バッテリーウォーズ 次世代電池開発競争の最前線 [Kindle]

制作 : 田沢 恭子 
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感想・レビュー・書評

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  • アルゴンヌの問題は国際特許を出願していない点であった

    悩ましいですよねこの問題。限られたお金の中でどの国に出すか。よく言うのは自他社の生産国、販売国。

    優先順位は、他社の販売、他社の生産、自社の販売、自社の生産、ですかね。生産国と販売国とでは、根っこを抑えた方が効率的という点で生産国。自社と他社とでは、ライバルに自由に動かれる方が売上を侵食されるという点で他社。

    あってるような、あってないような。いまいちピンときてません。合点のいく説明があれば教えて欲しいです。

    あと、売上、利益率、市場規模、法整備などなど、変数盛りだくさんです。この業界に携わっている間に、解が見つかるといいなと、と思いました。できれば、自力で見出したい。

  • アメリカの電池研究のハブとなったアルゴンヌ研究所とベンチャー起業エンビアそしてそこで働くバッテリーガイたちが目指すのは日本や韓国企業に差をつけられている電池のイノベーションを起こし電気自動車をきっかけに巨大な電池産業を生み出すことだ。この本では技術的な内容も語られるがむしろテーマはもっとドロドロした人間関係やバッテリーガイたちのエゴむき出しの姿だ。

    1991年ソニーがリチウム電池を発表し現在に続くモバイル機器の誕生のきっかけが生まれた。この電池の開発にはMITのジョン・グッドイナフが大きな役割を果たしていた。グッドイナフはそのころアイデアが生まれたばかりのリチウム電池の性能をもっと上げられると考えた。ここで採用した酸化物の正極と炭素の負極という組み合わせはその後のリチウム電池の基礎を築いた。グッドイナフは最初のリチウムイオン電池で中心的な役割を果たしたにも関わらず、特許料を一切受け取っていない。所属したオックスフォードが正極材の特許取得を拒否したためだ。1980年代電池は儲からずその権利を買い取り改良を重ねた日本企業がリードしていく。

    リチウムイオン電池の概念はそれほど難しいものではない。放電する際にリチウムが正極材から負極材に移動する。移動速度がパワーで移動する総量が電池の容量だ。問題は金属酸化物の正極にどれだけリチウムを詰め込めるのかとそれをどれだけ引き抜けるのか。正極材のほとんどがリチウムだと引き抜いた際に正極材がすかすかになり崩壊してしまう。つまり正極材は繰り返しの充放電で物理的な構造を保ち続けなければいくら初期性能が良くても使い物にならない。過放電でバッテリーが死ぬのは正極材の構造が変わりもはやリチウムを取り込めなくなるからだろう。

    南アフリカ出身のサッカリーは独自のアイデアで酸化鉄の電極を開発した。グッドイナフの計算では構造中にリチウムが入る隙間はなかったが電圧をかけてリチウムを押し込むと構造が変わり有望な材料に生まれ変わった。サッカリーはさらに有望な材料系としてニッケル、マンガン、コバルト系のNMCを正極材として開発した。基本的にはこれが現在のリチウムイオン電池の基礎になっている。

    グッドイナフの研究所に来た日本からの研究者が同僚の発見を持ち帰りNTTが特許を出願したとこの本では描かれている。日本は知財権ではやられっぱなしのイメージだが、この本では抜け目なく材料技術の改良に労力を惜しまない強力なライバル扱いだ。権利化はその後も泥沼の様相で、MIT教授の蒋がグッドイナフの材料に手を加え特許を取得しA123というベンチャーを設立した。ここから流れた技術が中国のBYDに流れたとの噂を著者は示唆している。

