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感想・レビュー・書評
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goldsmith, woo. 2006. who control the netとbencler. 2006. the wealth of networks. とzittrain. 2007の3冊を高評価
世界は「リバータリアンの落とし穴」とジェイムズ・ボイルがよんだものに酔いしれた。それは、『どんな政府もインターネットの富なしには生き残れないけれど、でもどんな政府もインターネット上で起こることをコントロールできない、というものだ』(p4) →Shenk, David. Data smog: Surviving the information glut. HarperCollins Publishers, 1997.の174-77を参照
サイバー空間の規制手段はコード。『サイバー空間を構成するハードウェアとソフトウェアが、どのようにして現在の形のサイバー空間を規制しているか。』(p7)
パセティックドットセオリー(p170-177)、新シカゴ学派(p475-483)
法と規範。『規範と法のちがいは、制裁のメカニズムと根拠だ。(p476)』。法は「これをするな、さもないと・・・」という罰則の脅しである。規範は期待されるふるまいの集合である。
『市場は価格を通じて制約する(p476)』
『サイバー空間はまだ市民主権に支配されてはいない(どころかそれが広く見られることさえない)。今のところ目撃する独立主権はすべて商人主権だ。そしてこれはインターネットではなおさら明確にあてはまる。(p400)』
この商人主権の擁護論をデビット・ポストの「アナーキー・国家・インターネット」詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
第七章 なにがなにを規制するか
意思決定を制限する要因にはどんなものがあるか?
法、社会の規範、市場、アーキテクチャ
アーキテクチャがサイバー空間でのふるまいを構成する。それがコードだ。ソフトウェアとハードウェアが、人の振る舞いに対する制約を構成する。この制約に中身はいろいろだけど、それはサイバー空間へのアクセスの条件として体験される。p176
同じ制約を別の手段(4つのどれか)で実現することができる。そして別の手段はコスト的に違っている。終身刑という処罰の脅しは、カーステレオのアーキテクチャを変えるよりも財政的にコストがたくさんかかるかもしれない。p180
アーキテクチャの制約が変更されたことで、集合的・社会的な目的が実現された。1933年シカゴ万博のパビリオンの一つに掲げられた看板の言う通り「科学は探究し、技術は実行、人は従う」。p182
規制するもの(4つの規制方式)は「均衡」を求めて、絶えず規制方式間のトレードオフを検討するのだ。p184 -
なんというか、自分の言語能力では表しきれない難解な、でも日常生活にも密接にかかわる根本的な問題を突きつけられる書籍だった。
民間から生まれたインターネットで人や政府はこれまで意識していなかった問題の選択を迫られる。実質的な規制となるコードによって制約を受けることを是としてよいか。技術の進歩により、あらゆる日常を記録・監視する術をいずれ持つことになるが、従来の目的を実現するために(国であれば秩序維持や犯罪取り締まり等のために)その利用を許容してよいか。法規制の届きにくいところで匿名性やフェアユースは価値を高めたものの、技術の進歩によりその不完全さもなくなることが、我々にとって本当に良いことか。しかも、こういった我々の価値観に関する重要な選択にも係わらず、この技術的変革の激しい状況の中でそういった選択に悩む時間は少ない。そもそも選択が必要になること自体を自覚していないかもしれない。
既存の法制度の枠組みになんかにとどまらない、インターネットがもたらした生活様式・コミュニティの変化や今後の更なる変遷を踏まえ、人がどうあるべきかを問う(しかも初版が2007年発行。。)、凄い本だった。一方で、否定+否定+否定といった文構造、著者独特の言い回し、(おそらくその界隈ではよく知られる)人物や具体例を用いた主張が多く、油断するとすぐに論理展開に追い付かなくなる。一気読みで行ける分量でもなく、かといって細切れに読んでも前後の文脈を忘れてすぐに迷子になってしまう難解さ。その道を目指す学生が勉強するのと同じ覚悟と環境を持って、本書に当たった方がより理解は深まると思う。
自分もそういった余裕がもう少しできたら改めて読んでみようかな・・
以下、参考になった点のメモ。
◆本書の主な議論
・我々が持っている規制(またはその裏返の自由)の総体とは何か。
・インターネットの導入でその総体がどう変わったか。
・インターネットが今後遂げるはずの変化の過程で、その総体はどう変わるか。
◆「規制」の4様式
・法律、規範、市場、そしてコード(アーキテクチャ)
・特にインターネットで重要なのはコード。
・サイバー空間で何ができるかはすべてそこのコードによるから。
・いずれ政府と商業がネットをどんどん規制することになる。
・問題はそれでいいのか、ということ。
◆不完全さの価値
・法律の規則は不完全。
・著作権・プライバシーの保護は不完全ゆえに価値がある(フェアユース、匿名性)
・コードによる保護が完成すると、その不完全性を保証してくれなくなる。
・コードによる「規則」は物理的な規則だ。コピーしようとしてもできない。フェアユース、匿名性の入り込む余地はない。
・各種仕組みの不完全さは憲法上の価値を保証する欠陥でもあった。
・今後そうした憲法上の価値を保存したいなら規制をかけた上で、その結果をあえてシステムに作り込まないといけない。
・ネット上の匿名性に価値があるなら、各種認証に不完全性を組み来ないといけない。
・人に見えたくないものがあれば、情報のフィルタリングを不完全なものにしないといけない。
・それを政府の規制により実現しないといけない。
◆コードの特性
・コードは黙っていれば管理しやすい方向に動く。
・管理しにくいコード(ナップスター、ウイニー等)は法の力で潰される。
・今あるネットの自由と匿名性を守りたい人がいる
・しかし、そうしたい人は政府の規制に頼るしかない。
・コード作者はますます立法者になりつつある。
・プライバシーが保護されるのか、どこまで匿名性が認められるのか、アクセスはどこまで保証させるのか、コード作者が決める。
・一方で、コードをどのように規制するか、は司法の実践者が対応すべき問題。
◆サイバー空間
・サイバー空間の憲法という話をするとき、問われているのは、そこで保護されているのはどういう価値か。ある種の人生を奨励するために、どのような価値観をその空間に組み込むのか。
・MMOG空間での可能性を決めるのはコード、ソフトウェア、アーキテクチャ。実空間では、人はコードのほとんどには手出しできない。MMOG空間はできる。
◆国家の手法
・政府はある事を規制するために直接規制だけでなく、間接規制と選択する場合もある(医者に対する妊娠中絶に関する施策等)
・問題は間接規制の透明性。国に自分の狙いを隠す権利はない。
・国は、透明性の高い手段があるときに、不透明な手段に頼ることを認められるべきか?
