忘れられた巨人 [Kindle]

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レビュー : 10
  • Amazon.co.jp ・電子書籍 (375ページ)

感想・レビュー・書評

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  • 「忘れられた巨人」(カズオ・イシグロ : 土屋政雄 訳)を読んだ。「わたしを離さないで」は嫌い、「日の名残り」は好き、「充たされざる者」は途中で挫折、と作品ごとに私の中での評価がバラバラなイシグロさんですが、この作品については、『嫌いではないが悲しすぎるだろ!』というところかな。

  • 長い。が、いい話。過去の出来事に蓋をしていたい気持ちとしっかり向き合いたい気持ちのせめぎ合い。

  • カズオ・イシグロの第七長篇と呼ばれるもの。
    個人的には本作がイシグロ先生の初作品だが、相当に面白かった。
    久しぶりに、寝るのも忘れて読んだ本(結構な長編だが二日で読破)。
    子供の時はよく、本が面白くて寝るのも忘れてワクワクしながら本を読んだが、いつ頃からか大人になってくると単に楽しむ本ではなく、実用書であったり啓発系の本を手にとらざるを得なかったので、久しぶりの本に夢中になる感覚を味合わせてくれた本書に感謝。

    内容は、どうもそれまでの作風とは異なったファンタジー系とされるようだが、著者は本質的にはラブストーリーと述べている。

    著者の主人公のアクセルのベアトリスに対する優しい言葉遣い、ガウェイン卿、ウィスタン、エドウィンとの会話から溢れ出る人格の描写力に自然と唸ってしまう。

    プロットの折り重ね方にも唸る面ばかりで、著者はどのように構成のヒントを得てから構成作りをしているのか尋ねてみたい。

    小説の最後の終わり方は、作品によって様々だが、本書の場合、結局最後はどうなったのか(アクセルも島に渡らせてもらえるのかどうか)、解釈も読者によってマチマチではないだろうか。

  • アーサー王亡き後の英国を舞台とした、ある老夫婦アクセルとベアトリスの物語。
    古くからその土地に暮らしてきたブリトン人と、大陸からやってきたサクソン人の集落が点在する時代。
    平和に暮らしていた老夫婦だが、過去に起こったあるできごとのせいで、夜中に蝋燭を灯すことを禁じられていた。しかし、それが何のためだったのか、村の人々も老夫婦にも記憶がなかった。記憶の欠落はそれだけではなく、ちょっとしたことから大切なことまで、あらゆる記憶が少しずつ欠落しているのであった。
    老夫婦は、かつて生き別れた息子を探し求めて旅に出る。そして、その記憶の欠落の原因を知るのであった。
    アーサー王の甥ガウェイン卿、沼沢地から来たサクソンの戦士ウィスタン、そして鬼に噛まれた傷跡によって村から追い出される少年エドウィンと出会い、旅をすることによって老夫婦は何を得、何を失うのか。
    現実と非現実が入り交じる中世の風景の中で、抽象的な表現も多い。よくわからない存在が随所に登場して、ともすれば読者は置いてきぼりになってしまう。アクセルとベアトリスの会話も、たまに支離滅裂になったりする。記憶がところどころ欠落している上、たまに鮮明な記憶が蘇るのに、それを表面に出すと相手を傷つけてしまうからと、取り繕ったりするのでまた会話が混沌としてくる。
    ファンタジーというベースの中にありながら、全体的に霧のかかったような雰囲気が漂い、情景が把握できない状況にしばしば陥るこの物語は、ファンタジーという枠には収まらないし、かといって文学の概念からも外れているように思える。しかし、老夫婦の旅とともに明らかになる事柄や、旅がもたらす心情の変化、さらに老夫婦が最後に到達する地点は、やはり文学的示唆が感じられる。そこまでの旅の中で幾度も繰り返される暗示によって、彼らがふたたび相見えることはないのだと、読者は確信にも似た心地になる。それでいて、作品としては結末を明示せず、読者に委ねられている。
    読んだ直後は唐突な終わり方に思えてしまったのだが、時間が経つにつれて、それはそうあるべきだったと、すとんと腑に落ちるように思えた。
    『私を離さないで』の中で、施設の登場人物たちが「そこにある秘密」についての話題を避ける描写があるが、カズオ・イシグロの作品の中ではこれは繰り返されるテーマのように思える。読者はわかっているのに、登場人物は気づいていない(もしくは気づいているのに気づかぬふりをし続ける)のは、ドリフのコントで言うところの「シムラ、後ろ! 後ろ!」なのだ。
    『忘れられた巨人』でもやはり同じで、アクセル自身も忘れてしまった過去については、読者はかなり早い段階で気づくように仕掛けられている。そして読者はそれがわかっていながら、気づかないアクセルに寄り添って旅を続けていくことになるのだ。
    こういうところがカズオ・イシグロの文章の気持ちいいところなのかもしれない。

