雪の轍 [DVD]

監督 : ヌリ・ビルゲ・ジェイラン 
出演 : ハルク・ビルギネル  メリサ・ソゼン  デメット・アクバァ  ネジャット・イシレル 
  • KADOKAWA / 角川書店
3.56
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感想 : 13
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  • Amazon.co.jp ・映画
  • / ISBN・EAN: 4988111249319

感想・レビュー・書評

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  • 第67回カンヌ国際映画祭パルム・ドール大賞・国際映画批評家連盟賞受賞作品
    トルコの作品
    これだけの情報で観てみることにしたのだが…
    (3時間以上の長〜いストーリー
    何の情報もなく観始めたため、途中まで一体何の映画なのかさっぱりわからない(笑))

    舞台はカッパドキア
    美しい風景とカッパドキア独特の洞窟住居
    この洞窟ホテルを経営する元舞台俳優の主人公アイドゥン
    裕福な彼の元で暮らすのは酒浸りになった夫と別れた出戻りの妹と、若くて美しい(しかし確執のある)妻

    じっとりとした湿気を含んだ雪が美しいカッパドキアを覆いつくす頃、ホテルの客たちは過ぎ去り、家族だけが残される
    閉鎖された環境下で彼らは抑えてきた鬱蒼とした本音が溢れだす

    主人公アイドゥンは物書きの端くれのようなことを楽しんでいる(本人は至って真剣に取り組んでいるのだが…)
    今まで作品を褒めてきた妹が、偽善的だのと何かと言いがかりをつけ付け始める
    彼女は通訳をしていたようだが仕事もやめ何もしない毎日を送り、毎晩のように主人公の書斎へやってくる
    一見仲の良い兄弟かにみえるが…お互いの本音がジワジワと溢れ出す

    どこか世間知らずで慈善事業的行為が好きな若く美しい妻
    真面目で崇高な精神の持ち主だが、頑固で悪いことはすべて傲慢な夫のせい…と悪循環に陥っている
    彼女を心配する夫アイドゥンのいつまでも籠の中の鳥のような扱いにもうんざりしている
    すべての悪の根源が夫のように感じ出し、空回りし出す
    アイドゥンは決して悪い男ではない
    そりゃ、生まれも育ちも良くお金にも困ってなくて舞台俳優なんかやっちゃったからもんだから、
    ちょっと傲慢で、常に人を一段下に見下しちゃうけど…
    もっと言っちゃえば、偽善的で物事を正当化するのも得意だけど…
    人あたりはソフトだし、それなりに気も使っている、愛想だって悪くない
    それくらいで「何が罪なんだ!」と妻に詰め寄りたくなるのはわかる(笑)

    またアイドゥンが家を貸すイスラム教導師一家がこの物語に深い影を落とす
    暗い目をした息子、刑務所帰りの弟
    家賃滞納をし、複雑にアイドゥン達と絡み合う…
    お互いの立場の違いと価値観の違いから嫌悪感を抱き合う
    最後のアイドゥンの妻と世間を心の底から憎んでいるかのようなこちらの弟との「ある出来事」の場面は息をのむ場面だ

    この本音が溢れ出すともうとどまるところを知らない感じが(特に今の)日本人には無い感覚だ
    皆が一歩も引きさがらない
    自分ならものの3分で「もういい!」と立ち去りたくなる…
    しかし彼らは延々と言葉を変え、言い回しを変え、自分の主張を畳みかけるのだ
    ちょっとしたすれ違いなのだ
    立場や状況下、環境、価値観…
    そう誰も悪くない、そして誰もが悪い
    しかし誰しもにありがちな短所に過ぎない
    それなのに…
    言葉に出せば出すほど気持ちがすれ違うもどかしさと苦しさ
    放った言葉はもう取り返せない
    相手を傷つけるほど、自分の傷つく
    だけど言葉を止められないあの感覚…
    何度も「わかる!わかるけど…でも…」と声が出そうになる

    雪がやみ、春が訪れるころ彼らはどうなっているだろうか…
    雪解けのようにお互いを赦し合い再び同じ空間で暮らしていくのだろうか…

    しかし非常に長い映画である(3時間を超える)

    冗長的と捉えるか、心の深さと捉えるかはあなた次第である
    個人的には物珍しいものを観たという観点とカッパドキアの美しさ、洞窟ホテルのインテリアなど
    諸々楽しめたが二度は観れないなぁ…(こういう映画が素晴らしいと思えるにはまだまだ人生の修行が足りないのでしょう…)

    余談
    このホテルのゲストで日本人観光客が登場します
    恥ずかしくなるほど日本人っぽさが表れております
    どう日本人ぽいのか…説明はできないのだが…
    この言葉で伝えられない何かを映像化するというのは改めて凄い!と実感した次第である

