バビロン1 ―女― (講談社タイガ) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 1~3巻の感想をまとめて記載
    【これを読んだ後に読みたくなった本】
    ・フロイト『自我論集』ちくま学芸文庫:曲世がカウンセリング中に読んでいたフロイトがだいたい入ってる。
    ・バタイユ『エロティシズム』ちくま学芸文庫:フロイトを本屋で見ていた時にたまたま目に入った。目次とかを見る限り、かなり曲世っぽい内容な気がする。
    ・伊藤計劃『ハーモニー』ハヤカワ文庫JA:善=続く、の話をミァハがしている。
    ・ミルトン『失楽園』岩波文庫:アダムとイブの話
    ・『ドラゴンクエスト』:本ではないが、アレックスの話でやってみたくなった。

    【感想】
    ■結構前にアニメを観て、とても面白い作品と思ったので、
    まとまった時間ができた今のうちに小説も読みたいと思って。
    ただ、アニメも小説も決して手放しで人にお勧めできるものではない。
    ものすごく人を選ぶ作品だと思う。
    『「映」アムリタ』のシリーズしかり、『ファンタジスタドール イブ』しかり、
    この人は本当に「台無し」を書くのがうまい。
    いろいろな意味での「台無し」の絶望感を楽しめる人にはお勧めできるかもしれない。
    (『ダンガンロンパ』シリーズの台無し感は多少近いものを感じる。)
    聖書やギリシャ神話のモチーフも用いられていて、
    そっちのほうもそのうち読みたくなった。

    ■自殺とか、善についてのアイデアはなんとなく
    伊藤計劃『虐殺器官』『ハーモニー』に影響を受けてる感じはある。
    特に善についてはどこかでミァハが
    良いこと、善、っていうのは、突き詰めれば「ある何かの価値観を持続させる」ための意志なんだよ。
    って言ってた。

    ■1巻は東京地検特捜部の捜査官 正崎善が、
    製薬会社の不正から、政治の汚職を追及する話……かと思いきや。
    一応、最初から不穏なもの(FFFFFFFFFFFFF…)があったとはいえ、
    二百数十Pくらい使って、そういう感じの話を展開しておきながら、
    最後に曲世愛という究極のファンタジー存在。

    齋開化もいいキャラしてる。
    第一巻は、曲世より齋のほうが印象が強かった。
    新域の意義を演説しているときの、
    死をプロメテウスの炎と類比しているのが面白い。
    「あらゆる生物は火を恐れる。人も火を恐れるが、
    人は火を管理する方法を身に着け、社会と文化を急速に発展させた。
    第二の炎は<<死>>である。
    あらゆる生物は死を恐れる。人も死を恐れる。
    ただ、適切に死を管理する方法を身に着ければ、
    さらなる発展がもたらされる。」(雑要約)
    よくこんなこと考えつくな。
    そして恍惚の表情で飛び降り自殺していく64人。

    最終的に書きたいのは最後のところだけなんだろうけど、
    文緒や刑事たちや、汚職の捜査を丁寧(?若干テンプレ感はあるが)
    に描いていることで、正崎が捜査を進める動機などに納得感がもて、
    以降の話の突拍子もないところにだけ集中できる。
    つまり細かいところの減点が少ない。
    内容としては完全に色物だと思うけど、こういう技術的なところは
    本当に読者にストレスがかからなくなっていて、素晴らしいと思う。

    奥さんかわいいな。三葉虫には笑った。

    ■第二巻のハイライトは、公開討論の齋と、何より点線かな。
    最初の200Pくらいで作った緊張感を齋と曲世が全部捻じ曲げて、
    絶望に叩き落す。

    公開討論の内容は、似たような議論が3巻でもされるけど、
    現代の倫理学の主要な3つの理論
    功利主義、義務論、徳倫理
    をなぞっているように思える。
    自殺というセンシティブな話題で、ベテラン政治家4人の正論を
    ぼこぼこに打ちのめす齋は痛快でもありながら、
    同時に畏れを感じる。

    曲世に対峙した後の九字院の、「あの感覚」の説明は生々しすぎて、
    読んでて気持ちが悪くなるくらい。
    (まどさん男性なんかな?劇場での著者近影では女性ぽかったけど。)
    その感覚で迫ってくる「死の快楽」。
    そもそも「対峙」にすらなってない。そっと話すだけで「そうなってしまう」。
    圧倒的絶望感。

    点線が実践に変わる瞬間。
    「犬好きの人だって、猫のことを理解してもらえば、きっとその魅力が伝わる。
    善人と悪人の違いはそれだけ。
    善いことが好きな人と、悪いことが好きな人。違いはそれだけ。」
    曲世は悪人。悪いことが好き。
    ただ、曲世も人間(?)だから、人に愛されたい。理解してほしい。
    「だから、考えて?これが悪いこと」
    点線が実践に変わる。
    「貴方にも解るから。きっと、絶対に解るから‼」
    点線が実践に変わる。

    診療所での生徒たちが曲世に「犯された」話も、
    そんなことありえないはずなのに、生々しいという矛盾
    が気持ち悪くて面白い。
    「過度に、過当に、限度を超えて魅惑的」過ぎて、
    「むやみにふりまかれていた。」
    「耳元で、拡声器で怒鳴り散らされるように……愛が無理やり入ってくる。
    自分の中に入ってくる。」
    「望まぬものが自分の中に侵入してくるという感覚。
     それはまさに、強姦と表現するより他にない」

    ■第三巻は舞台が変わってアメリカの、主にホワイトハウスで話が進む。
    ただこれも最初の200Pくらいは準備だな。
    パラ読みでもいいくらい。
    神父に話を聞いたところとかは重要だけど。
    あと、ドラクエの話は気になった。
    今までドラクエやったことないけど、1~3はそんなに
    長くないという噂を聞いたことがあるからやりたくなった。
    通訳の人の日常は、いらんかったんじゃないかな。

