、視野が狭くなる = トンネリング効果
    ・トンネリング効果で他のこと対する脳の処理能力が低下する
    ・トンネリングの対象にリソースを集中させるため、他の事に対するリソースが不足する
    ・その結果、新たな欠乏が生じる
    ・以下ループ

    要するに一度欠乏状態になるとそれが新たな欠乏状態を引き起こすため、悪循環にハマるのだ。しかも脳の処理能力は目の前のことに集中してしまうため、長期的な視点で物事を考えるのが難しくなる。だから脱出できない。抜け出すためにはトンネリングになっていない第三者の協力が必要だ。

    本書を読むと欠乏のメカニズムと恐ろしさが良く分かる。一度欠乏状態になると抜け出すのは困難であるため、欠乏状態にならないのが肝心だ。それには突発的な出来事に対処するための余裕を持っている必要がある。「常に余裕を持って優雅たれ」とは、まったく家訓としてふさわしい。

    ※本質本はこの記事を参照: https://honeshabri.hatenablog.com/entry/book_of_essence

  • タイトルは『いつも時間がないあなたに、タイムマネジメントを教えます』という意味ではなく、『いつも時間がないあなたは、こういうデメリットを被ります』という意味でした。しかも、「時間」に限らず、「欠乏」全般についてでした。

    欠乏のデメリットに関する実験や事例がたくさん紹介されていて、貧困の問題やNASAの事故など参考になりそうなものがたくさんありました。

    愚かな行動をしてしまったと後悔することが多いが、スラックの欠乏によるものだと理解すれば、気を張り詰めることも少なくなりそう。

  • これはプロジェクトマネジメントをする人はぜひよんでもらいたい一冊。
    プロジェクトはなぜ遅れるのか?
    人は合理的にものごとを考える。そしてスケジュールを組む。人員を配置する。しかし必ず不合理、不条理な出来事がおこり合理的なスケジュールはこわれる。
    無理をしてなんとかしようとする、ますます壊れていく。大幅に遅延する。
    著者はこの対策として「スラック」という概念を提唱。常にリソースの何割かを「遊ばせておく」ことだと。
    スラックがあることで、必ずおこる「不合理、不条理」な出来事に対処できる。
    ある意味で運動におけるニュートラルポジションが一番大事なポジションであることに通じてすっきりはいってきた。
    一方で企業は常に、ぎちぎちでやることが好きな文化にある。スラックを作ろうといってもそれはなかなか理解されにくい。その文化的壁をどうこえていくのかが実装においてはもっとも課題になるであろう。

  • 「欠乏」をテーマにした本作。
    必ずしも時間に限らず、お金、他者との交流、など、仕事だけでなくプライベートな観点からも、いかに我々が「不足」し、そのツケを払うのか、そしてなぜ「不足」がなくならないのか?が説明される。
    欠乏は悪いことばかりではなく、トンネリングによる”集中ボーナス”を生む。優先順位をクリアにする、というメリットもある。

    一方で欠乏は心を占拠し、集中力を使わせる。結果的に処理能力を低下させる。これは感覚的には納得できても、実験と数字を示されると説得力が違う。
    大事なのは余裕を持つこと。欠乏しないように、資源のどこかに”スラック”を持っておくこと。スラックがなければ失敗の余地はほとんどなくなり、近視眼的になる。集中をする反面、多くの”その他”を後回しにする、そして目先のタスクが片付いた瞬間、次の欠乏が襲ってくる。

    また質の低い労働者は欠乏に襲われて処理能力が落ちている可能性がある。だからといってお金を渡すのは難しいんだけど。
    そしてもっと深刻な、”貧困から抜け出せない”という問題は貧困者の資質によらず、貧困そのものが欠乏を引き起こしている、という事実はとても面白いし、納得感もある。

