この本で初めてシモーヌ・ヴェイユの存在を知った。このような純粋な人がいたとは。彼女は哲学教師の資格を持ちながら、労働者を真に理解するために、彼らの中に入り、彼らと共に工場で働いた。「工場日記」はその時の体験を綴った日記。
病弱で体調を崩しながらも日々過酷な労働をし、その体験をつぶさに書き留めている。日記の中には体調の悪さや労働の苦しさがリアルに描かれており、彼女の経験した苦しみが切実に伝わってくる。
「よく眠れない。朝、食欲なく、かなり激しい頭痛。出かけるとき、胸をしめつけられるような苦しみと不安をおぼえる。」
「憂鬱で、くたくたに疲れ切り、どうしようもない怒りのために胸がつまるような思いがし、自分の中の生命力がすっかり空っぽになってしまったような感じがする。」
これほど苦しんでまで、なぜ彼女は工場労働を続けたのだろうか。彼女を突き動かしたのは、彼女の持つ本質的な欲求だった。
「人々と同化し、人々と同じ色をまとうことによって、その人々の中を、さまざまな人間的環境の中を通って行きたいという本質的欲求を、わたしは持っております。それを、神の召命と呼んでもよいと思います。」
苦しみを言い訳にせず、自分の本質的欲求に真っすぐに従う。なんて強い純粋さだろう。
そんな彼女の以下の一言が重い。
「決して苦しんだことのない人間の単純さ。」