    大統領が説明する、「黙示録に出てくる7つの頭の獣」で、
    新域庁舎が7つのタワーで構成されていることがつながってくる。
    それとG7をつなげたのも面白い。
    まあ、だから何だって感じはなくはないが。
    大淫婦バビロンは、最後は神によって焼かれ、裁かれる
    とあるが、ここで少しだけ希望を持たせるのも素晴らしいテクニック。
    この物語の「バビロン」はどうなるのか。

    G7サミットの話は、基本的な倫理学の話をなぞっている。
    功利主義、義務論、徳倫理。
    国の長に、それぞれの国のステレオタイプに沿った倫理学的主張を
    させているのは面白い。
    首相が、しかもサミットで議論するような内容ではないと思うが、
    まあそこはフィクションの演出ということで。

    正崎さんが、公羊佳苗を曲世と断定してしまったけど、
    この後の展開を考えると、特に間違ってしまったことへのフォローもなく、
    あんまりいい効果はなかったように感じる。
    「普通に間違えた」って感じになって微妙。

    サミットでの議論を経たうえで、
    公羊との対話でアレックスは「善とは何か」の答えにたどり着く。
    ただその直後に、その答えを公羊に伝えようとした瞬間に
    「よくできました」
    ここでこの言葉を選ぶセンスがいい。

    280P(04:46から)くらいの絶望感はとてもいい。
    僕は誘われた。
    神は言われた『善悪の知識の木からは、決して食べてはならない。食べると必ず死んでしまう』
    つまり知恵の実は、
    食べると「悪」を、「終わること」を知ってしまう。
    その身に「死」が訪れることになる。
    それが悪いことだと知っている。悪いことの結果がどうなるのかも。
    それでも僕はそれをだべるんだ。
    なぜ?
    だって、
    その実は、
    「」
    iPadで読んだが、ここは紙の本で読んだほうが良かったかも。
    記憶の中のアニメ版とは演出の方向性が違っていて、
    どちらも素晴らしい、吐き気を催す絶望感。
    アダムとイブの話はほかの作家でもたびたび出るけど、
    まど作品にも結構出てきていると思う。
    『「映」アムリタ』と『know』には出てきていた。
    「目の前においしそうな実があったら食べずにはいられない」、
    みたいな話は『「映」アムリタ』に出てきていたと思うし、
    「知恵の実を食べることで、死を知る」というのは、
    『know』のテーマになっていたことだったと記憶している。

    その後の曲世の描写は最高に絶望的です。
    その魅力を伝えるのは難しいし、
    多くの人は気持ち悪がるだけで魅力には感じないだろうけど。
    ここはあえて具体的に文章で感想は書かないようにしとこう。
    思い出したくなったら、その場所を読むことでしか、
    この感覚はなかなか得られない。

    この巻の最後も「つづく」となっているけど、
    2017年12月に発売されてから、2023年が終わろうという今になっても、
    続きは書かれていない。
    善=続く、悪=終わる、ということだとすると、
    この「物語が終わっていない」状態は善いものだといえる。
    ただ、絶望に叩き落されたままの状態ですら続いていればそれで
    いいのかというと、あまりにもな感じがある。
    そういう作者の演出なのか、あるいは単に書く気が起きないのか。

  • 正義とは、正しいとはという問いに答えているところが、あまり例を見ない気がして良いと思いました。

  • 2023.09.02 読了。

    YouTubeチャンネル『ほんタメ』さんにておすすめされいたのをきっかけに買って読んだ作品。

    この『1』だけだと話の途中なので評価はできず。
    あくまでも序章という感じ。

    女性って恐い。

  • 数ページ読んで、あれ?本当に野崎まど?間違えた!?という感じの社会派サスペンス。
    もちろん良い方の驚き。

    最後の方で、あ、やっぱり野崎まどだ…ってなったけど。
    もちろん良い方向の得心。

  • 東京地検特捜部検事・正崎善は、製薬会社と大学の関与する不正事件を追ううちに押収された書類の中に真っ黒になるほどのFの文字で埋め尽くされた髪の毛や皮膚の混じった血痕のついた書面を発見し…。最初の掴みはばっちり、その後もとにかく展開がスピーディでページをめくるのがもどかしいほど。思いがけない展開に置いていかれないかとドキドキしました。アニメ化とのことで、確かにアニメに向いていそうですが細かい部分を端折ってしまったら勿体ない気がします。物語はまだ序盤のようです。勿論こんなところで終われないので続きを読みます。

  • 2016/9
    2019/12

  • 凄い掴み。全然予想できない展開。?なタイトルだったけど、読み終えると、妙に納得できる。続刊に期待。

  • まがせあい。スゲー名前w

  • 謎を追う熱い男の話・・ではなかった。最後の展開が大袈裟すぎて現実感が一気に消えてしまい驚いた。でもきっとこっからが本番なんだよね。つづく

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著者プロフィール

【野﨑まど(のざき・まど)】
2009年『[映] アムリタ』で、「メディアワークス文庫賞」の最初の受賞者となりデビュー。 2013年に刊行された『know』(早川書房)は第34回日本SF大賞や、大学読書人大賞にノミネートされた。2017年テレビアニメーション『正解するカド』でシリーズ構成と脚本を、また2019年公開の劇場アニメーション『HELLO WORLD』でも脚本を務める。講談社タイガより刊行されている「バビロン」シリーズ(2020年現在、シリーズ3巻まで刊行中)は、2019年よりアニメが放送された。文芸界要注目の作家。

「2023年 『タイタン』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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