スタンフォード大学 夢をかなえる集中講義 [Kindle]

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  • ・この演習(一枚の絵を三時間じっと見続ける)が示しているのは、何かをちらっと眺めたくらいでは、ほんとうに見たことにはならない、ということです。これは五感すべてについて言えます。私たちは、聞いているようで、じっくり耳を傾けているわけではなく、触れているようで肌身で実感しているわけではなく、見ているようで何も見ていません。
    この点に気付いてもらうために、私も学生に似たような課題を出したことがあります。
    一時間、何もしゃべらず、同じ場所にじっとして、聞こえたこと、見えたことをすべて書き出してもらうのです。場所は問いません。通りを選んだ学生もいれば、森を選んだ学生もいます。なかには、キッチンのテーブルにじっと座っていた学生もいました。学生たちは、気づいたことをいくつも挙げました。その過程で、いつもばたばたと慌ただしく過ごし、身の回りの出来事を観察するチャンスを逃していることに気付きました。

    ・情熱を傾けられるものを見つけようと、内へ内へとこもる人たちにはよく出会いますが、彼らには見落としていることがあります。行動してはじめて情熱が生まれるのであって、情熱があるから行動するわけではない、ということです。情熱は初めからあるわけではなく、経験から育っていくものです。バイオリンの演奏を聴いたことがなければクラシック音楽は楽しめないし、ボールを蹴ったことがなければサッカーはうまくなれません。卵を割ったことがなければ料理好きにはなれないのです。

    ・いま働いている人も、求人情報を見てみましょう。まったく違う仕事を三つ選びます。つぎに、その仕事で、求人票に書かれている職務内容からどんな将来が開ける可能性があるのか想像し、書き出してみましょう。

    ・スポーツ選手はみなイメージトレーニングを活用して、実際の競技に備えています。心理学者のアンジー・れヴァンがイメージトレーニングについてまとめたものを短く引用しましょう。

    メンタルリハーサルの一形態として知られるイメージトレーニングは、1970年代にソ連がスポーツ競技に勝つために活用して以降、一般に広まった。いまでは、多くのアスリートがイメージトレーニングを取り入れている。タイガー・ウッズもそのひとりで、十代前半からイメージトレーニングをしてきた。ベテラン選手は、鮮明で詳細なイメージを描き、五感を総動員しながら、競技の最初から最後までを頭の中でリハーサルしている。メンタルリハーサルには、競技会場に関する知識も取り入れられる。

    レヴァンは、ゴルフの帝王と呼ばれたジャック・ニクラウスのこんな言葉を引用しています。「たとえ練習でも、はっきりとしたイメージを持たないでボールを打ったことは一回もない」。

    ・結果を恐れる傾向は、イスラエルで知能の高い児童を対象にエラド・瀬下部とオデリア・コーン・オッペンハイムが実施した実験の結果にも表れています。二人は三年生を二つのグループに分けて、それぞれに異なる但し書きをつけた課題を出しました。一方には、「正しく絵を完成されられた者には点を与える」と書き、もう一方には「絵を完成しなさい」とだけ指示しました。どちらも、用紙には単純な三角形が描かれているだけです。
    絵を「正しく」描いたら点を与えるという但し書きのあったグループでは、80%の児童が三角を屋根にした単純な家の絵を描き、平均で二色しか使っていませんでした。
    これに対して、ただ「絵を完成させなさい」と指示された児童たちが描いた絵は、じつにバラエティに富んでいました。家の絵を描いた者は独りもおらず、平均で五色が使われていました。