◆暗号
・暗号は根本鉄器に異なる2つの目的に使える。
・「機密性」機能→通信を秘密にするのに使える。
・「同定」機能→偽造不可能なデジタルアイデンティティ提供に使える。
・つまり、規則からの自由を可能にする(機密性が増すから)一方で規制を可能にもする(同定をしやすくするので)。
◆インターネットがもたらす問題が顕在化する事で政府の介在が急速に強まる可能性が高い。
・今の国家秩序を破壊する程の凄まじい破壊的なワームを創り出したら、政府がその解決のために規制を掛ける政治的意思が生まれる。
・例えば9.11で「愛国者法」の法執行の変化。
・愛国者法は9.11前から存在していたが、これを境に法執行を大幅に変えるだけの政治的意思が介在した。
・インターネットでも同じことが起きる可能性がある。
◆翻訳(元の意味でを現在の文脈に読み替える対応)
・捜査の技術が激変して他人の所有地に何が保管されているのかを見るのに、全くその土地に行かなくても済む場合、修正第4条の解釈は変えるべきか?
・2つのアプローチ:①憲法起草者や建国者たちがどうしたかに集中する。原文主義。②元の憲法の現代的な読み替えを見つけようと狙う(翻訳)
・テクノロジーの変化から生じた保護の変化に対応するために修正条項を読み替える。
◆知的財産
・所有権と知的財産の違い
→実体のある財産や私的財産の保護は所有者から害を守り所有者にインセンティブを与えるため。
→知的財産の保護は、知的財産を作る十分なインセンティブを確保するため。
→知的財産の理想的な保護は、実体のある財産の理想的な保護より少し弱い。
・コードによって制作者が自己の意図のままに、著作物に付随する権利に制約をつけてしまうと、利用者の利用が過度に制限され、社会全体へ期待される良い影響にも制限が生じる。
・全体秩序と経済の繁栄目指す国としては、それを避けたいが、国が持つ法での理もコードの前では役に立たないかもしれない。
・コードは、文化の伝搬に対してもますます完全なコントロールを可能にする。
・デジタル環境ではクリエイティブ作品の利用を規制できる。アマチュア作品を通じた創造性は計り知れない。一方でこれまで認知が比較的難しかったこれらの作品がサイバー空間を通じて管理しやすくなった。権利関係の整理の難しさから何もしなければこれらは規制の対象になりやすい。
・ますます法が文化の利用を規制する動きになるが、これは我々の価値観に合っているか?
・コントロールのコストが高いときはフェアユースの領域は大きくなる。
・匿名で本を読む状況も同じ。実空間で人々が匿名で読書するのは、その権利を守るからではなく、人の読むものを追跡するコストが高すぎるから。
・同じことがアマチュア文化でも言える。規制の外で花開いたのは、なかなか規制の手の届かない所にあったから。
◆プライバシー
・知財とプライバシーの保護の違い
:知財は減らない。使う人が増えれば社会のためになる。なので、知財は共有と自由の方向に偏るべき。
:プライバシーは減る。プライバシーは知財というより実際の財産に近い。侵害者が増えるたびにプライバシーの価値は減っていく。
◆規制する主体の範囲(競合する主権)
・ヤフーがオークションサイトでナチスアイテムが出品されたことについてフランスで訴訟が起こされた。
・ヤフー「インターネットでフランス市民をサイトからブロックする手立てなんてない」「インターネットはグローバルメディア。一国の規則が世界の規則になるはずはない」
・フランスの判事はヤフーの主張を退けたところ、何千ものウェブサイトが同判決を批判。
・どの国も規制したい言論はある。何かしらコントロールしたい。
・だが、その度合いは国によってまちまち。フランスはナチス言論を規制したい。アメリカ人はポルノを規制したい。
・この混合を誰がどうやって規制する?誰の規制が適用される?
※本書の構成
・第一部:もとのインターネットの規則不可能性はやがて終わり、インターネット上のふるまいを規制できるようなアーキテクチャーが登場する。
・第二部:その規制の一部としてコードの重要性が一層高まる。元来、法律が罰則等お通じて実現するようなコントロールを直接強制できるようになる。
・第三部:そういった技術的な変化は人の根本的な価値観に対するコミットメントを曖昧にする(「隠れたあいまいさ」)。知的財産、プライバシー、言論の自由、憲法起草者たちが行わなかったような根本的な選択に左右される。
・第四部:行政区域でも問題が生じる。政府は規制しやすいネット目指し、国境のないインターネットに地理的領域での制約を求める。
・第五部:インターネットの普及により顕在化する価値観の問題は我々に選択を求める。ただ、その能力が我々にあるかどうか?