    紹介される事例が実にあるあるで、読んでて頷きまくりでした。自分は本当に欠乏に心を占拠されがちで、欠乏が嫌いであり、過去の失敗のいくつかが、欠乏による処理能力低下に起因することを改めて自覚しました。
    プロジェクトはなぜ遅れるのか?豊かな時間的・資金的・人的資源を浪費してしまうのか?
    いつかちゃんとやる、のではなく、大事なのはいかに仕組みをつくり、欠乏に陥らないようにすること。
    資産もそこそこに作ろう。処理能力の高い・低いは正直あるでしょうが、それも欠乏に起因するものが大いにある。
    いつか発生しうる欠乏というショックのために。やれることは余裕しろを設けておくことが一番。会社でやるのは難しいな。評価を変えていかないと。

    読む人が読めば、当たり前なのかもしれないですが、自分の仕事とプライベートのうまくいかなった時の状況に当てはまるロジックがうまく言語化されていて、すごくスッキリした。個人的には読んでよかったし、失敗体験を忘れないという意味でも手元に置いておきたい本。いろんな人におすすめしたいです。

  • 再読。最近あまりに時間がないと感じるので読んだ。お金がない・時間がない、などの「欠乏」が人の認識力をとても落とす、という話。認識力が落ちるせいでさらにお金が、時間がなくなってしまう悪循環についても語られている。ではどうするか、についてはそこまで書かれていないが、それでもとてもよい本で、あらゆる人に絶対的におすすめ。邦題は原題と比べて内容に忠実じゃないとか、全体的にちょっと冗長とかはあるけど、それでも。

  • いつも時間がない!と焦ってしまうあなたにおすすめの1冊。
    この本の筆者が伝えたいことは貧困の撲滅で、貧困に陥ってしまう人が一体どのような思考をしているのか試験し、結果を分析しています。けれど、貧困だけでなく、私たちの日常生活に役立ちます。
    例えば、「スラック」の考え方。ミズーリ州の病院の手術室が常にフル回転で、残業が多発。それを解決する手段が「手術室をひとつ使わずに空けておく」でした。いつでも想定外の手術が確実に入ってくる。そのために余裕を持つことが大事だったのです。
    私たちも、常に想定外の出来事が発生します。子どもの体調不良や仕事の問題。時間がない!に対処するヒントをもらえる本です。
    (2021/12/30チョコベリー)

  • 自分にとって「時間」が最も貴重な資源だと思っているので、時間を増やすためのヒントを求めて読んだ。

    「欠乏が更なる欠乏を生む」という負のマタイ効果がテーマの本だと感じた。
    そこで時間を増やすためには、欠乏状態にならないことが重要。

    人は「時間やお金が欠乏している」と感じていると無意識下でそれを気にしてしまい、日常の処理能力が下がる。
    かといって、締め切りまで何年もあるような余裕のある状態だと、切迫感がなくなり集中力を得られない。(マニャーナ効果)

    欠乏状態は重要-緊急の4象限でいうところの、「緊急であること」に集中してしまっている状態。
    リマインダーや習慣化、デフォルト設定を変えるなどして、「重要だが緊急でないこと」にも投資していくことが、欠乏状態を避ける対策になる。

