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感想・レビュー・書評
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江戸川乱歩の短編。何気に短編作品の中では上位にランクインするポピュラーな作品らしいのですが、読んでませんでした。
話の筋は語り手の「私」が汽車で押絵を持った男と出会い、その押絵にまつわる物語を聞かされるというもの。乱歩の文学者としての能力が存分に出ており、一文ごと流麗で、詩のような趣があります。そのため普通に汽車に乗ってるだけの描写もどこか幻想的で美しく、反面やや煙に巻かれた捉えづらさも。夢、幻の世界にふわりと入っていく筆致は見事であり、乱歩の中でも人にすすめやすい内容だなあと思いました。まあ、あたくしはもっと変態が出てくる方が好みですが。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
江戸川乱歩の短編。幻惑的で奇怪。だがどこか美しい。囚われたくないような囚われたいような異界への入口のような作品である。
初出は「新青年」1929(昭和4)年6月。
主人公の「私」はふと思い立って富山・魚津に蜃気楼を見に行く。
その帰途、夜行列車の同じ車両には、「私」のほか、1人しか客がいなかった。その男は古風な身なりをしているものの顔立ちは整ってスマートだった。一見、若いようにも見えたが、よく見ると皺だらけの老人なのだった。老人は風呂敷から絵のようなものを取り出すと、表を車窓の外に向けて立てかけた。
老人の魔術師めいた雰囲気と、奇妙な行動に興味を惹かれ、「私」は恐る恐る老人の席に近付く。
老人の持つ絵には、歌舞伎の舞台の御殿のようなものが背景として描かれていた。背景自体は比較的粗雑であった。しかし、中に2人の人物が押絵細工(布細工の貼り絵:羽子板にあるようなもの)で作られていた。背広の男と緋鹿の子の振袖の美少女。よく見るとその男は老人によく似ていた。
老人は問わず語りに絵の由来、そしてなぜこの絵を持って旅しているのかを「私」に語り始める。それは世にも奇妙な話であった。
八百屋お七。遠眼鏡。浅草十二階(凌雲閣)。覗きからくり。
妖しげワードが満載である。
老人の正体とは? 蜃気楼に魅惑されていた「私」は、あるいは、この世界に取り込まれてしまうのだろうか?
怖いのに魅かれる。美しいけれど妖しい。
そんな乱歩ワールドである。 -
どこから、こんな不思議な発想が出てくるのか。
それこそ、夢で見たような内容の話。
現実に思えるけれど、実は主人公が見たただの夢なのか。
電車には乗ったけれど、押絵の話は夢なのか。
あるいは全てが現実なのか。
恋をした女性とは一緒になれたけれど、兄である男はどんどん年をとっていく。命が尽きた後はどうなるのか、その亡骸は?そして、残された女性は一人額の中で永遠に過ごすのだろうか。
そして、額の中の女性が命(?)を得たのはいつなのだろうか。男から好意を受けた瞬間?それともあまりに精巧に作られすぎたものは意図せず命を得てしまうのだろうか。 -
少し物悲しく、少し救われる。読んでてどんどん引き込まれる。
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魍魎の匣の電車のシーン思い出した
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もっと、ネッチョリした話だと思っていました。あっさり目で、でも、よく考えると一緒に旅する男が不気味。
京極夏彦さんの「魍魎の匣」と合わせて読むといいでしょう。 -
言わずと知れた乱歩の名作です。自作解説で自作に辛辣な評価を下すことで有名な乱歩ですが、『押絵と旅する男』に関しては「いいものが書けた」と、彼自身の評価も高い様子。確かに乱歩のイメージとはちょっとベクトルの違う感じが、つまりは怪奇的と言うよりは幻想的な趣がありますよね。ただ、まぁ、明らかに現実的ではないというか、「そんなこと起こるわけないやん」と思ってしまうと個人的にはそこまで面白みはなくなってしまうように感じます。
因みに、この作品には関東大震災で倒壊した浅草十二階などのロケーションや、八百屋のお七や戦時中の風刺画など、細かな描写に磨きがかかっているので、そこはとても興味深くて面白いですよね。