  • 議論好きなフランス人が好みそうなテーマ。
    ただ何故か意外と退屈せずに観ることが出来た。
    恐らくそれは、主人公だけでなく、登場人物それぞれが色んな形で葛藤していたからだと思う。
    妹の愚痴は「そこまで言わなくて…」だったし、幼妻の篤志が浅はか過ぎだったし、しかしその施しを素直に受け止められないまで捻くれた借家人…

    あと、気になったのは、妹が文句を付けて以降登場していないこと。
    家を出たのか、或いは精神的に凹んだのか…

    また、若い日本人観光客が薄っぺらいキャラとされているのがもどかしかった。
    ※ああいうイメージしかないんだろうな

  • カッパドキアの風景が美しく見入ってしまった.

  • 世界遺産、カッパドキアを舞台に、ホテル経営する夫婦とその妹の葛藤を描いた一作。
    壮大な世界遺産をバックに降り積もる雪の情景が美しい作品です。

    TEA-OPACへのリンクはこちら↓
    https://opac.tenri-u.ac.jp/opac/opac_details/?bibid=BB00531040

  • カッパドキアの景色が荒涼としていて晩年を迎える主人公の精神的風景に重なります。役者としては大成しなかったけど、相当な遺産を相続し富裕層になった主人公は一見、温厚な老紳士ですが、プライドが高く人を見下し自分勝手で意固地な男です。それを妹と妻から次々と暴かれます。この知的で濃密な会話のやりとりは舞台劇こそ相応しい。3時間を超えて緊張感の続く大作を見るトルコ人観客のレベルの高さにも感心しました。

  • 会話がこの映画のほとんどを作り出している。出来事や風景はそのための脚色に過ぎないようだ。そんな力をもった言葉が尽きることなく交わされていく。
    その中でも、ハミルが夫アドウィンに積年の想いを語るシーンは自分が妻のなかには絶対見たくない姿を語っていた。
    『…信じる人を嫌う。信じることは未熟で無知な証だから、でも信じない人も嫌い。信念と理想の欠如だから、年寄りも嫌い、偏狭で発想が自由じゃないから。若者は発想が自由で嫌い、伝統も捨ててしまうから。人は国に貢献すべきだと言いながら、人を見れば泥棒か強盗だと疑ってかかる。つまり人間が嫌い、1人残らず嫌い。一度でいい、その身を捧げて何かに尽くしてみて。利益にならないことを考えてみて。
    でも無理。あなたには何度も離婚を阻止された。
    でも、それで私も助かったは、あの頃はまだ若く、勇気もお金も無く生きたい所もなかった。でも、胸が痛まなかった?健康で誇り高く溌剌とした若い娘が空虚と退屈と恐れの中でしおれていくのを見て…。最初の数年は恐れてた。今は自分が恥ずかしい。人生最良の時代をあなたとの格闘に費やして、粗野で臆病で、疑い深い人間になった。言えるのはそれだけ、何か伝えられた自信もない。私たちの道は別れてしまった。自分の道を行くべきよ幸せにだってなれたのに。」

    会話が描き、表現する力が映画のストーリーを観るものにイメージさせる。深〜い映画。

  • 自分を優位に保つため、相手を貶める
    その自覚のない言葉たち
    自身が大切な人にその言葉を向けられたらどう感じるのか?
    それを忘れないようにしたい

  • トルコのカッパドキアでホテルを営むアイドゥンは元俳優で今は執筆活動もしている。
    アイドゥンは慈善活動に勤しむ妻ニハル、出戻りの姉ネジルと暮らしている。
    ある日、使用人と街に出たアイドゥンは子供から車に石を投げられてしまう。

    196分の会話劇。
    それでも飽きません。
    罪とは無自覚な事。
    車に乗る人には、踏みつけられる轍の下の事は本当には理解出来ないのだ。

  • 2016/3/17 大作でした。住む世界や考えや視点の違いを 追求した映画だったと思う。議論するシーンが多かったけど…あまりに的を得ていて 3時間少しだけど…飽きずに観れた。特に 何処かへ逃避行する訳ではないのに 上手く描かれてた。人の心情とか シェークスピア&チェーホフの引用にもドキッとしたけど、日常の自分や老いてゆくことや教養や経験 論理的なだけでは解決しない事とか身につまされた話しが多かった。主人公の俳優さんもいい味だしてますね。最初優しい老人だと思ったら 意外と自己中で所謂プライド高い人間だった。それを回りに剥がされてゆきながらも認められない自分やその視点も理解出来るようなラストに収まっていた。轍 か?なるほどね〜。素敵な作品でした。

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