  • 社会人になると、時間・お金を中心に、何かに欠乏している人が極めて多く、自身の場合は時間を欲する機会が増えている様に感じる。この本の重要な主張の内の一つに"自制心・認知能力・処理能力等は消耗をする"という考え方がある。例えば、貧困地域で肥満の方が多い、或いは怠薬(薬を処方された通りに飲まないこと)をする方が多い、というのを我々はその人達の意識の問題にしがちであるが、抑々日々の生計を立てることへの心労に自制心・認知能力が消耗されているのが原因である、という考え方である。自身の生活や仕事を考えてみると、我々は1日のスケジュールを考える際に、夫々の予定に対して時間を割り当ててスケジュールを立てるが、処理能力を割り当てるといった考え方をしない。そう考えた時に、矢張り頭がフレッシュでまだ処理能力・認知能力を消耗していない段階でじっくり考える仕事をすること、消耗した夕方・夜にかけて単純作業を行うこと、等の処理能力・認知能力を割り当てるという観点でスケジュールを組む考え方もあるのだろう。また、例えば議事録を取る必要があるとして、会議が終わってから別の緊急の仕事に取り掛かり、時間を置いて議事録に戻った場合、打ち合わせの内容を思い出しながら作業に取り掛かる必要が出てくる為、余計に処理能力が消費される。自身の仕事を振り返ると色々と反省する必要がありそうだ。
    また、"トンネリング"という考え方もこの本の重要なメッセージの一つだ。このメッセージを通して筆者は、期限が期近で緊急なものに対して人は通常以上に大きな力を発揮するものであるが、その緊急事態への処理に人は集中しすぎて長期的で重要な課題が見えなくなるといった副次的な欠点がある、ということを伝えている。プライベート・仕事に絶えずトンネリングが発生しているが、例えば重要だけど長期的な課題に関しては無意識に行動に移れる仕組み(例えば家族との時間を取りたい場合は、1週間に1回の親子参加プログラムに申し込む等)を作って、行動が自動的にトンネルの内側に入ってくる"仕組み作り"が肝要である。

  • ネットでおすすめされていたので読みましたが、人の思考パターン、陥りがちな問題点(思考の視野狭窄)などのメカニズムが事例付きでわかりやすく書かれていてなるほどなあと思いました
    いくつか反映できそうなものがあったので実践していきたいと思います

  • 行動経済学系の一般向け本あるあるなのかもしれないが、とにかく冗長。各章仮説の説明と検証のための実験、最低限の具体例だけでいいしそうすれば半分以下くらいのページ数にはなると思う。

  • “欠乏”がもたらす人間の行動がよく分かる1冊。事例が多くイメージしやすい内容でした。

  • 「貧すれば鈍する」と言われる。常におカネや時間などの不足分に気を取られて(どんな手を使ってでも埋め合わせよう!)IQが下がってしまっているという。「まな板の法則」のように不足分に関する雑念がCPUを専有して、切るべき具材を置くスペースが狭くなるのだ。つまりピンチ度合いが増すほどに酔っ払っているくらい思考力が低下してしまうということ。本書はそんな「欠乏の行動経済学」について解説されている。

    (行動)経済学からの説明は本書に譲るが、自己啓発系の本家「7つの習慣」の第一の習慣「主体性を発揮する」ためのマインドセットとしても本書は重要である。つまり「0の習慣」ともいうべきなのが「心身ともに余裕のある状態を作ること」である。本書のアドバイスに従えば、「第三の習慣」で最重要視される「緊急ではないが重要なタスク」を継続できるようになる。
    行動経済学の権威であるダニエル・カーネマンが「ファスト&スロー( https://x.gd/18Q0p )」で説いた認知バイアスの「システム1」に囚われないようにするためにもまずは「余裕のある状態」に自分を置くことである。
    そのためにはおカネも時間もギチギチに使い道(予定)を詰め込むのではなく3~4割程度の余裕(バッファー)を設けておきたいところだ。

  • 欠乏が、集中力を増す=集中ボーナス
    欠乏が、認知力の低下を招く=トンネリング

  • 時間、お金、食料、何であれ何かが欠乏している状態では、無意識でそれについて考えてしまうため、脳の処理能力が負荷を受けた状態になる。その状態では、いつもよりも作業効率が落ちて、更に欠乏状態が悪化してしまう。
    事前にある程度の余裕(スラック)を持っておくことで欠乏状態に陥る事を回避しやすくなる。スケジュールをすべて埋めずに時間を空けておく、給料から天引きして貯金をしておくなど

  • 欠乏に追われている際、判断力認知力は著しく低下する。それはお金の欠乏にも時間の欠乏にも当てはまる。
    同じ人であっても、金欠の時は認知能力が落ちることになる。人によって変わるのではなく、同一人物でも欠乏が認知能力に与える影響は大きい。

