日経サイエンス2016年1月号

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  • / ISBN・EAN: 4910071150169

感想・レビュー・書評

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  • 「遺伝子流動アシスト」は21世紀の植林に成り得るか注目。結果が明らかになるのは随分後だろうが。

  • <「明日考えましょう」は意外に理にかなっている>

    町は師走でせわしないが、雑誌は一足早く新年号。
    本号の最初の特集は「なぜ眠るのか」。
    人は誰しも眠る。実に人生の1/3ほどの間、無意識の状態に身を置くのは、一見、非効率的にも見える。だが、睡眠は心身の健康を保つ上で非常に重要なものであることを示す証拠が集まってきている。
    なぜ毎日眠らなければならないのか、すぱっと正確な答えはいまだ出せないが、睡眠が必要不可欠なものであるという傍証は積み重なりつつある。
    難治性家族性不眠症と呼ばれる遺伝性疾患は、重度の不眠を招くものだが、発症数ヶ月以内に死亡した例も知られる。
    非24時間睡眠覚醒症候群という疾患もある。患者たちは24時間周期ではない(例えば28時間のように長目の)体内時計を持つ。一般のヒトであれば、飛行機旅行などで時差ぼけになっても太陽の光を浴び、規則的な生活を送ることで1日のリズムは外部に順応していく。しかしこうした患者たちは周囲の環境に合わせることが出来ず、体内の時計に振り回される生活を送る。体内時計は代謝や心臓血管系、免疫系、筋肉系にも作用し、「夜」と感じさせる時間にはこうした機能もすべて休息状態に近くなる。そのため、終始時差ぼけのような状態が続き、学校や会社などにうまく適合できなくなってしまう。時計は臓器レベルだけでなく、細胞単位でも制御されているらしい。
    不眠はホルモン機能を低下させ、免疫反応を抑え、鬱病を悪化させる。記憶力も落ちるし、食欲の調節がうまくいかなくなり、肥満につながる。
    興味深いところでは問題解決能力の向上にも一役買っているらしいことがわかってきている。与えられた課題をずっと寝ずに考え続けるよりも、翌朝に改めて取り組んだ方が成績がよくなる傾向が見られたという。
    冒頭のひと言に挙げた「明日考えましょう(I'll think about it tomorrow)」は、『風とともに去りぬ』の主人公スカーレットが幕切れ近くでいう科白の一部。簡単には解決できない問題に直面したとき、とりあえず棚上げにして一晩ゆっくり休むのは、あながち間違いではないのかもしれない。

    もう1つの特集は「ビッグサイエンスを問う」。
    近年増えている巨大科学プロジェクト。最先端の機械を駆使し、多くの科学者が取り組んで得られる華々しい研究成果は人々を感嘆させるが、一歩間違うと巨額の資金を投じた挙げ句に、何ら有意義な結果を見いだせない危険性もある。
    最近の失敗例としては欧州の「ヒト脳プロジェクト」が挙げられている。非常に野心的な旗振り役がいて始まったこのプロジェクトは、スーパーコンピュータでヒトの脳をまるごとシミュレートするという大きく魅惑的な目標を立てた。いささか誇大妄想的なプロジェクトは、堅実に目標に向かうことからはほど遠く、ガバナンスの悪さも手伝って、迷走を続けた。ついには調停委員会の批判を受け入れ、軌道は修正されつつある。1人の独創的な科学者のリーダーシップに依存しすぎない運営が必要だというのは1つ確実に言えそうな教訓だ。
    一方で、データ解析を利用して、犯罪を減らすという試みがある。多くのデータを集め、分析するという疫学の手法を、社会的問題に対して応用しようというものである。中南米の各都市でこうした試みが始まっている。犯罪に関して、どの地域で、どの時間帯に、どういった内容のものが多いかを分析し、それに対する対処法を考えるわけだ。例えば繁華街で深夜から未明に起こる傷害事件が多い場合、飲酒絡みの喧嘩が考えられる。では深夜の酒の提供を禁止したらどうだろうか。これが驚くほどの効果を上げた例があるという。この手法で問題となるのは、まずは、犯罪の定義・分類をきちんと決め、それを統一しなければならないことだろう。そうでなければデータとして数値化したときに、何を見ているのかぼやけてしまう。また問題が特定できた場合に、実情に即した有効な対処法を考え出す部分でも、知恵がいりそうだ。

    他に興味深かった記事の1つめは、「野菜が体によい本当の理由」。
    「体によいから野菜を食べなさい」というのは、母親が小さい子供によくいうことだが、野菜には体の調子を整えるほかにも効用があるようだ。動物とは異なり、植物は捕食者が来ても走って逃げたりすることはできない。その代わり、身を守る術として、毒を持っている植物は意外に多い。捕食者側もそうした毒を「苦い」とか「辛い」とか感じることによって、毒物を摂取しすぎないようにしてきた。子供が「ぴーまん、にがい。いらない」という背景には、動物と植物の長年にわたるそんな攻防がある。
    こうした毒は、もちろん、取りすぎはよくないが、少量摂取することによる利点がある。免疫系や神経系がこうした毒の刺激に反応して、抵抗力や回復力を高める効果があるのだ。弱いストレスに体が適応していく過程は「ホルミシス」と呼ばれる。
    体に負荷を掛けることで丈夫になり、回復力も高まる、というのはどこか筋トレにも似ている。
    やはり好き嫌いはしないにこしたことはないのかもしれない。

    最後に紹介する記事は「森を動かせ」。
    地球温暖化が懸念されている。激しい気候変化は、順応できない生きものの衰退につながる。もちろん、太古からそうした変動は幾度もあったわけだが、近年の気候変化は、場合によっては大半の生きものが順応できなくなる可能性もあるほど急激である。
    特に大きな影響を被るのは、自分では迅速に移動することができず、また長期間生存し続ける、樹木などの植物である。極端な場合、木が最初に芽吹いた頃にはその種に合った気候であったものが、10年20年後には暑くなりすぎていたということもありうる。そうなったときにおいそれと移動できないのが植物である。
    記事では、カナダの移植実験が紹介されている。産業利用のために伐採された樹木のあとに、生息地が異なる複数種の樹木を植え、どの種が生き延びるか観察しつつ、種の保存に務めようとしている。
    こうした試みで注意しなければならないのは、外来種が急速にはびこって在来種に害を及ぼしたりしないようにすることだろう。試行錯誤が続いているようだが、こうした手法の検討はあながち「考えすぎ」でもないようだ。

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