ベーシック・インカム 国家は貧困問題を解決できるか (中公新書) [Kindle]
- 中央公論新社 (2015年2月25日発売)
- Amazon.co.jp ・電子書籍 (179ページ)
感想・レビュー・書評
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国が国民全員に一定額の現金を配るベーシック・インカム(BI)について、その考え方と財政的妥当性を論じている。著者は経済企画庁や財務省で課長までなった後、大和総研などを経て早稲田大学特任教授になったという人物なので、決して荒唐無稽な私論ではないと思われる。
BIについては様々な批判もあるため、想定される批判に応えるという形で語られている部分が多い。まず国家が現金を配るということの政治的・思想的な妥当性を論じた後、財政的に可能かどうかを計算している。
著者の主張をまとめると以下のようなものだ。
・憲法にある「健康で文化的な最低限度の生活」を保証するのは本来なら国家の役目だが、現在の日本では会社がそれを担っている。会社をこの役割から解放して国家に移すのは正しい。
・BIは生活保護や各種補助金など現行の福祉政策を置き換えるものなので、追加で必要となる財源はさほど大きくない。BIの金額にもよるが、現実的な範囲の増税でまかなえる。
・BIが勤労意欲を削ぐといった問題点は、捉え方によっては問題点ではないし、現行の制度にも多くの問題があるので、大きく変わることではない。
恐らく著者の主張や指摘は正しいのであろう。しかし、額に汗してお金を稼ぐという行為を貴いと考える人ほど、働かなくてもお金が貰えるBIの導入には心理的な抵抗を感じるのではないだろうか。都市レベルでの実験はあっても国家的規模で導入した国がまだないのも、論理的というよりそういう感情的な受け入れがたさがあるからだと思う。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
こういう話は理念だけでなく実現可能性が説得力に関わってくると思うのですが、その点でいうと「著者が不要と考える事業をやめれば財源は捻出できる」みたいな議論が多くて個人的にはあまり納得感がありませんでした。
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そもそもお金がない人を助けるには、お金を配ればよいのではないか――この単純明快な発想から生まれたのが、すべての人に基礎的な所得を給付するベーシック・インカムである。
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観念的な話としては理解できても、実際どうなの?できるの?と疑問に思うところを、日本の財政と政策に照らして具体的に議論した労作。ありうべき反論、批判を潰していく手付きも鮮やかだ。
バラマキこそ正しい!という主張は目から鱗が落ちるけれど、現行の政策をまるごと否定するようなところもあり、官僚の抵抗は想像に難くない。相当にドラスティックなパラダイムシフトをともなうことなのだとわかる。
これをすんなり飲めるような、さばけた国民性なら、そもそもこんな息苦しい社会にはならなかったのではないかとも思われ。 -
「貧困とはお金がないという問題なのだから 、お金を給付すれば貧困を解消できる 。しかし 、人々の所得を把握し 、給付が人々の働くインセンティブを歪ませないようにする (正確には歪みを極力小さくする )ために 、給付の仕方に工夫がいる 。その工夫が 、すべての人々に基礎的所得 、ベ ーシック ・インカム ( B I )を与えることなのである 」
「現行の生活保護制度の問題点は 、その給付額が十分か否かではなくて 、そこにアクセスできない 、つまりもらうべき人がもらっていないことだ 。 B Iという制度にアクセスできれば 、人々は生活費を得られ 、絶対的な貧困から脱却することができる 。 B Iの利点は 、すべての人々を貧困から救うことができるということだ 。」
という議論。月に7万円程度のBIの財源であれば、BIに代替される雇用維持政策を廃止することでほぼ何とかなってしまう。ただし原稿の雇用維持政策は、政府が無理やり産業を作っているものであるとはいえ、それに従事している人たちは「無理やり働かされている」ではなく「苦しいながらも補助金を得て何とか頑張っている」という意識でいようから、これを切り捨てるのには大きな痛みを伴う。
将来的には、役所の裁量を無くし、単純明快なBIによって最低限度の文化的生活を国民すべてに保障すべきだと思うが、さしあたり、給付付き税額控除の導入と、無駄な補助金の削減を並行して進めることで、漸進するほかないのではないか。