ウイルスは生きている (講談社現代新書) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 大変面白かった。ウイルス研究の歴史、現代のウイルス研究の最前線の知見を手際よくまとめてくれる。新型コロナ以降、ウイルス関係の本を何冊も読んだので、知っている話が多いかなと思ったらさにあらず。なかなかの名文で、読んでいても面白い。

    本書の読みどころは3つ。まずは過去のウイルス研究のポイント。いまぼくたちが感染するインフルエンザにはいくつかの株があるが、そのうちH1N1という型は、ちょうど100年前に猛威をふるったスペイン風邪に由来するものなのだそうだ。それがわかるまでに、本書にあるようなドラマがあったのは初めて知った。ちょうど100年前、当時の世界人口の3割にあたる6億人が感染し、控えめに見ても2000万人の犠牲者を出したというスペイン風邪。当時とは医療技術も人の行動範囲も桁違いだが、今後の新型コロナを考える上で参考になりそうだ。スペイン風邪パンデミックの本を探して読んでみよう。

    第2は最先端のウイルス研究の紹介。直前に読んだ「ウイルス図鑑101」に、寄生蜂がウイルスを自前の生物兵器みたいな使い方をしている例が出ていて、もっと詳しく知りたいなと思っていたら本書にズバリ出ていた。ウイルスによる遺伝情報の水平移動といい、パンドラウイルスといい、ウイルスについてわかっていることは、まだまだ氷山の一角のようだ。これからさらに研究が進むと、ウイルスが人間を含む「生命」に与えた影響はさらに大きいことがわかるんじゃないだろうか。わくわくするような、怖いような。

    3番目は表題にもなっている「ウイルスは生命と言えるのか」という命題について。現在一般的に言われている定義からウイルスははみ出すので、生命とはいえない、という見解が主流らしい。ただこれは定義の問題で、ウイルスも生命である、という前提の上に定義を書き直せば、ウイルスも生きている、と言えるようになる、というだけの話ではある。というわけで素人にはあまり意味のある議論とは思えないな、と思っていたが、ふと気づいた。
    ウイルスが生きているとすれば、ウイルスは死ぬ、ということだ。生きている?ウイルスと死んだ?ウイルスはどう違うのだろう? 結晶化するというウイルスは「生き」たり「死ん」だりするんだろうか? 
    わからなくなってきた。

  • ウイルスはなぜ生きていると言えるのかをウイルスの性質や人類のとの関わりを紐解きながら立証している好著だと言えます。これまで発見されていなかった性質を持ったウイルスが発見され始めているのに加えて、ウイルスは常に進化し続けているので生物といっても過言でもないウイルスが出ていていてもそもそも全く不思議ではないのですが、例えば高校で生物学を少しかじった人であればウイルスは生物ではないというのが勝手に常識のように染み付いています。しかしながらそれは無批判な一種の科学信仰主義・専門家主義の表れで科学は必ず反証性があります。
    改めてこうした裾野の広い考えを持って思考していく重要性に気づかされました。

  • 【内容】
    4/胎盤の「合胞体性栄養膜」は、胎児に必要な酸素や栄養素を通過させるが、
     非自己を攻撃するリンパ球を通過せず、子宮内の胎児を母親の免疫システム
     による攻撃を守っている
     この形成に、人のゲノムに潜むウイルスが持つ遺伝子に由来する(2000年ネイチャ)
    29/ウイルスの毒性それ自体が低下したことを示す。
    63/ウイルスは感染した細胞から外に出る時、宿主の脂質膜を剝ぎ取って
      この構造を作る。エンベロープ
      エンベロープは細胞膜と同じ脂質膜だが、宿主の細胞膜との同質性を利用して
      融合させ、宿主細胞にスムーズに侵入するための構造
    64/このエンベロープはリン脂質でできているので、石鹸に弱い。石鹸で予防できる。
      ウイルスゲノムは、二本鎖、一本鎖、DNA、RNA、線状、環状の組合せ
    69/様々なタイプのウイルスが生物の核内の染色体DNAに侵入している。
      「内在性ウイルス様配列 EVE」レトロウイルス
      「転移因子」トランスポゾン
    82/ウイルス、転移因子、プラスミド。本質的に重要なことは安定して子孫
      (自己コピー)を残すこと。
    94/寄生バチと寄主の生態関係成立の役割を「ポリドナウイルス」が関与。
      産卵時に、寄主に注入されたこのウイルスが、寄主のDNAにとりこまれ
      発現して、その産物のたんぱくを幼虫の中でできる。それが免疫を抑制する。
    96/もう一つ、寄主の変態を阻止して、さなぎにならないようにしている。
    115/「合胞体性栄養膜」多くの細胞が次々と連結し、細胞融合を繰り返すことで、
     一つの巨大な細胞となった層というべきもので、多数の核が存在する形になっている。
    116/①物理的な細胞形状の変化による免疫細胞のすり抜け防止
    117/この細胞融合を引き起こすのが、シンシチン。レトロウイルスがもつenvタンパク質
    120/獲得免疫
    124/獲得免疫や胎盤形成は、哺乳動物進化上の極めて重要な劇的変化だが、
       それに「転移因子」ヤウイルス由来の遺伝子が使用されているのは驚き
    127/転移因子は、エンハンサー配列を持つ。エンハンサーが、哺乳類の神経、
       脳の形成に重要な役割をはたしている。遺伝子制御モジュール
    130/ドリトルの「生命の樹」には、「水平移行」をあらわしている。
      「水平移行遺伝子」
    133/シアノバクテリア 海中光合成の原核生物
        ウイルスが、様々な光合成遺伝子をもっている。
    137/「遺伝子を水平移行するためのオルガネラ」 「ATG Gene Transfer Agent」
    146/ナマケモノは体長60cm、1日に葉っぱを10グラムしか食べない。
       糞尿も1週間1回程度。 

