押絵と旅する男 [Kindle]

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  • 2016年2月25日発売
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感想・レビュー・書評

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  • 江戸川乱歩の短編。何気に短編作品の中では上位にランクインするポピュラーな作品らしいのですが、読んでませんでした。
    話の筋は語り手の「私」が汽車で押絵を持った男と出会い、その押絵にまつわる物語を聞かされるというもの。乱歩の文学者としての能力が存分に出ており、一文ごと流麗で、詩のような趣があります。そのため普通に汽車に乗ってるだけの描写もどこか幻想的で美しく、反面やや煙に巻かれた捉えづらさも。夢、幻の世界にふわりと入っていく筆致は見事であり、乱歩の中でも人にすすめやすい内容だなあと思いました。まあ、あたくしはもっと変態が出てくる方が好みですが。

  • 江戸川乱歩の短編。幻惑的で奇怪。だがどこか美しい。囚われたくないような囚われたいような異界への入口のような作品である。
    初出は「新青年」1929(昭和4)年6月。

    主人公の「私」はふと思い立って富山・魚津に蜃気楼を見に行く。
    その帰途、夜行列車の同じ車両には、「私」のほか、1人しか客がいなかった。その男は古風な身なりをしているものの顔立ちは整ってスマートだった。一見、若いようにも見えたが、よく見ると皺だらけの老人なのだった。老人は風呂敷から絵のようなものを取り出すと、表を車窓の外に向けて立てかけた。
    老人の魔術師めいた雰囲気と、奇妙な行動に興味を惹かれ、「私」は恐る恐る老人の席に近付く。
    老人の持つ絵には、歌舞伎の舞台の御殿のようなものが背景として描かれていた。背景自体は比較的粗雑であった。しかし、中に2人の人物が押絵細工(布細工の貼り絵:羽子板にあるようなもの)で作られていた。背広の男と緋鹿の子の振袖の美少女。よく見るとその男は老人によく似ていた。
    老人は問わず語りに絵の由来、そしてなぜこの絵を持って旅しているのかを「私」に語り始める。それは世にも奇妙な話であった。

    八百屋お七。遠眼鏡。浅草十二階(凌雲閣)。覗きからくり。
    妖しげワードが満載である。
    老人の正体とは? 蜃気楼に魅惑されていた「私」は、あるいは、この世界に取り込まれてしまうのだろうか?
    怖いのに魅かれる。美しいけれど妖しい。
    そんな乱歩ワールドである。

  • どこから、こんな不思議な発想が出てくるのか。
    それこそ、夢で見たような内容の話。

    現実に思えるけれど、実は主人公が見たただの夢なのか。
    電車には乗ったけれど、押絵の話は夢なのか。
    あるいは全てが現実なのか。

    恋をした女性とは一緒になれたけれど、兄である男はどんどん年をとっていく。命が尽きた後はどうなるのか、その亡骸は?そして、残された女性は一人額の中で永遠に過ごすのだろうか。

    そして、額の中の女性が命(?)を得たのはいつなのだろうか。男から好意を受けた瞬間?それともあまりに精巧に作られすぎたものは意図せず命を得てしまうのだろうか。

  • 大好きな江戸川乱歩。独特の世界観と旧仮名遣いがまた良い。いわゆるファンタジーなんだけど、不気味というか…でもたしか天知茂主演の明智小五郎シリーズでチラッとやってたので、そのお話かな⁇と思ってたら違った。ドラマは脚色してたらしい。 最後はあっさり終わった感が…この押し絵の話は本当に兄なのかもしかして語り手のおじいさんなのではないか…そもそもこれは夢か幻か、不思議なお話でした。

  • 少し物悲しく、少し救われる。読んでてどんどん引き込まれる。

  • 魍魎の匣の電車のシーン思い出した

  • もっと、ネッチョリした話だと思っていました。あっさり目で、でも、よく考えると一緒に旅する男が不気味。
    京極夏彦さんの「魍魎の匣」と合わせて読むといいでしょう。

  • 青空文庫にて。
    江戸川乱歩の作品では気持ち悪い話が好きだけど、これは奇妙な話という印象。でも、どんどん惹き込まれていった。
    冒頭の前振りもあって、老人の妄言か主人公の夢かその話の通りなのかなど、色々な解釈ができるのも面白い。
    最後の後ろ姿が絵の老人とそっくりというところも解釈を考えさせられる。

