- 本 ・電子書籍 (405ページ)
感想・レビュー・書評
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騎士が出てきたり、竜が出てきたり、使われている素材だけ見ればまっとうなファンタジー。なのだけど、読み始めると思いのほか起伏が少なく、どこか靄のかかったような心許なさを覚える。タイトルにある「巨人」なる存在は最後まで登場せず、知らず知らずのうちに大事な何かをポロポロと取りこぼしてでもいるかのような手応えの無さが残り続ける。それらは本小説の主題である「忘却」の隠喩なのかもしれない。というかおそらくそうなのだろう。そもそもの旅の目的である「息子に会う」という事柄は、ふたりにとって向き合うべき「疵」といった意味合いを持ち、それが達成されるかどうかは重要ではない。おそらくは、旅において息子のことを追憶することそれ自体に意味があるのだろう。同じように、物語中で起こる出来事の数々は、その過程こそゆったり描写していくものの、オチについては割とどうでも良さそうで、やはり霧のかかった――何かを忘却している気持ちになる。
誰も巨人のことを思い出すことが無く、しかしその不在が占める空白は明らかに大きく、何を失ったかさえ私たちは覚えていない。
あと、確かにおじいさんの名前が格好よかった。アクセルって。高速移動の魔法とか使いそう。おばあさんの名前はベアトリスだし(FF9のベアトリクスを思い出しました)、王道の中世ファンタジーっぽい名前を使っているのはあえてなんでしょうね。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
・この著者の作品をよんだあとは、記憶のたよりなさが恐ろしくなる。
・人間の感情にあわせて変化する場の空気の表現が上手い。-
2022/10/21
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2022/10/21
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結構前に読んだ記憶を掘り起こしてみる。
老夫婦が息子を探しにドラゴン退治する。そんな話しだったと思うが、とても温かく靄のかかった愛を感じる印象が未だに残っている。
Kindleの電子書籍しか持ってないから、ハードカバーと文庫両方揃えてしまおうか。今の積読が終わったら再読しよう。 -
幻想的な世界観で、記憶に霧がかかったという設定をうまく表している。ファンタジー要素が強く、おとぎ話の中の現実と文学的なメタファーの境界が溶けて滲んでいる。何かしら示唆されているのだろうなと思っても、難しくて私には捉えきれなかった。読書会とかで他人の解釈とか、文学通の開設を聞いてみたいなと思った。
特に解せないのは以下の点。
・少年に最初に傷をつけたのは何だったのか?
・少年が縄を解いてやった少女は何だったのか?
年をとったら、また読んでみたいと思う。忘却と許しがあったもの、反芻により濃くなった怒りや恨みが残ったっものがより顕著になるであろう年代が読んだら、また違う感想になると思う。
ちょうど漫画の「進撃の巨人」を読んでいたので、言及せずにはいられない。過去の暴力・戦争、憎しみあい、意図的な忘却、敵対勢力間に芽生える個人的な友愛感情と両作品に共通する要素が多い。「進撃の巨人」の種本かと思ったが、「忘れられた巨人」の方が後進だった。 -
「忘れられた巨人」(カズオ・イシグロ : 土屋政雄 訳)を読んだ。「わたしを離さないで」は嫌い、「日の名残り」は好き、「充たされざる者」は途中で挫折、と作品ごとに私の中での評価がバラバラなイシグロさんですが、この作品については、『嫌いではないが悲しすぎるだろ!』というところかな。
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小説で、慣れるまでは読みにくいがノッてくるとハマる、というのは多い。これは、なんと初めから最後まで面白い。
アーサー王が死んだ後に残された世界。
統一したように見えて、民族の間には遺恨がある。
それが一時的に忘れ去られているが、思い出したらどうなるのか。失われている記憶が戻ったら、という問いが個人や民族に対して行われている。 -
とにかく寓話的で、私はこういう語り大好きだしイシグロの傑作に入ると思うんだけど、ラストに驚いた。そしてここまで読んできた私はいったい…と徒労感に襲われたのも事実。ちなみにオーディブルの語りの声が気に入ってはじめてオーディブルで完走した。
著者プロフィール
カズオ・イシグロの作品