    ・自分自身に対するイメージは変幻自在で、瞬時に変えることができます。これは、まさにアン・ミウラ=コウに実際に起きたことでした。科学者の娘としてカリフォルニア州パロアルトで育ったアンは、医者か研究者になるものと思われていました。イェール大学に進学すると、電子工学を学ぶかたわら、学費の足しにするために学部長室で事務のアルバイトをしました。
    1992年のある日、学部長からある訪問者を案内するよう頼まれました。このとき、アンがパロアルト出身だと知った訪問者から、春休みにパロアルトに戻ったら自分のカバン持ちをする気はないかと誘われます。どんな仕事かと尋ねたところ、なんと相手はヒューレット・パッカード社の社長ルー・プラットでした。アンは興味津々で、この誘いを受けました。
    ヒューレット・パッカード社で、ルーの後をついて回ったアンは、実際にどのように会議を仕切り、意思決定を行うかを目の当たりにしました。あるとき、ルーの提案で、彼の執務室で一緒に写真を撮ることになり、白いソファのルーの向かいに座りました。数週間経って送られてきた手紙には、アンの写真の他にもう一枚写真が同封されていました。
    おなじ週に、おなじ部屋で撮られたもので、ルーの向かいにはアンではなく、マイクロソフト社のビル・ゲイツが座っていました。共同事業に合意し、サインするところでした。
    アンは、おなじ部屋でおなじ角度から撮られた二枚の写真を見比べました。ゲストは二人とも同じソファに座っています。この瞬間、アンには違う人生が見えました。将来の壁が取り払われ、世界的企業のリーダーとなる自分の姿が想像できたのです。

    ・ニューヨーク大学のヘザー・バリー・カペスとハンブルク大学のガブリエル・エッティンゲンは、望ましい将来についていいことばかりをイメージしていては、実際に望ましい成果は得られないことを発見しました。
    二人が行ったある実験では、ある事について望ましい結果をイメージするだけだと、それに注ぎ込むエネルギーが低下することが明らかになりました。身体的にも心理学的にもみられるエネルギーの低下が、目標の達成に必要な意欲を低下させると、カペスとエッティンゲンは仮説を立てています。必要なエネルギーを確保するには、達成したい目標にくわえ、その目標にたどり着くまでにやるべきころの両方をイメージすることが鍵になると、彼らはみています。

    ・何かを成し遂げても、自分の実力ではないとか、自分は成功に値しないといった感情を抱くことはインポスター・シンドロームと呼ばれますが、こうした感情はきわめて一般的です。人生のどこかの時点でインポスター・シンドロームを経験したことのある人は、70%にものぼります。

    ・以外ではないが、ウエストポイント(アメリカ陸軍の士官学校)に入学する内的動機が強いほど、卒業後に士官になっている比率が高いことがわかった。これも意外ではないが、内的動機が強かった候補生は、内的動機のなかった候補生に比べて入隊後も成績がよく、五年間の兵役義務を終えても軍にとどまる比率が高かった。ただし、強い外的な動機があった場合はそうならなかった(これは意外な点である)。
    驚くべきことに、ウエストポイント進学の内的動機と外的動機の両方が強かった候補生、内的動機は強いが外的動機が弱かった候補生に比べて、すべての指標で劣っていた。卒業後、入隊後の成績、従軍期間のすべてで劣っていたのだ。
    この観察結果は重大な意味をもっている。ある人間が仕事を首尾よくこなすには、外的動機以上に強い内的動機が必要である。

    ・やる気は必ずしもわかりやすいものではないため、時に自分でも訳のわからない行動をとってしまうことがあります。そこで私は、担当するクリエイティビティの授業で、各自のやる気を目に見える形にするエクササイズを行っています。
    まずボードに、2×2の大きなマトリックスを描きます。縦軸はやる気を、横軸は自信を表します。各自が四つの枠に該当する活動を四枚の付箋に書き込み、対応する枠に貼っていきます。
    右上には「やる気も自信もある」活動、左上には「やる気はあるが自信がない」活動、右下には「やる気はないが自信がある」活動、左下には「やる気も自信もない」活動が入ります。

