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感想・レビュー・書評
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伊藤計劃はサイバーパンクを「テクノロジーが人をどう変えるか、という問いを内包しているSF」と定義したという。今回のアンソロジーもまさにこれをテーマとした短編が集められている。(狭義のサイバーパンクはないものもあるけども)
最後の2作がとても良かった。伴名練と長谷敏司のためだけでも買う価値あり。
公正的戦闘規範(藤井太洋) ★★★★☆
昔スマホにデフォルトでインストールされていた狙撃ゲームに隠された秘密に気づいてしまう。戦争は戦地の中にいる兵士だけで行わなければいけない、殺意を戦場に閉じ込めるために。
仮想(おもかげ)の在処(伏見完)★★★☆☆
出生時に死亡した双子の姉がAIとしてシミュレートされる。もてはやされる姉に対する嫉妬心、苦悩。ヒューマンドラマテイストのSF。設定はまずまずというか悪くないけど、物語の展開はもう一歩。
南十字星(柴田勝家) ★★★★★
伊藤計劃へのリスペクトを感じる。ハイテクノロジー×戦争。電脳化された高度なテクノロジーを活用する人々と、そうではない貧しい人々。戦場において、軽く扱われる人命と、葛藤。
単発の短編として書かれた後に、これを第一章とした長編になったとのこと。
未明の晩餐(吉上亮) ★★★★☆
死刑囚に最期の晩餐を用意することを稼業としている主人公。新鮮な設定が良い。SFは設定が9割(持論)
にんげんのくに(仁木稔) ★★★☆☆
近未来、戦争によって文化を失った人間族は暴力的になっていた。バイオレンス味強め。SF感薄めだけど、記憶に残ってる。南米のヤノマミ族がモデルらしい、というのを先に知ってたら、もっと面白く読めたと思う。
ノット・ワンドフル・ワールド(王城夕紀) ★★★☆☆
設定がベタだった。巨大ハイテクIT起業の天才、テクノロジーによるユートピアな世界、人智を超えるAI…的な。
フランケンシュタイン三原則、あるいは屍者の簒奪(伴名練) ★★★★★
初、伴名練。なるほど、「2010年代、世界で最もSFを愛した作家」と早川のSFマガジン編集長の塩澤氏が言ったのはそういう意味かと。
過去のSF作品の登場人物や歴史上の実在人物を登場させて歴史改変モノのテイストもある。(これまで真実を語ろうとしなかった死刑囚が死刑執行の直前に真実を語り始めるところから始まるが、その男はかつて切り裂きジャックと呼ばれていた、というところから始まり、ナイチンゲール、ヴィクター・フランケンシュタイン、ジキルとハイド、沖田総司等などバラエティ豊かな登場人物)
肉体と魂、あるいは魂の実在を主題としているし、登場する最新テクノロジーは生物を解体して道具として使うようなもので、全体的に伊藤計劃っぽい (虐殺器官や屍者の帝国っぽい) 世界観で、伊藤計劃トリビュートと呼ぶにふさわしい。
SF的謎解きミステリーもあり、バトルアクションもあり、素晴らしいエンターテインメントだった。
怠惰の大罪(長谷敏司) ★★★★★
麻薬、コカイン溢れるキューバが舞台(なんとなく『ゲームの王国』っぽい?)
密売人(ナルコ)として名を上げたカルロスの物語。エグみの強いバイオレンスもあり、長谷敏司はこういうものも書けるのかと。
SF設定は物語の中心ではないけど、重要な味付け要素としてAI高度に発展したAIによる密売人の位置予測が登場する。
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ーーー伊藤計劃が2009年にこの世を去ってから早くも6年。彼が『虐殺器官』『ハーモニー』などで残した鮮烈なヴィジョンは、いまや数多くの作家によって継承・凌駕されようとしている。
伊藤計劃と同世代の長谷敏司、藤井太洋から、まさにその影響を受けた20代の新鋭たる柴田勝家、吉上亮まで、8作家による超巨大書き下ろしアンソロジー
"ポスト伊藤計劃"の担い手となるべき作家たちによる中篇集。
それぞれ伊藤計劃へのリスペクトが感じられつつも、各作家の色もきちんと出ていて新鮮な読み心地だった。
中でも『未明の晩餐』が良かった。頽廃した近未来の中での食というものがこんなに面白くなるとは思っていなかった。
これを書いた吉上亮は、デビュー作の『パンツァークラウンフェイセズ』を読んだけど描写にクセがあって少し馴染めなかったけど
『未明の晩餐』ではほとんど気にならなくなっていたので次回作にも期待したい。