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- / ISBN・EAN: 4988013533585
感想・レビュー・書評
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2015年 日本 128分
監督:黒沢清
原作:湯本香樹実『岸辺の旅』
出演:浅野忠信/深津絵里/蒼井優/小松政夫/柄本明/奥貫薫
http://kishibenotabi.com/
原作は文庫になったときに既読。原作は、死者との旅、死んだ人間がまるで生きている人間と同じようにふるまうという基本設定はとても好みだったのに、どうもヒロインの性格が苦手で共感できず、結果個人的にはイマイチという印象だったのですが、映画は深津絵里ちゃんと浅野忠信というキャスティングが魅力的だったので、もしかして原作より入り込みやすいかも、と期待。うん、やっぱり深津絵里ちゃんはいいなあ。原作ではただ未練がましく優柔不断にしか思えなかったヒロインの言動が、彼女が演じるだけで美しくて健気でひたむきで可愛いと思えて良かったです。
ただ監督が黒沢清なので、随所でホラーっぽい演出を入れてくるのがちょっとこの作品のテイストには逆効果だった気がします。死んだ人が生きている人に混じって当たり前のように生活し、ご飯食べたり眠ったりして暮らしている不条理ワールド。その淡々とした世界観に、突然ジャーン!幽霊出ました!っていうホラー的手法使っちゃうのはどうかなあ。廃墟になった新聞配達所のシーンとか、大仰な音楽がこれでもかと流れて、切羽詰まった顔で走り回るヒロイン、わりと長尺。あれもっと、さりげなくしてほしかった。食堂のピアノのエピソードも、わかりやすく急激に明るかった部屋が暗くなってゆき、はい、幽霊出ますよフラグ。滝から突然出てきたお父さんも無駄に怖くて、何を伝えに出てきたのかわからない。生者と死者の境界のない不条理な世界観を「幽霊怖いよね。死んだ人だもん」にしちゃったらダメな気がする・・・。
カンヌのある視点部門で監督賞を受賞したそうですが、ふと思い出したのはやはりカンヌでパルムドールとったタイ映画の「ブンミおじさんの森」。あれも死んだ人が当たり前のように帰ってきて、生きてる人と一緒に飲み食いしたり旅したりする話だったっけ。カンヌはそういうのが好きなのかな。
キャストはみんな良かったと思います。とくに愛人役の蒼井優は怖すぎた・・・あ、ホラーな怖さじゃなくて女性のしたたかさみたいなのがすごい表現されてて。最近たまたま「死の棘」を読んだばかりだったので、妻と愛人の対決に無駄に震撼しました(苦笑)ただこの愛人エピソード自体は原作の時点でものすごく違和感あって共感できなかった最大要素で、これがあるがゆえに、ヒロインが夫と死んだあとまで一緒にいたい心情が全部ウソに思えちゃう。愛人への対抗心だけで「夫は生きて私のもとへ戻ってきました」って言っちゃう妻(でも完全に敗北)の見栄やプライドが、映画の中でも最終的なテーマと乖離していて微妙だった。
愛人作ってた上に勝手に失踪した夫、たぶん死んでるんだろうけどわからなくてモヤモヤ、その状態から残された妻が、死者との旅を通してすべて吹っ切り立ち直る、という表面的な筋書きだけ追うならそれなりに悪くない映画だと思うけれど、淡い色彩のなかに、ちょいちょいどぎつい色の違和感が紛れ込んでいる気がして、自分はどうも消化不良でした。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
お話は、オリジナリティがあり面白い。
そして黒澤監督だから、それなりに雰囲気もあり、絵もかっこいい。
亡くなった人が、普通の人のように淡々と現れる。普通の人のように生活しているのだが、やはり別れは訪れる。
その非在感が、「当たり前のように居る」という状況からのギャップから、より悲しみ、喪失感が増す気がする。
淡々と普通に見えて、何か異様な感じがするような雰囲気の映画として、演出は成功していると思う。