    ・アイデアは「安い」のではありません。無料(タダ)なのです。そこには大きな違いがあります。安いものには価値がありませんが、タダのものの価値は無限大なのです。

    ・スタンフォードのコミュニケーション学部に所属していたクリフ・ナスは、同時に複数のことに注意を向けようとする場合の影響について研究しました。一般に、複数の仕事を同時にこなすのが得意だと思っている人ほど、実際にはできていないことがわかりました。仕事が増えるほど、パフォーマンスは落ちていきます。しかも、自分が間違いを犯していることに気付いていないのです。

    ・私が学生や企業幹部を対象によくやる演習があります。まず、航空業界や動物園など、ひとつの業界を取り上げ、その業界について当たり前とされていることを挙げてもらいます。つぎに、それとは逆のことを挙げ、常識をひっくり返したらどうなるかを考えてもらうのです。

    ・『木のように考えよう』という一風変わったタイトルの論文があります。マサチューセッツ工科大学のミッチェル・レズニック教授によるものですが、この中に、中米コスタリカの熱帯雨林にある「歩く木」が出てきます。土から根っこを引っこ抜いて、そのまま地面に置いたような姿をした木です(ぜひ画像検索してみて下さい)。
    もちろん、本当に歩くわけではありません。この木は、根で土中の水分や栄養分の具合を探り、豊富な側の根を伸ばし、反対側の根を枯らすことで、つねによりよい環境を求めて自ら進んでいくのです。その結果、一年に数メートル移動することもあるそうです。
    このような「最適化」は生物の進化に欠かせない戦略であり、当然、私たち人間も持ち合わせています。その説明として、レズニックは次の二次方程式を用いています。
    「2X2 -7x +29=3104」
    このxの値を求めるには解の公式を使えばいいのですが、もし公式がなかったとしたら、あなたならどのようにして解くでしょうか?
    おそらく、とりあえず簡単な数字、たとえば0で計算してみる。それがうまくいかないと分かったら100、というようにランダムに入れてみるしかありません。これでもまだ不正解ですが、重要なのは次のステップです。ここで200を入れると、行き当たりばったりの人生になってしまいます。
    Xに0を代入して計算すると式の値は29になり、100では19329です。ということは、式の値が3104になるxの値は、0と100の間のどこかにあるわけです。そうとわかれば、次に試すのは50あたりがいいでしょう。これをくり返すことによって、行き当たりばったりではなく、着実に正解に近づいていけるのです。
    このサイクルをレズニックは「エコロジカル思考」と名付け、①ランダム・テスティング、②評価、③選択という三つのステップを繰り返すことだと説明しています。
    …私たちの人生も、こうした手順を踏むことが、成功(あるいは自分が望む未来)への進化につながります。過去の成功体験に固執し、失敗したくないがゆえに行動をしなくなると、そもそも①のステップが踏めません。また、成功によって妙な万能感を持ってしまうと、②を怠ってしまいます。それでは、本当に目指すべきゴールに近づいているのかどうか判断できません。

  • アイデアを形にするためのインベンションサイクルを作るための道筋として、
    想像力:ひとつの世界にどっぷりつかる
    クリエイティビティ:やる気をかきたて、実験を繰り返す
    イノベーション:集中し、視点をかえる。
    起業家精神:粘り強く続け、周りを巻き込む
    が重要とわかった。

  • ジョン・ガードナーは、1990年にマッキンゼーで行った講演で「人生とは、消しゴムのなしで絵を描くようなもの」だと言いました。

    カート・ヴォネガットが類型化している物語の構造。

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著者プロフィール

スタンフォード大学医学大学院で神経科学の博士号を取得。現在、スタンフォード・テクノロジー・ベンチャーズ・プログラム(STVP)とハッソ・プラットナー・デザイン研究所(通称d.school)のファカルティ・ディレクターを務め、創造性、アントレプレナーシップとイノベーションの講座を担当。またスタンフォード大学工学部教授でもある。工学教育での活動を評価され、2009年に権威あるゴードン賞を受賞。著書に『未来を発明するためにいまできること』『スタンフォード大学 夢をかなえる集中講義』(いずれもCCCメディアハウス)などがある。

「2020年 『新版 20歳のときに知っておきたかったこと』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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