  • おっそろしい話。ほの明るく見えるけれど底を見通すことのできない、薄靄に満ちた穴を覗き込んでいるような。

  • 読み助2018年4月19日(木)を参照のこと。http://yomisuke.tea-nifty.com/yomisuke/2018/04/3-9513.html

  • カズオイシグロの小説は、道具仕立てが毎回違う戸惑いと楽しみがあるが、今回はアーサー王伝説と神話にモチーフを借りた長編小説。
    今読み終えた気分は、もやもやと複雑な気分。最後は愛の告白であり、別れの予兆であり、いろんなものが入り混じった結びの場面だ。
    希望の光は、戦士と竜に魅入られていた少年が、民族的に敵である老夫婦を憎みきれないところ。だからこその葛藤が、人間らしいとも言える。
    単純なハッピーエンドやカタストロフではない、複雑な読後感は、やはりこの作家のなせる技かもしれない。

  • まだ伝説というものがあった時代のイギリスを舞台に書かれています。中心となる人物は、とある村に住む老夫婦。ある日、息子に会うための旅に出ます。その途中に幾多の苦難と出会い、そして宿命に出会い、少しの旅の予定が思わぬ方向に巻き込まれていきます。しかしそれは、物語の最初から底の方に一本流れていた主題から当然視しながら進んでいきます。そして物語が進むにつれてそれが徐々に輪郭を帯びて行く。そのリアリティさがヒシヒシと心に迫ってくる感じに引き込まれていきます。この旅の目的や結末が思わぬ形で、しかし道中いくつかの伏線で感じられる形で、迎えられています。登場人物たちの背負うものが生命力を発揮するような、深く良い読後感を感じさせていただきました。

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著者プロフィール

カズオ・イシグロ
1954年11月8日、長崎県長崎市生まれ。5歳のときに父の仕事の関係で日本を離れて帰化、現在は日系イギリス人としてロンドンに住む(日本語は聴き取ることはある程度可能だが、ほとんど話すことができない)。
ケント大学卒業後、イースト・アングリア大学大学院創作学科に進学。批評家・作家のマルカム・ブラッドリの指導を受ける。
1982年のデビュー作『遠い山なみの光』で王立文学協会賞を、1986年『浮世の画家』でウィットブレッド賞、1989年『日の名残り』でブッカー賞を受賞し、これが代表作に挙げられる。映画化もされたもう一つの代表作、2005年『わたしを離さないで』は、Time誌において文学史上のオールタイムベスト100に選ばれ、日本では「キノベス!」1位を受賞。2015年発行の『忘れられた巨人』が最新作。
2017年、ノーベル文学賞を受賞。受賞理由は、「偉大な感情の力をもつ諸小説作において、世界と繋がっているわたしたちの感覚が幻想的なものでしかないという、その奥底を明らかにした」。

カズオ・イシグロの作品

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