だが、なんとなく、この異様な雰囲気というのが、少しナルシスティックな、自意識過剰な幽霊たちを観ているような気分になってしまった。
タルコフスキーなどの耽美的な映像にも雰囲気が似ている気がするのだが、タルコフスキーのように突き放してこない。
突き放しているようで、僕のこと観てと問いかけてきているような。ツンデレな雰囲気を感じる。
そこが気にかかってしまった。
服装もさりげなくおしゃれなカッコよさがあったり。
映画は芸術だから結局は自意識過剰なモノだと思うんだけど、当然力強い自己主張が感じられて当然なのだけど。
この内容だと、本当に普通の、淡々と、間の抜けたようなひょうひょうとした表現の演出だったらより良かったではないか、と思いました。 -
「人間は二度死ぬ。肉体が滅びた時と、みんなに忘れ去られた時だ。」という言葉がある(私が知ったのは松田優作からで、原典は不明)。この映画はそれを具現化したものだと私は受け止めたのだけど、他の方のレビューをワクワクしつつ期待して読んだら、「記憶」について触れてる方がいないようだった。残念。
『岸辺の旅』、まあまあでした。黒沢清という人はカルト映画作家で、昔から映画ファンには人気があったと思う。持ち味は不条理さ、その独特な表現だから、ホラーやサスペンスを作ると「ズレ」ていてとても怖い。それでメジャーな存在になったと思うけど、今作は一応「ヒューマンドラマ」だそうで、不条理、つまり「ルールがない」作風だと、普通に面白いものや感動できるものを期待している一般観客層にはウケないと思う。ブクログの★評価がほぼ3.0なのがその証拠。2.9以下の作品はたいがいつまらない。私もこの作品ではちっとも感動できなかった。元より、本当に観客を感動させたいのか、黒沢清の中に言いたいことがあったのかが疑問で、なんでこういう作品を作ったのかが謎。単純に表現をしたいだけなんとちゃう?カルト映画、カルト作家ってその人のファンは好きだと思うけど、私はそういうカルトに入信するつもりはない。好きな映画監督はたくさんいるけど、面白い作品は面白いし、つまらない作品はつまらないだけです。
と、悪口のような感じになったけど、黒沢清のインタビューをちょいちょい見てたので、ご本人についてはむしろ好きです。
話は最初に戻って、「記憶」について。
この映画がブレていると思う理由は、主人公の深津絵里は死んだ夫のことを忘れたくないし、忘れる必要もないのに、「悲しみを手放して再生する話」のようになってるからかも。話の方向性が違うものを最後に提示されるから、まとまってない。
とにかくルールがない。各キャラクターが消える理由が不明。小松政夫についてはまったく不明で、ぼやかされている。死因は殺害されたか、パソコンには妻との関係性でどういう意味があるのか。
中華料理屋、蒼井優、ラストのおっさんについてはわりと一貫してると思う。ラストのおっさんが一番悲しい。息子がおっさんを見て「知らないおじさん」って言うもの……だから、消える理由は他の人に忘れ去られた時だと思ったけど、そういう一貫した法則性はみられず。
蒼井優のシーン、深っちゃんが頑張ってこれたのはライバルという名の同志がいたからで、ライバルも夫のことを「忘れられない」んだろうなと思っていたのに……ということだと思う。そして、自分が大切に守っていた夫婦生活なんてつまらないことなんだと……。あそこは不条理さが引っかかるところで、むしろ良かったと思う。『スパイの妻』よりもこっちの蒼井優の方が100倍怖かった。
この作品の特徴である「幽霊が実体化する」ことについて。実体化つまり肉体があるということで、これについては序盤から一貫して、深っちゃん演じる主人公は肉体関係を求めている。この点は良かった。『スパイの妻』でも「寂しいかどうか」「裏も表もありません」のセリフで肉体関係が仄めかされていて引っかかったので、そこと通じる。