    対策としては欠乏状態になるのを避ければよく、スラックという余裕・バッファを作ること。スラックがあるだけで、判断・選択の余裕が生まれ、ストレスを軽減される。同様に金銭的にも時間的にも当てはまる。何か想定外の事態になったときの対応が異なる。

    欠乏はトレードオフの状態である。
    欠乏によって認知・判断は狂わされることになるが、専門知識があれば感覚値を補正することができる。
    行動経済学の割引率などが該当し、人間がそのような状況に陥った際に取りがちな行動を事前に理解しておけると、そうした行動を避けることができるようになる。

    近視眼的な行動を取ると、将来的な利子が膨れ上がってしまう。(給料日のローン等)
    緊急ではないが重要な事柄に目を向けて、今日のことも大事だが、将来のことも見据えて行動するのが良い。
    例えば部屋の片づけを先にすることにより、書類探しに時間がかかり生産性が下がるなど。どうしても目の前のことに集中してしまうと部屋の片づけは後回しになってしまう。
    残業についても同じことを言える。
    遅れを取り戻そうとして、残業をすることにより生産性が下がり、負のスパイラルに入ることになる。
    ミスも増えることにより、成果物の品質も低下することになる。

    時間欠乏から脱却するためにはリマインダーが有効である。会議終了5分前にリマインドが出るだけで、未来の時間の前借りを防ぐことができる。車検のリマインドで期限切れを防ぐことができる。

    意思の力は弱い。毎週運動することは難しい。意思決定は一度で終わらせることが理想である。毎週時間をロックされる、自動引き落としにされるなど、考えなくて良い仕組みを導入すること。

  • 面白かった。
    この本のタイトル通りに「いつも時間がない」と思っている自分にとっては目から鱗だと思う内容だった。

    欠乏の行動経済学の説明にあたって、この本ではスラック(余裕)がない事による、処理能力低下が時間がない = 締め切りに追われている状態だと説明があった。

    その事は頭でわかっていても、実際の社会はどうなのか?の部分が、社会実験や数字から出ていてわかりやすく、興味深い内容だった。


    個人的にはこの1文が刺さった。

    "人は自分の時間の予定を組んで管理するが、処理能力の予定を組んで管理する事はしない。自分自身の変動する認知能力に対しては、あきれるほど配慮も注意もしない。"

  • 行動経済学というより、研究結果の公表という感じだった。言いたいことは1点で、結論を読めば分かるかな。

  •  欠乏状態に陥った人は、その事柄に対する集中力が増す(締め切りが近くなると集中して仕事を行う。貧しい人はバイアスに惑わされることなく金銭の価値を認識する。ゲームの残機を少なく設定すると1機当たりの成績が上がる。)。本書はこれを「集中ボーナス」と表現する。

     しかし、これは同時にトンネリングを引き起こす。トンネルの視界の中に入った事柄については集中できるが、トンネルの視界の外に出た事柄については認識ができなくなってしまう。そして、トンネルの視界の外に出る事柄かどうかは、その事柄の重要性に左右されない。

     そのため、本来は極めて重要な事柄であってものトンネルの視界の外に出てしまうことがあり、致命的な失敗に繋がる可能性がある(例:火事現場に向かう際、消防士はシートベルトをしないことがある。)

     また、欠乏状態にある人は脳の処理能力が著しく落ちてしまう。目の前の事にのみ集中し、長期的な視野がなくなる。その結果、客観的に見れば容易に予想できていたはずの問題について、主観的には、まるで突然降って湧いた問題であるかのように感じることになる。本書はこれを「ジャグリング」と呼称する。空中にはたくさんのボールが放られており、時間とともに落ちてくるのは容易に分かるはずであるが、本人が意識できるのは今まさに落ちかけているボールだけである。十分な余裕がないなかで対処するため、そのボールを処理できず、大抵は再び空中に放り投げることになる。その頃には、次のボールが落ちかけている。