  • ウイルスの驚くべき働きを多数紹介。例えば、ウイルスの遺伝子に由来するシンシチンというタンパク質が、子宮の中の胎児を母親の免疫システによる攻撃から守るために不可欠な役割を果たしていることや、ポリドナウイルスがカリヤマユコバチのアワヨトウへの寄生にあたって、アワヨトウの免疫システムの抑制や変態の阻止の役割を担っていることなど。

    上記のような興味深い具体例を紹介しつつ、トランスポゾンとウイルスの違いや、生命とは何かという考察を通じて、筆者はウイルスを生命と考えると主張する。

    ウイルスが生命かどうかはともかく、物資と生命が連続していることを感じたし、病気をもたらすだけではない多様なウイルスの働きを知って、ウイルスのことを何となく好きになれる本。

  • 新型コロナを学ぶのに読んだ。ウイルスの基本的な振る舞い方は分かったが、後半は理解できなかった部分が多く、勉強不足を痛感した。

  •  本棚から感染症、ウイルスに関連する本を探していて、本書を発掘。4年前に発売されたものだから、当然、現在のコロナ禍については書いてない。が、ウイルスの本質を知るうえで、格好の一冊だ。

     スペイン風邪の犠牲者は、統計の取り方によっては1億人というものも存在しているようで、今の新型コロナウイルスを超える惨禍だった。昔は情報も少ない。流言飛語も飛び交ったはずだ。当時、人々はどんな気分で過ごしていたのだろうか?

     一般向けとはいえ、後半は専門的な内容も多く、少し難解なのだが、「3Dプリンタ」「丸刈り」「エイリアン」「ナマケモノ」といった分かりやすい題材を使った“例え話”が秀逸で理解を助けてくれる。そして何より、自分の中で、かつてないほどウイルスへの関心が高まっているのが後押しになった。

     散りばめられた各種エピソードは、今流行りの「オンライン飲み会」の小ネタとして使えそうだったので、メモっておいた。

  • 生物学的用語は言葉のイメージが付きにくく読んでいて疲れるが、ウィルスと生命の境界はそう単純なものではないぞということを理解させてくれる自然界の事例が豊富に書かれていて、興味深かった。

  • 代謝を行うことができるという生物定義を採用すれば、ウイルスは非生物。ダーウィニズムを実行できるという生物定義を採用すればウイルスは生物。こういった事情で生物と物質の間で定義が揺れ動くウイルスについてのあれこれを「生きている」とう観点、つまりウイルスは生物である観点で解説する。プロの物書きか、と思わせるほどの筆力で、プロの生物学者が書いたこの本は間違いなく超一級ドキュメントであり、すべてのエンジニア(生物に興味のない人にも)にお勧めしたい。

  • ウイルスが一般の生物と決定的に違うことは、「細胞」という構造をもたないこと。そして、たんぱく質を合成するリボソームは持たないが、遺伝情報からなる核酸を保有する。この核酸をキャプシドというたんぱく質の集合体で包んでいるのがウイルスに共通する基本構造と考えられている。そしてウイルスは生物ではないと言われている。しかし、この本を読んでいくと、生物と非生物との垣根がどんどん曖昧になってくることが分かる。非生物から生物ができたのなら、その垣根も低くなるはずだろう。

  •  ウイルスや遺伝子のふるまいから、生物とは何か、生命とは何かを深く考察する。本書を読んで、ウイルスというものへの認識が大きく変わった。

     従来の一般的な認識ではウイルスは遺伝子を持つけれど生物ではないという扱いだったが、近年の研究や新たなウイルスの発見などから、その定義を見直す動きが出ているという。タイトルから分かるように、著者はウイルスを生物に含めようと考える研究者だが、議論は決着していない。

     ウイルスが生物か否かという議論は、ウイルスに関する議論というより、生物とは何かという定義を検討するものだ。つまり生物の定義として「ウイルスが含まれる定義」と「ウイルスが含まれない定義」のどちらがより妥当かという議論にほかならない。つまりこれは、ウイルスという自然物の分析や研究ではなく、人間側の考え方の問題だ。生命の定義は人間自身のアイデンティティにも繋がることなので、白熱しやすいのだろう。

     それにしても、遺伝子をめぐるウイルスの働きの面白いこと。こんなミクロな世界にこれほど巧妙で複雑で、それでいていきあたりばったりなメカニズムが躍動しているとは、実にワクワクする話だと思う。

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著者プロフィール

中屋敷均(なかやしき・ひとし):1964(昭和39年)年、福岡県生まれ。1987年京都大学農学部卒業。博士(農学)。現在、神戸大学大学院農学研究科教授(細胞機能構造学)。専門分野は、植物や糸状菌を材料にした染色体外因子(ウイルスやトランスポゾン)の研究。著書に『生命のからくり』(講談社現代新書)、『ウイルスは生きている』(同/2016年講談社科学出版賞受賞)がある。

「2024年 『わからない世界と向き合うために』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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