  • 言わずと知れた乱歩の名作です。自作解説で自作に辛辣な評価を下すことで有名な乱歩ですが、『押絵と旅する男』に関しては「いいものが書けた」と、彼自身の評価も高い様子。確かに乱歩のイメージとはちょっとベクトルの違う感じが、つまりは怪奇的と言うよりは幻想的な趣がありますよね。ただ、まぁ、明らかに現実的ではないというか、「そんなこと起こるわけないやん」と思ってしまうと個人的にはそこまで面白みはなくなってしまうように感じます。
    因みに、この作品には関東大震災で倒壊した浅草十二階などのロケーションや、八百屋のお七や戦時中の風刺画など、細かな描写に磨きがかかっているので、そこはとても興味深くて面白いですよね。

  • 押絵の中の人形に恋した青年の、幸せで哀れな末路だ。
    文章からしっとりと響いてくる色気、でも物悲しさが付きまとう。
    汽車での一時の夢だったのか、老人の虚言・妄想なのか、それとも老人の語る通り真実なのか、確かめる術もない。
    すぐそこに別世界への入り口が控えているような不思議な話だった。

  • #読了 不気味な空気の中、押し絵の煌びやかな存在感が浮き立つよう。面白かったです。

  • 電車に乗って旅に出ている先で出会う、押絵を運ぶ男との邂逅である。
    景色描写に力が入っている印象。凌雲閣という今は無き、時代の象徴が取り上げられている。
    『新青年』1929年(昭和4年)6月号初出の物語であるとのことだが、凌雲閣は1923年(大正12年)に解体されている。
    今から見るとこの物語そのものがノスタルジックな印象であるのは間違いないが、この時代から凌雲閣の在りし日に思いを馳せること自体がすでにノスタルジックな物であったということだろう。

    江戸川乱歩がこの作品の原稿を破り捨てたというエピソードがあるようだが、作品自体の中に何かの生き物が棲んでいるような凄みを感じる。

  • 昭和前期の戦争前の怪しい雰囲気が出てる。

  • 8月のブンゴウメールで読みました。

    男かはたまた私たちか━どちらがおかしいのか…
    なんとなく、その時代なら、あってもおかしくない怪異に思えてくる不思議。

  • あまり馴染みのない世界観、でも嫌いじゃありません。本文を借りて表現すると、この世の視野の外にある別の世界の一隅を隙見できました...って感じです。いま『ゲゲゲの鬼太郎』が放映中ですが、鬼太郎の言う「見えてる世界が全てじゃない」の一端ですね。解明できないものを信じるか?信じないか?そしてどっちを選んで生きた方が楽しいか?色々とイメージが膨らむ作品です。

  • 江戸和乱歩の怪奇(?)小説。
    押し絵を携えて旅する老人の、押し絵にまつわるお話。
    アマゾンのオーディブルで聞いたので、老人の語り口のくどさが耳についたり、冒頭の蜃気楼の話が長いなあと感じたが、全体的に幻想的な雰囲気が出ていて興味深かった。

  • ★3.5。
    段々と引き込まれていく展開、結末の哀しさ。短編小説の魅力が詰まっている良作です。結局誰も幸せになれなかったのか、それとも必然の運命なのか、実のところあまり手に取ったことのない作家なんですが、やるなぁと感心しきりです。

  • どんどんひきこまれていった。
    不思議で、うらやましいような、切ないような、怖いような、美しいものを見たような、おぞましいものを見たような。
    読後は複雑な気持ちになった。

  • その生きた瞬間の人形を、命の逃げ出す隙を与えず、咄嗟の間に、そのまま板にはりつけたという感じで、永遠に生きながらえているかと見えたのである。

  • 不気味…人間椅子と違った不気味さ。

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著者プロフィール

1894(明治27)—1965(昭和40)。三重県名張町出身。本名は平井太郎。
大正から昭和にかけて活躍。主に推理小説を得意とし、日本の探偵小説界に多大な影響を与えた。
あの有名な怪人二十面相や明智小五郎も乱歩が生みだしたキャラクターである。
主な小説に『陰獣』『押絵と旅する男』、評論に『幻影城』などがある。

「2023年 『江戸川乱歩 大活字本シリーズ 全巻セット』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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