     欠乏→トンネリング・処理能力低下→ジャグリング→更なる欠乏…と続いていく。そのため、欠乏状態にならないことが重要である。そのためには、「スラック」(「たるんだ」、「緩い」といった意味だが、ここでは「余裕」といった趣旨)を作っておくことが欠かせない。

    感想:
     テーマは面白いが全体的に冗長だった。また、欠乏状態が何を引き起こすかについての説明はあるが、それを踏まえ、特に個人においてどう対処すべきかについては本書を読んでもよく分からなかった。とりあえず、スラックを作る(個人レベルでは、意図的にスケジュールを空けておく日・時間を作る等の方法か)こと意識するようにしようと思う。

  • 処理能力についてたいへん勉強になりました……いろいろ考えさせられた……。

  • 欠乏を感じている人は、行動経済学に当てはまらず、むしろ従来の経済学のいう合理的な人になる、という指摘が面白い。

  • 読後感としては大変良かったので,もう一周してみたいと思う.読後 1 週間経って記憶は薄れてしまったが,できるだけ内容を振り返ってみる.

    ある資源(時間,お金)に対する欠乏はトンネリング(ある種の視野狭窄を招く).この現象にはプラスの面とマイナスの面がある.プラスの面は目の前の最重要課題に集中できることである.マイナスの面として最も大きいのは「緊急性は無いが重要性が高いタスク」が後回しにされることである.
    このようなタスクには虫歯の検査,遺書の作成,親孝行,人間ドックなどがあてはまる.
    また,トンネリングを起こしている人には,トンネリングを起こしているということ自体が処理能力への負荷となり,知的労働の上でハンデとなる.

    トンネリングを克服するには,スラック(問題となっている資源の余裕)を設けることが重要になる.例えば緊急の仕事に備えて,毎日 1 時間は予定を入れないようスケジュールを組むというような計画が必要になる.

  • 本の筆者が伝えたいことは、貧困の撲滅。貧困に陥ってしまう人たちが、一体どのような思考をしているのか、様々な試験をおこない、その結果を分析しています。でも、この本で説明されていることは、貧困だけでなく、私たちの日常生活に役立つます。
    一番印象的だったのが、「スラック」という考え方。2002年、ミズーリ州の救急病院セント・ジョンズ地域医療センターは、手術室問題を抱えていました。フル回転で外科手術がおこなわれ、スタッフはしばしば予定外の残業をしていました。
    病院の理事長は、医療改善機関から招いたアドバイザーに、問題の詳しい分析を依頼します。通常であれば、スタッフをもっと投入するとか、手術室を増やすといった対策が思いつきそうです。しかし、このアドバイザーは異なる解決策を提示しました。それが「手術室をひとつ使わずに空けておく」でした。
    この解決策には、当然ながら医師から反対意見がでました。すでに手術室が足りないので、1つ空けておくことは非効率のように思えます。
    しかし、このアドバイスにはには、深い考えがありました。問題を深く掘り下げてみると、手術には2種類あったのです。計画的なものと、計画外のものです。当時、手術室はすべて計画的な手術で埋まっていました。計画外の手術が生じるとスケジュールの組み替えが必要になります。手術室の欠乏は、実は手術用スペースの不足ではなく、急患を受けいれられないことだったのです。
    「いつでも「想定外」の手術は確実に入ってくる。」
    この言葉は、私にとってすごく印象的でした。日常生活や、仕事にも、当てはまることがあると思います。急に子供が体調を崩してしまう。仕事で思いがけない問題が発生してしまう。「想定外」って、絶対にあります。
    病院は、この解決策を実施したことにより、受け入れられる手術が5.1パーセント増えました。午後3時以降に行われる手術の件数は45%減少し、病院の収入が増えました。それから2年後、病院の手術件数は毎年7~11%増加したそうです。驚きの結果です!
    この「手術室を一つ空けておく」ということがスラックにあたります。英語のslack(スラック)とは、ゆるみやたるみを意味する言葉です。つまり、余裕のことです。
    著者は、貧困に陥る人は、スラックがないために欠乏状態になってしまうため、スラックの重要性を説いています。このスラックは、貧困だけでなく、日常生活においてとても重要なことだと思いました。
    また、「トンネリング」の印象深い言葉でした。「トンネリング」とは、トンネル視を連想させることを意図した表現です。トンネル視とは、トンネルの内側のものは鮮明に見えるがトンネルに入らないものは何も見えなくなる視野のことだそうです。
    例えば、締め切りがあると集中します。締め切りが有効なのは、まさに欠乏を作りだし、注意を集中させるからだと著者はいいます。これは、欠乏を有効に活用できている例です。
    欠乏は「集中を生む」という代わりに、欠乏は「トンネリングを引き起こす」ということもできます。目先の欠乏に対処することだけに、ひたすら集中している状態です。欠乏は、常に人をトンネルへと引き込むことによって、その処理能力に負担をかけ、その結果、人のごく基本的な能力を抑制してしまうとのこともあるそうです。
    私自身、1つのことに集中しすぎると、ほかのことが見えなくなってしまう場合があります。トンネリング状態に陥らないように、視野を広げた生活を意識していきたいです。