失踪した男(の肉体)をずっと忘れられない女の話を男性作家が描くと、男のエゴやナルシシズムにどうしてもなりやすい。が、これは原作が『夏の庭 The Friends』の湯本香樹実さんなんですよね。
深っちゃんと浅野忠信はどちらも良かった。浅野忠信は最近よく父親役で見るようになったけど、とても良い。深っちゃんも良い女優さんですね(ただ、今の朝ドラはちょっと……制作陣は何を考えとるんや?)。特に顔が好きなタイプではないからファンまでは行かないけれど、声質、セリフの言い方、語尾の感じ……私にとってはそれらが心地よいことに今回気づけた。同郷なせいもあるかもしれない。
深っちゃんの着てる、緑色のスカート、グレーのカーディガン、ほぼ同じ色のグレーのバラクータG4がすごく可愛くて良かったです。 -
高密度日程映画祭の難点は落ち着いてレビューを書いている時間を十分に取れないことであり、本作も大いに感銘を受けたにも関わらずこうして二ヶ月の時間を経て書き記そうとしたとて記憶のよりどころがはなはだたどたどしく…
てなはずだったが、今回は幸いにも原作本を読みたいリストに追加していたがため、いざ手にとって頁をめくると記憶の線香花火にもう一度火が灯った。
冒頭に述べた難点とは対象的に本作のような作品になんの予備知識もなく触れることができ、はっとするタイミングを全身の毛穴が開くような感じで得られるというのは映画祭を通してならではの贅沢といえる。
今回の場合は序章での「靴音」。
これはどちらかというと早めにタネ明かしをしたいという造り手側の意図が明確に現れていた例であったが、ほんの数ヶ月前に鑑賞機会を与えてもらった濱口竜介監督作品「天国はまだ遠い」(2016) ではもう少しかかったような気がする。
是枝監督による著書「映画を撮りながら考えたこと」を通して強く印象付けられた「自身にとってのグリーフワークとは」という命題について、本作においてもド直球で突き詰めていってくれる。
黒沢清監督作品の鑑賞歴も五本目と着々と増え、全てが劇場鑑賞であったのはありがたい話ではあるものの、ここから先はもう少し貪欲にならねば追い付かなさそうだ。
なにはともあれこうして本作はめでたくその作品群の中でもお気に入り度として一気に首位に躍り出た感あり。原作にも触れられた今となっては是非もう一度鑑賞したいという欲望がてんこ盛り。 -
死んだ人が現れて,普通に社会で生活していくという不思議な映画。あまり表情を変えない深津絵里の演技が冴える。
死んだはずの人がそこにいることに,あまり違和感なく進んでいく。登場人物のだれが既に死んでしまっているのか,よく分からないのが,面白い。
みなさん,現実ではあり得ないことです。ですから,来ているうちに感謝の気持ちを伝えましょうね。
《NHKプレミアムシネマ》の解説を転載
深津絵里と浅野忠信共演のヒューマンドラマ。ある日突然、失踪した夫の優介が、妻の瑞希の元に帰ってきた。優介は、“自分は死んだ”と告げ、瑞希に旅に出ようと誘う。それは優介がお世話になった人々を訪ねる不思議な旅だった・・・。多彩なジャンルの作品を次々発表し、海外でも多くのファンをもつ黒沢清監督が、湯本香樹実の小説をもとに、夫婦の純愛を独特のタッチで描き、カンヌ映画祭「ある視点」部門で監督賞を受賞した傑作。 -
なんだかピンときませんでした。
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夫婦の心の旅――
いつまでも探してしまう愛の行方
深津絵里のかわいい奥さんが幸せそうに笑うのが好きで、いつまでもふたりの旅が続けばいいのにと思った
だんなさんの浅野忠信が宇宙の話をはじめたところで
あぁ、この旅は「銀河鉄道の夜」なんだなと気づいて、不可思議だった色々がすとんと心におさまって心の準備ができた気がした -
優介が既に死んでいるといっても、見た目は変わらないし、あまり現実感がない。でも、そうなんだと思ってみるしかない。
この不思議な状況のもと、生死にかかわるエピソードが続く。
突拍子もない話なのだが、妙にリアルで、心にしみてくる。