    サッカリーと並ぶスターとなったのがモロッコ出身のハリール・アミーンだ。京都大のポスドクをへてアルゴンヌに加わったアミーンは研究に情熱を燃やすサッカリーとは異なり市場に製品を送り出すことに関心を持ち自分の権利を徹底的に主張する攻撃的な人物だった。アミーンは見過ごされていた電解液に目をつけ新たな分子を導入することで発火の危険が減ることを突き止めた。アミーンは後に日本式のやり方を取り入れた。どこかで手に入れたアイデアに手を加え部下の研究員をチームとしてまとめ片っ端から研究させる。アミーンチームは論文数、特許数で実績を積み10年間で120件の発明を生み出した。。このやり方は一部の研究者から批判を読んだが日本などではフェアであると認められ、結果を出せば賞賛される。「日本、中国、韓国は、他者のアイデアを平気で足場としながら経済的優位を保ち、いずれ収益性の高い産業が生まれると確信して何年間も金を注ぎ込み続けた。アミーンはただ日本式のやり方をまねしているだけだった。」やけに批判的だが産業スパイとは次元が違う普通の企業活動だと思う。

    2006年ジェフ・チェンバレンがアルゴンヌに入るまで国際出願はなされていなかった。主要なアジア企業がNMCを改良したと言う話を聞くにつれ、チェンバレンはNMC製造の国際的なライセンスを2件だけ発売するという賭けに出た。BASFと戸田工業が購入しアルゴンヌは安定的な収入源をようやく手にした。他のアジア企業は自社の判断で製造を続けることはできるがこの2社から訴えられるリスクを抱えることになる。アルゴンヌに注目が集まり後に研究のハブとなる事を目指していく。

    アルゴンヌに対抗するのがインド出身のクマールとシンクーラーが立ち上げたベンチャー、エンビアだ。二人はNMCを改良した材料で自動車メーカーと取引することを目論んだ。GMベンチャーズの責任者ロックナーはEVシボレー・ボルトのサプライヤーとしてエンビアを選んだ。2012年ボルトの販売台数は7671台、中国でも1万台に届かず、日産リーフも同様だった。一方でトヨタのハイブリッド車は累計400万台、勝負はついている。アメリカには長期的な計画に予算を組む企業はなく電池関連の会議は静まりかえっていた。

    このころエクソンモービルが2040年の石油業界を予測する資料を発表していた。石油とガスがエネルギー供給の60%を占め再生可能エネルギーは瑣末な存在のままだ、電池のイノベーションが起こらなければ。30年後EVがまだメジャーになれないもう一つの理由は車体価格の差だ。電気が安くても初期費用の差が埋まらない。石油価格は70〜90ドルで安定するというのがこの計算の根拠だが現状はさらにEVには不利になっている。しかもガソリンエンジンにもまだ燃費を伸ばせる余地が理論的にはある。トヨタが第二世代のプリウスを発表した際、燃費試験で不正を働いたと疑ったものがいた。テストコースをプログラムすれば最適な燃料噴射プログラムを作れると。つまりはAIに運転を任せた方が燃費はきっと良くなるのだろう。

    GMの電池実験室で爆発が起こりA123はその後破綻した。日本では堺のパネルベイは瀕死の状況でソニーは道を失っていた。韓国と中国が勢力を強めていた。さらにEVは本当に環境に優しいのかという報告書は石炭火力の電気はガソリン車よりCO2を余計に排出する可能性を指摘した。エンビアは性能を誇張しており信越化学から購入した負極材に表面処理をして自社製品としていた。彼らの材料は既存のものと差がなかったのだ。

    テスラの登場から雰囲気ががらっと変わる。テスラは最先端の技術は選ばず枯れた技術を工学的に磨き上げる方法を選んだ。そしてわずか4ページの最終章は楽観的な見通しに終始する。「テスラは平均的な乗用車よりやや割高だがもはやニッチな存在ではない。EVを100万台走らせるといったオバマの目標はまもなく達成されるだろう。」「アメリカはきっと勝てる。」どろどろのバッテリーガイの描写はよく書けているが、電池の未来はまだまだ先にありそうだ。

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