  • 「時間」と「お金」が代表的な欠乏だけれども、精神的・心理的・経済的に、完璧に満たされている人はいない。人は必ずなにかしらの「欠乏」を抱えている。欠乏は処理能力に負荷を強いる。処理能力の不正常は、欠乏がなければあり得なかった行動や意思決定を生む。

  • 面白かった。図書館で借りたものの、なかなか手をつけられず積読になっていた本書。タイトルの「いつも「時間がない」あなたに」の文字を見るたびに、「今最も読むべきはこの本だよな・・・」と頭をよぎる。ようやくページをめくり始めると、今までの私の先延ばし癖やほったらかし癖、時間がない!と常に焦っている自分の原因が、全て記されていた。読めて本当によかった。

    以下メモ

    ・時間、お金、気持ちの欠乏状態→処理能力の不足につながる
    ・やりたいこと、続けたいことのためには、毎回行動する際に意思力を使う必要がなくなるよう、仕組みを作る際の最初の選択を工夫する
    ・豊かさが長い(多い)と欠乏が増える。長い期限は豊かさの無駄を促し、ほったらかしやトンネリング(一つのことにのみフォーカスし他が見えなくなる)が起きる。
    ・自分の処理能力に合わせた予定を組む。自分の認知能力は変動する(なるほど!)
    ・スラック→1、失敗をカバーできる、2、気持ちにゆとりがあるからスラックを作れる

  •  例えば、仕事で時間に追われ、同僚に冷たくあたった経験はないだろうか。普段より多くミスしたことや、自制心がなくなって甘いものや脂っこいものを晩ごはんに選んでしまったことは?
    この本にかかると、すべては足りない感覚のせいで片付く。

     この本は、経済学と心理学の偉い人が書いている行動経済学の本だ。ビジネス本ではない。
     「欠乏」という足りない感覚の論理と影響を説明し、新しい視点を提供してくれる。
     時間がたりない、人との関わりがたりない、お金がたりない。この「たりない」という感覚に共通する心理への理解が高まる。生活や組織の問題に直面したとき、この本を読んでおけば、新しい視点で解決方法を出せる。

     あと、人の見方も変わると思う。いい人だと思うのに、仕事になると急に性格が悪くなるだとか、効率悪いことしてるなと思う人がいるが、それは欠乏のせいかもしれない。処理能力に負荷がかかって、衝動が抑えられなくなったり、冷静に費用対効果を考えられなくなっているのかも、と一歩引いて考えると、手助けしたら解決するかも、と優しい気持ちになれる、ような気がする。

     幅広い読者に読んでもらえるように、たくさんの欠乏の例をあげているが、そのどれもが「あ、わかるー!」と言いたくなるものばかりで、どんどん引き込まれていく。だいたいの問題は個人の問題ではなく、設計の問題。これから身の回りの色んな人を手助けするために動きたくなる本。

  • 【学び】
    欠乏状態は一時的に他のことを選択できない状態(トンネリング)にすることで、集中をもたらす。(いわゆる夏休みの宿題)
    一方で処理能力を低下させ、本意でない選択や行動をし続ける原因を生む。長期的な計画などには特に適さないため、より不合理な選択をし続けてしまう。失敗の代償が大きい状態ともいえる。
    解消するためには、トンネリング状態の中にインセンティブを設けたり、少ない処理能力で考えられるようにする、スラック(ゆとり)を強制的に作る等で、一時的に欠乏から脱出させた上で、長期的にそれが持続できる仕組みが必要。

    【感想】
    発想としてもっておくと、自分が切羽詰まっている状況・人に対して許せない行動等の原因がここにあるのかと考えるきっかけになる。その人が無能なのではなく状況がそうさせているので、まずはそれを取り除くのが大事。

  • 人間は欠乏(金が無い、時間が無い等)を感じるとその解消のために目の前の問題を解決することに集中する。その代わりに他の問題に対しての注意は疎かになり新たに問題を生むことになる。その対処に追われている間に新たな問題が生まれ、といった悪循環によって欠乏から抜け出すことは困難になる。予定外の問題への対処のためのバッファをみておきたい、といった内容。

    もっともな話だとは思うんだけど、それこそ余裕を得るための余裕がないんじゃ! って話になる気がする。

  • ・お金がない貧乏な人,時間がない多忙なサラリーマン,社会的に孤独な人等は「欠乏」という点において同じ状況にある.「欠乏」のメカニズムを解き明かす.

    ・欠乏=必要を満たすだけの資源がないという主観的な感覚
    ※主観的,とあるところがミソだと思う.

    ・欠乏は対象への集中を生み思わぬ生産性を発揮することがある.(集中ボーナス)しかし時間,空間的に視野狭窄になり誤った判断をしてトータルで損をする選択もしがち(トンネリング)
     [例]借金で首が回らない人がさらに借金をする.

    ・欠乏にあるだけでその人の処理能力や意思を制御する力が落ちる.
     貧困な環境に生まれた人は最初からハンデを背負っているということ.
     マタイ効果

    ・余裕がある時(スラックがある),人を欠乏に陥れるイベントに思いを馳せず,
     時間やお金といったリソースを浪費する.だからまた欠乏に陥る.

    ・欠乏に陥らないには??
     ★時間やお金の管理ではなく「処理能力」の管理をする.睡眠,会議を入れない時間,ちょっとの工夫で思考を占拠する雑務を忘れてもOKにする.(メモなどのメモリを使って脳というRAMを効率利用)
     ★余裕があるときにこそ,リソースの有効活用のために動く.いつもよりちょっと多めに貯金する,スケジュールの空きを作る,睡眠を取る,部屋をきれいにする.etcetc -> 「重要だが緊急でないこと」をすると同じ.


    普段の生活で忙しさや物足りなさ,焦りといったマイナスを「欠乏」という視点で説明するいい本だった.
    我々は常日頃から何らかの「欠乏」と「非欠乏」を行き来していると考えられる.「欠乏」をメタ認知して脱出を試みること,「非欠乏」を認識したら,「スラック」を作っておけないかと考えて動くことをしていけば,欠乏地獄に落ちることなくやっていけそうだ.

    会社の人間に読ませたい.


    ーーー


    ヘンリーDソロー:人の豊かさは気にしないでいられるものの数に比例する

    ジョンAボイラー:知識の島が大きくなるにつれ、無知の海岸も伸びる

  • シンプルな方法で問題解決するのが気持ちいい。
    また、当事者が混乱の最中に解決するのは、困難だということがわかった。

    とりあえず、メートル法に世界統一した方が多くのトラブルは減るのではないか...

  • 焦燥感や焦りという衝動への理解、対処のヒントになるかなと読んだ。
    本の内容を要約すると、訳者あとがきの次の一文のようになるだろう。

    """経済学では「希少性」という客観的な表現が使われるのが一般的だが、本書では「欠乏」感、つまり切実な「足りない」という主観的感覚を指している。そういう意味で、いつも「時間がない」と言って忙しくしている人も欠乏を経験している。そこがこの本のかなめである。時間が足りないと嘆く人と、お金が足りなくて生活が苦しいと思っている人に共通する心理があり、その心理が行動に影響するために似たような行動が生まれる。この考えを検証することによって、個人や社会を悩ませている問題への理解を深めて、よりよい解決策を提案したいというのが、本書の目的なのだ。"""

    焦燥感や焦りにつながる心模様を本著では「欠乏」と定義していた。欠乏とは「自分の持っているものが必要と感じるものより少ないこと。」となっている。
    「欠乏」は無意識に精神を占拠する。これは良い面を上げると対象に対して「集中ボーナス」が発生し持てるものを対象につぎ込むことができる。しかし、無意識のうちに発生する欠乏による精神の占拠は日常の他の面に気が回らなくなる。
    たとえば飢餓の実験をすると対象者の将来の夢がレストラン経営になったり、料理本を夢中で読み始める。これは食べ物が精神の中心を占拠し、欠乏によって物の見方が変わり、選択の仕方が変わってしまう症状だ。他にも欠乏とは無関係の大事な約束や締切を忘れるような「取りこぼし」が多くな る。払える見込みがない支払いを抱えているものが日常の仕事に集中することは不可能だろう。目先の解決にとらわれて「借金を返すための借金」をして雪だるま式に借金が増えていく。「そんなこと私はしないよ」と思っていてもお金ではなく「時間」に対して同様の対応をしてしまうことはよくある。

    """この現象は貧しい人だけのものではない。忙しい人たちは、しばしば同じように高い利率で時間を借りる。期限が迫っているプロジェクトのために、多忙な人はほかの仕事を先送りにすることによって時間を借りる。そして給料日ローンと同じように、返済期限は来る。後回しにした仕事をやらなくてはならないのだ。そして借りた時間にもたいてい「手数料」がかかる。仕事を先送りにすると、やり終えるのにかかる時間が増えるのだ。"""
    """これが続くと、やがて私たちが「ジャグリング」と呼ぶものになっていく。それは緊急の課題を曲芸並みに次から次へとやりくりすることである。ジャグリングはトンネリングの論理的帰結だ。人はトンネリングを起こすと、問題をその場しのぎで「解決」する。いまできることをやるのだが、それが将来の新しい問題を生む。"""

    欠乏を避けるにはどうしたらいいか、本著ではそれを「スラック(余裕)」の概念とよんでいた。スラックがない場合、欠乏による焦りがさらなる欠乏を生む。

    """スラックの概念は欠乏心理の核心に迫るものだ。スラックがあると豊かさを感じられる。スラックはたんなる非効率ではなく、心のぜいたくでもある。豊かであれば、より多くの品物を買えるだけではない。ぞんざいに荷づくりをするぜいたく、考えなくていいぜいたく、そしてまちがいを気にしないぜいたくが許される。ヘンリー・デイヴィッド・ソローが言うように(25)、「人の豊かさは気にしないでいられるものの数に比例する"""

    スラックがなければ欠乏は我々の処理能力に負荷をかけていく。負荷がかかる状況を理解し、欠乏の影響を加味して選択を再考する、決定すべき選択肢の基本要素を明確にし、用意し認知能力を効率よく利用する必要がある。

    欠乏という概念と欠乏がおよぼす行動への悪影響を認知できるようになった。
    自分の中でかなり速読したせいか、その具体的な対処方法まではわからなかったが、「今欠乏の影響を受けている」と自覚するだけでも自分の選択を変えていけるかなと思った。

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